その日、また雨が降っている。
人を気鬱にさせる雨だ。
先日、やっと見せた太陽は、雲の向こうに顔を隠している。
周囲の木々は、雨に倦み、陽の光を欲している。
しかし、それとは別に、カフェテリアの中は、異様な熱気に満たされている。
騒がしい訳ではない。
ただただ、太陽に代わるモノを待ち、小さく騒わめいている。
その熱気は、降ったそばから雨を蒸発させ、天へと帰していく勢いだ。
「それでは、聞いてくれ!『雨のちWedding』!」
月歌の声と共に、熱気は最高潮に達し、レーザービームがステンドグラスのように輝く。
荘厳なパイプオルガンの音が響き、美しい聖歌隊が応える。
『Wherever I go
Far away and anywhere
Time after time, you always shine
Through dark of night, calling after me』
Zam!Zam!Zam!
Very!Amen!!
Zam!Zam!Zam!
Very!Amen!!
Can't be without you
Can't live without you
目覚ましが鳴りカーテン開ける
今日も雨
今週末までずっと雨
靴履き傘差し今日も踏み出す
雨脚強くて靴の中ぐちょぐちょ
車で撥ねた泥水で全身びしょ濡れ
今日の射手座運勢最悪
それでも
それでも
明日は白い衣装
君と一緒の最強の白い衣装
だから
もちろん
平気だよ?
世界が敵に回っても
神が私を呪っても
悪魔がずっと憑いてても
君が一緒に歩いてくれるから
平気だよ!
『幸せのご注文は返品不可だそ♪』
『あなたも今日から大島家の一員です!』
Because you were there
Because you were here
だから
だから
明日は白い衣装
君と一緒の
無敵の
白い衣装
大きな歓声と拍手に包まれ、月歌達は、舞台袖へと引き返す。
「お疲れ様でした」
「あれ?ななみんは?」
出迎えてくれた隊員へ、月歌は聞く。
いつもなら、七瀬が出迎えてくれる筈だか、今回は別の隊員が出迎えに来たのだ。
「七瀬さんは、上層部への報告へ」
「そうなの?」
ほんの少し違和感を感じる。
報告ならば、メールや報告書で済むはずである。
「なんでも、直接、報告して欲しいとの要望だったそうです」
「そうなんだ…。そういや、司令官は?」
一層、違和感を強くしたが、一隊員の自分では分からないことだろうと、思考を切り替え、別の話題を振る。
「司令官は、まだ作業が残ってるそうで、室で作業中です」
「そうなんだ」
「ただ…」
「?」
「夕飯をお持ちしましょうか、と言ったんですが、しばらく集中したいからと断られてしまったんです…」
隊員は、心配そうにしている。
「じゃあさ、落ち着いたら夕飯と一緒に、今回のライブ、データ化して渡しといてよ。少しは、気晴らしになるかもだし」
「そうですね。では、今からデータ化してきます」
「うん、よろしく」
隊員は、すぐにデータ化に向かう。
またほんの少し、違和感が強まった。
とある北の地域。
人からも、キャンサーからも隔離された地域。
キャンサーの脅威は無いものの、自然の脅威に晒されている地域。
しかし、建物の中の快適さは、外の厳しさとは無縁である。
「…到着しました」
「通せ」
扉が開き、軍服の少女が入ってくる。
部屋の中には、重厚なテーブルと、それを囲う数人の軍人がすわっている。
「早速で悪いが、報告を」
悪いが、と言っているが、労いの響きは一切無い。
「…まずは、こちらの映像をご覧下さい」
「…ふむ」
「まだ制御面が不十分ですね」
「戦闘力としては十分だな。セラフ部隊に対して、これだけの戦果を上げている」
「今後の課題が分かっただけでも、収穫と言えるでしょう」
「あとは、キャンサーの捕獲だな」
「弱らせる加減が、なかなか難しいですからね」
「だか、成功すれば、見返りは大きい」
「そうですな」
「何としても、成功させましょう」
「頼んだぞ。そうすれば、誰が日本を、いや、世界を救ったか、嫌でも分かるだろう」
「はい」
「良いか?セラフ部隊でも、アメリカでも、ロシアでも、中国でもない。…我々が、世界を救うのだ」
「はい」
「どころで」
会話が一段落した所で、少女が声を挙げる。
「なんだ?」
「司令官への処罰は、どう致しましょう?」
「ふむ…」
「仮にも、貴重な戦力を、危機的状況に陥れました」
「そうだな…」
「また、グラビア撮影させては、どうでしょう?」
「なるほど、それは良い」
「体だけは、良い体をしているからな」
下卑た笑いが、部屋に響く。
「…」
「まあ、今回は無しで良いだろう。貴重なデータも取れたことだ」
「結果論だが、奴らも損傷はなかったようだしな」
「そうだな。結果的に、ドームへの被害も無かったからな」
「ええ、我々が『守るべき』住民の被害は、無かったですし」
「ふむ、では、今回はお咎め無しという事だ」
「…承知しました」
また窓を眺めている。
いつぞやと同じ様に、眉間にシワが寄っている。
その時との違いは、シワの原因と、ほんの少し雨脚が弱くなっていること位である。
手塚は、溜め息を漏らす。
七瀬の報告から、上層部の企みは、なんとなく分かった。
そんなものに予算を注ぎ込むくらいなら、ドームへの援助に回せば良いのに、それをしない。
愚者の妄想ほど、厄介な事はない。
そして、愚者の地位が高けれ高い程、その厄介さは範囲を広げる。
妄想はやがて行動となり、資源を喰い潰し、人を浪費し、最後には自分を焼く炎となる。
ふっ、と自嘲気味に嘲笑う。
その愚者のフォローをしなければならない自分が、道化に思えた。
(ここまで来ると、妄執ね)
どうせなら、この雨が、彼らの妄執の炎を消してくれれば、と思ってしまう。
そんな事を考えていると、扉をノックする音がする。
あの時の事を、思い出す。
そして、期待する。
また彼女が、この気鬱さを吹き飛ばしてくれるかも、と。
「どうぞ」
「入るぞ」
しかし、違った。
あの無遠慮で、無駄に元気で、突拍子もなく、どこかほっとする声ではなかった。
いや、無遠慮というところは、一緒だろう。
「どうしたの、浅見」
「メシ、持って来たぞ」
「ありがとう。そこに置いといてもらえるかしら?後で頂くわ」
「そう言って、食わねえつもりだろ?あたしもまだ食ってねえし、一緒に食うぞ」
見透かされている。
同期というものは、どうもやり難い。
「休憩は必要だろ?ほら、座れ」
応接セットのソファに、どかっと座る。
「分かったわ、休憩しましょう。ところで…」
「ん?」
「アルコールは、持って来てないでしょうね?」
「…」
途端に、浅見の目が泳ぐ。
「あ、いや、ほら、その方が、リラックス出来るだろ?」
「私は、まだ仕事中なのよ?飲める訳ないでしょう」
「まあまあ、今日はツマミもあるし」
「?」
そう言って、浅見は、USBを取り出す。
「茅森達の新曲だ。手塚に見せてくれ、って頼まれてな」
「そう…」
月歌達の気遣いに、手塚は微笑む。
「あたしも残業で、間に合わなかったからさ。これをツマミに、飲もうぜ」
「…そうね」
「よし!じゃあ、早速、あたしのこの秘蔵の」
「アルコールは、却下よ」
「そんな、殺生なあ」
浅見の嘆き声を聞いてるのか、窓に目を遣る。
いつの間にか、雨は止んでいる。
雲の隙間から、月が顔を覗かせている。
もうすぐ、暑い夏がやって来る。
月歌王お迎え出来なかった夢枕悪です。
90回しました。
その代わり、ヴァンパイアシャロが来ました。
月歌はワタさなイ、と言われた気がします。
夢枕悪です。
約9ヶ月も花嫁ガチャの話を引っ張りましたが、夢枕悪流ヘブバン外伝は、これにて幕となります。
反省点があり過ぎて、自悶する箇所が多数でしたが、ここまでお付き合い下さった読者の方々に支えられ、なんとか完結させることが出来ました。
心より感謝申し上げます。
なんとなく、ではありますが、次回作の構想も練っておりますので、また読んで頂ければ幸いです。
それでは、また皆様にお会い出来る日を楽しみに、精進して参ります。