山口へとやってきたのは主人公達。そこでは福岡と同様結界が張られていた。結界を解除するためにこのエリアを仕切っているボスがいる遊園地へと足を運ぶ。そこには仲の良い家族が溢れた幸せそうな遊園地だった。
そこに現れた少女アリス。
アリスの正体は、実は女装した男の子だった。彼の両親は女の子が欲しいと願っていたが、実際には産まれてきたのが男の子だったためその現実を受け入れられず、女装をさせて女の子と育てられる。
だが成長につれて、肉体が男らしい身体つきになっていくため食事抜きや声を小さくさせる、仕舞いには去勢させるという事態にまで陥る。
そして鏡の妖怪と契約することで、様々なものが反転した鏡の世界で両親が望んでいた女の子の姿を手に入れる。が、同時に性格も反転したため、両親の言いなりだった大人しい性格が反転して攻撃的な性格となり、これまで復讐として両親を攻撃、また女装について笑っていた周囲の人間達も残虐な目に遭わせていた。
主人公達と戦闘して、主人公達の勝利後にこう告げる。
「いやだ、いやだ、いやだ! あっちに戻りたくない! こっちは自分の本当の姿なんだ、あるべき姿なんだ! だって男の子なら愛されない! パパとママから愛されないんだ! ぼくは、わたしは、鏡の中でもいいからあいされたいんだ!!」
第二章 完。第三章へと続く。
※ここでのゲーム仕様のギミックとしては属性相性を反転させる。
× × ×
一先ず今回の事件を終えたことで、その経験を活かして作品のあらすじを完成させた。書き終えて冷静になって読み直してみると、こう、暗殺教室の渚君ママを思わせるエピソードになってしまった。書いている内は全然意識してなかったのに、出来上がったものを見ると似たような系統になってしまった。創作って難しい。オリジナリティと似たり寄ったものとの境界とはどこまでなんだろうか?
スマホの画面閉じると、雨崎君がどうしようもない奴を見るような目でこっちを見て来た。まるで『あんなことがあって、よくこんな作品を書けるな』と言わんばかりの顔だ。
「お前マジで、一回頭を病院で診てもらった方がいいぞ」
全然違う言葉が返ってきた。おかしい、こういう時は考えていた言葉が出てくるものなのに。
などと、本音はさておき。
僕らは今、ちづりちゃん宅へと訪れていた。ちづりちゃん宅は一軒家であり、古い民家。両親のどちらかの実家なのか、それとも田舎特有の空き家を中古で購入したのかは知らない。敷地には入らずに僕らは隠れて中を覗くようにして中の様子を伺っていた。通りかかった人や警察とかがくれば空き巣犯が様子を窺っているともいえるような光景だ。
昨夜会った事件。僕は何故か暴走した切利ちゃんと闘いに敗北して、同時に雨崎君達は鏡鬼を撃破したらしい。
詳細についてはここまでくる間に雨崎君から聞いた。
外から様子を窺っていると楽し気な声が聞こえてきては外に出てくる親子三人。どうやらピクニックにでも行く気なのか、リュックサックを背負ってはアウトドア向けの恰好している。
傍から見たらどこにでもいる仲の良い笑顔の絶えない親子の姿にしか見えない。
「アレが偽物? まあ、本物はみたことないけど」
「ああ、アレが鏡で作られた両親だ。いい両親に見えるだろ?」
視線の先にいたのはちづりちゃんとその両親たち。詳しくは知らないけど、あの両親は偽物で、鏡鬼が生み出した虚像らしい。
―――やっぱ、あの子……。
「君はどう思う?」
「? まあ、榎先輩からは偽物の両親なんて論外なんて言っていたけど、正直倫理的な意味でも色々と問題はあることは俺だって思うよ」
雨崎君は難しそうな顔をして言いにくそうにしている。でも、と不快なものを呑み込むようにして続けて言ってくる。
「でも死んだ両親が生き返るわけでもないし、あの偽物がいなくなったところで彼女は両親を失った傷ができる。結局のところ、世間体もあるけど、あの偽物の両親がちづりちゃんをちゃんと育てるって誓ってくれたことを信じることで榎先輩は折れてくれたし、俺自身もそっちの方がいいと思っている」
ま、こうやってたまに様子を見に来ることになるけど、と零す雨崎君。僕はふぅ~ん、とどうでもよかったのでそう適当に返答する。
「まあ、家族の繋がりは血の繋がりだけじゃないからね」
「そうだけど、…………この場合言うのとなんか違くないか?」
「仮面親子ならぬ鏡の親子ねえ……」
「ほら、お前がこういう時好きな言葉あるだろ、『本物と偽物なら偽物が本物であろうと努力するから、本物よりも偽物が強い』のなんの」
雨崎君の言葉にそうだね、と僕は頷いた。
× × ×
時は遡る。
『この子は私達が責任以って育てます!』
『カナン達の霊力が続く限り、愛し、人として育てます。お願い、信じて!』
『………わたしは、……………この人達がいい。パパとママはもういないんなら、この人達がいい。……これ以上、嫌な思いをしたくないです』
頭を下げてくる三人の姿に、散々迷った榎設楽の決断は『絶対に人を襲わない』『定期的に様子を見に来る』の二つの条件を付けることで見逃すことだった。
本来ならこの地を護る防人として害のある存在は見逃すことができない立場にありながらも、虚像の二人の嘘とは思えない誠意と竹馬ちづりの悲し気な瞳、雨崎千寿の願いもあって、不承ながらも契りの誓約を設けることで鏡像の存在を認めた。
その後、雨崎千寿共々叶切利と夜名津我一二人の元へ去った後だった。
残された四人は竹馬家の皆は家へと帰ろうとし、その前に竹馬ちづりは背徳絶無の方へと駆け寄る。
「ぜっくん、ありがとう」
「? なんもしてないけど?」
なぜ礼を言われるのか全く理解できていない背徳絶無は素直に返す。実際、客観視したら背徳絶無は何かしたというものは殆どないだろう。
だが、その言葉に首を振って否定する。
「んん、そんなことない。ぜっくんはずっと私の手を握ってくれた。抱きしめてくれた。……本当にうれしかった」
頬を染めて涙を浮かべながら礼を言ってくる。本当にありがとう、と。
結界の中で恐怖と不安、絶望に打ちのめされた竹馬ちづりの手を握ってくれていた、抱きしめてくれたことがどれだけ勇気づけられたことか。
「(抱きしめたっていうか、勝手にそっちが縋ってきただけだけど)」
事実と違うけど、と空気を読まないことを考えていた。
「あのね、ぜっくん、わたしね」
「そんなことよりもちづり、お前、両親が変わって幸せか?」
竹馬ちづりが愛の言葉でも告げようとした瞬間、それを遮るようにして背徳絶無は訊ねる。言葉を遮られたことに少し不満そうだったが、竹馬ちづりはフフっと明るく、長い間かけられた呪縛から解き放たれたようにして満面の笑みで告げる。
「うん。あんなヤツら死んで当然だよ」
―――瞬間、竹馬ちづりの胴体に剣がぶっ刺される。
「―――………え?」
ブス、と貫かれた身体。最初は何をされたのか全く理解できずに時間が止まった感覚を味わう竹馬ちづり。やがて染み込んで赤く染まり地面へとポタポタと滴り落ちる鮮血を見て、それに理解する。
自分は背徳絶無に刺されたのだと。
どこから取り出したのか、一三五センチほどの身長平均より少し長めの剣。修学旅行のお土産屋で売ってそうなキーホルダーのような剣。
それは知っている。背徳絶無がいつも持っているキーホルダーだ。
それが具現化して本物の剣のように形が成り、それが自分の肉体を貫いたのだ。
遅れてやってきた痛覚が襲ってきては、悲鳴よりも先にカホ、と口から血が溢れて出る。
「うぅ、ぅうううううう~~~~!!!!」
悲痛の声にならない叫び。痛い痛いと声に出したいが、それよりも口から零れる血の嘔吐感による呻きだけ。
なぜ今刺されたのか、訳も分からずに刺した本人へと顔を上げようとして、ブスッ、と勢いよく胴体へと刺さった剣が引き抜かれては鮮血が飛び散った。
たまらずに地面へと倒れて蹲る竹馬ちづり。そんな姿をいつもと変わらないどこにでもいる年相応の顔で、その瞳は光の奥底に虚無が潜んでいるような危ういそれを竹馬ちづりへと向けて言い放つ。
「ちづり、お前を殺す」
「!?」
突如としての殺害宣言に竹馬ちづりは凍り付いた。耳に入ったが頭に理解が追い付かない。告げられた衝撃に慄き、彼女は痛みを忘れる。
離れていたことで遅れて竹馬隆二と竹馬花南が自身の娘が護ろうとして前へと出る。
「お、お前! うちの娘になんてことを!」
「ちづりちゃん! カナンの次に可愛いちづりちゃんが! アンタ絶対に許さない!!」
竹馬隆二は震えた両手を前に拳を作ったボクシングポーズで上擦った声で精一杯の虚勢を張って、竹馬花南は倒れた竹馬ちづりを抱きかかえて、名を呼んでは、背徳絶無へとドスの利いた叫びで殺意を向ける。
その姿は子を思う親としての理想であり当然の姿だった。同時に本来の竹馬親子には絶対に有り得ない光景でもあった。
「本物を殺した偽物が何を言ってるの?」
それらの言葉に対して背徳絶無は冷静に返す。お前らはただの成り代わった存在だと。
雷にでも打たれたかのような衝撃が奔る。
「なんで、……なんで、どうして……!?」
怯え、震え、慄きながらも溢れて出てくる血を忘れて、彼女は恐る恐ると、それでも覚悟してハッキリと口にする。
「一体いつから、……私がちづりじゃない、と気づいたの!?」
「?」
「お前も仕鬼祇使いなのか!? アイツらと同じで……私の正体を気づいて!」
鬼獄呪魔の参加者、仕鬼祇《鏡鬼》の真の契約者は竹馬ちづりだったのだ。竹馬隆二と花南の鏡鬼はそこから分裂した派生契約だった。
そして、今目の前にいる少女の存在は完全受肉した鏡鬼。受肉されたちづりの魂はもう既にこの世には存在しない。
「み、見逃して! お、お願い!! 確かにこの身体を完全受肉してこのちづりから奪ったけど、それはあくまでもちづりが死んだ後なの。こいつら、本物の両親に殺された後に奪ったんだ」
「…………」
「私自身は鬼獄呪魔も鬼の王が召喚されることも鏡鬼にはどうでもいい。本当なの! 嘘じゃない」
「…………」
「私は鏡鬼。鏡越しの鬼。写されたもの反映する鬼。ちづりの奥底の願いの部分を写し出してそれを反映させた存在。ちづりの願いを叶えたいだけなの! 鏡鬼はそういう鬼なの!」
「…………」
「優しい両親、イジメない友達、冷たい目で見ない周囲、好きな人との恋! そういうの、ちづりが欲しかったものを叶えるために反映された存在なの! 」
鏡鬼という鬼の性質はそれだ。写したもの真似る、反転させる、成り代わるといった能力の鬼。鏡鬼は竹馬ちづりの肉体に受肉したことでその心の内を奥底まで写し出し、そして彼女の成り代わっては彼女が秘めていた思いを叶えたい。
そこに決して嘘偽りもない。鏡で映し出した存在だから故に彼女の願いは竹馬ちづりの願いそのものなのだ。
―――故に、口ではこう言っているが竹馬ちづりの願いを叶えるためならば、幾つもの人間を鏡に反映された鏡像を成り代わらせることをいとわない。
優しくない両親は優しい鏡像に、イジメてくる友達はイジメない鏡像に、冷たい目で見てくる人間は温かい目で向けてくれる鏡像に、好きなってくれない人は好きでいてくれる鏡像に、成り代わらせるだろう。
竹馬ちづりが望んだ、理想の鏡像で埋め尽くされた世界にするのが鏡鬼の目的だ。
ここで消されるわけにいかない、と必死に泣いて懇願する鏡鬼だが、ずっと押し黙って聞いていた背徳絶無がどうでも良さそうな調子でようやく口を開く。
「さっきから何を言っているのかよく知らないけど、お前やがのいちにいちゃんが関わっていることが霊能力者関連なのはなんとなく見ていてわかった。別にそれ自体おれには関係ないことだからどうでもいいや」
「な、どういうこと!?」
目の前の竹馬ちづりは仕鬼祇使いであり、成り代わった鏡鬼である鬼獄呪魔の参加者である。そして、背徳絶無は鬼獄呪魔の参加者でも何でもない、何も知らない少年だった。
「なら、なんで……どうして、ちづりを殺すの!? この子はお前の事を好きだったんだよ!」
お前はちづりじゃない。
などと声に出かけたが、それは質問自体の答えになっていなかったことに気付いて、開きかけた口を一度閉じては、やがて彼は淡々と当たり前といわんばかりの答えを返す。
「《主人公》だから殺す」
「!?」
放たれた予想外の一言に鏡鬼は思わず息を呑む。
今、コイツは何を言った? 《主人公》? 一体何のこと言っている!?
混乱する鏡鬼を他所に背徳絶無は言葉を紡いで続ける。
「イヤな両親からイジメられて育った悲劇の
「一年間で身に付いた、……沁みついたクセなんだ。それを見たら殺したい、いや、殺さないといけないと自分に与えられた役割。条件反射とかパロプの犬とかそういうの」
「人殺しがいけないけど、主人公は別に人じゃないから。アレは身勝手な自分の価値観で世界を歪めるこの世に最も存在してはいけない、無知なのを良いことに好き勝手に振る舞う恥知らずの厚顔無恥なヤツだから」
ただの世界の基準を乱して歪めるだけの害悪だから、と彼は告げる。
彼は善悪が分からない。
故に物語における自身の正義感を振り回して好き勝手に暴れる主人公が酷く理解しがたい怪物のようにしか思えないのだ。
だから、彼は《主人公》という存在を殺すのだ。
ゴキブリを見たら嫌悪して殺したくなるように、背徳絶無は《主人公》の存在を認識したら殺すことを考えてしまう。
―――そして、それはもう終わっていた。
「……え? ―――あ、あ、ああああああああああああ!!!!」
絶叫が響く。
突如として鏡鬼の肉体が先ほどの突き刺された箇所が光輝く。その光はまるで最後の輝きと言わんばかりの力強く、そして刹那的なものだ。
光が強く増していくにつれて、焼けるような痛みが増していく。腸が抉り出されるような、神経が焼きこがれていくような激痛に鏡鬼は堪えられず苦しむ。
刃物に刺されたからではない、何か……身体の中にある内臓や心臓、骨といった類の肉体を構成する何かではない。
どちらかといえば霊感や霊核といったものに近い別の『ナニか』、竹馬ちづりが持つが『ナニか』が破壊され、それが暴発したかのような痛みが全身に迸る。
「ちづり!」「ちづりちゃん!」
傍らの竹馬隆二や抱き抱えていた竹馬花南らが愛娘にして、本体へと名前を呼んで気を確かに持たせようとするが、それは無意味なこと。
光が強くなるにつれて、奇怪な「かっ、かっ、かっ」と呼吸困難、あるいは壊れた人形のような声を上げ、目玉は飛び出すかのように白目が剥き、口元は涎まみれの泡を吹いて失神したかのような状態に。
パァーン!!
鏡鬼の身体の中で何かが破裂でもしたかのような音が響き、その音をきっかけにガクン、彼女の首は落としてはそのまま二度と動くことはなかった。
鏡鬼こと竹馬ちづりはここで死亡した。
「ちづり!!」「ちづりちゃん!!!」
二人が叫ぶが息絶えた娘を呼ぶが、返事はなくもはやそれはただの屍。そのことに二人は気付き、二人の顔は曇り、何とも言えない絶望した表情を浮かべる。
愛する我が子が失った両親の反応としては当然の反応だろう、そう―――
「「―――不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い」」
―――そう、この二人に限っては必ずそうではなかった。
娘を失ったことで彼らが思ったことは娘が死んだことの悲しみや怒りといった負の感情ではなく、危機感と恐怖心だった。
彼らは約束した。雨崎千寿と榎設楽に『一般人に被害を及ぼさない』『ちづりを大切にする』と。そう彼らは約束したのだ。
榎設楽と契りを結んでいた。
だが、その約束はちづりが死亡したことで破ったことになる。
契りとしてはこの状況の場合は破ったことにはならない。自分達の手によって殺したわけではないからだ。あくまでも竹馬ちづりの死は背徳絶無が殺害したことに対してだからだ。竹馬夫婦自体何も破っていない。
だが、もしこの状況を彼らの目にしたらどうなるか? 大人しく背徳絶無が竹馬ちづりを殺したと信じるだろうか? 答えは否だ。
きっと彼らはこう考える。『絶無を操ってちづりを殺すように仕向けた』と。ただでさえ、元は竹馬ちづりを虐待してきた二人が元となった自分達だ。虐待をしているクラスメートを助けようとした彼と、クズがベースの自分達、どっちを信じるかといったら背徳絶無へと信頼が傾くに決まっている。
事実でも信頼されずに虚言だと切って捨てられるに決まっている。
竹馬ちづりが死亡したことがバレたら完全に自分達は完全に敵対行為をしたとみなされて消されることは安易に想像できる。自分達ではどうやってもあの二人に対抗することができない。だからこそ、その約定の契りを結んで榎設楽に自分達は無害で従う意思を示したのだ。
故に今の状況は非常に不味い状況になってしまったのだと、二人は焦り、どうすればいいかと誤魔化す方法を思案する。
……結局の所、成り代わっても所詮、元は竹馬隆二と竹馬花南の二人。彼らの心は鏡写しであるために魂の本心とした鏡越しですら映り変わらないほどの人としての悪心はそのままだ。
失敗したら誤魔化そうと全力を尽くす醜悪な人間性であり、自分達が生き残ることを最優先で悪知恵を働かせる。
そして、彼らはとある方法を思いつく。
「そうだ、ちづりも俺達のようにすればいいじゃないか」
「ダーリン天才」
竹馬隆二の一言にすぐさま察した竹馬花南は前世のやり取りのように彼を褒め称える。そして二人は屍となった竹馬ちづりを、本体であった自分達の死体処分したように鏡の中に放り込んで処理して、二人は手に取って、互いの霊力を半々に分け合ってから術を発動させる。
鏡像の夫婦初めての共同作業を開始する。
「「鬼術〝鏡面反映〟」」
その術は鏡鬼(花南)が二人を創った術だ。この術を使って新たに竹馬ちづりの鏡像を創り出した。
そして、その鏡像こと竹馬ちづりは何事もなかったように起き上がった。
「ちづり!」「ちづりちゃん!」
よかった、本当に良かった! と二人は息絶えた娘が蘇ったかのように心底安堵したと言わんばかりに娘を強く抱きしめる。そのことに目覚めたばかりの彼女は困惑したような状況が分からないといった恐る恐るの調子だったが、それでも両親の愛に胸が救われたように「パパ、ママ」と抱きしめてくる両親へと身体を預けその温かさを受け入れて、自身も抱きしめ返す
傍から見たら感動もの親子のワンシーンのような光景だ。
だが、一部始終の出来事を見ていた人間にとっては鏡鬼ならぬ狂気の出来事でしかない。
そして、それを実際に傍から一部始終を観ており、同時に事の発端を起こした少年である、背徳絶無はその光景に対してただ黙って見つめていた。
だが、彼が視ていたのは狂気の家族愛のワンシーンとしてではなく、もっと別のもの、成り代わった竹馬ちづりの鏡像へと注目していたのだ。まるで何かを査定するかのような瞳。
背徳絶無の視線に気づいたのか、目が
何が何でも護り抜くという強い、親としてあるべき姿だ。
それに対して、背徳絶無は査定し終わったように答える。
「……お前ならいいや《主人公》じゃないし。やっぱり宿っていたのは肉体の方だったみたいだし」
と背徳絶無はこの鏡像の竹馬ちづりを殺しにかかるようなことはなく、手に持っていた剣を元のキーホルダーへと戻す。武器を収めただけではそう簡単に警戒心を緩めずに竹馬隆二は慎重に訊ねてくる。
「ちづりのことはもういいのか」
「いいよ、そんな偽物。この世界には何にも意味がなさそうだから」
そう完全に竹馬ちづりに興味を失せたこと言ってくる背徳絶無。彼にとっては竹馬ちづりの肉体にあったであろう、『ナニカ』。おそらくは《主人公》という定義する何かであって、それがない鏡像に生まれた目の前に竹馬ちづりは彼にとってはどうでもいい存在だ。
「じゃ、兄ちゃんやお姉ちゃん達に気を付けて生きなよ。おれは帰るから」
そういって彼はまた明日と言わんばかりに背中をみせて手を振って帰路へと足を向ける。
振り返った背徳絶無の無防備な背後を見て襲い掛かってやろうかと竹馬夫婦は思った。大切な娘を殺されて、自分達の数少な霊力を使わされたのだ。恨み、腹いせで怒りに身を任せて襲い掛かってもおかしくなかった。
だが、彼らはそうはしなかった。
榎設楽との契りがあるからだ。彼らは人に被害を与えない。その契りがある限り、彼らは例え娘を殺害された相手だろうと攻撃することはできない。
本来ならば人々から護るため、被害を出さないための施したはずの契りであるはずが、娘を殺した相手を復讐することができないとは、何たることだろうか。
これまで娘を虐待してきた者達が、今度は護るべき愛してやまない娘に対して何もしてやれないでいるのは何たる運命だろうか。
遠ざかっていくにっくき仇の背を見逃すしかなかった竹馬夫婦。その胸の中に怯えていた鏡像の彼女はムクリと顔を出してはその姿を目に捉える。
遠ざかっていく。遠ざかっていく。遠ざかっていく。
もう、手に届かない、遠くへと、遠くへと。
彼女が望んだものは遠ざかっていくのだ。
「―――……ぜっくん!!」
彼女は彼を呼び止める。歩みを進めていた彼は止まり、振り返る。相変わらず無邪気な、瞳の奥に虚無を覗かせている彼の瞳に止まる。何? と言わんばかりの顔がこちらへと向けてくるのだ。
ちづり!? ちづりちゃん!? と両親から驚きと心配した声が上がるが、それに「大丈夫」と告げて、優しき抱擁から離れて一歩前へと出て、彼へと向き直る。
向かい合う二人。片や緊張感によって強張った表情を浮かべている、片やなんだろうかと思っている自然体で様子を窺っているものだった。
二人の間に張り付いたような奇妙な空気感が支配する。日は沈んだのに、夏の夕方特有の明るいうす暗さがまるで二人の間に存在してた距離感を表すように静かにゆっくり、じっくりと闇へと染まっていく。
やがて、意を決した竹馬ちづりが口を開く。
「……ちづりはね、君のこと好きだったんだよ」
それは鏡鬼となった竹馬ちづりの言葉ではない。元の人間の竹馬ちづりとしての想いだった。
親にも学校にも、近所にも迫害され、どこにも居場所がなかった彼女に唯一、優しくしてくれた普通に接してくれた存在。
孤独で寂しく悲しい思いの日々だった彼女に唯一の希望、心の支えになった温かき一筋の光だった。
他のものはいらない、彼だけが欲しい。
他の者は紛いものの鏡の中のものでいい、鏡像の偽物でいい。
だけど、この子だけは、この人だけは、彼だけは、大好きな彼だけは鏡に映る鏡像なんかじゃなくて本物の彼がいい!
彼の事が好きだ! 彼だけは傍にいて欲しい!!
そう欲して願ったのは鏡像の鬼ではなく、一人の少女の竹馬ちづりの魂だ。
「迷惑。おれ他に好きなヤツいるから」
そして、その想いは届かない。
彼が彼女と普通に接していたのは、《主人公》として片鱗を捉えて覚醒しないかどうか、危険視していたからだ。
また竹馬ちづりにとっては優しく感じられたものも何も特別の事ではなく、人間誰もが普通に持つ、困っている人には手を貸すという善心でしかない。
竹馬ちづりはそんな世界がある事を知らずに生きて、育って、恋をして、死んでいったのだ。
返ってきた言葉に彼女の表情は強張って、一筋の涙が零れ落ちた。
それは鏡像の存在における反射反応か、それとも竹馬ちづりの魂の残滓によって生じたものかは誰にも分からない。
奔流する様々な感情を呑み込んでは一筋の涙が焼けた大地に溶けて蒸発するのと同時に彼女は口を開く。
「…………知ってる」
「―――だいっきらい!!!」
真っ直ぐと彼へと見据えてハッキリと告げる。
背徳絶無はそれを受け止めて、振り返って彼は帰路へと歩みを進める。
その後ろ姿を見て、彼女は自覚する。彼にとって本当に自分はどうでもいい存在だったのだと。
そのことに再び熱いものが目元にじんわりとしたが、彼女はそれを振り払うように振り返って彼とは反対の両親の方へと走っていく。
自分のことを愛してくれる優しい両親の元へと。
こうして、竹馬家の人間は全て成り代わったのだ。
果たして、子供を虐待して愛のない現実の親子関係と、
こうやって、子供と共に愛し合っている鏡写しの親子関係は、
どちらが正しいのか。
この
× × ×
僕が彼女と向き合って話を聞いていた時に抱いたことは『あ、この子自分の手を一切汚さないで両親を排除したいんだろうな』ということだった。
顔を下げて、涙ながらに訴えてくるあの姿は、背後の雨崎君や切利ちゃん達には見えずに同じ目線で正面切っていた僕だけがそれを気づいた。
目が邪悪に笑いながら命令していた『私は不幸の中に可哀想な人間だから助けろ』『アイツら人間じゃないから無様に殺してよ』『私に一切迷惑をかけないでお前たちの責任でね』と。そういう人を使うことが当たり前の、『女の顔』をしていた。どうしようもないくらい人間らしい顔していた。
過去が過去だけにの過去を持つ僕にとっては基本的に子供の味方でありたいと思っている僕であり、昔から印象から的外れな身勝手な暴言を吐かれ続けられた僕だからこそ、助けないという選択肢はなく、また彼女に対しては真摯に向き合い、彼女の心の闇を助けてあげたいと思っていたのだが……。
―――……果たして僕はこの子を真の意味で助ける。救うべく言葉はなんなのか、あの時の僕には全く分からなかった。
諭す言葉も、叱る言葉も、説く言葉も、導く言葉も、心を打つ言葉も。
どんな言葉が彼女の心に響かせて、届けられたのだろうか。
結局の所、言葉見つからず、切利ちゃんにキレられて何も言い返すことができずに終わった。
故に、結果として彼女は鏡鬼に成り代わり、ぜっくんをまた人を殺す道を止められなかった。
二人の子供に対して僕は何もしてやれなかった。
そのことが心に重くのしかかる。
やっぱり教育っていうのは難しい。
年を重ねて、自分が育てる側、見る側になって初めてその難しさを思い知らされた。
………そして、やっぱり僕の歴代の担任達やらが人間として未熟だということをハッキリと理解させられた。こんな難しいもんを簡単に『自分が正しいから、絶対に言うこと聞けクソガキ』って根拠のない自信で吐いているのはやっぱアイツら精神的におかしいわ。
と、重くなった精神をいつものように他者を卑下にすることで回復させる。
他者を見下すなんて行為は人間として下劣といえる所業であることは重々承知ではあるが、まあ、アイツらが下劣人格者であるのは事実なので、特に問題ないだろう。
ゴミにゴミって言うのは普通だし。
まあ、くだらないことは話は切り捨てて。
ぜっくんから電話で彼女達については知った時。
彼からわざわざ僕へと相談があったから《主人公》絡みだということは察していたが、案の定だった。
兄貴分としては彼にこの手のことからいい加減に関わらないでほしいのだが、彼にしろ、僕にしろ、あの彼の宗教家にしろ、残念ながらそういう星の下で生まれ、そういう運命の中で生きるしかないようだった。
全く、あの自称魔女め、僕の可愛い弟分に真っ当な道を踏み外すきっかけをよくも作ってくれやがったな。
「あの子が無事でよかった」
虚像の親と仲良くしている彼女の姿を雨崎君はそう呟いた。
これがどれだけ狂気の形なのか理解できずに。
そして僕はこれがどれだけ幸せな光景なのか。
僕はこう思う。
―――過去が清算できて羨ましい、と。
仲睦まじい家族光景を眺めながら、歪で不気味な偽物同士の家族ごっこ、それでも幸せな世界に僕は憧れた。
× × ×
―――磯灘在市宍原にて電子機器における心臓麻痺か、変死が次々による事件発見。
六月後半頃からPCやスマホの動画視聴中に次々に心臓麻痺によって死亡したという事件が多発。一部で電子機器による熱暴走によって微弱な電気が乱れたことによる発生した電気ショックか、と話されている。7月1日でも事件が多発しており、その被害はこれまでの合計でおよそ百人を超えると聞く。
事件が起きているのが宍原町のみと限定されているため、宍原町の電子機器に異常が発生しているのか、あるいは今年の夏の熱による影響か未だ不明だが、宍原町の人間はスマホやPCの取り扱いには注意されたし。
(7月2日のとあるネットニュースより一部抜粋)
◆設定についてとあと裏話
・鏡鬼編について
本作は元々『凶鬼』という話で構成していたんですが、プロット段階で血鬼編と話の展開があまり変わらない感じだったので、没案となりました。その後何かいいアイディアないかな? と考えていたある日の朝、鏡を見たら目ヤニめちゃ汚い状態だったので「あ、そうだ、鏡の鬼の話にしよっと。人間側は自分の見た目に自信のある感じの」と考えで竹馬花南のキャラが出来上がりました。
だけど竹馬花南の性格的にどういう風に絡ませていいのか分からずに考えていたの時に地雷系云々のHな音源作品を聞いて『あ、ホストに貢ぐ系の、本当はこっちが黒幕だったことにしよ』とここで竹馬花南を地雷系のキャラと鏡鬼の分身の術のアイディアを思いついては、『ホストが仕鬼祇使い、だけど自分で闘うのは危険が伴うからコイツを使って影武者ムーブで自分は安全地帯にいるンゴ』的な展開のプロットを作ろうとして断念。
アイディアは良かったんですが、私が書ける腕がありませんでした……。肝心の事件で雨崎達への絡ませ方が思いつきませんでした。
で、部屋の掃除している時に昔のプロットを見つけて『背徳絶無』のキャラとその物語を見つけて、「夜名津いるし、ここらへんで一度入れとくか』的な簡単なノリで背徳絶無参戦。それに伴っての『竹馬ちづり』のキャラを構成。ついでに『竹馬隆二』が出来上がり、大まかなプロットが完成。
その後、本来なら追加キャラで仲間入りするはずの『叶切利』も『夜名津我一』との関係性のために、雨崎千寿に情報と榎設楽の精神面を一先ずケアをして、退場という形の本作となりました。
え? 叶切利退場したのかってですって?
はいそうです。アイツいれば戦闘は殆ど苦戦が無くなるので。だって『悪特効』持ちなんで、実質『鬼特効』みたいなもんです。
× × ×
あと、話すことと言えば、この√が夜名津我一生存√っていうのは前回のあとがきにありましたが、所謂一回目の√、あるいは正規√ではこの鏡鬼√は通らないことになっているんですよね。本当は血鬼√で改心した古郡吉成が仲間入りして、なんか知らんがコイツが情報持っていたから『じゃあ次の敵倒しに行くか』、『あ、ついでに追加メンバーで叶切利来たわ、イケるで』的な感じで雨崎千寿、榎設楽、古郡吉成、叶切利の四名で次の鬼退治、という展開が通常なんです。
だから鏡鬼√通らない。通れたのは夜名津我一が背徳絶無と知り合いだったから。本来なら雨崎千寿と鏡鬼戦の戦いは絶対にない。その理由は別の奴が鏡鬼を倒すので。
え? 『鏡鬼』は元は『凶鬼』から話の展開云々だから、上で言っていることと今言っているは矛盾してないかですって?
してません。なぜなら上は作っている最中の『過程での話』で今話しているのは出来上がった今だから『物語の補完した部分の話』ですので。
他に色々と設定とかありますが、その辺はおいおい物語場とかでも話していくと思うんでお楽しみに。
◆キャラ
・背徳絶無
本作の本筋に全く関係ない人物。
善悪の区別のつかないどこにでいr小学生。アンチ主人公。
元々このキャラがメインの『物語の世界を構成する主人公』を殺すためのアンチ主人公という話を書こうとしてプロットして断念したキャラ。
コレがプロットとチビチビと執筆していたんですが、色々と事情があって書くのを後回しに。いつか書こうとあっためていたんですがこの一年か二年後くらいに『処刑少女』が始まって(私はアニメから入ったんですが)面白かったので『あ、これには勝てないわ』ともう書く事はないんだろうなって感じです。
それでも供養として今回登場させることができてうれしかったです。
・夜名津我一
本作の狂言回し。
自他共に認める変人にして、パワポケ厨。
本作においては霊能力関連は全く無知識の人間ですが、コイツだけは別作品(作者だけが大雑把に設定している過去関連の部分)からそのまま引き継いで、実は過去に不可思議な事件に巻き込まれ系のキャラ。
彼は所謂《主人公》ではなく、背徳絶無の《アンチ主人公》似て異なる性質を秘めた《荒らし》である(ここネタバレ)。
《荒らし》については物語上のどこかのタイミングで話す機会があると思われますので期待しないでください。
では、次回第参章にて。
次回で前半戦は終了。