鬼獄呪魔と仕鬼祇使い(ばか)ども   作:三概井那多

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VS時鬼 其の肆

 おじいちゃんとの戯れが終わった僕は真っ直ぐ帰宅する。一緒に飯はどうだ? と誘われたが正直、殴り合った相手と終わった後で飯を喰うという無神経さは持ち合わせていないので丁重に断った。

 

 そう言えば、帰ってきた楓先輩から……(楓だっけ? 違ったような気がするけど。まあ、別に本人を目の前にして呼んでいるわけじゃないし、いっか)この事件から降りるように言われた。創作の件は好きにしていいから、もうこれ以上儀式に関わらないでくれ、との話。

 

 テンションがだいぶダダ下がりでなんかあったようだけど、教えて貰えなかったから、深堀しても意味ないと考えてこれ以上突っ込むことはしなかった。

 

 それにしても力道、霊力の操作による身体能力の強化、ね。

 

 漫画とかでならよく見るが、所謂チカラエネルギーをコントロールして身体能力の強化の技。実際の試したところ僕は苦手だ。というか、大半のことは不器用な僕には苦手科目でしかない。

 

 やるなら一人で地道にコツコツ、泣きながら自分の駄目さ加減に向き合ってやっていくしか道はないのだろう。

 

 はぁ~、どうして僕は普通の人よりこんなにダメな奴なんだろう。本当に社会で生きていく資格ってやつがないんだろうな。もう死んじゃおうかな。

 

「帰ってハンターハンターでも読み返そう」

 

 続きはいつになったら読めるんだろうな。

 

 そう、この時の僕は知らなかったんだ。2022年に富樫さんがtwitterを始めて、原稿の進捗報告を始め、世界を震わせたことを。そして掲載された話で旅団の過去が明らかになることを。

 

 そんな未来が待ち兼ねていることを知らない僕は富樫が働かないことに愚痴を零していると、進んでいる道中に一人の女の子が何かを待つように壁に寄りかかっているのを見かけて、独り言が聞こえたら恥ずかしいと思って口を閉じて、この場を去ろうとした。

 

 ……あ、ちなみに今日は原付ではなくバスできた。今朝僕の愛車の原付こと『セキゲン』は調子が悪く修理に出してきた。元々姉が使っていた中古(『姉から譲り受けたから中古』ではなく、『姉の時から中古』)だから結構古いせいもあって最近は調子がおかしい。そろそろ寿命なのかもな。

 

 田舎特有の一時間置きのくらいのペースバス運行のため時間をどう潰そうかと考える。

 

「今日はコイツで終わっとくか」

 

 何かが聞こえた。スマホゲーでもしてんのかな、と思い、独り言を聞こえるのは恥ずかしいことを知っている僕は何も聞こえなかった体でさっさとこの場を後にしようとすると、おい、とやけに可愛らしい、若干アニメ声感のある声に呼び止められた。おそらく今の少女だろう。僕は真っ直ぐ何も聞こえなかった振りして急ぐ。

 

「おい!」

「…………」

「お、おい!! ちょ、ちょっと、ちょっと待って! ちょっと待ってくださいお兄さん!!」

 

 ……あ、ガチで呼ばれているっぽいな。てっきりスマホゲーに夢中になって声を上げている痛い子だとばかり。

 

 呼び止められていることに気づいて、振り返る。アレ? 何か落としたのかな? 今日何も持ってきた覚えないんだけど。それとも我鬼の御札かな? もういらないけど。……あ、ポイ捨てはダメか、ちゃんとゴミ箱に捨てないと。

 

 などと適当なことを思いながら彼女の方へと振り返る。

 

「〝時鬼受肉〟」

 

 そのワード唱えるとともに禍々しい霊力……呪力か。呪力が彼女の身を変えていく。額から生える黄色い角と、漢数字で刻まれたような瞳をした少女。

 

 不味い、敵か!

 

 と反射的に動こうとするがもう既に遅かった。変身したその瞳が僕の瞳を捉える。

 

「〝歴視回覧〟」

 

 鬼のような強き眼光からはまるで蛇に睨まれた蛙のように僕の体が強張り、硬直してしまう。そしてまるでその瞳に全てを見透かされたような恐怖心が植え付けられ、脳内から乱暴にドリルで突っ込んで掘り起こされる感覚に襲われる。

 

「!? ~~~~~~!!!」

 

 声にならない悲鳴。

 

 まるで無理矢理脳みそを引きずり出しては記憶を全て奪われるかのような感覚。そんな衝撃と共に僕の脳内には様々な記憶を強制的に思い出される。

 

 切利さんとの決別。血鬼となんか知らんヤンキー崩れとの戦い、唯一の平穏とも呼べる日常の高校生活、最低最悪の暗黒時代の中学時代、黒歴史の多い小学生時代。

 

 特に思い出したくもなく、忘れてしまいたい、だけど頭と心に深く刻まれた、暗黒時代の中学時代と黒歴史時代の小学生時代が入念に掘り起こされる。まるで、そこに大きなお宝があるかのように。

 

 そして、強制的に嫌な記憶を思い出された結果か、普段の穏やかで心優しき僕の中にドス黒いものを……、あ、冗談抜きでヤバい。

 

 最初は目玉をえぐり取られ、頭蓋骨が割れるような激しい頭痛と嫌な記憶のフラッシュバックで、わりと頻繁に味わって、いつも見ている悪夢と一緒だと思えば、初めの衝撃は何であれ、わりとイケると冷静に対処できそうと高をくくろうと思った、……ダメだ、これマジで、なんというか、―――殺したくなる。

 

 僕の中で殺意や悪意といったドス黒い感情が染め上げようとしてくる。

 

 秘めた暴力性っていうやつか、恨み辛み憎しみ怒り復讐心破壊衝動殺人欲反骨精神といった凶悪性の感情が沸き起こって、何かに当たらなければやっていけない。人間として理性が引き切れそうになる。

 

 真っ黒な感情に支配されそうになった時、―――あの日の事を思い出した。

 

 夜名津我一が『僕』に成ってしまった、あの日の記憶。

 

 もっとも忘れてしまいたいと思った記憶であり、絶対に忘れてはいけない戒めの記憶。

 

 湧き上がる殺意は、諦観で無理矢理抑えつけた。

 

「(当たりだったし)……はい、今日のノ―――!?」

「―――おい。何をした?」

「ひぃ!! え、え、え!?」

 

 クソガキの首を捕まえて、壁へと激突させて動きを封じた。突然の奇襲、反撃に驚いたのか、少女は目を白黒とさせて怯えた状態になる。

 

 やめろ、そんな顔をするな、怯えた弱々しい顔を、おどおどとした困惑したものを、何よりその耳につく今にも泣きそうな、おかしな声をやめろ!

 

 ―――殺したくなるだろうが!!

 

 今にでも血管が浮き上がって爪が生えてきそうな勢い、握りつぶさんとばかりの衝動をギリギリで抑えている右手を、目の前の少女の首元を話せる程度に拘束して会話ができるほどの右手を、………握力の加減が間違えそうになる。

 

 荒い息を零しては、絞め殺してしまいたいという殺意を必死に抑えながら、怯える彼女へともう一度問う。

 

「はぁ~………―――答えろ、何をした?」

「な、な、な、なんで? なんで? なんでい、いいいい、意識が、き、記憶が!!」

「………何度も、言わせるな、…………答えろ」

「は、はいぃぃぃぃいいいいい!!」

 

 心底冷えきったような静かなる怒声を放つと、彼女は完全に屈服し、ガタガタと口を震わせて洗いざらい何をしたのか、話し出す。

 

「え、えーと、あ、あなたの記憶を読み取っただけですぅ! 他は特に何もしていませんし!! 何もできません」

「記憶を読み取っただけ?」

 

 つまりはその作用で僕自身の昔の記憶を思い出したってことか。ま、そこらへんは味わった身からして普段の冷静な僕ならアタリ自体は付けられていたかもしれないが、………ああ、駄目だ、マジでコイツを滅茶苦茶に殺してやりたい。

 

 今すぐコイツ顔面目掛けて力強くぶん殴ってやりたい。よろめいた所で胴体へと足蹴にしたい。倒れた所で顔面を踏み潰してやりたい。サッカーボールを蹴るように頭を蹴り飛ばしたい。

 

 ………ああ、駄目だ駄目だ。そんなことしちゃあ、駄目だ。

 

 ―――だって、そんなことしたら簡単に終わってしまう。それじゃあ愉しめない。

 

 こんな雑魚じゃあ駄目だ。正直こんな女の子をそんな風にいたぶる程度じゃあ駄目だ、こんな弱い娘にそんなことしたらすぐに終わる。それじゃあ全然愉しくないし、面白くない。この感情の捌け口にはこんな程度の器じゃあ、壊したりない

 

 できるなら、―――もっと壊れにくい奴らが欲しい。

 

 勿論性別は男。僕と同い年くらいか、あるいは年上。格闘技も球技でもヤンキーでも何でもいい、そういうある程度鍛えているヤツとかそういう奴らがいい。自分が強いと勇んでいて調子付いている奴らがいい。

 

 いつもそういう奴らを徹底的に叩き壊していた頃が愉しかったから。

 

「っ!」

 

 ―――……飲み込まれるな!

 

 暴力性に引かれて、黒歴史時代の感覚に戻りつつある。ああ、クソ、記憶を思い出したせいか。子供特有の万能感と、少し知恵が回ることで無敵だと勘違いしていたクソガキだった頃。

 

 そのせいで取り返しのつかない、致命的な罪を犯してしまった、あの頃。

 

 収まらない荒い息。トラウマで殺意を無理矢理抑えつけて、どうにかなってしまいそうな気を何とか冷静さで保とうとする。

 

「……目的はなんだ? 僕の記憶を読み取ったところで何の意味がある。別に視られて恥ずかしい記憶とか、困るような記憶という記憶はないけど。なんだ、アプリとかのアカウントの乗っ取りとかそういうのが目的か?」

 

 僕の記憶自体、僕自身として思い出したくないトラウマでしかないが、別に知られたところで特に問題ない。面白い過去でもないし。他人が見ても得するようなものはない。

 

 なら、なんだ。何が目的で僕の記憶をこのクソガキは視たんだ?

 

「だ、誰でもよかったんです! 」

 

 ―――あ、殺そう。

 

 その言葉が気に入らなかったというよりも、発した声自体が何だか気に入らない、という理由の方が強かった。

 

 握られた首を絞め落そうと握力が強まる。カアッ、と潰れたヒヨコのような悲鳴を上げて、僕の手から逃れようと必死に暴れるが、締まり方が早かったのか、抵抗はすぐに無くなる。

 

 ……やっぱ簡単に壊れるな、コレ。おもちゃとして全然魅力がない。まだ、切利ちゃんをボコボコにした方が愉しい。……そうだ、コレ終わったら、切利ちゃんの所行くか。あの女殺しにかかってきたし、負けたままなのも癪だ。あの女昔から一回勝っただけ調子付いてうざくなるから、大人になった今だからこそちゃんと上下関係分からせないとな。

 

 正直性格自体昔のまんまだったから無視してよかったけど、あの能力自体興味がある。血を操る能力か。具体的なチカラは知らないけど、アレなら昔と違って、ちゃんと相手になってくれて楽しめそうだ。

 

 ああ、そうだ、同じ能力を持つ雨崎君とも戯びたいな。別に彼の事を殺してやりたいほど憎んでないし、好きとか嫌いとかそういうのは関係なく、うん、特に意味なくボコボコにしたい。だって天気を操る能力の人間をブチのめしたらさぞかし愉しそうだ。

 

 ―――ああ、違う違う! 違うだろ! こんなことしちゃあ駄目だ!

 

 汚染しつつある殺意の波動に気づいて、我に返る。彼女を〆ていた手を緩めて彼女を解放すると、意識自体は完全に落ちてなかったようで、ゴホゴホと噎せ返して気道を確保して涙目で息を整える。

 

「ああ、ゴメン。悪気はなかったんだ。殺意が強かっただけで」

「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「悪いけどあんまり喋らないでくれる? 君の声癪に障るから」

「~~~~~~~~っ!!!」

 

 変な声の少女はまるで恐怖のあまり何度も何度も謝罪の言葉を繰り返すように頭を下げてくる。

 

 彼女の特徴的な声、普段ならそういうものだと聞き流していたが、どうもまだ影響を受けている僕は普段よりも言葉選びが雑になってしまう。いや、言葉を選んでいないというべきか。

 

 その一言がだいぶショックを受けたような顔をする彼女を無視して話を続けた。

 

「質問だけに答えろ。なんで他人の記憶なんかが必要なんだ? 」

「私は、時鬼のチカラを高めているだけ!」

 

 トキのチカラを高めているだけ? トキ? 鳥? いや、違うな。……『時鬼』か。

 

 彼女の肉体の変化と受けた異能のチカラはそれだけで、彼女が仕鬼祇使いだという証拠の裏付けであり、敵であることは間違えないだろう。だが。彼女の目的は僕自身というよりもただの経験値稼ぎ。……つまりどういうことか、というと。

 

 もう破れかぶれだ、全てをぶちまけてやる、と裏切りの三下ブームで彼女は、その特徴的な声を大にして叫ぶ。

 

「私はただ、時鬼のチカラを覚醒させて、昔の出来事をやり直したいだけなんです! こんな、鬼獄呪魔とか何だかの儀式とか全てどうでもいいんです! どうか許してください!!」

「…………」

 

 彼女の言葉を聞いた瞬間、僕の心を支配しようとしていた暴力性は消え去り、僕自身は一瞬の間だけまるで時間が止まったかのように意識が飛ぶ。彼女の言葉が頭の中で何度か反芻する。

 

 やがて、落ち着きを取り戻した僕は彼女へと確認のための質問を問う。

 

「時鬼って鬼のことか? 『時』って時間そのものじゃなくて、時の鬼と書いての『時鬼』って名前」

「はい」

「過去に戻れたり、歴史改変ができるような能力?」

「い、今はそんな力はありません。精々、人の記憶を視るくらいしか。でも、虞魂を得ることで時間を戻せるくらいにはチカラが開花します!!」

「………なあ、君、名前は?」

「……へ?」

「名前を言え、ぶっ殺すぞ」

「ひぃぃいい!! あ、有音! 宮永有音です!!」

 

 特徴的な声の彼女の名は宮永有音というらしい。僕は彼女の名前を頭の中で何度か唱えて、人の名前を忘れやすい僕でも絶対に忘れないように深く深く刻みつけて、一度で覚える。

 

 僕は彼女の手を取る。勢いの良さに反射で後ろへと反らして逃げようとする彼女を捕まえた手を絶対に逃がさないように強くして引っ張ってゼロ距離まで近づく。

 

 目と目が遭い、その古い方の漢数字時計の瞳は再び僕の昔を思い出されることはなく、ただ困惑という文字が見えるものとなる。

 

 そんな彼女に対して僕はハッキリと正直な思いを告げる。

 

「宮永ちゃん。僕と手を組もう。君と時鬼の能力の覚醒に僕も手を貸そう」

「……へえ?」

 

 まさかの言葉に当然の如く疑問の声を上げる彼女。先ほどまで一方的に攻撃的な詰問で追い詰めて来た相手から、「仲間になろう!」なんて誘い、……まあ、逆の立場なら僕は絶対に信頼しないね。

 

 だけど、こればっかしは僕の嘘偽りなしの本心。夜名津我一が全て……そう、全てだ! 存在の全てを賭けてでも彼女の鬼のチカラを覚醒させてやる。

 

 訝しく不安そうにこちらへと見てくる彼女に対して、真摯にどういう目的があって仲間になるのかその理由を口にする。

 

「条件はただ一つ。僕のやり直したい過去がある。それを叶えてくれ」

 

 そう告げると、彼女は少し間を開けてからようやく納得した。過去改変のメリットと聞けばそのチカラの絶大さにあやかりたいという雑魚な手下キャラには当たり前の理屈だと気づいたんだろう。

 

 ああ、そうだ、僕はどうしてもやり直したい過去がある。そのためならなんだってやろう! 何なら雨崎君と楓先輩をこれから殺してきて、その勢いで儀式を完成させて鬼の王の座に着かせてだってやる。……って流石にそれは違う。雨崎君は友達だし、榎先輩は別に参加者じゃない。殺すって考え方がまだ影響が残っているのか? 違う、そうではないだろう、僕。落ち着いてちゃんと考えろ。殺すのは雨崎君の相棒の天鬼だけ。

 

 まあ、鬼の王についてはともかく、少なくとも彼女の鬼のチカラを覚醒させて過去改変の能力を得ることは絶対の条件。コレに関しては変人の夜名津我一が一世一代の存在全てを賭けて至らせてやろう。

 

 困惑したままの彼女。何が狙いなのか、と疑う瞳を向けてくる。

 

 そりゃあそうだ。能力のおこぼれにあやかりたいというのに、それが具体的にどんな風にしてもらいたいかはまだ詳細は不明なのだ。不審がるのは当然。

 

 パートナーとなる彼女に秘密するなんてフェア精神のないことはせずに、僕はすぐさまハッキリと明かすことにした。

 

 自身の願いであるそれを口にするのだ。

 

 

「僕がこの世に産まれたことをなかったことにしてくれ」

 

 

「…………は!?」

 

 予想外だと言わんばかりの素っ頓狂な声を上げて驚く彼女、宮永有音ちゃん。

 

 こうして僕は宮永有音と手を組むことにしました。

 

 ほら、死ぬのは痛くて怖いから、生まれたことをなかったことにした方が死ぬよりも安全だよね。

 

 

× × ×

 

 

 氷鬼、運鬼、刃鬼、葉鬼はこの日、死鬼によって落ちた。

 残る仕鬼祇の鬼は、天鬼、我鬼、病鬼、虚鬼、時鬼、死鬼。

 明日、この中から死鬼の手によって二鬼が落ちる。

 ネタバレをしよう。その一鬼は時鬼だ。

 となると、後の一鬼は皆、予想はできただろうか?

 

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