前半戦もこの章まで。
本当なら七月から壱章、弐章、参章まで間を置かずに全部続けて出したかったんですが、弐章と参章の執筆、修正とかが時間がかかってしまい、連続参章分ノンストップ出来なかったことが少しだけ悔しいです。
八月中に弐章、参章分を投稿できてうれしく、ようやく肩の荷が下りました。
駄文で、見たことのある設定や展開ばかりの話ですが、この第参章の前半戦までお付き合いしていただけると嬉しいです。
では、ご覧ください
VS時鬼 其の壱
とある病院の薄暗い闇を纏った一室。霊安室から運ばれてきたのは一人の高校生の死体。先日、この地区のとある高校で不慮な事故によって大量に死亡したモノの一つ。
葬儀屋と呼ばれる一般とは異なる裏の仕事の掃除屋から裏取引をして高値で手に入れたものだ。
その死体に囲むようにして五人ほどの男女、老人二人、三十代の男が一人、高校生と中学生ほどの少女の二人。まるで少年が死によって遺族の集まりのような構図だが、誰一人その者に対して偲ぶように悲しんだ顔をしていない。
一人、猫耳のフードの少女だけが死体の存在と周囲の空気に顰めた顔を浮かべている。
彼女の名は宮永有音。彼女だけがその表情と雰囲気からしてこの中のメンバーにおいて別枠の存在だと想像できる。仲間ではなく、外部の人間ということを。
「じゃあ、そろそろやるかね。嬢ちゃん達、こっち来な」
呼んだのは老婆こと榎法知だった。
彼女は少女二人に自分の方へと近づくようにいい、死体を囲うようにして三人は集まる。
「《喚道・意他来》」
「鬼術〝歴視回覧〟」
「鬼術〝偽体〟」
榎法知のあの世から死者の魂を呼び出しては、宮永有音によってとある記憶を引き出しては、最後の言乍りりによって抜き出された記憶に合わせて死体の肉体を擬態させる。
三人の術が合わさり、死亡したはずの少年の鼓動が高鳴って、脈が流れていき、息を吹き返し、そして目を覚ます。
「目覚めたか、廻志岐死屍、ま―――」
名前を全て言い終わる前にリーダーである老人木戸諦政、真っ二つに斬って捨てられた。
血飛沫が飛び散り、肉体が清潔感のある白い床へと崩れ落ちる。
「………ひぃ、ち、血、血ぃ~~~!!」
そのグロテスクな光景に宮永有音だけが怯えた悲鳴を上げ、腰を抜かして転げ落ちる。
それでも恐怖心に突き動かされてすぐにこの場の逃げ去りたいと思い、手を必死で暴れさせてもがくけど、白い床に滑ってしまい上手く先へと進むことができない。
慌てふためく姿に男は「黙れ」と低い圧のある声で命令して、彼女はひぃ、と怯えながらも慌てて両手で口を塞いで無理矢理黙る。
宮永有音以外の人間は自分達のリーダー斬り殺されたのに対して取り乱した様子はなく、ただ目を覚ました少年の方へと意識を向けている。
彼は向けられている視線など気にせずに己が握る、木戸諦政を切り落とした刃へと視線を流しながらも静かに問う。
「……何者だ、貴様ら。我を地獄から呼び出しおって」
幾度の修羅場を超えつつも何処となく上級階級育ちを感じさせる貫禄のある低い声には殺気が籠っていた。
息を吹き返したのはその肉体に持ち主ではなく、その持ち主の遠き祖先の魂。
擬態によって少年の身体とは異なり、二十代から三十代ほどの鍛え上げられた武道者と呼べる身体つきに変り果てていた。
ぶ厚くゴツゴツとした、岩も片手で握り潰せそうな手には木戸諦政を斬り殺した四季を思わせる色合いの刀が滴る血を飲むかのような錯覚させるように怪しく光を照らしている。
彼にとって、この場にいる全員切り落とすこと自体容易い。唯一対抗できるのは老婆の榎家当主である榎法知だけだろう。
「復活して早々、その肉体で形成まで至るのか、流石だと言っておこう」
と、そこまで考えて彼女にだけ注意していると背後から目覚めたばかりに聞いた、そして何より先ほど斬り殺したはずの精悍な顔立ちの老体、木戸諦政の姿があった。
式神か、と地面と転がっていたはずの斬り殺した死体が灰の如く崩れていくのを見て、それを理解する。
自分の姿を模した偽物。血まで出現させるとは術者としては相当な実力者であることがわかる。
納得した、通りで斬り殺してこびりついた血が愛刀の影打ちかつ自身の肉体に何も反応しないわけだ。本物の血ではないからだ。
蘇ったばかりであることと別の肉体へと憑依されたことで、勘がかなり鈍っているのだと理解させられる。
全盛期ならば式神を見抜き、本体を斬り殺していた所だ。
「……」
「待て。貴殿と敵対する意思はない。廻志岐死屍丸」
四季を思わせる鋼が強く光輝き、異能のチカラを発動させ、この場にいる全員を斬り殺そうと悍ましき殺気を放つ廻志岐死屍丸に対して、冷静に停止するように言う木戸諦政。
殺意を少しだけ抑え、いつでも斬り殺せる姿勢を崩さないまま「ではなんだ?」と問う。
一先ず話を聞いてくれることに内心で安堵しながら愉しそうな口調で語ってくる。
「その身体で《万象》まで引き出せるとは流石」
「下手に出てすり寄ってくるのはいらん。さっさと本題を申せ」
おだててくるのを無視してさっさと要件を話せと命令する。その態度に愉しそうに笑いながら木戸諦政は答える。
「その腕を見込んで悪鬼羅刹の王、地獄の鬼の王を斬り殺してみたくはないか?」
「……話せ、現代の術者よ」
この日、最凶の血統者と最恐の鬼、死鬼の仕鬼祇使いが誕生した。
儀式・鬼獄呪魔は終結へと加速する。
× × ×
「(……一体、何が起きたの?)」
目の前に起きている現実に榎設楽は息を呑んでいた。
夜名津我一が体外へと放出する霊力。その質と量を。
昨日まで霊力の流れ自体殆ど感じ取ることすらできなかったのに、今日にいたっては完全に霊力を使う者のそれだった。それだけじゃない。霊力の量も昨日よりも遥かに上がっており、また何故か巫力も霊力と共に混じったように発揮している。
たった一日でこれほどまでの変化があったことに驚かずにいられない。そしておそらくは、と榎設楽はどうしてそうなったのか察する。
霊力を収めた夜名津我一は一度と胸元に手を当てて何か確認するようにしてから、榎設楽へといつもの死んだような視線を向けて訊ねる。
「どうですか? 自分でもようやくできたって感じですけど」
「ええ、見事なものよ。昨日までのが嘘みたい。……昨夜、一体何があったのかしら?」
目を細めてそう問いただしてみると夜名津はその視線を受け止めては諦めたように視線を逸らしては返す。
「別に。何度も言いますけど、僕は切利ちゃんに一方的にボロ負けしました」
「で、りっちゃんはあんな風になってしましたって。とてもじゃないけど納得できないわよ」
昨夜の事だ。榎設楽の従姉妹であり、夜名津我一の旧友である叶切利は何らかの方法によって暴走し、そして夜名津我一との一騎討ちとの形を取ることとなった。
そして、その結果は榎設楽達と合流した際にピンピンしている夜名津我一と発狂した状態の叶切利、二人の姿があった。
何かあったのか、と問いただしても夜名津我一の返事は知らない、分からないとだけ返ってくる。夜名津我一は自分が斬られたというが、そんな外傷は一切見られない肉体では嘘としか思えない。だが、そんな一目見れば分かるような嘘を付くとも思えない。
何かあったのは明白。
夜名津我一は手を首の後ろへと回しては軽く揉んで頭に血を巡らせ、考え込んでから口を開く。
「おそらく第三者がいます。僕の傷を癒して、切利ちゃんを恐怖のどん底に落とした何かが。……信じないなら別にそれでいいです」
自分で言っていてもおかしいと思ったのか、滑稽な話だと斬りやめる。なら、と雨崎千寿が思いついたことをそのまま口にして問う。
「俺達以外にお前を助けるヤツに心当たりは?」
「僕を殺してやりたい、ってヤツなら何人も知っているけど、助けたいっていう聖人はこの世にいないと思う」
「……お前なんでそんな恨まれているの?」
「……人間性かな?」
夜名津我一の返答に頭を抱える雨崎千寿。二人のやり取りを無視して顎のホクロに指を叩いて考え込む榎設楽は呟く。
「その何者か、第三者の存在についての問題は、なぜりっちゃんをあんな目に遭わせて、君の傷を癒したのか? りっちゃんが脅威なのは分かるけど、あなたの傷を癒した理由が分からないのよね」
「……信じるんですか?」
まさか榎設楽が自分の話を信じて真面目に思案していたことに驚く夜名津我一。それに対して仕方なし、といった調子で答える。
「信用したのはあなたの霊力の方よ」
夜名津我一へと送られる何かを見通したような視線。それは夜名津我一自身というよりも秘めたチカラ、霊力に対するものだと言葉通りに受け取る。
「死の危機による霊力の上昇。死に近ければ死に近いほど霊力は一時的に上がることは以前にも少し話したわね? 君がやられたっていうなら、昨日まで全くできなかった霊力が今日一日でこんなにも仕上がっている理由としてはそれくらいしか考えられないもの」
そう、瀕死による霊力の上昇。言ってみれば火事場の馬鹿力や窮鼠猫を嚙むといった、死の窮地に陥ったことで魂が活性化して三魂力である霊力、呪力、巫力が急激に上昇するのだ。
魂が器である肉体を生き永えらせようとするために。
その話を聞き、眉を寄せて真剣な顔をするは二人は各々と口にする。
「死後の念?」
「シャーマンキング理論かな?」
雨崎千寿と夜名津我一はそれぞれ知っている漫画知識で零すと、それに頭痛を覚えたように不肖ながらも頷いて、細かい部分を指摘する。
「それらとの違いはあくまでも一時的なもの。一種のゾーン状態が続いているようなもの。切れれば元に戻ってしまうのよ」
「ああ、パワプロの一時的に練習効率が上がるヤツか」
「……なんで現代ってこんなにもゲームと漫画で例えが簡単にできるようになってしまったのかしら?」
伝わりやすい分にはいいが、本業の立場としてはあっさりと納得されるのもそれはそれで何か嫌だ、という複雑な乙女心ならぬ霊道師心だった。
気を取り直して、考えられることは、と。
「あなたを生かした理由としてはこの儀式に必要だったから。現時点で私達が知る限り三人が落ちたわ。敵側からしたら一人でも多く参加者を募っているはず」
「虞魂を集めて、鬼の王を召還するってやつですね」
榎設楽は話を戻して、鏡鬼から得た情報から自身の推測を述べる。それに雨崎千寿も言葉を繋いで補足され、ええ、と頷く。
「ええ、最初はバトルロワイヤル方式の闘いって話だったけど、実際コレはバトルロワイヤルというよりも協力型の採取ゲームって感じ。虞魂を集める事で鬼の王を現世に召喚するということがこの儀式の狙い」
元々の話では仕鬼祇同士のバトルロワイヤル式で鬼の王となり、仕鬼祇使いは願いを叶えると言う話だった。だが、先日の鏡鬼の話ではそれは真っ赤な嘘の誤情報。本当の狙いは虞魂を集めるための仕鬼祇による協力型の採取ゲームだったのだ。
儀式としては全く違う代物という話を聞いて、夜名津我一は、
「え、あ、そうなんですか。……全く、一体誰がそんな誤解されるような、バトルロワイヤル式の願いが叶えるなんてこと言ったんでしょうね」
「お前だよ」
「あなたでしょ」
ガッツリと自身が一番最初に鬼獄呪魔の解説をしたことをちゃんと覚えた上で煽った発言をする夜名津我一は二人から突っ込まれる。
「(事実はよしとして、ってことは我鬼のヤツが嘘ついていたことになるな。ま、アイツの性格からして独り占めしたいからそんなことを言ったんだったんだろうな。功労者として鬼の王に褒められたいのか、アイツ。いや、鬼の王にはなりたいのは本当っぽいんだよな)」
鬼獄呪魔のルールを聞いた我鬼のことについて考える。日常の中で会話を通していく中で、互いに理解を深めていった彼ら。儀式について偽ったことはともかく、鬼の王になりたいという野心自体は本物であろうと夜名津我一は察する。
我鬼については後で直接聞いてみることにしようと考えていると、雨崎千寿の方から榎設楽へと向けて訊ねる。
「ところで虞魂ってなんですか?」
「君は知らなかったのかい?」
「話すタイミングなかったんだよ。いいだろ、お前も一緒に聞けるんだから」
話の雰囲気からしててっきり知っているとばかり思っていた夜名津が言うと、うっさいなと調子であしらいながら「先輩」と二人は視線を榎設楽に集める。それに頷いて説明してくれる。
「虞魂とは人が恐怖によって生まれた魂エネルギーを呪力として変換できなかったもの。妖怪達にとって餌であり、強さの源。そしてそれを得ることで存在を強まる。この手の話だと口裂け女の例えが分かりやすいわね」
口裂け女の話を聞いて、二人もピンと来て頷く。
所謂、最初は噂話から始まり、存在を獲得してしまった怪異の存在。最初こそ、口だけの噂話程度で始まりながら、多くの人間がその話を知り、恐怖を集めたことで実際の怪異現象と成ってしまったそれ。
「虞魂とは人間の恐怖そのもの。普通の人間は霊感を持っていないから恐怖による負の感情を完全に呪力に変換、つまりは自分の中で処理できずに外へと漏れ出してしまうの。霊感を持つ人間、私や君のような霊能力者からは虞魂が生まれない。霊力をコントロールできるから恐怖を呪力に変換できるから外へと漏れることはない」
虞魂について説明を受け、二人は真剣な表情で同じことを思う。
「「(……ぬら孫の畏かな)」」
オタク二人は自分達の知っている内容で完璧に理解することにした。そこはかとなくそれを感じ取った榎設楽はムッとした表情を浮かべられ、慌てて雨崎千寿が話題を逸らす。
「その虞魂を集めて鬼の王を召還するのが敵の目的って鏡鬼は言ってた」
「鬼の王とは? 閻魔様……は違うか。ああ、鬼灯様か」
「鬼灯の冷徹やめろ。あの人もどっちかというと王じゃないだろう」
すぐに話を自分の知っている漫画アニメで当て嵌めようとするのに突っ込む。夜名津我一としては自分が知っている知識で情報を照らし合わせようとする意識なのだが、いかせん知識自体が偏ってしまっている。彼は基本的に周囲のことを考えて、口に出さないで内心で処理することが一番いいんだろう。
夜名津我一の事は放っておいて、榎設楽へと「先輩は何か知っていますか」と雨崎千寿は訊ねると思い当たることがあるのか、さっきまでとは打って変わり、緊迫した空気を放っては神妙な調子で口を開く。
「聞いたことだけはある。地獄に存在する鬼の王。全ての鬼の頂点にして、妖の頭領の一体。つまり妖の中でも最上位の個体。過去に現世へと顕現した際にその凶悪さを以って、山一つ、島一つ滅ぼすことは朝飯前。大量虐殺こそその朝飯の残虐性の持ち主。まず私やあなた達程度で立ち向かった所で傷一つ処か接近することはできない。妖気に充てられただけで恐怖と瘴気によってその身を滅ぼすこと間違いないわ。最低でもそれを堪えられるだけ実力者、私の祖母クラスの霊道師が束にならなければ勝てるかどうかって話よ」
「ようは滅茶苦茶強いヤツを地上に出すって話なんだろうけど、何が目的なんですかね? 世界征服?」
「…………」
緊迫した空気で、どれだけ強大な存在なのか重々しく語ってくれた榎設楽に対して、夜名津我一は雑にまとめて結論の方へと話を求めた。榎設楽は一瞬だけ不満そうな表情を浮かべるが、実際その通りなので押し黙って話を進めることにした。
「でも鬼の王は地獄の条約によって地獄から現世に現れることはできない」
「地獄の条約?」
「簡単に言えば地獄にいる最上位の妖達は現世に出現することはできない。出現すれば地獄の瘴気で生物は死んでしまうし、その反対に現世には地獄ほど妖達が住み着くことができる程瘴気に満ちていない。霊力が満ちていない。……例えるなら酸素濃度が低く過ぎて呼吸ができないようなもの」
「……虞魂を集めることで酸素濃度を上げようとしている? 鬼の王が召喚しても弊害のないようにしている、と」
雨崎千寿が例え話からそのまま解釈した考えを口にすると、榎設楽は眉をひそめて考えるように答える。
「この地の人達の虞魂を集めた程とても鬼の王が顕現できるとはとても思えないし、それにそれなら龍脈の方の乱れも気になる」
「龍脈の乱れ? そういえば前もそんなこと言ってましたね」
この事件が起きて、榎設楽と関わりを持った時の事を思い出す。「確か、アレはこの土地は龍脈が存在して霊的な存在にとって都合がいいとか」と雨崎千寿は頭を捻りながら当時の内容を言うと深く頷かれた。
「この宍原町、より正確には磯灘在市は龍脈の土地として霊能力者の界隈では結構有名な土地なの。《龍穴》と呼ばれる霊力を発生、放出するスポットが存在するわ。その一つが私の家《榎家》が護るこの神社の裏山に存在する《江峰ヶ岳》。龍穴が存在し、それを守護するのが私達の一族の御役目」
……この間、鬼が現れたって皆で鬼を退治しに行ったじゃない。と榎設楽は目を細めて口元近くにあるホクロを叩きながら告げてくる。それは先日、雨崎千寿と叶切利が修行していた際に鬼が現れ、全員で鬼退治をした時のこと。
それに対して「はい」と雨崎千寿は返事をして、夜名津我一も頷く。
当時のことを思い出し、彼女の中でずっと気にかかっていた違和感について語ってくる。
「本来なら鬼が出現するなんてあり得ないことなのよ。《江峰ヶ岳》は妖達を《龍穴》へと近づけさせないよう、防人専用の特殊な防護結界が幾つも張ってあるの。だからあの山に妖が出現することはまずない」
「だけど鬼は現れた」
続いたのは夜名津我一だった。ええ、と肯定し頷く。
「確認もしたわ。結界自体破られた形跡はなかった。あの鬼達が現れたのは結界内であること、そして出現は本来なら結界内には自然発生しない妖達の抜け道である《邪穴》が開かれていた。雨崎君、君と一緒に行った公園で色鬼達が突然現れたわね。あの時の穴のことよ」
あの時の穴は自然発生だけど、とその説明を聞き、雨崎千寿は自分が天鬼と退治した場所で、榎設楽と色鬼、そして大青鬼と戦った時のことだ。確かに、あの時は突如として変な穴が出現してその中から這い出るように鬼達が現れた。そしてその穴と同等のものをその一件の鬼退治で見た。
叶切利さんからも「鬼を退治できても、穴を閉じれるのは霊能力者であるらっちゃんだけ」との話で彼女達と合流し、全員で行くことになったのだ。
話を聞いた夜名津我一が気になった部分へと突っ込みを入れてくる。
「自然発生しないっていうことは、誰かが開けたってことですか? そのジャケットだか、蛇口だか」
「《邪穴》よ。邪なる存在が通る穴」
「(………なんかエロイな)」
「我一君の言う通り、おそらく誰かが結界内から無理矢理開いたのね」
「でも結界が破られた痕跡がなかったって話じゃなかったですか? 矛盾してません?」
自分で訊いといて揚げ足を取ったようなこと言う夜名津我一に対して頷く榎設楽。
「ええ、破られた痕跡はなく、だけど《邪穴》を開かれた。確かに言い方としては矛盾しているわね。……この場合は結界を破ったというよりも抜け道を作られたって言った方がいいかしら?」
「密室の部屋でどこでもドア使った完全犯罪みたいな感じですか?」
「……あなた、何でもアニメや漫画で例えるわけね」
その方が分かりやすいと思って、と零す夜名津我一。
実際問題今回の話は例え方としては一番分かりやすかった。
本来なら結界内という侵入不可能の密室空間にて、侵入を許した抜け穴の存在のどこでもドアこと《邪穴》が設置させられたことによって侵入を許した。これによって結界側を傷つけずに侵入を許したと考えれば例え方としては分かりやすいだろう。
例えに関しては目に瞑って、榎設楽は説明を続ける。
「結界内に侵入して《邪穴》作った術者がいる。狙いはおそらく龍脈の龍穴。……放った理由は鬼達に龍穴を探させるため。……でもおそらくこれはない。別の理由があるのか」
「別の理由?」
自分で言っておいて即座に否定する榎設楽の言葉に雨崎千寿が反応する。
「幾つもの結界が張ってあるって話したじゃない? だけど《邪穴》が発見できたのは一つだけ。理由はあそこの部分の結界だけでしか抜け道を作ることができなかった。結界内で抜け道を作れるほどの実力者が無闇に龍穴探しに鬼を放つわけないわ」
「え? どうしてですか」
意味が分からなかった雨崎千寿が聞き返したのに答えたのは榎設楽ではなく、隣の夜名津我一だった。
「言ってみれば一番弱い部分狙ったけど、そんな部分に《龍穴》なんてお宝スポット置くわけないって考えるでしょ、普通。まあ、逆に言えば一番強い所の結界に《龍穴》があるって教えているけどね」
そう《江峰ヶ岳》には《龍穴》が存在し、それを護る為に幾つもの結界が張ってある。本来なら妖自体は入るどころか近づくことすらできない、人間も一般公開されている山頂通路しか通ることはない。人払いの結界によって人道外れた獣道を行くことはないのだ。
けれど、前回の一件にて何者かの手によって《邪穴》を開かれた。つまりは結界を通過しては術を掛けたこととなる。仕掛けた場所は結界の強度が一番弱い部分である。結界内に術を発動できる程の実力者ならば張ってある結界の強度さを理解し、同時に《龍穴》はそれ以上の結界が張られていることに場所にあることは容易く理解できるはずだとの話。
結界内に抜け道を作れるほどの実力者が無闇矢鱈に鬼を出現させて《龍穴》を探せたりしないだろう。第一、あの穴から現れるのは使役した識神類ではなく契約外の鬼。つまり野良の類だ。
野良は術者の指示を聞かない。呼び出すことはできるが使役するには調伏しなければならない。
それならば狙いとしては別にあると考えていいだろう。
それを聞いて納得する雨崎千寿と、夜名津我一の言い方に癪に障ったような少し不機嫌そうな顔をする榎設楽。だが、言っていること自体は何も間違えではない。
「……大丈夫よ、龍穴には何も問題はなかったわ。……我一君、嘗めて貰って困るわ。素人だから逆説的に特定できるっていうけど、それができないようにするから幾つものに張られた防人専用の強力な防護結界なのよ」
「? でしょうね」
「~~~~!!」
「おい!」
簡単に結界を特定できるという夜名津我一に対して霊道師として、防人の榎家の者の誇りとして、そう自信満々に結界に対しての強く豪語する榎設楽に対して、あっさりと流すようにどうでも良さそうに答えてくる。
そのいけ好かない態度に腹を立てる榎設楽と、注意の突っ込みを入れる雨崎千寿。
張り合いのないというか、肩透かしを食らったというか、これでは自分が馬鹿みたいではないかと頭痛を覚える榎設楽はコイツのペースで話していては意味がないと思い、煮えくり返りそうな怒りを無理矢理治めて、話を戻す。
「《抜け道》を作ったことで考えられることは二つ。鬼を放つことで龍穴付近の霊力を充てさせて、強化させた鬼で私達、あるいは私、防人の榎家に対して攻撃を仕掛けようとしたか。あるいは《抜け道》自体を作れるかどうかテストしたか」
「テスト、ですか?」
榎設楽の言葉に雨崎千寿が再度訊ね返す。夜名津我一もこれはよく分からなかったのか、口を挟まずに次の彼女の言葉を静かに待つ。
「結界がどれ程のものか調べたってことね。自分の実力ではどれほど届いて、何が足らないのか、どうしたら埋まるのか。それを調べるためのもの」
「つまり、この間のはお試しで、第二波があって、それが本番ってことですか?」
彼女の説明にかいつまんだ理解で結論として雨崎千寿の言葉に彼女は口元のホクロを叩きながら難しい顔をしながら答える。
「おそらくは……でも……ごめんなさい。自分で言っておいてなんだけど、これも可能性の話で少し不自然なのよね」
「? どういうことですか?」
「《抜け道》だから。《龍穴》を狙っているならテスト自体結界を破壊する方を選ぶでしょう。でもどこでもドアの設置ってことは結界自体素通りできるってことだから、話は別になってくる」
そうなのだ。結界を調べたなら《抜け道》を作るのではなく、単純に結界を破壊する方に話が転がってくるのだ。そうした方がより結界について詳しく考察できるから。
わざわざ《抜け道》を作って結界の性質を調べることはなどない。どちらかというと《抜け道》を作るというのは結界の性質を知っていることになる。普通に順序が逆だ。
『知っているからこそできる』のであって、『やってみてはできた』は偶然の産物でしかない。確かにそのような事態が起こることはあり得る話だが、この場合は問題が別。
結界の中で抜け道を作れるかどうかわからないから試したとなどと好奇心旺盛な子供のようなことで起こすことはないだろう。どう考えたって別の目的があるはずと、榎設楽と夜名津我一は考える。
「……まあ結界自体を調べたってことはあり得そうな話ですけど、それがどう繋がってくるのか分かりませんね。精々、『できるかどうかを試した』っていうのが僕の考えですけど」
右手を首後ろへ回して軽く揉んで血液を脳へと回す夜名津我一は思考するが、結局いい案が思いつかなかったようで諦めて投げやりな調子で自分の結論を出す。
隣でやる気無くなった友人の様子に呆れつつ、だが、自分は基本聞いてばかりなので頭が付いていけていないことに強く注意できない雨崎千寿。自分も何か思い付いて話題に、考察する二人の頭脳に付いていきたいと思って考えようと、元々の話が何だったかと思い返してみて、ふと疑問に思う。
「そういえば、龍脈が乱れているって話でしたけど、具体的にどんな感じなんですか?」
龍穴と結界の話ばかりに注目が行っていたが、元々の話、龍脈が乱れているという話だったことを思い出した。これがどういう意味なのかと話題を降ってみると榎設楽は答える。
「ええ、だから話は最初に戻すけど、チマチマと虞魂を集めるよりか、龍脈を使って鬼の王を召還させた方が何倍も効率がいいもの。だけど肝心の龍脈の流れは土地として中心に溜めるのではなく、その逆の全体的に散っていく形になっているの。そのせいか町のあちらこちらでは鬼を中心にした妖がでたり、この儀式が行われていたりと謎が多いのよ」
「??? まとめると……龍穴は狙われている。龍脈は乱れている。町では変な儀式が起こっている。妖怪達も騒いでるってことですか?」
「まとめるっていうか、今言ったことと分かっていることをそのまんま言っただけだな」
頭にはてなマークを浮かべてまとめようとして、単純に復唱しただけなのを雨崎千寿に突っ込まれる。夜名津我一はそうだね、と自分で言っていても思ったのか素直に認める。
今の所、話としては推測と憶測、提示されている情報はあるが上手く整合性が取れない。点と点が繋がりそうで微妙に繋がらないといった歯がゆい感じに三人は頭を悩ませる。
まだ何かあるわ、と二人へと視線を投げかける。二人もそれを受け取り、改めて彼女へと注目する。
「この鬼獄呪魔はまだ何か秘密がある。狙いは鬼の王の顕現ということは分かったけど、龍脈ではなく、わざわざこんな儀式を起こす必要性はそれが何か。敵のことをまだ何も分かっていない現状、気を引き締めていかないと」
結局のところ敵側について分かっていない現状を改めて言うと、雨崎千寿は深く頷き、夜名津我一もいう。
「あ、じゃあ、我鬼今の内殺しておきますか? 多分、御札燃やせば簡単に死にますよ」
「「……………………」」
なんで今の話の流れそういう展開になる、と二人は思いっきり眉を顰める。そんな二人を無視しながら取り出した御札をひらひらさせて、死んだ目を腐らせながら愚痴を零し始める。
「正直、アイツいらないんですよね。僕としてはポケモンとかと一緒で、鬼同士で戦わせると思ったけど、がっつり僕自身が肉弾戦するなら別に。雨崎君とかあと、誰だっけ? 名前忘れたけどあのヤンキーの人みたいに武器や肉体強化されるみたいな感じならともかく、アイツ鬼獄呪魔の嘘ついたし、何よりも僕のパワポケ11の裏サクセスのデータ消してやがった」
先ほどの鬼獄呪魔のルールを偽ったことに対して腹立てているのか、あっさりと切り捨てようとする。そうじゃなくてもこれまでの行いが相当ストレスだったのだろう。ゲームのデータを消したことは重罪だ。
「それも考えたけど、それは今はやめておきましょう。君の霊感が活性しているのは我鬼との契約があるからかもしれないし。もしいなくなった場合君は途端に霊力を失う可能性もある。そしたらこちらとしても戦力ダウンになりかねない」
「……最初は無理に戦いに引きずり込まないって言ってませんでした?」
わざと捻くれたことを言ってくるのに、隣で雨崎千寿がおい、と注意の意味で突っ込まれるが、榎設楽は顎のホクロを叩いては言ってくる。
「……それもそうね、よくよく考えたらあなた霊能力の才能がないもの。霊力を扱えるようになれば多少戦力とも思ったけど、ここ数日でようやくできた。それも裏技を使って。これなら安全なところにいてくれた方が助かるわ」
「……そうですね。……そうしますか?」
榎設楽のあっさりと頷いたことに、夜名津も驚きつつも納得して一瞬迷ったような間を開けては即座に返す。
その口調は確認するような調子のようにも、あるいは何か試しているような調子にも見える。彼の性格からして一番有り得そうなのが本当にどちらでもいいということだろう。そんな感じに榎設楽に訊ねるのだ。
二人の視線が合う。互いに相手の腹を探り当てるようなヒリ付いたようなものがぶつかり合う。
結局、最初に肩を竦めて目を逸らしたのは榎設楽の方だった。
「冗談よ、今、君を脱落させないのにはちゃんと理由がある。鬼獄呪魔の機能が失った際のリスク」
「リスク?」
「だから鬼の王が自力で出てくるって話」
「? ……どういうこと?」
何を分かり切ったことを突っ込む雨崎千寿だったがピンとこずに首を傾げる夜名津我一の様子におかしと思い、そこで気づく。この男はそもそも前回の鏡鬼との最後の会話の内容を知らないのだ。
「ああ、そういえばお前いなかったな。鏡鬼の話だとこの儀式を取りやめても、鬼の王が自力で出てくるって話なんだ」
その事を察した雨崎千寿が助け舟として簡潔に説明する。がそのことにさらに夜名津我一は頭にはてなマークを増やす。
それはそうだろう。先ほどまでこの儀式は鬼の王が顕現するためのものという話をしていたのに、なんで儀式を止めたら止めたで鬼の王が出てくると言われれば何かの頓智かと疑いたくなる。
「そこらへんの詳細は不明だけど、まあ、儀式の条件として中途半端な状態で召喚されてしまう、と私は睨んでいるわ。言ってみればこの儀式自体を、部屋の出入口と例えると、部屋にいる鬼に対して外に閉めていた鍵の一つを開けた状態。儀式が進むにつれて、さらに鍵が開いてくようなもの。中途半端な状態で終えてしまったら中の鬼が暴れて無理矢理出てくるようなもの」
「なるほど」
「だから私達はこの儀式の解体自体、ただ止めるのではなく、控えている鬼の王が顕現することを完璧に止めなくてはならないってこと」
「はい」
深く頷いて返答する雨崎千寿と、難易度上がったな、面倒くさそうだけど面白そうだ、と創作に役立ちそうだと内心で思う夜名津我一。
榎設楽は夜名津我一へと視線を移しては、真剣な表情で告げる。
「我一君、君には霊力を感じ取ったことで次の課題に移ってもらうわ。霊術の基礎である《三道技》の修行に入ってもらうわ」
「さんどうぎ? ……よく分からないけど分かりました」
先ほども告げた、現在最弱戦力である夜名津我一の修行へと移ることとなった。榎設楽は道場の端に置いてあるホワイトボードを持ってきては書き込んでいく。
「霊術には三つの型が存在するわ。それが《力道》、《破道》、《成道》の三つ」
力道、破道、成道、と三つを書き込んでいき、それぞれの説明を入れていく。
「《力道》は簡単にいって霊力の操作における肉体強化。霊能力者は身体能力をこれでカバーするのよ。大幅な身体能力の向上に霊力を使った武術としての技、足運びといったものが属するのがコレ」
力道とはその名の通り、力のこと。霊力による身体能力の強化することを説明される。強化系のことか、と頭ハンターハンターのオタク共は察して頷く。
「次に《破道》、これは霊力を放つ技。《霊破衝》と呼ばれる技術。私が何度か見せたわよね?」
「え? いえ全然見たことないですけど」
見覚えあるわよね、と当然の如く語ってくる榎設楽にキョトンとした調子でバッサリと否定する。その一言に眉を顰めて冷たく言い放つ。
「何を言っているの、何度か戦いの中で見せたことがあったはずよ」
「………いえ、僕基本的に一対一でやっていることしかありませんけど?」
「あ、先輩。俺は何度か見たことありますけど、コイツとは共闘ってやったことなくないですか?」
「………そうだったわね。雨崎君とは戦いの中で何度も共闘していたわね。ここ数日で霊力を感じる修行の際にみせた覚えがあったけど気のせいだったわ」
過去の闘いにおいて、榎設楽は雨崎千寿と組むことはあっても、夜名津我一と共に戦ったことは一度もなかった。《力道》、《破道》、《成道》を一通り見たのは雨崎千寿であったことを失念していた。霊力を感じる修行で一度くらい見せたような気分でいたがそんなことなかった。
気を取り直して、霊力を放出する型だと説明してはハンターハンターの放出系と納得し、次の《成道》について説明される。
「《成道》は霊力を用いて形取る技。剣に檄に鎖といった具合に霊力で模る能力」
強化系と放出系と具現化系と、頭ハンター以下略。
簡単に三道技について説明を済ませては力道に大きく丸を書いてはマジックペンを置く。
「一先ず、基礎の中の基礎、肉体に霊力を流動と固定、発達させる『力道』を取得してもらうわ。今のあなたなら瀕死によって跳ね上がった霊力のおかげで普通に修行するよりも何倍も効率がいいもの。言ってみれば筋トレで筋肉痛やサプリメントのおかげで筋肉が付きやすい状態のようなもの。そのために先生に来てもらうことにするわね」
「「先生?」」
◆設定
・虞魂・・・人間が持つ感情において恐怖といった恐れ感情によって発生する霊力。霊能力者は霊感によって、これを霊力あるいは呪力へと変化できるが、一般人はこれを変換できずに《虞魂》が産まれる。
これは怪異、妖が好物であり、虞魂を喰らったものほど強くなる。
また多くの人間の恐怖心と想像によって、生まれる怪異も存在する。口裂け女や八尺様といったものがコレにあたる。