農家の子   作:マジックテープ財布

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8話

 村会といっても村全ての人間が集まることはない。旧市街といった立地的に参加できないといった人間も居たり、仕事が終わっていないといった人間も居たりと様々な理由で不参加者がちらほら居る。

 しかし俺の計画には『頭数』が必要なので、旧市街を中心にリヤカーを引いて回ることでバーバラさんなどの参加したいけどブルネン家の階段が辛いお年寄りを回収し、シンシアさんなどの事前に協力を持ち掛けていた数人と共にブルネン家に向けて歩いていた。

 

「悪いねぇ、ガイア。私達も出たいと思ってたんだけど、この階段は流石にね」

 

「良いんだよ、それよりちゃんと掴まっててよ。リヤカーだから結構揺れるよ」

 

 俺はそう言いながら階段を昇っていく。いくら左腕がたまに麻痺していようが、身体全体で引いているのでリヤカーは1段ごとに大きく振動しながらも危なげなく階段を上がっていく。

 すると、階段の半ば辺りで休んでいた古老を発見、ついでということで乗せていくことにした。感謝されるが、俺の中では古老も錬金術否定派だと勘定しているので『困ったときはお互い様ですよー』と多少棒読みながらも必死に牙を隠しながら階段を昇り切る。

 

「ガイア、なにをやっとるんだ!」

 

「なにって、村会するんでしょ? 仕事で忙しい人は無理強いできないけど、来たいけど身体的に無理って人を連れて来ただけだよ?」

 

「うむ、助かった。これからはガイアに旧市街の皆を集めてもらおうか」

 

 俺が大量の人間を運んできたのをモリッツさんとボオス兄さんが『なにやってんだ、こいつ』といった訝しげな視線を送ってくるが、古老が俺の行動を後押ししてくれる。

 

 ふふふ、精々何も知らずに村会を開くと良いさ。なにせ、俺が連れてきたのはバーバラさんやシンシアさんを含めて錬金術アイテムや外で採集した材料を納品した縁がある人。所謂、『こちら側』の人間がほとんどを占めている。

 仮にこれで『錬金術は悪しき技術!』って言うんだったら、俺はこの人達と一緒に『使いよう次第だ』と押し切るつもりだよ。会議は開催される前、参加者への根回しで決定されるってね。

 

 そして、俺の思惑も知らずにモリッツさんが開会の宣言をする。思えば、村会って初めて聞く気がする。今まで興味もなかったから行かなかったけど、何が話されるんだろうな。

 

 おっと、掲示板で配信の催促来てる。忘れてた。

 

「これより緊急の村会を開会する。皆、よく集まってくれた。進行は我が息子、ボオス・ブルネンが務める!」

 

 相変わらず仰々しく話すモリッツさんに促される形でボオス兄さんが前に出る。ほんと、あの人ああいういい方しないと死ぬ病気にでもなってるのかね。何度言っても聞こうともしないよ。

 モリッツさんの偉そうな言い方や、何かを覚悟したようにアンペルさんの隣に立っていた姉ちゃんを睨みつけるボオス兄さんと色々気になったことはあるのだが、その後の展開に俺はついつい声が出てしまった。

 

 ……だって、モリッツさんが進行役と言ったのにも関わらず、ボオス兄さんが一方的にブルネン家側の言い分を並び立てたんだもん。

 

「あのー」

 

「なんだ、ガイア。まだ説明は──」

 

「なんで進行役なのに意見言ってるんですか?」

 

 場が……凍った。え、まさかこれって俗にいう『なんかやっちゃいました案件』? すげぇ、俺初めてだよ。

 前世の村会や役所との会議では碌にメモも取らなかったり、決まったことを電話や封書で連絡するとかいう馬鹿さ加減だったのに、それ以下の会議ってあったんだ! 

 コメントでも『進行役が一方的に意見言うってマ?』とか、『議事録は誰が取るの!?』とか言ってて俺の意見が正解だって思わせてくれる。

 

 すると、ようやくボオス兄さんが口を開いてくれた。

 

「いや、進行役と親父に紹介されただろうが」

 

「いやいや、進行役って今回の村会の趣旨や伝えたり、意見を促したり、発言時間を守らせたりするのが主な仕事だと思ってるんですが。それなら、モリッツさんが進行役で良いじゃないですか」

 

「たしかにそうだな。ボオスさんが意見を言うならモリッツさんが進行すりゃ良いじゃないか」

 

「そうねー」

 

 俺が意見すると、後ろから俺の言い分に賛同する人達が声を上げる。うーむ、なんだか思わぬところで出鼻を挫いてしまった気がするけどモーマンタイってことにしておこう。

 その後も『会議ならば決まったことを書く人居ないんですか?』という質問に誰もが黙ってしまったので、村の先生であるシンシアさんに書記を頼んだ。

 これだから伝承とか決め事があんまり伝わってないんだよー! もっとちゃんとしろってー! 

 

「うほんっ! では、気を取り直して私。モリッツ・ブルネンが進行役を担わせてもらう。……で、まずは息子のボオス・ブルネンから今回のことについて問題を定義してもらう」

 

 こっちをチラチラ見ながらモリッツさんが進行してくれるけど、俺はそんな狂犬じゃないよ? ボオス兄さんもこっちをチラチラ見ながら魚の話とか、竜の話をするんじゃあない。

 安心してよ、さっきはちょっと会議のやり方がおざなりでおもらししてしまったけど……。まだ俺は力を溜めてるんだぜ? 

 

 そんなこんなでツラツラとボオス兄さんが問題点を挙げてくれるが、はっきり言って茶番も良いところだ。これならばアンペルさんやタオと綿密な話し合いは必要なかったかもな。コメントでも『くそ茶番』とか、『守護獣を討伐しようとした名士が居るらしい』って言ってるし。あー、もう(時系列が)滅茶苦茶だよ。

 

「~以上をもって私はここに、流れ者2人の島からの追放、並びに村における錬金術の使用禁止を提案する!」

 

「ボオス!」

 

「ライザリン・シュタウト! 異議や質問は挙手をするように!」

 

 姉ちゃんが叫ぶが、俺は彼女に注意をしてから綺麗に挙手をする。姉ちゃんには悪いけど、これは俺の喧嘩でもあるんだ。

 

「では、俺。ガイア・シュタウトからボオス氏にいくつか質問をさせていただきます!」

 

「なんだ、お前は流れ者の「対案者の意見も聞かないのは村会じゃない! ただの言い掛かり、私刑だ! 村会はそれを良しとするのでしょうか!」」

 

 俺が叫ぶと2人ともびくっと体を震わせ、その叫びに呼応して俺の発言を認めるように集団が野次を飛ばす。すっかりショーとなってしまっているが、俺はありがたくそれに乗らせてもらうことにしてバーバラさん達を連れてきたリヤカーの中からアンペルさんの弁護のためにタオが用意した色んな物を引っ張り出した。

 

「で、モリッツさん。ボオス氏への反論を言っても?」

 

「……好きにしろ」

 

「ガイア、なんでお前がここまで……」

 

 モリッツさんの許しをもらって壇上に上がる際にボオス兄さんがそんなことを言うのが聞こえたが、初めに噂を流したのはボオス兄さんだよ。

 もし、あの時に愚痴でも言ってくれたら俺はあんたを助けたよ。例え、お人好しと言われようとも年齢が近い友達なんだ。ちゃんと仲を取り持つよ。

 

 だけどそうはならなかった。ならなかったんだよ、ボオス兄さん。だから、俺はあんたを敵とみなす。終わったらまた、徐々に近づいて行けば良いさ。

 

「では、ボオス氏への異議や質問をさせていただきます」

 

 朗らかな笑顔を作り、掲示板で配信を開始した俺は軽いジャブとして魚の減少の時系列について語らせてもらった。

────────────────────

逆転村会 【ライザのアトリエ】スレより

6:名無し

 せやな、まずは時系列をはっきりしなきゃならん

 ガイアの情報や俺達の情報(ゲーム)的に最初に魚が減少したのは餌を撒く前だったはずやな

 

10:名無し

 慌てとるw慌てとるw

 

16:名無し

 まぁ、その前にアンペルさんが毒を撒いていたって言われたらそれまでだけどな

 

25:名無し

 >>16

 その時は証拠提示させれば良い。いくら権力や発言力が強かろうが、村を捨てる気概を持ったガイアがそれでは止まらんよ

 

32:名無し

 死兵じゃないけど、覚悟がガンギマリのやつってそこが厄介なんだよね。生半可なことでは怯まないから

 

39:名無し

 お、今度は生態系の話をし出したぞ。困ってるシンシアさん可愛いな

 

51:名無し

 教えたかしらって……。ガイア、事前に話合わせとけよw

 

58:名無し

 あ、強行した。でも、生態系の話が出来たならもう勝ち確だろ

 

63:名無し

 んだな、ついでに魔物を見たっていう子供まで招集して証人になってもらってるし

 

66:名無し

 あ、うーわ。出た出た、子供の話だからって軽く見る状況。マジで滅んだ方が良いんじゃないか? 

 

73:名無し

 キwwレwwたww。ついにキレやがったwww

 

82:名無し

 でも、正論だわ。子供だろうがなんだろうが、魔物というならば調べなければ余計な被害が生まれるだけだもんな。騙されたらその時はその時で叱れば良いし

 

92:名無し

 あ、何事もなかったかのように竜の話をし出した

 

102:名無し

 スンッて戻るなw。まだ皆が困惑してるだろw

 

103:名無し

 で、まずはブルネン家と古老の対立の話からか。たしかに、話聞いてない村人には守護獣って言っておいて裏では討伐対象と護り手を差し向けてたなんて二枚舌だよな

 

113:名無し

 >>103

 イギリスはさらに上を行くゾ

 

115:名無し

 しかし、おざなり過ぎないか? 

 

116:名無し

 守護獣を村の発展のために害する名士(笑)

 

127:名無し

 >>115

 元々少ない人間で1~2人を追放するための茶番だったし、ガイアが人数引き連れてきたことでボロが出ただけかと

 

137:名無し

 あ、今度は泣き落としだ。『本当は退治なんてしたくなかったけど、街道の安全のために仕方なく』だっておww

 

144:名無し

 >>137

 なお、自分は行かずに息子に行かせた模様

 

153:名無し

 んで、アンペルさんと会話して出来ないって言質をもらうと。中々良い展開じゃない? 

 

159:名無し

 ま、あっちもガイアとアンペルが共謀してるのは分かり切ってるだろうからね。そりゃ、反論してくるけど

 証拠がないんじゃね

 

170:名無し

 今まで、水持ちってことで大きな発言力を持ってたから、力押しし過ぎたんだろうな

 ご愁傷様

 

173:名無し

 ガイア、もう一押しだぞ

 

────────────────────

「以上をもって私がボオス氏の意見の指摘したい内容とします。決議を取るつもりならば、先ほどの内容やボオス氏の態度を加味した評定をお願いいたします」

 

 色々言いたいことを終えた俺は一礼する。

 

 魚に関しては時系列がおかしい点をタオに纏めてもらった時系列表や依頼を受けた際にサインしてもらった依頼書を証拠に指摘し、さらに魚の減少の原因が魔物であることを生態系や子供の証言で指摘。その際に子供の言い分ということで少々騒動があったが、既にそんな悠長なことを考える時間がとうに過ぎたことを大声で指摘したら黙ってしまった。──意気地なしめ。

 

 そこからさらに竜の守護獣扱いについて、俺の腕を見せながら護り手やボオス兄さんを流星の古城へ向かわせたという事実を公表。『守護獣』と言っておきながら排除しようとしていたことにざわめきが起こるが、ボオス兄さんは『錬金術士が何か細工をして竜を暴れさせた』という暴論で事態を収拾しようとした。

 だが、いくら威勢が良くてもその『何か』が分からなければアンペルさんがやったということにはなり得ない。俺がそこを指摘して証拠の提示を求めると、今度はモリッツさんが街道の安全のために竜を討ったことを泣きながら話し出した。……どこかの議員かよ。

 

 当然、アンペルさんに『竜って操れます?』って聞き、手筈通り『出来ない』と答えてもらう。また、ボオス兄さんが食って掛かってくるけど『嘘だという証拠は? もしかして、操る方法知ってるんですか? ……よもや?』とでも言ってしまえば何も言ってこなくなった。

 

 俺の発言で村人の中にはブルネン家の2人を睨み付ける者も居る中、ボオス兄さんは俺に向かって叫んだ。

 

「待て、ガイア! 錬金術は……お前だって錬金術は胡散臭いと言ってたじゃないか!」

 

 へぇ、まだやるつもりなんだ。……ってボオス兄さんも勢いで言ったらしいね、口を手で押さえてるよ。

 まぁ、そうだよね。確かに錬金術は胡散臭いよ。理論も何もあったもんじゃないし、材料から完成品を到底想像出来ない物もある。『錬金術ってなんだよ!』って何度ツッコんだか、もはや分からないよ。

 

 だけどね、これだけは言える。技術は使う人次第なんだ。

 いくらフラムを使おうとも、善悪は使う人によって決まる。金庫を爆破すれば法に触れるだろうが、瓦礫の撤去や魔物に使えばそれは善い行いや一般的な使い方に変わる。

 『人間の側が間違いを起こさなけりゃ機械も決して悪さはしねえもんだ』ってどこかの整備班長が言っていたっけ。今回も、まさにそれだ。

 

 だが、そのことを反論しようと俺が口を開くと別の方向から声が上がった。バーバラさんだ。

 

「私はライザに薬をもらいましたよ! あれ以来、痛かった足も楽になって遠出が出来ました!」

 

「うちも染物をする布が足りない時に頼んだよ。あの子が作る布は質が良いんだ!」

 

「私も原石とか、色々採集してきてくれたものをもらってます」

 

 どうやら俺が音頭をとる必要はなかったようだ。姉ちゃんの錬金術や冒険によって紡いだ縁によってそこかしこから錬金術 = 悪という方式を否定する声が上がる。例え、村の顔役であっても彼らを無秩序に罰したり追放することは出来ないだろう。

 よし、頃合いだな。俺は『秘策』を実行に移すために再度、モリッツさんを見ると焼け爛れた左腕を掲げた。

 

「錬金術の善悪はひとまず置いておきましょう。ところでモリッツさん、あなたは俺にこう言いましたよね? "何か困ったことがあれば相談して欲しい! "って」

 

「あ、あぁ。言った」

 

「ならば、村における錬金術の使用禁止を撤廃していただきたい!」

 

「ぐむっ、それは……」

 

 まぁ、『島での錬金術が禁止』なだけだから、アトリエは島の外だから良いんだけどね。でも、これでモリッツさんが断れば『息子を助けた男に対する感謝が薄い薄情な顔役』というレッテルが貼れる。そして、素直に撤廃にしても『息巻いた割には優柔不断な顔役』という印象が植えつけられるだろう。

 悪いけど、竜討伐の件から色々と俺的には腹に据えかねている。ここで激昂して俺もついでに追放するとしても、島の風通しを良くするために最後まで噛み付かせてもらうよ。

 

 俺の秘策の行く末を皆が見守る中、場違いの大声が会場内に響いた。

 

「大変だ、モリッツさん!」

 

「なんだ、騒々しい。今まさに村会の決議が出ようとしている時に!」

 

 声の主は──アガーテ姉さんだった。ただモリッツさん、そんな偉そうなこと言ってるけどほっとした表情は見逃してないからな? 

 

 アガーテ姉さんの説明的に、どうやらリラさんが手筈通りに動いてくれたらしい。魔物の登場に慌てふためく皆を差し置き、姉ちゃんがアガーテ姉さんと共にブルネン家の敷地から出て行ってしまった。

 俺としてはこのまま村会を続けても良かったんだけど、元々アンペルさんとリラさんに『実際に見てもらった方が早いだろう』と新たな準備をしてもらっていたので、一旦村会を抜けることを発言した俺は姉ちゃんの後を追う。

 なんか、ボオス兄さんやモリッツさんが何か言ってるけど無視無視。

────────────────────

逆転村会 【ライザのアトリエ】スレより

317:名無し

 お、例の魔物か

 

325:名無し

 そういえば、昨日あたりの報告で鎖をライザに作らせたらしいな

 どうするん? 

 

329:ガイア

 魔物を捕まえて、皆の前に引きずり出す

 

332:名無し

 >>329

 は? 

 

339:名無し

 >>329

 捕まえるって出来たんだ

 

344:名無し

 ゲームじゃなくてガイアにとってはリアルだからな。けど、あれって捕獲出来るのか? 

 

355:名無し

 落とし穴とかしびれ罠の類は当然無いしな

 まぁ、ガイアならいけるだろ。農筋だし

 

358:ガイア

 リラさんとか、いざとなればレント兄ちゃんから大丈夫、大丈夫

 いざとなればアガーテ姉さんにも手伝ってもらうし

 

363:名無し

 B(uster)小町の皆が居るなら平気だな。

 しかし、戦闘面に参加する気がなくて草

 

367:名無し

 >>363

 左腕がたまに麻痺する奴を戦闘とな!? 

 

376:名無し

 >>363

 こいつ、怪我人だぞ。怪我だけで止まりそうにない変なのだけど

 

380:ガイア

 お前ら、か弱い怪我人に向かって酷いな

 

385:名無し

 >>380

 怪我人は畑を耕さないんだよ

 

394:名無し

 >>380

 怪我人は棍棒ブンブン振り回さないんだわ

 

396:名無し

 >>380

 怪我人は固そうな実を拳一つで破壊しないんだわ

 

401:ガイア

 ……ぴえん

 

402:名無し

 ちょっと雑種ぅ! ガイち泣いてんぢゃん! 

 

409:名無し

 総ツッコミで草

 

417:名無し

 まぁ、ガイアだからなぁ

 

426:名無し

 それより、女1人男2人で小町って無理があると思うの

 ここはライザ、クラウディア、タオ、リラでウマなぴょいをだな

 

────────────────────

 掲示板の民と雑談をしながら浜辺に付くと、既に大勢は決しつつあった。この前の特訓が役立ったのかな? 

 

「ガイア、遅いぞ」

 

「すみません」

 

「ガイア、なぜ来た!」

 

 リラさんと話していると、避難し損ねた人間が居ないか見回っていたアガーテ姉さんが俺に詰め寄ってくる。正直に『誘導してきました』とは言えなくてもどかしかったが、リラさんが『魔物の捕獲を手伝ってもらうためだ』とアガーテ姉さんに事前に持ってもらっていた巨大な鎖を見せた。

 

「ほ、捕獲!?」

 

「あぁ、村の子供やこいつから湖に魔物が出現したが村人が信じてくれないと泣きつかれてな。我々も眉唾だったが、一応準備しておいたわけだ」

 

 あれ、俺泣きついた覚えないんだけど。でも、泣きつきたい……あ、すんません。謝るんで鎖を俺のすぐ横で振り回すの止めてくれません? 鎖からビュンビュン鳴ってて怖いんです。

 あ、そんなこと言ってる間にもう虫の息だ。姉ちゃんが呼んでいるので、呆気に取られているアガーテ姉さんを放置して俺とリラさんは姉ちゃん達の所へ急ぐ。

 なんだあれ、サメか? いや、でもなんで砂浜に居るんだ? 

 いやでも、サメだからな。空も飛べば竜巻も起こすし、砂地を泳いでも何も不思議じゃないだろ、うん。

 

「ガイア、大顎鮫を固定するぞ」

 

「はーい、チクっとしますよっと!」

 

 鎖を巻き付けだすリラさんと同時進行で俺は麻酔代わりにサメ──大顎鮫というらしい魔物の鼻先を全力で殴りつける。たしか、掲示板情報で鮫は鼻先が急所だと教えてもらったことがある──『知らんけど』と最後に書かれていたが、信じるぞ! 

 すると本当に大顎鮫が怯んだので、その隙にリラさんが鎖でギッチギチに縛り付けたことで無事に捕獲が完了した。

 

「ガイア、魔物をどうするの?」

 

「不漁が魔物だって証拠になる。倒したら粒子になっちゃうかもでしょ」

 

 そう、この魔物は討伐ではなく『捕獲』しなければならなかった。

 小妖精などは倒したら粒子になって消えるし、水没坑道のロックパペットは姉ちゃんの話だと倒したら岩石などの破片が後に残ったりするらしい。つまり、この魔物を倒した後に残骸が残るか分からないのだ。

 仮にこの鮫が粒子となって消えるのならば、現場を軽視するモリッツさんのことだ『本当に魔物が居たのか』と疑う可能性がちょっとある。

 そこまで疑われたらもう終わりだよ、この村。状態だけどね。ただ、それを防ぐための捕獲ってわけだ。

 

「さて、ガイア。行けるか?」

 

「いつでも」

 

 危険な頭部付近をリラさんが持ち上げ、姉ちゃん印の補助器具を取り付けた俺が尻尾を持ち上げる。そのまま、エッホエッホと元来た道を戻る最中にアガーテ姉さんが俺の左腕を見ながら『治ったのか!?』と言ってくるけど、『これが錬金術の力です』と報告した。後ろで姉ちゃんがドヤ顔をしているが、本当に姉ちゃんが居なきゃこんなことは出来なかったよ。

 だから、錬金術を悪って言ってるモリッツさん達に反論。よろしくね! 

 

「分かった。私もお前が腕を動かせなくなった時、何か力になれないか探していたんだ。いくらでも証言させてもらうさ」

 

 ありがたい。これでダメ押しの補強も十分だ……っと、リラさんストップ。

 俺は念のために今の補助器具を腕から外して新しいものに交換してから村会の会場に一歩踏み入れる。途中で麻痺したら、せっかくのアピールが出来なくなるからね。

 

「ら、ライザ! なんだそりゃ!」

 

「ガイア君! 腕は大丈夫なのかい!」

 

 漁師の兄ちゃんやバーバラさんを中心に村の皆が騒ぐ中、俺とリラさんはモリッツさんの前に鎖でぐるぐる巻きにした大顎鮫を下ろす。その巨体にモリッツさんが『ヒィッ』と情けない声を出すが、ボオス兄さんはモリッツさんをかばうように前に立つと傍に居たランバーさんに剣を用意するように叫んだ。

 

「どういうつもりだ、ガイア」

 

「今回の不漁の原因を連れてきました。こいつが魚を食べ尽くしたのが原因です」

 

 そう言って暴れ始めた大顎鮫の鼻っ柱を今度は『左腕』で殴りつけて怯ませる。その行動にボオス兄さんが驚くが、ランバーさんが剣を持ってきたことで正気を取り戻すと剣を漁師に渡した。『捌け』ということらしい。

 あ、これからグロいからね。女性やショックに弱い皆さんはあっち向いててね。リラさんは……あ、見るの? うん、好きにして? 

 

「お、俺は魚しか捌いたことねぇよ。こんな魔物なんて……」

 

「情けねぇ! どけっ、わしがやる」

 

 そう言って出てきたのは網元。漁師の元締めみたいな彼がボオス兄ちゃんから剣を受け取ると、流れるような手つきで大顎鮫の腹を掻っ捌き始める。

 そうしていると、当然大顎鮫も暴れるのだが、ここは大人しくしてもらわなければ困るために俺は何度も左拳を打ち付けて物理的な麻酔を施す。

 

「ガイア、おめぇ左腕治ったんか!」

 

「姉ちゃんの錬金術だよ」

 

「ほーっ、"れんきんじつ"ったぁそげなすんごい物か! うちの若けぇのが変なことを言っとったが、あてにならんなぁ!」

 

 流石は昔ながらの爺ちゃんともあって声がでかいでかい。でも、これで錬金術が悪という風評がかなり緩和されたように思う。

 そうしていると胃袋が引きずり出され、網元がそれを注意深く破っていく。すると、出るわ出るわ。魚の骨らしきものや未消化の稚魚。これで決まりだ。

 

「証拠は十分だと思いますが?」

 

「なんと……。すまない、ワシも少し言い過ぎたらしい。錬金術、見事な技術だ」

 

 古老が手首に電磁モータでも仕込んでるかと思うぐらいの手の平返しをしてるけど、問題はそこではない。なぜ、そういった噂が出回ってしまったのかが真の問題だ。……ねぇ? ブルネン家の皆さん? 

 

「ガイア、もう良い。私の調べではボオスがランバーを使って彼らの良からぬ噂を流していたのです」

 

 あ、アガーテ姉さんも調べてくれてたんだね。手間が省けて助かった。

 流石に古老も共犯だったら人間不信になりかけてたけど、どうやら何も知らなかったみたいでモリッツさん達に説明を求めている。すると、姉ちゃんもそれに同調してボオス兄さんにこんなことを仕出かした理由を語気を荒げて問い詰めるが……、当の本人はまたしても逃げてしまった。

 

「こ、これにて村会は閉会とする!」

 

 モリッツさんもかい! はぁー、終わってみればかなり呆気なかったな。

 あ、アンペルさん。お疲れさまでした。俺は送迎業務があるので失礼します。

 

「あぁ、お前さんには色々助けられた……が。その補助器具についてはぜひともライザと一緒にご説明願いたいな」

 

「それは私からの依頼だ、喜んで説明してやろう。というわけでガイア、私から説明するから気にするな」

 

 あ、アンペルさんが連行されていく。なんだか知らんが、とにかく良し! 

 では、旧市街から回っていくんでリヤカーに乗ってくださーい。ってなんで姉ちゃん達も乗ってるんですかね? 

 もう疲れちゃって? 全然動けなくてェ……? うるせぇ、さっさと歩いて帰れ! 

 

「クラウディア」

 

「ガイア君、私も疲れたから……ね?」

 

「ライザも乗せていってやりなよ。魔物を倒してくれたんだろ?」

 

「はいッピ……」

 

 こうなりゃヤケだ。全員の家まで送り届けたらぁ! 

 

 こうしてクーケン島をリヤカーで走り回った俺が家に帰ったのは既に午前様。足もがくがくだったのだが、アンペルさんが追放されることも錬金術が禁止になることも防いだからベストとは言わないが、ベター寄りの結果だと思った。──思っていた。

 

 だが違った。どうやら俺はやりすぎたらしかった。

 

「ボオス兄さんが……居なくなった?」

 

 次の日。いつものように畑仕事をしていた俺に話しかけてきた人の話を聞いた瞬間、俺の心臓が早鳴った。

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