手塚の眉間に、常よりも深い皺が刻まれている。
ずん、と何か重い物が、腹に溜まっている感覚がする。
その重い何かは、隊員達からの報告を聞く度に、重くなっていく。
それは、腹に溜まり、ぐるぐると渦を巻き、全身を侵し、思考を停滞させる。
それに持って行かれないよう、無理に頭を回転させ、更に眉間に皺を刻んでしまう。
聞かされる報告を処理しながら、 必死に自分を保つ。
部隊の損失状況。
キャンサーの分析。
被害拡大への対処。
上層部への報告。
胃液が、逆流しそうになる。
思考を停止させない為とはいえ、かなり辛い。
特に今回は、軍の任務とは離れたPVを作る為の偵察任務である。
当然、責任を問われることになる。
自分の進退など些末な事だが、そのせいでセラフ部隊の扱いが悪くなる可能性は高い。
どんなに取り繕うと、軍の中にも、派閥がある。
その中には、セラフ部隊を良く思わない者も、体よく利用しようとする者もいる。
そんな糞みたいな争いに、彼女達を巻き込む訳にはいかない。
その為にも自分は、今の立場から、降りることは出来ない。
ならば、多少の犠牲を払ってでも、被害を最小限に抑える必要がある。
解析された映像からは、31Bの生存は絶望的だ。
諦めるしかないだろう。
何度経験しても、嫌なものだ。
手塚は、自嘲気味に笑う。
彼女達を守りたいと思いながら、上層部と同じ様なことをしている。
こんな決定しか出せない自分が、嫌になる。
「各部隊長、到着しました」
いつも通りの七瀬の口調に、手塚は覚悟を決める。
(本当に、頼もしい子ね)
そう小さく呟き、七瀬に資料を渡す。
「七瀬」
「はい」
淡々とした手付きで、資料を読み進めていく。
表情を変えない七瀬を見、幾分か冷静さを取り戻す。
月歌達は、まだ部屋に入って来れない。
招集を受けた時点で、覚悟はしていたものの、予想以上の異様な空気に、気圧されている。
「どうしたの?入りなさい」
手塚の声に、やっと我に返り、自分達の席へと着席する。
「七瀬、状況を」
「はい。本日、基地周辺Cブロックにて、変異種のキャンサーが発見されました。型はドール種ですが、耐久力、攻撃力、狂暴性に関して、中型、若しくは大型キャンサーに匹敵するものと思われます。基地周辺ということもあり、早急な駆除が求められますが、情報不足の為、偵察作戦が必要です」
偵察、という言葉に、月歌が反応する。
「つきましては」
「司令官」
七瀬の説明を遮り、手を挙げる。
「茅森さん、まだ説明中よ。発言は、控えなさい」
「司令官!」
怒りを抑えようと、溜め息が漏れる。
「茅森さん、発言を止めなさい」
「蒼井は、どこです!」
有無を言わさない手塚の声を掻き消すように、もっと強い声を上げる。
あれ程、騒がしかったミーティングルームは、一瞬にして静まる。
「蒼井は、どこです」
静かだが、逃げも、誤魔化しも許さない強い声。
手塚は、ふっと息を吐く。
「31Bは、現在、交戦中よ」
「!?」
「正確には、交戦中と思われる、よ。定時連絡も無く、ドローンからの映像だと、戦闘中に破壊されたようで、正確な状況は、掴めてないわ」
「だったら、早く行かないと!」
「待ちなさい!」
「お、おい、茅森!」
隣の山脇も、席を立った月歌を制止しようとするが、間に合わない。
一気に駆け抜け、扉を開く。
開けた瞬間、月歌の動きが止まる。
「すも…も?」
「茅…森ぃ」
ずぶ濡れで、泥だらけのすももが、佐月と室伏に支えられ、そこに立っていた。
顔などの露出している部分には、無数の切り傷や擦り傷が見える。
トランスポートで、デフレクタを使い切っても、距離があったのだろう。
濡れることも厭わず、転んでも前に進み、石につまずきながらも、枝に引っ掛かりながらも、必死に走った。
「あ…」
すももは、二人から離れ、月歌の肩を掴む。
「茅森…姉さんを…蒼井を…みんなを…助けて」
どんな時も崩さなかった語尾を忘れて、月歌にすがり付く。
「分かった」
すももの思いを受けて、力強い笑顔で返す。
「だから、安心して、休んでな」
「頼んだ…にゃ」
崩れ落ちそうになるすももを、優しく支える。
「りさママ、すももの事、頼んだぜ」
「はぁい。任されましたぁ」
「マ、ママぁ」
「月歌さん?」
「おおっと!危うくオギャるとこだった。んじゃ、マリー、ちょっと行ってくる」
「はい♪たっぷり稼いできやがれ♪」
「待ちなさい」
「あ、司令官。それでは、行ってくるであります!」
「許可してないわ。戻りなさい」
「ちぇー。勢いで、このまま行けると思ったのにぃ」
「お前は、くるくるぱーーーかーーーー!!」
手塚の怒号が、基地中に響く。
「久しぶりに出たね」
「うん、最近、手塚司令の耐性もついてたし」
「久しぶりなのに、キレッキレね」
周りの隊員の声に、手塚が、きっと睨む。
隊員達は、さっと顔を逸らす。
しかし、彼女の怒りとは裏腹に、緊張感が程よく解れたのか、先程より頭が回る。
「司令官」
「大丈夫よ、七瀬。…茅森さん、焦る気持ちは分かるわ。でも、今のままだと、圧倒的に情報が不足しているの。せめて、もう少し分析が進まないと、許可は出せないわ」
「司令官!」
「それに、今のあなたの格好を見なさい。デフレクタの発動しない、ただの衣装よ。みすみす死にに行くようなものだわ」
「…」
「それなら大丈夫ですよ?」
「「は?」」
佐月の言葉に、二人揃って素っ頓狂な声を上げる。
「今回、皆さんのステージ衣装は、全て、特殊な素材で出来ています♪」
「おお!」
「なので、31Aの皆さんは、すぐにでも出動出来ますよ♪」
「…佐月さん、それでも、相手は未知のキャンサーよ?31Aだけでは、不確定要素が多すぎるわ」
「司令官!」
「それでは、大島さんをサポートに付けてはいかがでしょう?」
「「「は?」」」
今度は、一千子も揃って素っ頓狂な声を上げる。
「一千子さんのウエディングドレスも、特殊な素材で仕上げてあります♪」
「おお!じゃあ、いっちーも行けるんだ!いいよな、いっちー」
「はい、もちろんです!全力でサポートします!」
手塚の心が、揺れる。
一度、手放そうとした光が、目の前に、またぶら下がって来たのだ。
しかし、その光は、まだ弱い。
「駄目よ。さっきも言った通り、情報が少な過ぎるわ」
「司令か」
「司令官、少しいいか」
月歌の声を遮り、二階堂が声を掛ける。
「どうしたの?二階堂さん」
「こう議論していても、31Bの生存率は下がる一方だ。それなら、すぐに出動出来る31Aと一千子に出動して貰い、救出と同時に情報を収集。少々、きついだろうが、一千子のサポートがあれば、出来るだろう」
「しかし」
「31C、E、X、及び30Gは、準備が出来次第、周辺の雑魚キャンサーの殲滅。31Fは、他部隊と連携しつつ、負傷者の救護。私と伊達は、ここに残り分析をサポート、室伏は水瀬妹の治療に専念。命、石井、瑞原は、31Fを援護…と、いうのはどうだろう?」
「…」
二階堂の作戦には、穴がないように見える。
充分に、成功し得る作戦だ。
大局を観る目は、自分より上かも知れない。
「…分かったわ。出動を許可します」
「よっしゃ!」
「但し、必ず全員で帰ってくること。飽くまでも、救出を優先させなさい」
「了解!」「はい!」
「他の部隊長は、各部隊員へ伝達し、準備が出来次第、ここへ集合!配置が決まり次第、出動!」
「「「「「「了解!」」」」」」
「茅森さん、大島さん。急を要するのは、分かっているけど、デフレクタ残量には、充分に気を付けるのよ。位置情報は、すぐに送るわ」
「了解であります!」「分かりました!」
言うや否や、二人は駆け出す。
二人の背中に、小さく呟く。
「必ず…無事に…」
手塚の眉間は、少し和らいでいた。
社長に浴衣五十鈴と緋雨っちを引いて貰った後、浴衣二以奈を自力で引いた夢枕悪です(๑• ̀д•́ )✧+°ドヤッ
メッチャほくほくです。
社長の引きが、メッチャ羨ましいです。
だいぶ暑さが和らいできた今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
暑さは和らいで来ましたが、乾燥が気になり始めました。
鼻と喉のケアに、注意されて下さい。
体調に気を付けて、秋の夜長の暇潰しに、読んで頂ければ幸いです。