惑星クソデカ あるいはウルトラ美少女にしてスーパー技術者、そしてエリート正社員・シーリーの墜落 作:五十貝ボタン
パチッ、パチパチ……
焚き火を眺めて、シーリーは大きく息を吐き出した。
「まったく、ひどい目に遭った」
その後、トレーラーは丸一日走りつづけた。在来種の襲撃からは、ひとまずの距離を取れたらしい。逃げ切ることに必死で、その後のことはどうなったのやら。今でもルーカサイトが道路を破壊し続けているのか、それともドラゴンにマシュマロのように食われてしまったのか。
(ま、どっちでもいいか)
シーリーの目的は、ただ帰ることだ。クソデカの原生物がどうなろうと、そしてこの惑星そのものがどうなろうと知ったことではない。
「この私がこんな原始的なキャンプなんてね」
毛布で体をくるみ、火に当たって体温を保つ……知識としては知っているが、実際にやるのははじめてだ。
『どうするんだい、これから』
耳に当てた通信機にヘビーフットからの通信が入った。トレーラーはすぐそばに止まっている。
「私の目的は変わらない。まずはこの星にある全部の『百葉箱』を直して、それから会社に帰る」
『帰るったって、どうやるんだ?』
「私が乗ってきた
『気の長い話だ』
墜落はショックだったが、いまやシーリーは自信を持ち始めていた。とにかく、あの災禍を乗り切ったのだ。多少の難事なら乗り越えられる気がする。
「シップは私の居場所を軌道上から追跡してる。今も私の頭上にいるはず」
空を見上げた。三つの恒星が惑星の回りを回っているから、その全てが地平線の下に沈んでいるわずかな時間が不定期に訪れる。今はそのごく短い夜の時間だった。
広大なクソデカの上空を覆うため、企業が大量の人工衛星を建設しているから、どれが人工物でどれが遠くの星なのやら、肉眼では分からない。だが、リヴァイアサン社製の
「私は運がいい。この車がなかったらどうなってたか」
帰るのは当分先のことになるだろう。空から地上に視線を戻す。
ヘビーフットのトレーラーには、備蓄された食料や燃料、それに銃も入っていた。盗賊団の中心となるチームが移動拠点として使っていたとのことだ。
「あんたも降りて食べたら? けっこうイケるよ」
シーリーは缶詰めにされた、魚の水煮を箸でつまんで食べていた。原材料と賞味期限は確かめていない。どうせ食べなければいけないからだ。塩味がかなり濃かったが、舌の上でぐずぐずの切り身をほぐしていると唾液腺が反応して、生きていることを実感できる気がした。
『俺は車を降りられないんだ』
ヘビーフットはトレーラーの中から通信を続けていた。
『あまりに長いこと、この中で暮らしすぎてな。シートと体が癒着している』
「どうやって生きてんの」
シーリーは立ち上がってトレーラーの窓を覗こうとしたが、
『俺の姿を見たらびっくりするぞ。まあ、俺はこの車と一心同体ってわけだ。おかげでいろいろ不便も多くてな。この体になって以来、一人じゃ生きていけない』
「それでああいう連中とつるんでたわけ?」
『まあな。悪い連中じゃなかった』
「ウソはやめて」
『たしかに悪かったが、気のいいところもあった。俺は走ってる時が一番幸せだ。だから好きなだけ走れるハイウェーズはいいところだったよ』
「ふうん」
着陸艇を失ったかわりに、妙なアシを手に入れたものだ。車と一体化した人間。奇妙と言えば奇妙だったが、だからこそ必要な荷物を積めている。
「施設があれば、その車の整備もできるんだけど」
『少し飛ばせば街がある。そこで準備してから、この大陸の百葉箱に向かおう』
「ルーカサイトが出たことも知らせてあげなきゃいけないだろうし」
わずかながらの食事を終えると、気持ちも落ち着いてきた。トレーラーの荷台に、シーリーが乗り込むためのスペースを作ることにする。
「まったく、この私が荒野でキャンプなんて」
『この星の生活も悪くないさ。致死率が高いこと以外は』
「それがイヤだっつってんの」
『リヴァイアサンに帰っても、どうせ居場所はないんじゃないか?』
シーリーは深く息をついた。たしかに、セル結合が原因のエラーの責任を押しつけられた、というのは、表面上の理由に過ぎない。実際には、星系技術者としての彼女の出世を阻むための工作なのだろう。誰が仕組んだのかは分からないが、社内での権力闘争の結果だ。
「間違った理由で起きたことが間違ったまま通用してるなんて、耐えられない」
積み荷の固定をたしかめ、毛布を広げて、ほんのわずかでも快適に過ごせるようにする。広大なクソデカでは、車中で何日も過ごすことになるのだ。
「私をハメたやつには、必ず責任を取らせてやる」
『あんたを敵に回した責任?』
「真実を毀損した責任。それに……」
怒りを込めて、シーリーは吐き捨てた。
「セルを結合した責任」