鬼獄呪魔と仕鬼祇使い(ばか)ども   作:三概井那多

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VS鏡鬼 其の弐

 隣の地区へと帰ってきた僕はそのまま指定の場所まで移動する。そこは工業地跡で、地元の子供たちがよく秘密の遊び場として使われている場所だ。僕も昔よく遊んで友達に貸したポケモンのダイヤモンドのソフトを無くされた最悪の思い出がある思い出深い場所だ。……未だに夘之木君を許せない。

 

 倉庫の方に行くと、一人の少年が立って待ち構えていた。

 

「や、ぜっくん」

「がのいちにいちゃん」

 

 僕を呼び出した小学生。妹の同級生にしてボーフレンドで、僕にとっては弟分のような存在。

 

 僕が『目が死んだような瞳』『無表情』『世界に絶望している人間』みたいな表現がされるなら彼は『瞳の奥に虚無が潜んでいる』『機械のような使った笑顔』『全てのことなんてどれも等しいくらいにどうでもいいと思っていそうな子供』と表現されそうな子供。

 

 自称魔女呼んで『どこにでもいる善悪の区別がつかない小学生』こと背徳絶無。またの名を『ぜっくん』。

 

 僕の妹のボーイフレンドにして、正直妹よりも可愛くて感性に見所のある、同時に僕以上に歪な存在。弟のような少年だ。

 

「で、ようってなんだい? またあの自称魔女とか名乗る人に人殺しを強要(教養)されたのかい?」

 

 そういえば、霊力って魔力とは違うのだろうか? あの魔女の話だと、『魔力は封印された』どうのこうのって言っていたが。でも霊力自体は存在しているみたいだけど。

 

 霊力と魔力について疑問が思い浮かぶが、反対にぜっくんの方も僕の背後の存在に気付いて訊ねてくる。

 

「? そっちの人誰?」

「ああ、ただの昔の知り合いだけど……呼んでいいかい? どうせ後で聞かれる羽目にはなるんだろうから」

「別にいいけど」

 

 ぜっくんから許可を得た僕は振り返って彼女を呼ぶ。

 

「切利ちゃん、出てきなよ」

「…………」

 

 別れた後も僕の後を追ってきた。チャリで。原付相手に。

 

 最初は「あ、帰り道一緒なんだろうな」と思って、わざと飛ばして撒こうとしたんだけど、突いて来ようとした辺りで「あ、僕狙いか」と判明して大人しくスピードを落としてついて来れるようにした。

 

 これしたらこれしたで後で怒られるんだろうな、って思っていたけど……うわ、めっちゃ怒っている顔している。怖っわ、近寄らんとこ~。

 

 出てきたこちらへとゆっくりと近づいてくる彼女は明らかに不機嫌そうな顔している。

 

 一体何に対して怒っているのやら。原付のスピードを自転車に合わせたことか、それとも隠れていたのに「出てこい」と言ったことか、それともさっきの怒りがまだ続いているのか、それとも昔の僕のやったことをキレているのか、それとも単純に僕の事が嫌いなのか?

 

 当てはまる理由が多すぎる。面倒くさいので『単純に僕の事が嫌い』でいいんだろう。

 

「ここで何をする気だ。こんな……いや、待て、なんだこの子?」

 

 もしかしたら続いた言葉は『幼気な子供』を的な言葉かもしれないが、ぜっくんと対面して彼が放つ特有の雰囲気を感じ取ったのか。……だてになんたらってヤツではないようだ。

 

 無手でありながらも切利さんは今に剣を抜きそうな構えを取ろうとする。なんとかっていう武器を具現化させる気か(なんかそういう能力なんだっけ? 昨日くらいに聞いた雨崎君の話だと)。対して彼女が好戦的な態度を見た、ぜっくんの方も……。

 

「はい、待った二人とも。バトル漫画じゃないんだから。そのポーズやめろ」

 

 不穏な空気を読み取った僕は二人の間に入って静止させる。それでも二人とも構えを解こうとせずに切利ちゃんに至っては僕事切り殺そうとせんばかり殺意が飛んでくる。

 

「ぜっくん、彼女は僕よりも強い。切利ちゃんも彼は僕よりも強い」

「……いや、それ強さのバランスとしておかしくない?」

 

 ぜっくんからまともな突っ込みが返ってくる。この中じゃあ、僕が一番弱い自信がある。

 

「一応、切利ちゃん。なんで付いてきたの?」

「……私はお前が今町で起こっている事件の首謀者か、あるいはそれに繋がるラインか何かだと思っている」

「……事件?」

「あとで説明するから」

 

 首を傾げて事情を知らないぜっくんに気にしないように言う。

 

 というかこの女、僕が黒幕かその一味か何かだと疑ってやがる。相変わらず彼女は僕を悪者扱いで困る。確かに、昔散々泣かしたことを根に持つのは別にいいけど、そこで肝心なことを忘れているな。

 

 全く、僕が誰かとつるんで何かをしたことは一度もないでしょう。

 

 あの頃は基本的に所謂ガキ大将で嫌われ者だった僕は何をするにしても一人だった。……今もそう変わらないか。

 

 昔から友達がいないことに改めて気づきながらぜっくんの方へともう一度話を振る。

 

「ぜっくん、悪いけど彼女も立ち合いで話を聞くってことでいいかい?」

「……別にいいけど」

 

 よく分からないといった調子だが、同席自体は許してくれる。……たったそれだけの事なのに彼の方が大人のように見えるのはなぜだろう? まあ彼女は昔の事もあって僕の事が嫌いだからな。普通の人よりも対応が五倍くらい悪くなるのも仕方ない。

 

 などと納得しかけていると、切利ちゃんはぜっくんの方へと注目している。その視線は冷たく、まるで考えられない悍ましいものと対面した時の反応だった。

 

「おい、小僧。何者だ? ……お前からは血の匂いが強い。人を何人も殺してきた奴の匂いだ」

「…………」

 

 ぜっくんは表情こそそのままだがその内心は固まっただろう。僕も同じような反応だった。

 

 血統者だったか? 彼女と雨崎君のチカラの敬称は。具体的にどんな能力なのか僕は説明を聞いてないのでよく分からないが、少なくとも切利ちゃんはぜっくんの経験してきただろうそれを一目で察することができるほどに相当な場数を踏んできたのだろう。

 

 ここ数年の彼女の事情は相当な修羅場を潜ってきたことが分かる。

 

 だけど。

 

「……切利ちゃん。やめてくれないか? そういう、……無遠慮な言い方は」

「なに?」

 

 僕の一言に気が触ったのか、ぜっくんに向けられていた視線を僕へと向けてくる。相変わらず強い敵意を感じる代物。言うのをやめようかと思ったけど、実の妹よりも可愛い弟分を悪く言われるのは流石の僕も不愉快なので引かずにその視線から逸らしてはハッキリと告げる。

 

「相手は子供なんだ。それを人殺しだとか、どうのって言い草は……よくないと思う」

 

 隣から唸るような息を呑む音が聞こえる。煮えたぎる熱気のような怒りをひしひしと肌に伝わってくる。……これは一発殴られるな。

 

 殴られるだろうと予感に素直に諦めてその時を来るのを待つ。だが、不思議なことに幾ら待っても衝撃が襲ってこないので横目で彼女を確認してみる。確認した瞬間殴ってくることを不安に思いながら。

 

 すると、彼女は目を瞑って震え上がった肩をゆっくり深呼吸することで治めてはやがて僕の方へと一瞬だけキィと睨んできてから口にする。

 

「……確かに少し言い過ぎた。君もすまない。初対面で無礼な事を言ってしまった」

 

 驚くことにぜっくんへと体を向けて謝罪の言葉を口にした。どうやら僕の注意が正しいと感じたのか。ぜっくんも少し戸惑いつつ、謝罪の言葉を受け入れた。

 

 ……………昔からこういう部分だけは……うん。

 

「で、ぜっくん話ってなんだい?」

 

 ようやく本題へと入れる。ここまでくるのに一体どれだけかかったか。

 

「おれの学校に竹馬ちづりっていうやつがいるんだけど、ソイツの親がさ……モンスターペアレントってやつみたいでさ」

「ん? ああ……うん。続けて」

 

 いきなりかなり予想外の方向からの切り出しに少し驚く。正直、この時点でなぜ僕に相談がされたのか分からないし、なんだったら打ち切って「僕にできることはない」って話を終えてもいいかな、って口に出そうになったのを堪える。

 

 折角可愛い弟分が僕を頼ってきたのだから、少しはカッコいい所をみせたいっていう見栄ってやつが僕にも湧いてくる。少なくとも最後まで聞いてその上でそれっぽいこと言って断ろうと思う。

 

「ユーチューバーってあるじゃん。ちづりってちょっと前からユーチューバーを始めたんだけど、それが結構前からバズッたっぽくてそうしたら、ちづりもそうなんだけど親の方が色々と問題があって」

「問題?」

 

 声に出したのは僕ではなく切利ちゃん。少し言いよどむぜっくんに助け舟のつもりで僕はパッと思いついたこととりあえず言ってみる。

 

「なんだい、その親が迷惑系だったとか?」

「うん。迷惑だね」

 

 ハッキリキッパリと口にする。

 

「お母さんの方がなんていうか、……恥ずかしい感じ? の人」

「恥ずかしい?」

「なんというか……ギャル、若作り? ……なんていうんだっけ? 化粧が濃いっていうか……服は可愛い感じの……なんていうんだっけ? ……ぢ、ぢ、ぢ?」

「痔? ……よく分かんないけどようは痛々しい人なんだね」

「そうだね」

 

 言いたい言葉を思い出せずに面倒くさかったのか僕の突っ込みに受け入れた。このやり取りに横でなんだこいつら、と顔をする切利ちゃんを放っておいて話を続ける。

 

「うん、それでなんか、学校でちづりのやってきたことに対して『可愛くない』とか『つまんない』『意味わかんない』って先生に文句を言ったり、学校の林間学校についてきてはあれやこれや我儘を言ったりとかする親なんだ。たまにちづりを学校を無断で休ませて遊びに連れに行ったりとかするんだ」

 

「馬鹿じゃねえの」

 

 ドラマでたまに見るバカ親のそれだ。

 

 ……所謂、お友達感覚の親子っていうヤツだろうか。最近の親の像として『子供から嫌われたくない』や『過去に親から怒られたことがショックから反動』とかテレビで言っていた。

 

 僕の親は特に母親に関してはこの手の親とはまた違った意味で……まあ、逆の意味で病んでいるタイプの親だけど、学校側に問題を起こすタイプの非常識な人ではなかった。……まさかうちの母親に常識があったことを認める日がくるなんて。

 

「全く、いつになっても迷惑かける奴がいるようだな、なあ、我一」

「そうですね」

 

 飛んでくる皮肉を適当に聞き流す。こちらは耳が痛い。

 

「……お父さんの方はなんかよくない噂話があって」

「両親揃ってかい?」

 

 それまた難儀なことで。

 

「お父さんの方がなんか詐欺師みたいなことをしていて、名前が横文字のなんか長いヤツで。人を集めてどうこうの発表会? みたいなことしてて」

「……セミナーの講演のことか?」

 

 言ったのは切利ちゃん。

 

「多分それ。学校の先生とかよりPTAみたいな感じの所属? それでなんとかせみなーで教育がどうのって話をしているんだけど、それが無茶苦茶でさ。学校は悪い所だって。学校教育は間違っているから撤回すべきだ、とか」

 

 正直、学校教育に関しては僕もあんまりいい思い出がないので、それだけ聞くと「全くその通りだ」と賛成意見を入れたい。

 

 特に『中学教師』『三年間担任』『国語担当』! もう少し生徒に誠実に、生徒と教師あるいは子供と大人である前に人と人同士だということをちゃんと理解してほしい。自分には一切非がないで、相手側(生徒側)が一方的に悪いと決めつけるのはやめてほしい。経験談から言わせればそれが一番困った。

 

 そう、あれは……と、長い回想に入ってしまうためここでカット。

 

「あとなんでも、善心教団っていう変な名前の宗教団体? って所に所属しているって話があって。おれとしては何が怖いのかよく分からないんだけど」

「…………」

 

 ……これまた、懐かしい名前が出てきた。あの、僕とぜっくん以上に人を人とは思わない彼の宗教家は元気だろうか? 無様に死んでいればいいのにな。

 

「善心教団? ……ああ、あの詐欺団体か」

 

 トップの人はお金に関してはマジで興味ない人なんだけどね。というか、切利ちゃん知っているんだあそこの事。

 

 その辺の事を聞いていいんだけど、下手に口を出すと僕とあの人との繋がりに関して変な勘繰りをしてくる恐れがあるので口には出さないけど。あの人自体どうなろうと知ったこっちゃないけど、それでちょっと話したことがあるだけの無関係な僕に飛び火がかかるのは面倒だ。しかも相手が切利ちゃんならロクなことにならない。

 

 変に話を広げられても困るので、余計な部分を切り取って話を一度まとめてみることにする。

 

「まとめると、母親は娘を溺愛している。父親は、……詐欺師かどうかは置いておいて教育における運動家か何かってことは分かったけど……そのなんとかちゃんっていう子がユーチューバー……??? ごめん、話が見えない。何の話しているんだっけ?」

 

 まとめようとしてみて、全然まとまっていないことに気づいた。とある家族の情報が入ってきたけど、そこからぜっくんが何に対して困っているのか分からない。

 

 フッ、と隣で鼻で笑われたことに気づく。完全に理解していると得意気な顔で切利ちゃんが「全く、そんなことも分からないのか」と上から言ってきてはどういうことなのか説明してくれる。

 

「つまり、この子はちづりっていう子が好きなんだ。だけど、親がモンスターペアレントであることを悩み、微かにあるだろう常識的な正義感を以って、親を改心させて普通にさせたいっていうことだ。全くそんなこともわか―――」

「え、ちがうけど。おれの好きなヤツ他にいるし」

「…………」

 

 堂々と解説してくる切利ちゃんに動じぬに違うとハッキリと告げてくる。それに対して顔を固めてしまった。

 

 ……ごめん、あとついでに言うならその子の好きな子、うちの妹なんだ。だから、切利ちゃん以上に彼の恋愛事情って僕は結構詳しいんだ。

 

「えーと、ちづりのユーチューバーって実はその親達が勝手に始めたことなんだ」

 

 ショックで戻らない切利ちゃんを他所にぜっくんは話を再開させて、僕が不明だといった部分の説明をしてくれる。

 

「そのユーチューブの内容が父親と母親がネタを考えてやっているっぽいんだ」

「それだけ聞くと別に問題なくない?」

 

 ネット界隈を何も知らない子供がアレコレと下手なことするよりか、保護者の監督が行き届いている分安全だろう。僕は高校入ってからスマホや家にネット回線繋がった人間だから、ネットの怖さとやらテレビや漫画といった程度の知識だ。

 

 あ、でもコレくらいの子供ならそういうのは許せないのかな? 所謂見栄やら大人の手を借りないで自分でできることが子供のコミュニティのカーストだとかブランド力といったものが試される的な。僕も子供の頃にそういうのあったし。

 

「ああ、ぜっくんは知らないだろうけど、ネットって怖いから身バレとかで色々とそういうの出来たりするから。親に手伝ってもらうことは少し恥ずかしいことかもしれないけど親がちゃんとしていること自体はいいことだから」

「らしいね。おれもネットとかユーチューブとかあんまり見ないから配信自体はよく分からない」

 

 クラスの奴らのユーチューバーの何がいいのか盛り上がりはよく分からない。と、やはり僕と同種の人間のぜっくんはそんなこと言う。……ということは問題点はそこじゃないのか?

 

「ということはなんだい? その親の……台本? に問題があるのかい?」

「うん」

 

 両親が監督している動画の台本がだいぶ批判的な内容のようだ。

 

「お母さんの方の奴はまあ、別にいいんだけど、お父さんの方に少し問題があって。さっきも言ったけど、学校教育に問題があるとかなんとかを訴えている人で、それをちづりを使って……『学校教育の被害にあった子供の声』? とかなんとかイジメ問題や学校は悪い所だって訴えてくるんだ」

「そいつはまあ……なんというか」

「なんだ、その子は実際に学校でいじめの被害にあっているのか?」

 

 如何にもな内容でありながらもどことなく頭の悪そうな内容を漂わせるものを聞き、引いている僕と気を取り戻した切利ちゃんが聞き直してくる。それにぜっくんは首を振った。

 

「ううん、逆。それを始めてからいじめが始まった」

「なんだと? どうして……いや、待て。そういうことか」

 

 疑問に思うもすぐさま事情を察したのか、切利ちゃんはぜっくんが口を開こうとしたものを止めさせて自分でそれを口にする。

 

「……つまり、でたらめな教育理論を訴えたことでその子は責められたってことだな?」

「うん」

 

 切利ちゃんの言葉に頷いた。

 

 その、なんとかちゃんのお父さんが教育にいちゃもんつけて、それを娘のチャンネルに台本を仕立てた動画を配信。そうしたことで学校ではなんとかちゃんは責められたってことか。

 

 学校嫌いの僕としては学校に文句付けるヤツの気持ちは理解できて、そのいじめっこ達の反応が些か理解できないものだが…………おそらくは、その子供達にとっては実際に思っていることじゃなくて、それを見た親達の反応の方で「あそこのお子さんはおかしい」のなんの言われて、親の言うことに従っている、と考えれば……まあ、その子が虐められている構図はなんとなく想像はできる。

 

「ちづりが動画上げる。それを見た学校の連中がイジメられる。それをネタにさらに動画上げる。学校が悪いところだってそうやって証明するんだ」

「なんだ、その、バカが作った、悪循環でできた永久機関」

 

 そんなことしたらその子の心が折れるだろう。その子の家庭と学校の永久機関じゃなく、家庭と学校の『板挟み』状態だった暗黒時代の中学生活を送っていた僕に言わせれば、学校側を犠牲すればいい、と諦めが付けばまだ精神的に廃れ果てる程度で済むけど、小学生女子が僕の壊れたメンタルみたいなことが果たして同じことできるだろうか? 普通に無理だろう。

 

「ぜっくん、君の目から視て……はあんまり信用できないけど、その子は大丈夫なのかい?」

「ダメそうだったからがのいちにいちゃんにこうやって相談しているんだよ」

 

 あのぜっくんの目からしても相当な酷い有様らしい。……その上でこの僕に相談するっていう判断は相当イカれているとしか言いようがないが。

 

「こんな奴にその手の相談を持ってくるな。明らかに人選ミスだぞ」

 

 切利ちゃんからまともな突っ込みを入れてくれる。その通りだと思ったが、ぜっくんは切利ちゃんの方をしっかりと見詰めて、無邪気な少年の明るい瞳かつその奥底は吸い込む虚無でできた瞳で真っ直ぐ告げる。

 

「じゃあ、他に誰に相談すればいいの? 学校の問題が起きて、友達も先生も助けてくれないんだ。がのいちにいちゃん以外におれに頼れる人はいない」

「…………」

 

 ぜっくんの言葉に切利ちゃんは口を閉じてしまう。その瞳は何か言いたげだが、返す言葉が見当たらないといった様子。それはぜっくんの事を思ってか。それとも未だに昔の事を思ってか。

 

 ……………僕には彼女の心情は分からない。

 

「……分かった。とりあえずぜっくん。その子と話せるかい? 直接が会って話したい」

 

 僕は切り替えて、そのなんとかちゃんと実際に会うことができないかを聞いてみることにする。

 

「うん、話せないかは聞いてみるけど、どうする気なの」

「とりあえずぜっくんの話だけじゃあよく分からない。実際にその子の話を聞いて、本当に困っているかどうか……ほら、親子の間とか学校の問題どれを解決するべきなのか、その子自身が一体どうしたいのか、直に聞かないと解決のしようがない」

「まるで自分なら解決できるみたいな言い草だな」

 

 お前なんかにできるはずがない、と皮肉を言い放ってくる。実際僕自身もこの問題を解決できるとは思っていない。もしできるならその子よりも先に自分自身の問題を解決したかった、ってもんだ。

 

 だけど、……まあ、子供の頃にできなかったことを大人になったら、子供にはそれをさせてあげたい大人になりたいんだよ、僕は。

 

 子供の頃に助けてくれる人といったものはいなかったから。逆の立場になったら助けられるような人になりたい、とそう思うのだ。

 

「ええ、だから家庭事態に問題がありそうなら児童相談所にでも頼ろうか、と。学校自体に問題があるならその子に人付き合いの仕方や関係性について少し話して様子を見るとか……まあ、僕にできる範囲でしようかと。何もしないよりかはマシかと」

「………………お前は本当に我一なのか?」

 

 彼女からまた同じことを聞かれる。数時間前に放たれた同じ言葉を。

 

「僕は夜名津我一です。色んなことがあって少しだけ変わった、だけど変わり切れなかったあなたの知っていて、知らない夜名津我一です」

 

 僕はさっきとは違う答えで答える。

 

 その答えを聞いた切利ちゃんは信じられないものを見るように大きく目を見開いては魅入るような視線を僕に向けてくる。

 

 やがて、何かを諦めたようにして「そうか」と告げる。どことなく寂しげで悲しそうな顔だった。子供の頃、散々ボコってどれだけ泣かしても強気の視線しか向けなかった彼女から信じられない弱々しい態度だった。

 

 …………成長かね。

 

 大体七年ほどか? 彼女が引っ越してから距離が離れ、時間が過ぎては互いに知らない面が増えているのも当たり前か。

 

 あの頃の僕は子供特有の万能感に浮かされたクソガキだった。そして彼女はそんなクソガキが嫌いで嫌いで仕方ない委員長資質な子だった。

 

 果たして、僕はあの頃から成長できたんだろうか? 自分ではそう変わっていない気がしてならない。自分の感情を抑えることや周囲の事を考えることくらいは学んだが、本質的なところは変わっていない気がする。

 

「わかった。今日はもう無理だけど明日ちづりには聞いてみてお兄ちゃんの所に連れていくよ。でも早く助けないと結構危ないね」

「……そんなヤバい状態なの?」

「うん」

 

 食い気味で頷かれた。僕の頭の中でひぐらしの紗都子に鉄平が帰ってきた時の欠片世界の状態を想像する。元々、児童相談所の案もそこからの想像だった。

 

 軽い気持ちで相談に乗る程度でできることはしようと思っていた僕だけど、けれど次にぜっくんの口から言い放たれた台詞で彼女を助けなければという気持ちが湧いてくる。

 

「ちづり、我慢の限界で多分親殺すかもしれないから」

 

 ……どうやらその子は祟殺しと皆殺しの境のようだ。

 

 とりあえず『ちづり』ちゃんっていう名前だけはちゃんと覚えようと思った。

 

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