雨のちウエディング   作:夢枕悪

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メヒカリ食いてえ…




『day10』

手塚の眉間に、常よりも深い皺が刻まれている。

ずん、と何か重い物が、腹に溜まっている感覚がする。

その重い何かは、隊員達からの報告を聞く度に、重くなっていく。

それは、腹に溜まり、ぐるぐると渦を巻き、全身を侵し、思考を停滞させる。

それに持って行かれないよう、無理に頭を回転させ、更に眉間に皺を刻んでしまう。

聞かされる報告を処理しながら、 必死に自分を保つ。

部隊の損失状況。

キャンサーの分析。

被害拡大への対処。

上層部への報告。

胃液が、逆流しそうになる。

思考を停止させない為とはいえ、かなり辛い。

特に今回は、軍の任務とは離れたPVを作る為の偵察任務である。

当然、責任を問われることになる。

自分の進退など些末な事だが、そのせいでセラフ部隊の扱いが悪くなる可能性は高い。

どんなに取り繕うと、軍の中にも、派閥がある。

その中には、セラフ部隊を良く思わない者も、体よく利用しようとする者もいる。

そんな糞みたいな争いに、彼女達を巻き込む訳にはいかない。

その為にも自分は、今の立場から、降りることは出来ない。

ならば、多少の犠牲を払ってでも、被害を最小限に抑える必要がある。

解析された映像からは、31Bの生存は絶望的だ。

諦めるしかないだろう。

何度経験しても、嫌なものだ。

手塚は、自嘲気味に笑う。

彼女達を守りたいと思いながら、上層部と同じ様なことをしている。

こんな決定しか出せない自分が、嫌になる。

 

「各部隊長、到着しました」

 

いつも通りの七瀬の口調に、手塚は覚悟を決める。

 

(本当に、頼もしい子ね)

 

そう小さく呟き、七瀬に資料を渡す。

 

「七瀬」

「はい」

 

淡々とした手付きで、資料を読み進めていく。

表情を変えない七瀬を見、幾分か冷静さを取り戻す。

月歌達は、まだ部屋に入って来れない。

招集を受けた時点で、覚悟はしていたものの、予想以上の異様な空気に、気圧されている。

 

「どうしたの?入りなさい」

 

手塚の声に、やっと我に返り、自分達の席へと着席する。

 

「七瀬、状況を」

「はい。本日、基地周辺Cブロックにて、変異種のキャンサーが発見されました。型はドール種ですが、耐久力、攻撃力、狂暴性に関して、中型、若しくは大型キャンサーに匹敵するものと思われます。基地周辺ということもあり、早急な駆除が求められますが、情報不足の為、偵察作戦が必要です」

 

偵察、という言葉に、月歌が反応する。

 

「つきましては」

「司令官」

 

七瀬の説明を遮り、手を挙げる。

 

「茅森さん、まだ説明中よ。発言は、控えなさい」

「司令官!」

 

怒りを抑えようと、溜め息が漏れる。

「茅森さん、発言を止めなさい」

「蒼井は、どこです!」

 

有無を言わさない手塚の声を掻き消すように、もっと強い声を上げる。

あれ程、騒がしかったミーティングルームは、一瞬にして静まる。

 

「蒼井は、どこです」

 

静かだが、逃げも、誤魔化しも許さない強い声。

手塚は、ふっと息を吐く。

 

「31Bは、現在、交戦中よ」

「!?」

「正確には、交戦中と思われる、よ。定時連絡も無く、ドローンからの映像だと、戦闘中に破壊されたようで、正確な状況は、掴めてないわ」

「だったら、早く行かないと!」

「待ちなさい!」

「お、おい、茅森!」

隣の山脇も、席を立った月歌を制止しようとするが、間に合わない。

一気に駆け抜け、扉を開く。

開けた瞬間、月歌の動きが止まる。

 

「すも…も?」

「茅…森ぃ」

 

ずぶ濡れで、泥だらけのすももが、佐月と室伏に支えられ、そこに立っていた。

顔などの露出している部分には、無数の切り傷や擦り傷が見える。

トランスポートで、デフレクタを使い切っても、距離があったのだろう。

濡れることも厭わず、転んでも前に進み、石につまずきながらも、枝に引っ掛かりながらも、必死に走った。

 

「あ…」

 

すももは、二人から離れ、月歌の肩を掴む。

 

「茅森…姉さんを…蒼井を…みんなを…助けて」

 

どんな時も崩さなかった語尾を忘れて、月歌にすがり付く。

 

「分かった」

 

すももの思いを受けて、力強い笑顔で返す。

 

「だから、安心して、休んでな」

「頼んだ…にゃ」

 

崩れ落ちそうになるすももを、優しく支える。

 

「りさママ、すももの事、頼んだぜ」

「はぁい。任されましたぁ」

「マ、ママぁ」

「月歌さん?」

「おおっと!危うくオギャるとこだった。んじゃ、マリー、ちょっと行ってくる」

「はい♪たっぷり稼いできやがれ♪」

「待ちなさい」

「あ、司令官。それでは、行ってくるであります!」

「許可してないわ。戻りなさい」

「ちぇー。勢いで、このまま行けると思ったのにぃ」

「お前は、くるくるぱーーーかーーーー!!」

 

手塚の怒号が、基地中に響く。

 

「久しぶりに出たね」

「うん、最近、手塚司令の耐性もついてたし」

「久しぶりなのに、キレッキレね」

 

周りの隊員の声に、手塚が、きっと睨む。

隊員達は、さっと顔を逸らす。

しかし、彼女の怒りとは裏腹に、緊張感が程よく解れたのか、先程より頭が回る。

 

「司令官」

「大丈夫よ、七瀬。…茅森さん、焦る気持ちは分かるわ。でも、今のままだと、圧倒的に情報が不足しているの。せめて、もう少し分析が進まないと、許可は出せないわ」

「司令官!」

「それに、今のあなたの格好を見なさい。デフレクタの発動しない、ただの衣装よ。みすみす死にに行くようなものだわ」

「…」

「それなら大丈夫ですよ?」

「「は?」」

 

佐月の言葉に、二人揃って素っ頓狂な声を上げる。

 

「今回、皆さんのステージ衣装は、全て、特殊な素材で出来ています♪」

「おお!」

「なので、31Aの皆さんは、すぐにでも出動出来ますよ♪」

「…佐月さん、それでも、相手は未知のキャンサーよ?31Aだけでは、不確定要素が多すぎるわ」

「司令官!」

「それでは、大島さんをサポートに付けてはいかがでしょう?」

「「「は?」」」

 

今度は、一千子も揃って素っ頓狂な声を上げる。

 

「一千子さんのウエディングドレスも、特殊な素材で仕上げてあります♪」

「おお!じゃあ、いっちーも行けるんだ!いいよな、いっちー」

「はい、もちろんです!全力でサポートします!」

 

手塚の心が、揺れる。

一度、手放そうとした光が、目の前に、またぶら下がって来たのだ。

しかし、その光は、まだ弱い。

 

「駄目よ。さっきも言った通り、情報が少な過ぎるわ」

「司令か」

「司令官、少しいいか」

 

月歌の声を遮り、二階堂が声を掛ける。

 

「どうしたの?二階堂さん」

「こう議論していても、31Bの生存率は下がる一方だ。それなら、すぐに出動出来る31Aと一千子に出動して貰い、救出と同時に情報を収集。少々、きついだろうが、一千子のサポートがあれば、出来るだろう」

「しかし」

「31C、E、X、及び30Gは、準備が出来次第、周辺の雑魚キャンサーの殲滅。31Fは、他部隊と連携しつつ、負傷者の救護。私と伊達は、ここに残り分析をサポート、室伏は水瀬妹の治療に専念。命、石井、瑞原は、31Fを援護…と、いうのはどうだろう?」

「…」

 

二階堂の作戦には、穴がないように見える。

充分に、成功し得る作戦だ。

大局を観る目は、自分より上かも知れない。

 

「…分かったわ。出動を許可します」

「よっしゃ!」

「但し、必ず全員で帰ってくること。飽くまでも、救出を優先させなさい」

「了解!」「はい!」

「他の部隊長は、各部隊員へ伝達し、準備が出来次第、ここへ集合!配置が決まり次第、出動!」

「「「「「「了解!」」」」」」

「茅森さん、大島さん。急を要するのは、分かっているけど、デフレクタ残量には、充分に気を付けるのよ。位置情報は、すぐに送るわ」

「了解であります!」「分かりました!」

 

言うや否や、二人は駆け出す。

二人の背中に、小さく呟く。

 

「必ず…無事に…」

 

手塚の眉間は、少し和らいでいた。






社長に浴衣五十鈴と緋雨っちを引いて貰った後、浴衣二以奈を自力で引いた夢枕悪です(๑• ̀д•́ )✧+°ドヤッ
メッチャほくほくです。
社長の引きが、メッチャ羨ましいです。

だいぶ暑さが和らいできた今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
暑さは和らいで来ましたが、乾燥が気になり始めました。
鼻と喉のケアに、注意されて下さい。
体調に気を付けて、秋の夜長の暇潰しに、読んで頂ければ幸いです。
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