鬼獄呪魔と仕鬼祇使い(ばか)ども   作:三概井那多

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VS血鬼 其の肆

「ん? なんか今、変な感じしなかった?」

 

 夜名津から話を聞き終えて、今度は俺の番となって一先ず昨日の話まで終えた所でその異変について俺達は肌に伝わってきた。

 

「ああ、感じた。……先輩か?」

「先輩? ああ昨日の人?」

「ああ、そうだ。昨日鬼に襲われた時に先輩が人払いの結界を張った時の」

「なるほど。ってことは今のってこの学校に人を近寄らせなくしたのか。……正直、意味あんのって感じだけど。もうほとんど人集まってるのに」

「そういうこと言うなよ!」

 

 こういう時に言わなくてもいいマイナスな発言をするのがコイツだ。質が悪いのが、割と否定しずらい部分なところだ。

 

「ってことは先輩今やってきて外にいるのか?」

「この非常事態に遅れてくる? 人払いのことといい、なんだよ、うっか凛枠かよ」

「やめろ! 」

 

 俺も今同じこと思ったけどさぁ! 確かにFate的に考えるとあの人ポジションが丁度うっか凛枠に収まってしまうけどさぁ!

 

 榎先輩が分かりやすい例えに当て嵌まってしまうことに色々と複雑な感情を持ってしまう。

 

「言っとくけど、僕はキャンチョメ枠を目指しているからね! なんてったって最強の呪文持ち主だからね」

「お前はキャンチョメに匹敵する最強の呪文を持っているのか? お前と言うか我鬼だけど」

 

 アイツ、シンの呪文がガチヤバい術だぞ。幻覚系最強の呪文だぞ。パオウのガッシュ達ボコれるレベルだぞ。

 

 夜名津は、そういえば君の能力ってなんなの? とどうでも良さそうに我鬼へと訊ねる。正直、コイツ今更聞くのか、と驚きを隠せなかったけどとりあえず俺も我鬼の方へと視線を向ける。

 

 我鬼はいひひ、といつものような不気味な嗤いを溢して言ってくる。

 

『そのなんとかってやつがよく分かんねえーが、いひひ。オレの鬼術は自分より下の奴をいたぶるだけの能力だぞ』

「え、それだけ? 思っていた以上につかねえな」

 

 我鬼の能力はイマイチ要領の得ない、聞く限りあまり強そうに思えない能力に眉を顰めて呆れていると主人の方からフォローの言葉が掛かってくる。

 

「まあ落ち着けって、もしかしたらこれがなろう小説ならクソチート能力になるから」

「確かになるけどさ」

 

 多分、『自分よりか下』という部分が都合よく解釈された支配系最強能力とかあり得そうだけど。

 

「でも、僕はこのゲームではネットにあった『なろう主人公は借り物の力でイキがっているだけの見苦しいヤツだから』の一声を元にコイツの能力は使わない、っていう縛りプレイでやるつもりだから。コイツのチート能力には頼らないから」

「舐めプやめろ、死ぬ気か」

 

 非常時だというのにこういうふざけた冗談や行動に出るのがコイツだ。なんでコイツは毎度毎度マニアックなところをもってくるんだろうな。こういうところが天邪鬼というか何というか……天邪鬼?

 

 ふと何か閃きそうなった。いや、この状況を打破することじゃなくて、何というか傾向というか相性というか、そういうのを。

 

 引っ掛かりを覚えつつ夜名津は続けて言ってくる。

 

「さて、本音は置いといて。あの先輩来たらもう解決すんの? じゃあ、このまま部屋に黙って終わるまで待っとこうか」

 

 と、一気にやる気を失くしたのか、机に顔を伏せて今に居眠りへと入ろうとする、切り替えが早いというかマイペースというか……色々と早いんだよ、判断がお前は。すると、主人に倣って我鬼も寝始める。

 

『オレも寝ヨ、ニンゲン、あのクソニンゲンにとどめ刺す時に起こセ。アイツ、オレをイジメた。弱っている所をやり返してヤル』

「お前はそのまま永眠しろ」

 

 吉成君にしこたま殴られたことを恨んでいるようだが、自分の力でやり返すのではなく榎先輩によって追い詰めた所を横から掻っ攫う、漁夫の利を狙っている我鬼。

 

 我鬼の事を放っておき、夜名津に寝るな、と肩を揺らして無理矢理起こす。

 

「先輩をそのままにしておくのは駄目だ。……先輩昨日の戦いで怪我してんだ。そうでなくても先輩一人に背負わせるにはいかない」

 

 怪我を負っていると聞いてか、夜名津は眠気眼をこすっては姿勢を正して、少し真剣な表情で言ってくる。

 

「じゃあ頑張って今から合流するかい? 人払いの結界張ったならもう学校内に入っただろうし」

「待って、連絡してみるわ」

 

 スマホを取り出して、今朝と同じように先輩へと連絡をかけてみることにする。もしかしたら結界の効力で外の連絡が通じない可能性も考えたが電話はあっさりと通じて、また今朝とは違い、相手の方も出てくれた。

 

『もしもし雨崎君! 今どこにいるの! まさかもう学校にいる!?』

「はい。そうです」

「あ、繋がったんだ。結界内だから遮断とかされていないんだ」

 

 隣で夜名津が意外だとぼやく。俺も同じ気持ちだがそれは無視して電話の方に集中する。電話からはすぐに『バカ』と怒りの声が降りかかってくる。

 

『バカ! 今すぐ出て、……と言いたいけど、外に出ることは無理なのよね』

「はい。中へと入れても、外から出ることは無理みたいです。先輩の方は今外なんですか?」

 

 怒りの言葉がでるが、冷静さを取り繕って俺達の現状を訊ねてきた。それに対して俺も返してみる。

 

『ええ、そうよ。外から結界を打ち破っている所よ』

「外から? 結界って外から打ち破れるものなんですか?」

「え、外から破ってんの?」

 

 意外にも通話が通じたことに驚きつつも繰り返して訊ねると、そのことを隣で聞いた夜名津も俺と同じ反応する。

 

『けど、少し時間がかかるわ。この結界は中の人を』

「あ、ちょっと待ってください」

 

 俺は重要な話だと直感してスマホのスピーカーへと切り替えて夜名津に話が聞こえるようにする。どうぞ、というと先輩は話を続ける。

 

『この結界は中の人の血を触媒に霊力へと変換して結界を成形されているの、中にいれば血を吸いつくされて死に至ることになるわ』

「「!!!」」

 

 先輩からの話に俺達は顔を見合わせる。ゾンビとして操られているだけじゃなくて、血を吸われてこの結界のエネルギーに変えられているっていうことか!

 

 その事実を知り、夜名津が動く。

 

「中の状況を説明します。敵は血を操る力を持ったチンピラ風の男です。学校にいる人間はその人の支配下に置かれているゾンビのような状態です。思考は通常時より数段鈍い状態。たぶん彼らがその血を吸い上げられている可能性があります」

『え? ……あ、君は我一君ね! あなたもいたの。いえ、それについてはいいわ。情報提供ありがとう』

 

 状況を伝えるべく簡潔に説明を入れる夜名津だが、榎先輩の方は突然の声に誰なのか理解できなかったのか、戸惑った反応をみせたがすぐに理解して返答する。

 

 俺も夜名津に倣い、説明していない部分を捕捉する。

 

「先輩、敵の正体は去年までウチの学校にいた吉成君、古郡吉成先輩です!」

『吉成君が? どうして』

「鬼獄呪魔の参加者だと言ってましたし、学校を拠点にするとも、結界の狙いはそういう意味合いが強いんだと思います」

『なるほど。…………君たちは今どこにいるの?』

「俺達は今―――」

「とある場所に身を隠しています」

 

 遮るようにして夜名津が答えた。

 

『そう、わかった。そのまま私が行くまで待っていて頂戴。決して下手なことをせずに敵を叩こうとしないで! いい私が行くまで逃げ隠れていなさい。後は私が何とかするから!』

 

 小さく俺にしか聞こえない声で夜名津は呟いた。「あ、違ったっぽい」と。どういう意味だと疑問に思ったがその前に素早く切り替えた夜名津が訊ね返す。

 

「外側から結界を破るって言ってましたけど、それは可能なんですか? 可能だとしてどのくらいでできそうですか?」

『……大体三十分……いえ、十五分以内に何とかしてみせるわ』

「分かりました。あ、敵が来そうなんで一旦切ります。結界が解いたくらいもう一度連絡しましょう」

『ええ。分かったわ』

 

 と言って夜名津は俺のスマホの通話を切った。

 

「で、今のどういう意味だ?」

 

 俺が訊ねると、夜名津は手を首の後ろへと回して軽く揉みながら唸っている。どこから説明したモノやらといった風な調子だ。

 

 会話の最後らへん、先輩からの場所を訊ねてきた時に俺の言葉を遮った時からこいつは変だった。最後も誰かが来た、なんて嘘を付いて無理矢理切ったくらいだ。コイツは何か考えがあって行動したんだろうと黙っていたが、電話が切った以上どういうことなのか説明してもらわないとこちらとしても困る。

 

 まとまったのか夜名津は説明してくる。

 

「途中で気づいたんだけど、二つのパターンで、一つが『電話の相手が実は敵であったこと』、もう一つが『盗聴されている』の可能性があった」

「なるほど、だからあの時わざと俺の言葉を遮ったのか」

「結界内で連絡が通じ合えるなんて状況どう考えても罠臭いからね。もしかしたら電波は全部敵側に繋がっていて変成音で相手の声真似されていることもあり得るし、電話って実は全部録音された声らしいね」

 

 榎先輩から居場所を聞かれた時にわざと隠れている場所を告げなかったのは。もし相手が榎先輩ではなく、吉成君だったらならば俺達の居場所を教えることになっていただろう。そうでなくとも盗聴されている線も十分考えられるか。

 

 普通なら絶対にあり得ない、と断言したいところだがここが吉成君の創った結界内ならそういった効果も絶対ないとは言い切れない。

 

 まあ、居場所を突き止めてこなかった時点で本人っぽいし、本気でこっちのことを心配している風だったからこっちは本物と考えてよかったね、と追加で言ってくる。ああ、あの時の呟きはそういう意味か。偽物だと思っていたら本人だったって。

 

「電話を切った時はなんで誰かが来ているって嘘を付いてまで切ったんだ?」

「盗聴と探知される可能性。でも、この線は薄いと思うね。相手は血を使うタイプなら血の流動で声を変質させた偽物のラインが僕の中で強かったからね。次に電話が通じたってことは傍聴されているか、あるいは微弱な電波の反応で結界内の僕らの居場所を特定した、なんて有りそうだったから、情報交換だけして早く切った方がいいかなって」

「よくさっきの一瞬そんなこと考えられるな」

「漫画でよくあるからこういうの。僕は詳しいんだ!」

 

 この鋭い思考回路は漫画知識から来ているらしい、コイツらしい。基本的にコイツの頭良さや回転の速さは漫画やラノベ、アニメの知識による中二病的なノリが強い。しかも結構な優秀で的確な判断を下してくる。

 

 一先ず電話の内容については分かった。問題は次どうするか、の話なんだが。

 

 ……俺としては榎先輩から命令に背くことになるが今すぐに吉成君を倒しに出るべきだと考える。先輩は三十分後に合流との話だったそんなに待っていられない、学校の皆が死ぬかもしれない一分一秒の猶予もない事態。

 

 問題は目の前の中二病の変人をどう説得するべきか。と見据えて考えていると先に夜名津の方から提案がやってきた。

 

「とりあえず打って出ることにしようと思うけど、君はどう、大丈夫?」

 

 意外なことに夜名津からも吉成君を叩くべきだと言ってきた、驚きながらもすぐに賛同しつつ訊ねる。

 

「ああ、それに関しては賛成だ。……だけど理由は? 一応先輩からは隠れているように言われたんだが?」

「僕も最初はそうしようと思ったけど、予定がだいぶ変わった。この学校の人達が操り人形にされているならまだ諦めがついたんだけど、死ぬ可能性があるって言われたら速攻であのチンピラを倒して結界解くしか道はない」

 

 夜名津自身も他人の命が掛かっている状態は流石に見過ごせないのか、吉成君を倒すことで素早く結界を解き、学校の皆を助けることを言ってくる。

 

 放たれる夜名津から雰囲気は己の心の内を語ってくる。

 

 

「あの先輩は自分基準では三十分っていうけど、僕からしたらもう一時間以上この中にいるわけだし、なんならゾンビにされた人の中では昨日の時点からいるんだ。もう死んでいる人がいるかもしれない」

 

「いいかい、僕は自分が死ぬことは別にいいんだ。楽になれるから。この世の嫌なことから解放されて、な~んにもしなくていい無へと消えるから」

 

「誰かの迷惑にならないように気を付けるとか、困っている人がいるから助けるとか、死にそうな人がいるとかの状況が目の前にあったら良心の呵責ってヤツが人間っていう生き物は起きるものなんだ」

 

「変人変人ってよく揶揄されている僕だけど、大真面目な話この良心の呵責と罪悪感の正当性ってヤツが辛く辛くて仕方ない。こんなものに人生を振り回されている、だから僕は早く死にたいし、この世から解放されたい!」

 

「だからね、雨崎君、いや、雨崎千寿」

 

「目の前に死にそうな人を助けるっていう人として当たり前の理由であのチンピラを速攻でぶっ倒してこの結界を解いて皆を助けよう!」

 

 

「僕は罪悪感で苦しみたくないんだ!」

 

 

 紡がれてきた言葉は間違いなく夜名津の本音、夜名津我一の人間として在り方。

 

 確かに人間として良心という点においては夜名津の言う通り、それが正しき当たり前の感情なんだろうが、語れてくる言葉はどうようもなく、『人間』ではなく、『夜名津我一』として生きてきたからくる言葉だ。

 

 夜名津の言葉一つ一つが重く、熱く、強く、語れてくる他人を救いたい(本音)でありながらも、同時に伝わってくるのは冷たく、悲しく、寂しき自身を護りたい(本音)だ。

 

 なぜこの男こんなにも歪んでしまっているのだろう、何がこの男をこんな哀れな生き物にしてしまったんだろう。

 

 同情した目に向けそうになりながらも、それを堪えて俺は夜名津の救いたいという本音を信じて強く頷いた。

 

「ああ」

 

 そして死んだような瞳をしっかりと見詰めて、ハッキリと言ってやる。

 

「でも、一つだけ言っておく。お前自身が死ぬとかバカな話はなしだ。お前が死ねば俺が悲しいってことを覚えておけ、罪悪感主義者」

 

 じっと俺の瞳を向き合い、俺達の間で弛緩した空気は世界を支配する。夜名津は夜名津で何か言いたげな強い眼差しを俺へと返してくる。最後の釘差しがコイツにとって致命的な一言だったんだろう。

 

 やがて、

 

「……オーライだ。分かった、もうこの儀式で自分から死ぬことは諦めるよ。僕も友達を悲しませることは罪悪感が産まれて嫌だからね」

 

 渋々といった調子で折れてくれた。

 

 話はまとまった。

 

「じゃあまずは敵の情報について改めて確認しておこう。さっきも話した通り敵は血を操る能力者。血を吸い上げて、人を操り人形のゾンビにする。その上吸い上げられた血はこの結界の触媒にされる。攻撃手段としては……体に流れる血の流れで活発させて身体能力の向上や、血の玉を放出してくる、近距離遠距離、特殊攻撃も優れた能力だ。……ざっと纏めたけど強くないコイツ? 鬼ガチャ当たりじゃん」

 

 さっきの空気はどこへやら、作戦会議としては現状分かっている吉成君の事について話してくるが、能力が優秀過ぎて話した本人が困惑している。

 

 なんだ、コイツ、初期に出てきていい敵じゃなくない、とぼやく夜名津に対して、「まあ本人も自分で当たりって言ってたし」と俺は吉成君に仲間に誘われた時の事を思い出す。

 

「っていうか、このゲームって鬼をこう、ポケモンだとかガッシュとかの鬼同士で戦わせるタイプを想像していたんだけど、あのチンピラ『自分自身が鬼になることだ』のブリーチスタイルでビックリしたんだけど、僕」

「それを言うなら俺も鬼を刀に変えて、自分で戦っているスタイルなんだが」

「あれだ、ガッシュかと思ったらシャーマンキングだったか、コレ」

 

 俺達の想像していた鬼同士の戦いというよりも、使役している本人同士が殴り合っていることになっている。……実は俺、シャーマンキングについては知らないので、だろ? という夜名津の反応には応えることができなかった。

 

 そしてこの数年後、令和になってアニメがリメイク放送されることになることをこの時の俺達はまだ知らなかった。

 

 一先ず、シャーマンキングの話については横に置いておき、誤魔化すようにして話を進める。

 

「俺の話の続きなんだけど、鬼には属性があってそれぞれ特徴があるって話をさっきしただろ」

 

 榎先輩と電話することになって中断される前、昨日の話をしていた俺はその続きを再開する。夜名津も覚えていて、ああ、と頷く。

 

「所謂炎とか属性っていうよりも、強化系とか変化系類の属性タイプだっけ?」

「そういう感じだな。で、吉成先輩は赤鬼っぽかったから」

「強化系とかのパワー型」

「ではないんだよ」

「ないの!? え、違うの? 赤ってそうじゃない?」

 

 昨日の俺と同じように違っていたことに驚く夜名津。その反応に苦笑しながら吉成君の姿を思い出す。

 

 額に生えていたのは赤い角。

 

 ……確か、昨日榎先輩から話では鬼の色には特徴があって、青がパワータイプ、白が特殊といったものを覚えている。……赤は何だっけ?

 

 思い出そうとするも緊張と焦り、混乱で思い出すことができない。よくある赤はパワータイプっていう漫画の属性では定番だけど、それが青だったせいで余計に思い出すことができない。刷り込まれた一般的なイメージが……!

 

 それに結界を張れるのは緑だったはずなのに、アレは赤だ。それはなぜだ?

 

 一人で思考を凝らしていると夜名津がその場で思いついたから言ってみたとその調子で言ってくる。

 

「関係ないけど、なんか血を使うって吸血鬼っぽいよね」

 

 吸血鬼? 吸血、鬼? 『吸血』? 『吸う』…………!

 

「そうだ、吸血! 赤は奪う能力系だ!」

「え? クソ強くない」

 

 これまた昨日の俺と同じを反応する夜名津。その一言で思い出した。

 

 確か、赤い鬼の効果は強欲型ってやつで相手の霊力を奪えるという話だったはず。血を吸血してこの結界を成形していると考えれば確かに相性としていいんだろう。

 

 そのことを夜名津に話す、となるほどと頷く。

 

「っていうか、さっきから思っていたけどあのチンピラの人って君の知り合いかい? 中学とかの知り合いかい?」

 

 今更ながらというべきか、そんなこと当たり前のこと訊ねてきた。まあ、さっきからチンピラって言っている当たりコイツも覚えていないんだろうとは俺も思っていたんだが。

 

「一応、お前も知っている人なんだけどな」

「え?」

 

 吉成君とは顔見知りではない自分は無関係だ、と言わんばかりの態度の夜名津に突っ込むと、かなり意外そうな反応で俺の方を見てくる。どういうこと? と投げかけてくる瞳にため息を吐きながら言う。

 

「ほら、体育祭の練習の時に声が出てないってお前の事を殴った人だよ」

 

 一年の頃に体育祭で団対抗の応援合戦の練習の際に吉成君は団長の事もあって、一年で声が小さかったこと(と夜名津特有のやる気のなさ)から夜名津は見せしめでシバかれたことがある。団でこそ一緒だったけど、あの時はまだ俺も夜名津も別クラスだったから友達でも何でもなかったな。

 

 その時の人だよ、と話すがピーンと来ていないのか、頭にはてなマークを浮かべている夜名津。

 

「??? それ今年だろ、っていうか、体育祭の練習で声が出てないで殴られるとか中学時代からそうだから、ぶっちゃっけ一々覚えてないっていうか、覚える気になれないっていうか」

 

 コイツにとって先輩に殴られることは記憶に留めておくほどのエピソードではないらしい。あれ、おかしいな。コイツ、こういう自分を攻撃してきた人間は恨んでしつこく覚えているねっちこいヤツなのに。

 

「普段、中学時代やアルバイト先の先輩の愚痴っているヤツがなんで覚えてないんだよ」

「それはあからさまな意味の分からない、理不尽な事をやってくるからだよ。ぶっちゃっけ、僕って正論自体は思うことは合ってもそれ自体にはあんまり攻撃しないし、部活とかで『お前やる気ないだろう』『声が小さい』程度は別に実際そうだから文句言いようがないじゃん。僕が悪い」

 

 どうやらコイツにとってアウトとセーフのラインは俺が想像していたよりも実は人として分かるような絶妙なラインだったようだ。ただ、アウトラインに踏み込んだ時の相手に対しての敵意や口の悪さは根暗オタクの特有の酷さはある。

 

 もし、先輩が体育祭の練習の名目とか除いて、夜名津に対して攻撃してきた日には夜名津の記憶に刻まれていたら、この戦いで夜名津には『仕返し』の正当な名目で猛威を奮っていたかもしれない。

 

 頼りになるやら少し怖いやら、コイツの暴走の方が俺にとって怖いと思っていると、思い出したのか夜名津はああ、と納得したように言ってくる。

 

「あ、思い出した、アレか、C組とかの子を妊娠させた人か」

「……それは教師だ」

「え? ………あ、じゃあ酒かたばこがバレて退学になった人だっけ? それを一回バラしたのがウチのクラスの人で教室に駆け込んできた。丁度目の前で起きてビビったから覚えている」

「それは今年のヤツで春休み明けに停学喰らった先輩だ」

「ん? あ、じゃあ女子更衣室に覗きに入ったグループの」

「それも違う! というかガチであったうちの学校の不祥事を次々バラすな!!」

 

 うちの学校、田舎の学校ってことではあるが、別に底辺校っていうわけではなかったはずだが、何故か去年からなんらかの不祥事エピソードが続いている。今の夜名津の話にさらに七件以上……計二桁に及ぶなんらかの事件が起きている。呪われているのか、この学校?

 

「っていうか本当に覚えてないのか?」

「僕が覚えてないってことは僕の中では彼は大した人じゃなかったってことだね」

 

 もう一度だけ吉成君について訊いてみるが、カラッとした調子で吉成君(吉成君じゃあなくても大半の人)が聞けばムカついた一言を放ってくる。

 

 自身が殴られたエピソードよりも学校で起きた不祥事エピソードの方が印象に強かったらしい。まあ、確かにこんな不祥事が三連続も、一年半を通して十連続もあれば印象が薄れてしまうかもしれない。

 

「まあ、あのチンピラ先輩については僕としては大した因縁はないってことでいいけど……君は知り合いとしてはどうなんだい? 仲が良かったとか?」

 

 夜名津に問われて、俺は自分自身に自問自答する。吉成君と仲はどれくらいだったかというと。

 

「……仲は良かった。確かに粗暴っていうか、ボス気質の面が強い人ではあったけど……優しい面はあるんだ」

「そう」

「小学校からの付き合いでさ、休みの日には学年も混ざってよく遊んでいたし、度胸試しやちょっとした悪戯とかならじゃあ頼りなったガキ大将だ。たまにおっちょこちょいなところもあるけど、そこは愛嬌があって楽しい人だ。先生達や大人を困らせたこともあったけど、俺達からしてみれば度胸のある面白れぇ先輩で兄貴分。ちょっとした憧れもあった」

「……」

「中学ぐらいから空手初めてめっちゃ強くなったけど、ちゃんと良いことと悪いことの分別は付いた人だったんだ。そりゃあ熱くなって行き過ぎる行為もあったけど……たまに部活の終わって会った時にジュースとか奢ってくれる。いい先輩なんだ」

 

 頭の中に溢れてくる吉成君との思い出。先輩だけど、子供の頃から付き合いだから年上の友達として関係が強かった。思い出はどれもこれも楽しくて、面白くて、たまにひやりとさせられたりもしたけど、それでも俺の中では全部いい思い出なんだ。いい友達だった。

 

 先ほど対面した吉成君も俺の事を仲間になろう、と言ってくれたんだ。あの人の中でも俺の事をまだ友達、仲間だと思ってくれている部分はあったんだ。

 

 だけど。

 

「だけど今の吉成君は間違っている」

 

 あの人はこの学校の皆を支配して、夜名津のことも殺そうとしていた。殺すように俺を要求してきたのだ。確かに昔、度胸試しで無茶ぶりを要求してくることは何度かあったけど、こちらが本気で無理だと訴えたら折れてくれた。けど、さっきの吉成君はそうはしなかった。

 

 吉成君の身にどんな心境の変化があったのかは知らない。もしかしたらこの鬼獄呪魔っていう儀式で今までにない力を手に入れたことで暴走しているだけかもしれない。

 

 でも今の吉成君は人を傷つけることに何のためらいを持たない、……鬼。そうだ、鬼になってしまったんだ。

 

 人は斬れない、……けど相手が鬼なら、俺は―――

 

 喉に異物が競り上がってくる感覚、それを呑み込んで口にする。

 

「吉成君は俺が止める!」

 

 震える手をしっかりと握り締めて震えを止めさせ、真っ直ぐと決意を秘めた瞳を以って夜名津へと訴えかける。目が合い、俺の想いが伝わったのか、深く頷いて答える。

 

「じゃあ、わかった。僕があの先輩どうにかするから、君は学校の操られている人をどうにかしてくれ。僕が一対一で殴り合うから」

「ああ、任せ……え?」

 

 覚悟を決めた俺を無視するかのように夜名津はそんなこと言ってきやがった。何を言われた一瞬困惑するが、すぐに脳が追い付いて慌てて言い返す。

 

「いや、……いやいや俺がやるって言ってんだろうが!」

 

 吉成君は俺が止める、ともう一度言い放つが夜名津は面倒くさそうに手を振って断ってくる。

 

「あ~、いいよいいよ。追い詰めた時に情が移ってとどめさせなくなるとか困るし。逆に僕は殴られた恨みで彼に対して殴ることに罪悪感ないから」

 

 パキパキと片手でだけ関節を鳴らす。……吉成君が誰かを傷つけることよりも、コイツが吉成君に喧嘩売るのに躊躇いがないことの方が不味いかもしれない。

 

 このまま言っても通じなさそうだから別の方向性から攻めてみることにする。

 

「殴り合うって簡単に言うけどお前、吉成君相手に殴り合って勝てることできるのかよ。言っとくけど、あの人空手でインターハイに出場して推薦貰って大学進んだ人だぞ」

「……マジで?」

 

 吉成君の事を覚えていなければ活躍も知らないのも当然か。

 

 去年、学校の校門の前に活躍の応援幕が一時的に飾ってあったことも覚えていないらしい。たぶん、コイツの場合あるとだけ認識だけして、内容を見てすらいない可能性が高い。一々他人の活躍とか気にしないヤツだし。

 

「じゃあ、プールに落とした際に足攣って自滅してくれることを祈るか」

「急に雑な運任せな方法に舵を取るな、引っ込んでろ、俺がやるから」

「ん~、でも大丈夫じゃない? 」

 

 打つ手がないならやっぱり俺がやる、とこちらが勇むのだが、夜名津はそれでも頑なにその役を譲ろうとしない。

 

「大丈夫って、何か考えがあるのか」

「どうするかはまだ考え中だけど、とりあえずプールに落とす」

「は?」

 

 どうしようか迷っている調子で何やら案自体はまだ模索の段階だが、何かしらの方法を思いついているらしい。そういえば今さっきも『プール』って言っていたけど。一体どんな考えがあるんだ、と訊ねてみるとなんてない調子で言ってくる。

 

「いや、血を使う相手の対抗策として水だよね。血は水に溶けるから。だからとりあえずプールの中に落とせば、そうしたら能力が半減して殴り合いまで持ち込めば何とかなるかなって」

「!」

 

 夜名津の案にハッとさせられる。なるほど、血は水で溶ける。確かに吉成君が血の攻撃をしてくるならずぶ濡れの状態にすることで一時的に血の攻撃を防ぐことができるかもしれない。少なくとも遠距離から放つような攻撃はしなくなるはずだ。

 

 面倒くさそうな態度ながらもちゃんと抑えるべき点を抑えて、そのための対策方法を思いついている。一見考えているようで考えていない。考えていないようでちゃんと考えているのが夜名津我一という男だ。

 

 問題はさっきも言ったようにどうやって吉成君をプールへと誘い込み、尚且つ落とすか、その方法をどうするべきかという点。

 

 軽く首を揉んでから、人差し指でこめかみ辺りをつついて思考を凝らしている夜名津。俺も倣ってしばし考えてみて、ふとある方法を思いつく。

 

「あ、いい方法を思いついたかも」

「ん? なんだい」

 

 話半分といった趣で興味を持った夜名津はこちらへと顔を向けてくる。俺はその方法を話してみるとその案に乗っかかってくる。

 

 そして幾つかの気になる点を俺達は話し合いって詰めた後に動き出す。

 

 榎先輩から言われた結界を解くといった時間から残り十分。

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