鬼獄呪魔と仕鬼祇使い(ばか)ども   作:三概井那多

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VS死鬼 其の壱

「でさ、具体的にどうすれば君の鬼が過去に戻って、僕が生まれたことをなかったことにしてくれる、過去改変をしてくれるんだい?」

「あ、本気、だったんだ……」

 

 宮永有音ちゃんと共闘を持ちかけた翌日。僕が住む清涼町と雨崎君や楓先輩が住んでいる宍原町を繋ぐ橋の下に来ていた。

 

 この手のやり取りでよくある橋の端下で待つ約束して、どっち側の端で待つのかまで約束まで忘れてすれ違ったりするが、その辺はちゃんと取り決めて宍原町側にした。彼女がそっち住みらしい。

 

 最悪、僕の事を恐れて、バックられる可能性もあったが、彼女は約束通り来てくれた。僕の事を信頼してくれたらしい。いや~、昨日のあの後夏とはいえ夕方近くの時間帯で女の子一人をするわけにいかず、彼女はちゃんと家まで送り届けたかいがあった。きっとアレで僕への好感度が上がったんだろうな。伊達にパワポケやってないからね。僕。

 

 うん、もし来なかった場合でも押さえた家から無理矢理にでも引っ張ってくればいいだけだし。

 

 本音はさておき。

 

「あ、そうだ、昨日はイジメてごめんね。悪気はなかったんだけど。殺意が湧き出てきたから」

「えーと、……まあアタシのせいですし、別に……」

 

 僕が昨日、殺意満々でやらかしたことに対して謝罪しておく。一応、あの後も少しだけ続いたが、家で無心で包装袋、あの段ボールについているプチプチをしていたらなんか消えた。久しぶりにやったわアレ。

 

 謝罪すると宮永有音ちゃんは少し気まずそうに僕へと目を泳がせつつ、僕の謝罪を受け入れる。

 

「やっぱ君の能力の弊害だったんだ」

「~~~!! ごめんなさいごめんなさい!!」

「いや、まあ、別にいいけど。……そういえば、僕の知り合いに切利ちゃんっていう人がいるんだけど、この間、僕を殺しにきたんだけど、もしかして君のせいだったりする?」

「ひぃいい!! ご、ごめんなさい!! 悪気はなかったんです! 本当なんです!! 許してください!! もうしませんから!!」

「…………いや、それが過去に戻れる可能性に必要ならしてもらうことになるんだけど」

 

 どうも彼女は僕に怯えてしまっている。基本的に嫌われることが多かった僕だけど、こういう風に怯えられることはあまりなかった。

 

 どうしたもんか、と。

 

 普段の僕ならこの手のことは『ああ、この人とは仲良くなれないな』で人間関係は諦めたものだが、今回ばかりはそうも言っていられない。彼女には僕の願いを唯一叶えて貰える相手だ。

 

 関係は良好なものを築き上げたい。

 

 仕方ない、ここはパワポケで鍛え上げた女の子との接し方を駆使して彼女の好感度を上げていこう。嘗めるなよ、パワポケ信者の恋愛テクを!

 

「そういえば君、学校は?」

「…………………」

 

 とりあえずジャブとして世界で一番どうでもいい話題を振ってみる。実は今日は平日なので普通に学校がある。場所によっては期末テストかその後くらい。僕らの学校は本来なら今週テストだったけど、なんか知らんヤンキーがゾンビ系のテロリストごっこしたせいで日程がだいぶズレた。

 

 場所によってはテストの採点休みか? いや、あれって月火水のテストの次の木金ぐらいだし、それに中学って普通にテスト期間でも午後から授業やるよな? 僕らの時は普通に授業してたし。

 

 すると、彼女は先ほどまで謝罪とはまた違った、気まずそうな顔をする。

 

「………………行ってない」

「……そっか」

 

 なんで、って言葉が出かかったが彼女の表情を見て踏み込んでいけないものなんだな、と察して引く。パワポケならこの後の好感度上げてから彼女の闇を打ち明けていくパターンだから。僕詳しいから。そういうの分かっちゃうから。

 

 一瞬にして、僕に対しての怯えとは違う、嫌な緊張感が彼女の身体を硬直させる。その姿はまるで悪い事したことで怒られることに震えている子供の姿のそれだ。

 

 とりあえず話題を逸らしてこの空気でも変えようかと、何を話すべきかと考えていると、待っている間の重い沈黙に耐え切れなかったのか、震えた声で彼女は言ってくる。

 

「……あの、アタシの声、やっぱ変かな?」

 

・A『うん』

・B『そんなことないよ』

・C『どうしてそんなこと聞くんだい?』

 

 とパワポケ式脳内選択肢が僕の頭の中で浮かび上がる。Aは勿論ダメだが、パワポケのキャラによっては正解。地雷を踏むことでルートが進める可能性もある。Bは安定だが、基本的に面倒くさい女の『嘘は嫌よ』と言われるパターンで、話すパターンもあればここでは話さないで好感度上げて次のイベントで話す可能性がある。Cの質問を質問で返すことが案外正解。こっちの方がBよりも答えてくれる可能性がある。

 

 さて、パワポケで鍛えられた僕は同時にこれがゲームではなく、現実であることを自覚があるので、ここは隠し選択肢のDのパターンで言ってみよう。

 

「……昨日の僕の発言を気にしているなら、ゴメン。アレは、イライラしていたから。ほら、機嫌が悪い時モノに当たることってあるだろう。まあ、それでも怖がらせたんならんこっちが悪いよね。うん、酷いことを言って、ごめんなさい」

「え? あ、……いえ、アレはアタシのせいでもあるし……そんな、謝らなくても」

 

 とりあえずこちらの非を認めて男らしく素直に謝る、だ。僕の嫁である、桜空はコレがきっかけで知り合えることになったから。詳しくはパワポケ10の桜空ルートをプレイしよう! パワポケ屈指のトラウマを植え付けたヒロインの一人で、最初の嫁だ。

 

 まあ、桜空と違って笑うことなく、またおずおずと気まずそうに、まるで知らない場所で居場所を無くなってしまった猫のようになってしまった。猫耳フードの女の子だから確かに猫っぽい。

 

 彼女はその猫耳フードを深く被っては何かを思い出したように落ち込んだ暗い声で告げる。

 

「……からかわれるんだよ、この声」

 

『だろうね』ではないな。

『それで中学行ってないの?』でもないな。

 

 まず大前提として僕が彼女の声に対して傷つけたっていうのは、これは変えられない事実で消えない現実。さっきは謝罪して、僕としてその件はノータッチの有耶無耶に済ませたかったが、残念ながら彼女はその話題の方へと切ってしまった以上、僕はそれに向き合わなくてはならない。普段なら適当に相手する所だが、今回ばかし適当はなしだ。全力で彼女と関係を築く!

 

 おそらくこれが僕の最後の人間関係なのだろうから、…いや、こんな関係すらなかったことになるため、しないためのことだから。だから、真面目に本気で相手しよう。

 

「……あのさ、僕の記憶を覗いたんだと思うんだけど」

「ごめんなさい!!」

「じゃなくてさ、……少しどうでもいい話をしよっか」

 

 できるだけ優しい声色で彼女へと語りかける。

 

「恐らく君にとってはどうでもいい、今日昨日会ったばかりの変な年上から『よくある自分の経験からくる上から目線の説教話』ってヤツになるかもしれないけど、まあ、聞き流す程度、相打ち程度には聞いてくれ」

「………うん。どうぞ」

「まず確認として、君は僕の過去を視た。それは事実だね?」

「………うん。視た、アンタの過去は………」

「切利ちゃんってさっきも名前を出したけど、分かるかい?」

「うん、あの、面倒くさそうな女でいいんだよね。真面目委員長って、正義正義って言っているヤツ」

「そう、ソイツ。子供の頃、僕は彼女と毎日のように喧嘩していた」

「…………ああ、両方、視た。………正直、あの女が六割くらい悪いというか、自業自得だと思った(まあ、残り四割のアンタが邪悪過ぎて、帳消しできるかもしれないとも思った)」

「ああ、そこは気にしないであげてくれ。彼女も悪気はないんだ、正義感が強かったってだけで。何より僕の事が大っ嫌いだったってだけだと思うから」

「うん」

 

 彼女も切利ちゃんが、悪気が無いことが分かってくれたのか素直に頷いてくれる。伊達に記憶を盗み視てはいないのだろう。

 

「その昔、彼女は真面目な正義感のある委員長タイプで、学校一の模範生徒だったんだろうね。反対に僕は、学校一のいじめっ子だった。いや、そんなことないけど。彼女が学校一の模範生徒だから、それに釣り合うような表現しただけだ。僕はただのいじめっ子だ」

「え? いや……(そんなことないけど。むしろ逆だと………余計なこと言って怒られたくないから言わんとこ)うん、そっか」

「今の僕としては、昔のことは本気で悪いと思っているんだ。ただのクソガキが子供特有の万能感に酔いしれていたことで取り返しのつかない、やっちゃいけない失敗をして、ようやく現実を知って、身の程弁えた。まさに黒歴史だ。そんな過去があるからこそ、まあ、上手く行くように立ち回っているけど…………んまあ上手く行かないわけよ。その、僕の中学時代こと暗黒時代みて分かるだろ? 特にあのババアとか」

「…………ずっと喧嘩していた、あの?」

「そう、担任のクソババア。アレとは僕は一生、死んで生まれ変わっても分かり合えないと思った」

「アレはもう、なんかそういう、人間以外の別の生物だとしか。……ああいうモンスターってどこにでもいるんだね」

「ああ、やっぱそういう人と会ったことあるんだ」

「うん、ソイツなんだけどね。アタシの声のこと言って、ずっといじってくんの」

「…………その子って男?」

「女だよ。なんだよ、好きな娘にイジメていた系とでも思った? 違うし、大体そんなんでイジメてくる同い年の男子なんて男じゃなくて、ただのヤバいヤツだし」

「だろうね。よく分かる」

「……(だろうな、アンタの場合もっと悪質だし。なんだよ、『差別はいけない』を『だから老若男女平等に虐める』って発想を有言実行するって)」

「ま、話はどうでもいい話に戻すけど、……僕としてはあんなクソババアとでも仲良くやっていきたかった部分があるんだよ」

「え?」

「もちろん、最終的に諦めて、互いに憎しみ合って、嫌い合って、死ねばいいのに、殺してやりたいって恨み合うくらいの『仲良死』ってレベルまでの関係で終わってしまったけど。あの人の頭が終わっているとしか思えなかったけど」

「……………」

「いや、あのババアだけじゃない。中学まで同級生や、切利ちゃん。ついでにその他諸々奴ら相手に僕はまあ、仲良くできればいいな、って思っていた。平和ボケみたいな思考を持っていたわけだ。まあ、今でも持っている」

「…………………」

「でも、残念ながらそれは叶いっこなさそうだ。おそらく僕は本質的に人から嫌われる特性を持っているっぽい」

「いや、アンタが嫌われるのはアンタが悪いことしているからじゃあ。正直、四割はあっち側の理不尽で、六割がアンタ自身の問題って所があると思う」

「あ~~~、そうだけど……、それとはちょっと違うやつかな? 言ってみれば、間が悪いとか善意とかのつもりが相手側からしたら嫌がらせだったり、ちょっとした連れ違いみたいなの。それが僕の場合致命傷になってしまうことが多いってヤツ。例えば掃除をしていて、早く終わったから他の所の手伝いをしていたら、持ち場を離れたとかどこを手伝えばいいのか話をしていたら、雑談してサボっているとか思われたり。あるいは、サッカーやってて、ゴール前のディフェンスでシュートを防ごうとしたら反射角度が悪くて、オウンゴールになったとか。僕がいなかった方がキーパーで防げたのに、とか。他にも色々。つまりそういうの。わかる?」

「……………なるほど。それは……ある」

「所謂、善意とかこれまで僕が悪かった部分を反省して、行動で示すつもりだったはずが、そういった時に限って、失敗して余計マイナスがつくってこと。僕が言いたいことはそういう部分かな?」

「…………ふぅーん、まあ、思うこともないこともないけど、一応分かるから納得する」

「そうかい。まあ、僕としては切利ちゃんにそう言ってもらいたかった」

「…………」

「歳取って常識だとか人に対する思いやりってやつを覚えて、子供の頃にやったことは本当に後悔しているし、謝罪をしたい、と思っていた。けど、実際に伝えたらまあ、あのざまで、あんな目に遭って、それでも伝えても、通じなかった」

「……………なんだよ、それ」

「……なんだろうね」

「そう、じゃなくてさ! ………なんだよ、……アンタは。結局アンタは自分が悪くて反省している。そう言いたいのかよ! あんたは加害者だったから言えるんだよ、でもアタシは被害者なんだ!! 声が変でからかわれて、それで人と喋るの控えていたら根暗だって言われて、明るく振る舞おうと思って中学デューしたらウザいって。こっちは人の顔の様子を窺って空気読んでいるのに、あっちは好き放題言ってさ! 明らかにあっちが悪いじゃんかよ! アンタは成長して謝りたいってそりゃあ、世間から見たら更生した不良かもしれないけど、イジメられた側からしたら永遠の敵なんだよ。悪いけど、コレに関してはアンタ側じゃなくて、アタシはアンタが責めた側だよ。アイツらがアンタみたいに心を入れ替えて、アタシに謝りたいなんて平和ボケしたバカ丸出しことなんて絶対に有り得ない! 例えそうであってもアタシから見たら『謝ったから許せ』ってそれだけで暴力なんだよ!! 一緒にすんな」

「…………ああ、そんな平和ボケしたバカ丸出しの絶対にありえない結論は言いたいんじゃない」

 

 彼女から向けてくる感情に、心から叫びに僕は正面から受け止めて大きく頷いた。

 

 

「僕も別に許してもらいたかったじゃなかったんだ。ただ。『理解って』もらいたかったんだ。昔の事を反省していて、今はほんの少しだけ変わったことを。多少は人を慮ることができるようになったことを、『理解って』もらいたかった。だけどそうはならなかった」

 

「……残念ながら、君の言う通り僕の存在は彼女にとってただの暴力だったようだ。そんな事すら僕は理解ってなかった。……人は痛いほど共感できるけど、無痛覚なまでに理解し合えない」

 

 

 そういつもの持論で〆ると、彼女は顔を歪めては顔を落とした。体験した自身の身の上から反対意見で噛みついてきたが、僕が全てに諦めきったように告げると、理解はともかく、何かは共感したのか、彼女は頭の中で何かを考えているんだろう。

 

 やがて、吹っ切れたというよりももうどうでもいいと廃れ果てたようにして、細く荒んだような目をして馬鹿にするように言う。

 

「……ある意味、アンタって勘違いクソ女からはモテるってことだね。その女にしろ、あのクソババアにしろ、母親にしろ、姉にしろ、他の女達とかも」

「ああ、だから僕の周りはヒステリー起こすクソ女しかいなかったのか」

 

 皮肉を言われて本音で返す。そっか、僕は周りにロクな女がいないのは、ある意味その手の女からモテモテだったからか。うん、普通に嬉しくねえな。

 

「アンタさ、絶対Twitterとかやらない方がいいよ。ツイファミとかにちょっとした呟きで絡まれて炎上とか平気でしそう」

「ああ、社会でまともに何もできないヤツが、顔とかが見えないネット環境になったところで何も変わらずにロクなことにならないとは思っているから、やってない」

「や、やめてよ! アタシの悪口言うの……。泣きそうになるじゃん」

「あ、すいません」

 

 何やらネットで失敗した過去があるのか、クリティカルヒットしたように涙目で責められたので素直に謝った。

 

 強気だったり、弱きになったり、忙しい娘だ。

 

 その後も僕らしばらくクソどうでもいい話、要は愚痴。根暗同士の共感性というべきか、マイナス同士だから言える不平不満といったものを語り合った。

 

「いじめでさ、よく『イジメられる側にも問題がある』ってあるけど、アレこそイジメにあったことない、イジめるだけのバカの考えだよね。逆にイジメられたら分かるから平等にすべき、と過去の僕は有言実行って言葉を覚えたばかりだからやったんだけど」

「それこそ思考がゼロか一しかないバカなヤツの考えじゃん。…………それにアンタ、ちょっと前に自分で『殴られる側に問題がある』とかどうの言っていたんだけど」

「??? え、昨日そんなこと言ったっけ?」

「じゃなく、それよか少し前。アタシにじゃなくて、なんか我鬼って鬼と話している最中」

「アイツとの会話なんてイチイチ覚えてないけど……」

 

 我鬼との会話なんて、雨崎君や阿尾松君との会話並みに覚えていない。いや、だって基本どうでもいい話ばっかすんだもん。

 

 このバカ、どうしたもんか、と呆れかえったような顔をする彼女。正直、いつもの初対面の相手だと『じゃあいい』で話を流すのだが、彼女にとっては聞き捨てならない部分だったのか、記憶から捻りだしてその時の事を詳細に説明してくれる。

 

「あれ、この儀式で出会った最初の敵で、アンタが死に掛けた……血鬼。血を操ってアンタんとこの学校の皆を酷い目にさせた時。ボッコボコされる前の逃げている時になんか言っていたヤツ」

「????? ……ああ、もしかして……たぶん。『殴られるだけの正当な理由がある』とかどうとか?」

 

 ポンコツの頭から何とか記憶を絞り出した。……この子、僕の記憶視ているとはいえ、そんなどうでもいいような記憶まで憶えているのか。確かにそんなこと言ったような気がするけど、それって多分……。

 

「多分、意味合いが少し違う。『こっちが悪いことして怒られたならそれは正統な理由だけど、謂れのない事や必要以上の過剰なまでの攻撃に対して、我慢ならずに殴ってしまった』って意味。イジメっ子の場合は『こっちは一切何にも悪くない』って言う理論」

「??? だから一緒だろ。イジメっ子の方もアンタと色々と言い訳して同じこと言ってくるぞ」

「違うよ。少なくとも僕は暴力で訴えたこと自体は間違っていたと思うし、反省もしている。純粋な話、僕の中に存在する理性や道徳心みたいなものが反応したんだ。クウガって知っている? 仮面ライダークウガ。特撮の」

「………なんか、名前だけは知っている」

 

 クウガの名前を出した途端に、なぜそれが今出る? と不満かつ意味不明な顔をされるが、それを無視して僕は応える。

 

「僕は善悪の情緒教育っていうのはアレで学んだ。君も機会があれば一度見てみるといい。クソガキ時代はよく分かってなかったけど、今だからこそその意味が分かった」

 

 子供の頃、ヒーローに憧れていた。悪い奴を許せないとか、強いヤツを叩きのしめたい、といった子供らしくも同時に特撮ものの本当に教えたかった部分をよく分かっていなかった恥ずかしくも愚かだったあの頃。

 

 自分が強さと優しさのヒーローではなく、暴力と自分が愉しいだけの悪役側だと気づいていなかった。

 

「人間っていうのは人を傷つけることに対して凄く鈍感でそのくせ自分が傷つけられることに関しては凄く敏感だ。自分が傷つけられる側になった時に初めてその恐怖を覚えるし、……それに人が何かを傷つけると同時に自分の心を酷く傷つけている。そしてそれ自体に気付かないんだ。鈍感だから。そして、気が付いたら……暴力に慣れて、人を傷つけるのが当たり前な人間になってしまう」

「…………」

「その逆の人も、鈍感ではなく、過敏あるいは心優しい人は自分が傷つくことも誰かが傷つくことも、心の中で痛いと思えて、泣いてしまう。……それで反撃とかして誰かを傷つけても、心は晴れずにまた傷つく。言ってみれば、僕の中での境界線はそこだね。イジメっ子は鈍感で気づかずに暴力に慣れてしまった人。僕のようなアホは人を傷つけたことに対して、ちゃんと後悔や自責の念を持つ人。そんな感じ。分かるかい?」

「………………うん」

 

 彼女は体育座りの姿勢で丸くなったまま顔を隠して、何かを考える様にしてやがて小さく頷いた。

 

 しばらく彼女がそのまま元に戻るまで待つと数分もしない間に彼女はむくりと寝起きのように顔を上げる。腫れたように少し充血した瞳で告げてくる。

 

「…………なんか言えよ」

「じゃあ、そろそろ、君の鬼のチカラを強くする方法を教えてくれるかい? いつまでもどうでもいい雑談するのもアレだし」

 

 いい加減話を進めようかと提案すると何か言いたげな不満そうな目で睨んでくるが少し間を開けて、うん、と頷いてようやく鬼のチカラを強くする方法について語ってくる。

 

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