雨のちウエディング   作:夢枕悪

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はっぴばーすでーとぅーみーッ!





『day8』

『それ』には、他と違う特徴があった。

ぽっかりと、自分に穴を開けることが出来た。

『それ』は、穴を何に使うか分からなかった。

ある時、『それ』は、仲間にその穴を見せた。

破壊衝動しかないそれらに、知性や感情があるかは分からないが、他のそれらは、『それ』を気味悪がった。

生物において、『違い』は、『異質』または『異物』と捉えられる。

『異物』は、排除される。

『それ』は、他の生物同様に、次第に非道い扱いを受け始めた。

『それ』が、特に小さな個体だったのもあるのだろう。

また、それらの本能に刻まれた破壊衝動もあったのだろう。

毎日のように、『それ』は、同種から痛め付けられていた。

しかし、同種達は忘れていた。

『それ』も、『同種』なのだと。

『それ』も、刻まれた『衝動』があることを。

その日、いつもと同じように、『それ』は、同種に痛め付けられていた。

数匹の同種に囲まれ、殴られる。

『それ』は、抵抗もせず殴られる。

数十分程、『それ』を弄ぶと、同種達は、満足したのか、囲みを解き、立ち去る。

『それ』は、同種達が立ち去ると、よろよろと起き上がり、何処かへ消えて行く。

いつもは、そうだった。

が、その日は違った。

『それ』は、同種達が立ち去る前に起き上がり、己れの穴を開いた。

 

ぶつり

 

とも、

 

ぶちん

 

とも聞こえる音がした。

次いで、

 

ごきり、ごきり

ばきん、ごきん

 

と音がする。

『喰った』のだ。

『それ』は、今まで感じたことのない感動を受けた。

本能に刻まれた破壊衝動を、初めて機能させた甘美な感動。

同種にはないその穴を、初めて機能させた甘美な感動。

うち震えた。

理解した。

リーダー格だった同種を喰らい尽くすと、逃げようとする同種と怯えて動けない同種がいた。

動けない方を無視し、逃げ出した同種を追い掛けた。

 

ごきり

 

と、音がし、動けない同種は、さらに怯えた。

『それ』は、うち震えた。

『それ』は、理解した。

『それ』は、感動した。

刻まれた破壊衝動と、それとは別に、自分を甘く包み、満たしていくものを感じた。

もっと…と追い掛ける。

もっと…と喰らう。

もっと…

もっと…

もっと…

もっと…もっと…もっと…もっと…もっと…もっと…もっと…もっと…もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…しばらくして、音が止んだ。

怯えた同種は、次は自分だと震えた。

それらにとって、初めての恐怖だったかも知れない。

人であるならば、がちがちと歯を鳴らし、頭を抱え、震え、漏らし、涙を流しながら、神へ祈っていただろう。

いや、もし、それらに神がいるのなら、同種も祈っていたかも知れない。

がたがたと震え、自分の番を待っていた。

しかし、数分、数十分と待っても、来ない。

音は、風に揺れる葉の音だけだ。

姿も、気配もない。

戻ってくる様子も…ない。

恐らく、他の同種達は、『それ』に喰われてしまったのだろう。

しかし、自分は生き残った。

運が良かったのか、単に動かなかったから良かったのか、『それ』が満足したからなのかは、分からない。

分からないことだらけである。

それでも、自分は生き残った。

ほっと安堵し、神へと感謝を捧げる。

安心すると、今度は、『それ』への怒りが込み上げる。

次は、もっと多くの同種で痛め付けてやる。

そう思い、立ち去ろうとした。

 

ぶつり

 

同種が聞いた、最後の音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、あたしらがこんな事しなきゃいけねぇんだよッ」

 

雨の森の中、水瀬いちごが小さく呟く。

本当ならば、大声でブチ切れたいところだが、現在は、偵察任務中である。

そのくらいの分別は、あるようだ。

しかし、いちごの言い分も道理である。

例え慣れた場所であっても、天気によって、その疲労度は大きく変化する。

今回のように雨が降っていれば、視界が格段に悪くなる。

雨音は、周囲の物音が聞き辛くし、雨水は、臭いを流し去り、濡れた地面は、転倒の危険性を孕む。

更には、体温を奪い、衣服を重くし、動作を鈍らせる。

素人が考えただけでも、これだけのデメリットがある。

 

「姉さんが、消灯時間を過ぎても、蒼井とキャッチボールしてたからにゃ」

 

…自業自得であった。

 

「ああ?おめえだって、外でビャッコと寝てて、時間過ぎてたじゃねぇか!」

 

…特大ブーメランである。

 

「もふもふは、正義にゃ」

 

…ドヤ顔である。

 

「あの、お二人とも、少し声を落としてください」

「柊木、おめえも夜中抜け出してんだろうが!」

「私は、司令官から許可を得ているので」

 

…論破である。

 

「水瀬姉妹。貴様らのせいで、貴重な研究時間を浪費してるんだぞ。謝罪しろ」

「おめえも、研究所に引き込もって、全然戻らねぇじゃねえか!」

「貴様は、馬鹿か?研究者が、研究所にいて何が悪い」

「つまり、許可は取ってねえんだな」

 

…開き直りである。

 

「おい!蒼井!お前も隊長として、ビシッと言ってくれ!」

「ぽかーん」

 

…ぽかーん、である。

 

「蒼井ぃぃぃ!」

「はっ!」

「シャキッとしろよ、蒼井!任務中だろ!」

「すみません、蒼井、頑張ります!」

「ほんと頼むぜぇ。しっかし、こんな狩り尽くされたような場所で偵察なんて、意味ねえだろ。大体、茅森達なら、ザコがいようが、関係ねえんじゃねえか」

「激しく同意にゃ」

「二人とも、今回は、非戦闘員である撮影班も同行すると言ってたんですよ。念には念を、です」

「はいはい、タイチョー様には、逆らいませんよっと」

 

皮肉な口調ではあるが、いちごは感心している。

少し前までは、蒼井が、いちご達を注意することは無かった。

うじうじと俯き、はっきりと言葉も出ず、詰め寄れば黙り込む。

それが、今ではどうだろう。

今だ、悪い癖は抜けないものの、しっかりと司令官の指示に従い、隊員の考えを正そうと、はっきりと言葉に出している。

しかし、一つだけ引っ掛かる。

それは、蒼井を変えたのが、同じ部隊の自分達ではなく、他の部隊の月歌であることだ。

自分達は、不器用に蒼井を尊重し過ぎ、遠く回り道をしていたが、月歌は、真っ直ぐ、最短距離で蒼井を受け止めた。

自分達、いや、自分は、真っ正直に、真っ直ぐ受け止める覚悟が無かったのかもしれない。

蒼井と一緒に、押し潰されると思ったのかも知れない。

月歌は、違った。

蒼井の事情を知っても、自分が何を言っても、自分が何をやっても、尻込みすることなく受け止めた。

 

(やっぱ、あいつは凄えわ)

 

素直に、そう思う。

 

「おい、蒼井!さっさと終わらせて、またキャッチボールすんぞ!」

「ダメです!身体が冷えてるんですから、すぐにお風呂です!」

「ああ、違げえねえ。んじゃ、風呂の後にキャッチボールだな!」

「何で、風呂に入った後に、汗かかないといけないにゃ。意味が分からないにゃ」

「すもも!お前も、一緒にやるぞ!」

「嫌にゃ。すももは、風呂上がりのふわふわビャッコを、もふもふするにゃ」

「ヴァウゥゥ…」

 

やれやれ、またか、といった風のビャッコ。

毎度のことなのか、諦めの表情である。

不意に、ビャッコの表情が締まる。

 

「グウゥゥゥ」

 

感じた気配に向け、唸り声を上げる。

臨戦態勢のビャッコを見、蒼井達も構える。

 

「柊木さん、距離は!」

「距離10!小さな個体が、一つ、ゆっくり近付いています!」

「小さな個体一つ?」

「樋口!構えを解くな!」

 

いちごが、叫ぶ。

小さな個体?

たった一つ?

冗談じゃない

こんな、わけ分かんねえヤツ、知らねえぞ

くそ

なんで、こんなゆっくり近付いてくんだよ

さっさと来いよ

こんなもん、拷問だぜ

ビャッコのやろう、すんげえ牙剥いてんじゃん

あーあ、全身逆立てて、もふもふ台無しじゃん

あ、樋口のヤツ、にやにやしてやがる

マジで頭イカれてんのか?

クッソやべえな

違う

んだよ、樋口、ふるえてんじゃねえか

んー

ありゃ、嬉しくてじゃねえな

やっぱ、きょうふだ、恐怖

そっちの震えだ

あたしら、散々、見てきたからな

ま、身体は、しょうじきだってことだな

ちっ

メチャクチャ寒みいな

手が、震えてやがる

さっさと帰って、ふろ入って、あおいとまたキャッチボールしねえとな

あ?

柊木、なにくちぱくにぱくさげせてんろだよ

なにいっにてるかげわかんろねえよこにえだせげよこえろ

すもももにげふるろえてんにじげろゃねえかしゃあにないあげたしがなろんとかしにげろてやるかたしにげろょうふるえにげろててにげろもだいにげろじょにげろうぶにげろあにげろたにげろしにげろなにげろらにげろだにげろいにげろじにげろょにげろにげろにげろうにげろぶにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごきり






本日9月21日を持ちまして、2回目の成人式を迎えることとなりましたピチピチの2回目ハタチの夢枕悪です。
社長からは、誕生日プレゼントとして、昼勤からの夜勤のコンボを頂戴致しました。
そんなハッピーな夢さんに、マリア口調かいちご口調でののs…お祝いの言葉を頂けると、執筆の励みになります。

だいぶ朝夕の寒暖差が、大きくなってきました。
そのせいか、同僚がコロナになりました。
これからさらに寒暖差が、激しくなると思います。
どうぞ、御自愛ください。
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