一般転生オリ主が幼馴染兼同僚に看取られた話 作: ҉ 光 ҉
死ぬ感覚、という物はたとえ二回目であっても慣れるものではないらしい
半ばで千切れた右腕と抉れた右脇腹から血が流れ出ていくのが解る。そこだけが燃えるくらい熱くなって、血が少なくなった指先や足先が冷たくなっていく
痛い、痛い、死にたい。二回目だからこそ解る感覚だがこれからすぐに死ぬわけじゃなくこれからまた体感だと数時間にも感じる数十分程が経たないと完全に死ぬことはない
「ごめん」
だんだんと薄れていき、もやがかかる意識の中で一言言葉が聞こえた
ガンガンと響く耳鳴りの中で聞こえたそれはどんな意味を持つ言葉かはわからなかった
でもその前の状況を考えれば誰が、どんな気持ちで発した言葉なのは判断がつく
黒く染まった光輪ではその判断を下したモスティマの気持ちは計り知ることができなかった
ごめん、モスティマ。君にその判断をさせてしまって
途端、俺の頭を衝撃が襲い、完全に薄れる意識の中で銃声が鼓膜に響いた
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私はしばらく呆然としていた
手に握る私の守護銃の先から上がる硝煙の匂いが鼻に掛かる。今まで数えきれないくらい引き金を引いて来た筈なのに先程の一発程重たく感じた引き金も無い
手が震えて、うまく守護銃を持つことができない。驚くほど力が入らず、もはや守護銃をうまく握ることもできずにだらりと腕が下がる。私の頬に自分でも気づかないうちに涙が伝っているのがわかった
床に寝転がる彼の死体は右半身が吹き飛んでいる、 肩から吹き飛んでいる腕と大きくえぐれた脇腹、顔のほっぺたにも少し損傷が及んでいてそれらからとめどなく血が流れ続けている
それがもう起き上がることはない彼の姿だ
「…………ゃだ」
あなたが好きだったんだ、家柄のせいであまり友達も出来ずにいた私と遊んでくれた
あなたとエルと過ごす毎日は本当に楽しかった。みんなで食べたアップルパイは本当に美味しかった
楽しかった思い出を一つ一つあげる。楽しい思い出を振り返るたび、それを今と比べてしまう。それらはもう二度と来ることのない思い出だということを理解して私の心を深く抉っていく
それでもこの思い出一つ一つが愛しくて、大切で振り返ってしまう
「………いやだ」
彼の死体にすがるように抱きついてしまう
私の体が血で濡れていく
まだ………暖かい
本当に起き上がりそうだ
でももう起き上がることはない、それは私が一番わかっている
私が………私が殺したのだから
「………嫌だよ………死なないでよ………」
もうすでに死んでいるのにこんな言葉は吐くのがどれだけ馬鹿らしいことかくらい分かっている
それでも、そんな言葉だけの偶像にすがりたくなる
だが現実が私をそうはさせなかった。彼の顔を見ると眉間には見間違えが無いほどにくっきりと赤い点がある
私が撃ち抜いたのだ
私が殺したのだ
「……………ぅ、あぁ」
嗚咽が漏れる。涙が流れる。今にも死にたくなる
でも生きなければならない、 私は彼が命を捧げてまでして繋いだ命だがら
それにレミュエルにも伝えなければならない。あなたの姉に重傷を負わせてしまってしかも彼のことを殺したと伝えなくてはならない。私にはその責務がある
「うわあああああああ!」
でも…………それでも私は、今はそれらも忘れてただただ彼を抱きしめ激しく泣いた
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どれくらいそうしていたから分からない。でももう私の瞳から涙が流れることはなかった
抱きしめていた彼の体温ももうすっかり冷たくなり、彼が死んだと言う事実を現実感を持ってただ伝えるだけだった
ようやく現実を受け止ることのできた私はフィアメッタが居る入口の方まで歩くことを決めた
だがこの死体をどうしたら良いのか解らなかった。ここからフィアメッタの下へ持っていくには彼の体は重すぎるし私の体力ももう限界だった
それにレミュアンだって倒れているはずだ。彼女も担がなくては行けない
彼の死体はここに置いていくしかなかった
何か彼が死んだと証明できるものを持って帰りたいと思うが彼の守護銃は大きなスナイパーライフルで今の私にはとても持てそうになかった
そこで生前彼が身につけていたものとしてエルと一緒に買ったと言っていたアクセサリーを彼の服から取って持って行った
…………いつかエルが私に自慢してきた物、思い出を形に残した彼女に妬いてしまって、私も彼と一緒にショッピングすると約束して、結局叶うことはなかった
もう流れないと思っていた涙がすこしだけ溢れた
このまま道なりに進んでいけばフィアメッタに会えるはずだが、私はとても彼女に会いたくなかった
彼を殺したからだ。例えそれが止めを指したともいえるようなものだったとしても彼を殺したことにかわりはない
それで誰かに軽蔑されるのが怖い。エル、彼、フィアメッタ、レミュアンとの小さな交友関係がこれ以上狭まってしまうのが私はとても怖かった
ひどく自分勝手で嫌気が差す
しばらく歩くとフィアメッタと合流することができた。彼女の後ろには気を失っているレミュアンが居て動けない彼女を守るためにここにとどまっていたのだろう
「モスティマ!?」
私を見た彼女は私の名前を呼びながらこっちに駆け寄って来た。だが私の血だらけのその姿を見ると言葉を失って立ち止まった
「あなた……その光輪と角………!」
そして私一人だけであるという事実に気付き、さらに私の光輪が黒く染まっているのを目にしたフィアメッタは私に何が起きたのか聞こうとした様だが、言いたい言葉が詰まってしまったのかしまったのかそのどれも口に出来ていなかった
何があったのか、彼はどうなったのかを伝えなければない、そう解ってはいるが私の口は固く閉ざされてしまって開かない、喉が張り付いたように声が出せない
俯く私と少し呆然としているフィアメッタの間には沈黙だけが流れている
「………帰りましょうか」
そんな私を見かねたのか先に立ち直ったフィアメッタの方から話しかけてくれた、それは私を追及することを諦めたという訳ではなく、未だ応急措置をしただけのレミュアンを思ってだろう。今はいったん見逃してくれるだけでその目は何があったのかを絶対に聞き出そうとする強い意思が見えた
「でも一つだけ聞かせてちょうだい」
帰ると言うのなら聞きたいことというのは一つだろう。私はその言葉をなんとなく察する
このまま時でも止まって、その次の言葉を口にすることがなかったらいいのになんて思ってみても、そんな都合の良いことが起きるはずもない。こればっかりは見逃してくれなさそうだった
「ルシェルは?」
ここまでされても亡くなったの一言も言えない自分が嫌になるが、フィアメッタもこのことばかりは聞かなければならないようで何も言わずに返事を待っている
「………ルシェルは死んだ」
「………そう」
この返答は予想はついていたのか反応は淡白だった。ただそれは表面上の話で、どれだけ取り繕っても彼女は何も感じないなんてことはないのだろう。固く握っている手の平や強く噛んだ唇から深い後悔と悔しげな感情が読み取れた
フィアメッタの激情はそんな言葉1つで割り切れることではない位今の私にだってわかった。それでも今はそんなことをしている場合ではないと彼女は自分に言い聞かせて踏みとどまったのだ
「帰りましょう」
そう言って彼女は振り返って歩き始める
その仕草だけで彼女は自らが抱いた思いを振り払って行くように見えた
「私が」
でもまだだ、まだ伝えなきゃいけないことがある
「私が殺した」
「…………………え?」
これに関しては全く想像していなかったようで、彼女にしては珍しく慌てている
これは彼女の決断を踏みにじる行為だろう。だって今伝える必要なんてどこにもない
それでも、私は誰かに糾弾されたかった
「どういうこと!? あなたが殺した!?」
彼女は声を荒げて私に叫ぶが私はこれ以上喋れないでいた
何があったのか全て喋ったら楽になるのかも知れないが、彼について喋るのがのがとても苦痛で結局喋れない。喉の奥に自らの感情が引っかかってしまったかのように声が出ない。そんなことすらも出来ないという事実がまた私の心を傷つけた
「絶対何があったのか聞かせてもらうから」
「………あぁ」
しばらくして何も喋れていない私に彼女の方が折れてまた振り返って歩き始めた
そこからは互いに言葉を発することはなかった
書きたかっただけの小説
もし続くなら主人公は生き返るかもしれない