雨のちウエディング   作:夢枕悪

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爪、割れてもうた。




『day12』

速い。

恐ろしく、速い。

しかも、重い。

凶風が、頬を掠める。

じくじくと、背中を虫が這い回る。

雨とは別に、嫌な汗で濡れているのが分かる。

粘着性を持ったその汗は、濡れた服とは別に、動きを鈍らせ、雨とは別に、視界を狭め、泥とは別に、足元を滑らせる。

このドールは、一体、何物なのか。

いや、ナニモノなのか。

今までのキャンサーとは、全くの別物のように感じる。

背後に回られた。

凶風が、来る。

ダメだ。

当たる。

ユッキーの援護。

助かる。

ほんの少しだが、軌道がずれる。

服が、纏わりつく。

服に邪魔されながらも、何とか上体を反らし、凶風を躱す。

ユッキーに感謝だ。

通り過ぎたドールに、めぐみんが一撃を入れる。

余りの硬さに、セラフが弾かれる。

ドールは、大口を開けて、めぐみんを襲う。

すかさず、いっちーのセラフが光り、ドールを誘い込む。

標的をいっちーに向けたドールの背後に、カレンちゃんが斬り込む。

当たった筈だが、ドールはそのままの勢いで、いっちーに突っ込む。

いっちーの顔が、歪む。

先程のスキルで、セラフの耐久性も上がる筈だが、それでも効くようだ。

カレンちゃんに続き、自分も斬り込む。

まるで、大型のキャンサーを相手にしているようだ。

左へ避け、迎撃の体勢を整える。

そういえば。

ドールが、飛び込んでくる。

自分も、ドールへと突っ込む。

ななみんが、言ってたっけ?

下手すれば、大型並の強さって。

ドールの下へ滑り込みながら、一撃を加える。

的が小さいし。

後ろへ、跳ぶ。

硬いし。

斬る。

重いし。

払う。

厄介だな。

つかさっちの援護。

お風呂、入りたい。

カレンちゃんの一撃。

こいつ、強いな。

いっちーの受け。

あ、いい詞出来そう。

斬る。

なんで、余計なこと考えてんだろ。

跳ぶ。

跳ぶ。

ユッキー援護。

あの実、食えるかな。

めぐみん払う。

あ、バッタ。

斬る。

腹、空ったな。

跳ぶ。

斬る。

受ける。

め払。

ユ援。

つ援。

斬。

疲れた。

跳。

殴。

蒼井。

跳。

大丈夫かな。

払。

援。

跳。

襲。

なんか。

撃。

寒いのに。

突。

誘。

受。

熱いな。

撃。

打。

やべ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨音がしている筈なのに、全く聞こえない。

自分の鼓動だけが、頭の中で鳴り響く。

どれだけ息を吸っても、酸素が行き渡らない。

声を出そうにも、肺がそれを許してくれない。

連携も何も、あったものではない。

ただ漫然と、個々に攻撃しているだけである。

じわじわと、体力を削られていく。

反面、ドールは、憎らしい程に元気に動き回っている。

討伐しようにも硬く、逃げようにも敏捷く、時間を稼ごうにも重い。

あと、どの位もつだろうか?

救援は、まだだろうか?

デフレクタの残量は?

本当に救援は、来るのか?

解析は、進んでいるのか?

もしかして、撤退したのか?

見捨てられた?

悲観的な思いが、頭を満たす。

踏み入れてしまった、底無し沼。

爪先からゆっくりと沈み、一人では抜け出せなくなり、足掻けば更に沈み、差し出された手を掴めば、相手も一緒に沈んでいく。

何もかもを飲み込む底無し沼が、大口を開けて目の前に迫る。

 

(やべ)

「二以奈の美しさの如く!」

 

月歌の背面から、数発の火の玉が飛ぶ。

火の玉は、口の中に命中し、勢いをそのまま、吹き飛ばされる。

 

「助かったよ、いっちー」

「…かりしてください」

「え?」

「しっかりしてください!」

「いっちー」

 

強い目に圧されて、月歌が怯む。

 

「私は、私は皆さんのお陰で、妹達に花嫁姿を見せることが出来ました。真似事だったとしても、二以奈達に祝福して貰って、本当に嬉しかったです」

「いっちー…」

「そんな幸せを教えてくれた皆さんが、諦めてどうするんです!」

「…」

「私は、諦めません。妹達の幸せを見届けるまで、絶対に諦めません」

「…」

「それに、皆さんも一緒に、見届けて欲しいんです」

「いっちー」

「茅森さんも、皆さんも、もう大島家の一員ですから」

 

一千子は、にっこりと笑う。

 

「…へへ、じゃあ、帰ったら、もっかい式挙げないとな」

「何言ってんだか。あたしは、さっさと風呂入りてえよ」

「本妻VS愛人ね」

「戦闘中くらい、イチャイチャすんなや」

「ばっ、違げえし!」

「そんなことは、どーでも良いわ!さっさと殺るぞぉ!」

「それじゃ…仕切り直しといこうか!」

「はい!」「ええ!」「よっしゃ!」「おう!」「ひひ!」

 

一千子の檄で、本来の自分達を取り戻す。

不思議な事に、たったそれだけの事で、身体が軽くなった気がする。

肺は酸素を取り込み、オーバーヒートしていた心臓は落ち着いた鼓動を響かせ、血中の酸素は手足に熱を生じさせ、逆に脳を程好く冷まし、冷静さを取り戻させる。

ふと気付くと、ドールが襲ってくる気配がない。

目を向けると、よろよろと立ち上がっている。

 

「なあ、あいつダメージ喰らってへんか?」

 

逢川の言葉に、和泉はすぐに周囲のデフレクタ反応を確認する。

 

「確かに…ヤツのデフレクタが減ってる?」

「さっきの大島さんの一撃かしら?」

「よし!いろいろ試してみようぜ!」

「ひゃーひゃっひゃっ!一番殺りぃー!」

「ちょっと、カレンちゃん!」

 

東城の制止を無視し、カレンが跳ぶ。

 

「切り刻ぁむ、切り刻ぁむ、切り刻ぁーむ!」

 

慌てて、東城と和泉が援護する。

カレンのセラフが振り下ろされ、ぎんっ、と高い音と共に弾かれる。

跳び退き、カレンはセラフを確認する。

ひゅ

と、一振し、近くの草を刈り、またセラフをじっと見る。

 

「どうしたんだよ、カレンちゃん」

「…手応えがおかしい」

「どういうこと?」

「弾かれはしたが、吸い付く感じがした。…なかなか、殺りがいのある相手じゃのお!」

 

そう言うと、じわりと笑う。

そんなカレンに、ドールが襲い掛かる。

先程よりは遅いものの、ダメージを受けているとは思えない動きをする。

 

「どないなってん!」

 

逢川の一撃。

速度が、上がる。

 

「またジリ貧じゃない!」

 

東城の射撃。

硬度が、増す。

 

「おい!避けろ!」

 

和泉の援護。

破壊力が、増す。

いつの間に回復したのか、先程と同じ程の動きを見せる。

和泉の目の前に、大口を開けたドールが迫る。

次の瞬間、銃声が鳴り、ドールが吹き飛ぶ。

 

「待たせたな」

「いちご!」

「全くもって興味深い」

「ひぐみん!」

「ヴァウウ!」

「ビャッコも!」

「皆さん、大丈夫ですか!」

 

暖かい光に包まれ、月歌達のデフレクタが回復する。

 

「おタマさん!蒼井は!?」

「だいぶ安定したからな。今は、柊木が見てくれてる。充分休ませて貰ったから、あたしらも参加するぜ」

「助かる!」

「あと、蒼井から伝言だ。攻撃を当てるな、攻撃に当たるな、だとよ」

「どういうことだ?」

「やはりか」

「カレンちゃん?」

「ヤツを斬った後、回復したような動きだった。恐らく、攻撃を吸収したのだろう」

「なるほど、なるほど、やはり興味深い…普通に当てても、ヤツにダメージは食らわせられないってことか。おい、茅森」

「どしたの?」

「ヤツを見ろ」

 

樋口の言葉に、ドールに目を向けると、ダメージを負っているようだ。

 

「水瀬姉の一撃で、ダメージを与えられたようだ。恐らく、口の中なら、ダメージが通る」

「なるほど!」

「ヤツが間抜けに口を開くまで、当たるな、当てるな」

「合点承知!」

「お、おい、月歌!」

「自分、正気か!?」

「なんで?」

「んなもん、無理に決まってるやろ!」

「無理とかじゃないんだ。やらなきゃいけないんだ」

 

月歌の目に、圧される。

何をすべきかを自覚した者だけが、発する圧力。

 

「月歌…」

「…」

「…解った。水瀬、東城は、あたしと援護。樋口、ヤツの分析に集中しろ」

「おう!」

「了解!」

「任せろ」

「月歌、カレンちゃん、ビャッコは、ヤツの気を引いてくれ!攻撃は、極力当てるな!」

「あいよ」

「ひひ!」

「ヴァウ!」

「國見は、デフレクタを確認しつつ回復!大島は、ヤツが口を開いたら、引き付けてくれ!逢川!大島に向かって来たら、ヤツの動きを止めろ!」

「はい!」

「了解です!」

「しゃーない、やったるわ!」

「…ユッキー」

「なんだ?」

「ありがとう」

「うちの隊長の、無茶振りに応えただけだ。帰ったら、メシおごれよ?」

「刀削麺でいい?」

「…だったら、早いとこ帰んねえとな」

 

二人は、顔を見合わせて、にっと笑う。

 

「それじゃ、反撃開始ぃ!」






先日、作業中に「鬼灯の冷徹」のマウスパッドを使ってる人を見かけて、羨ましかった夢枕悪です。
出禁のモグラを読み返しましたが、江口先生は、自分と同年代だと思いました。(じじゃまる!ぴっころ!ぽ~ろり~♪)

キャンサーの能力、「あっ、やっぱりな」と思った方、その通りです。
発想脆弱の筆者ですので、大半の方々が予想通りだと思います。
もう少し、発想力が欲しいです。
ただ、実装されて、スコアタボスとかで出てきたら、絶対イヤな能力だなと思ってます。

さて、乾燥してきて、鼻喉への負担が厳しくなってきました。
アラフォー喘息持ち喫煙者の筆者は、しんどくなる一方です。
皆様、どうかご自愛ください。
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