農家の子   作:マジックテープ財布

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10話

 ボオス兄さんがその先に居るという確証があるのに撤退してしまったあの日。アンペルさんの指示通りに対岸側の水没坑道前で陣を張っていたアガーテ姉さんと合流を果たした俺達は、門のことを伏せてボオス兄さんが危険地帯に入ったことを報告。そのまま護り手が主体でボオス兄さんがいずれ行方不明という話を村中に流してもらった。

 護り手の中で腕の立つアガーテ姉さんが情報源ということで、村人──それも顔役の息子が依然として行方をくらませている最中というニュースは瞬く間に村会に広がり、その衝撃に昨日起こった村会でのなんやかんやがうやむやとなったのは言うまでもない。

 

 まぁ、本当はうやむやになんかなってないんだろうけどね。ただ、ボオス兄さんも村の一員だから見つかるまでは一旦水に流そうってことなんだろうことは皆の会話の端々から見て取れた。

 一部は除くけど、この村の人達は良い人の集まりだからなぁ。……一部は除くけど。

 

 そんなこんなで俺達が水没坑道の奥から帰還して数日。俺達は門の向こう側へと行くための準備に勤しんでいた。

 特に姉ちゃんは水没坑道奥にあった遺跡から持ってきた土地生みの樹──アンペルさんの命名で『採集地調合器』となったその古式秘具の中で品質が良くて新しい素材が次々と見つけているらしい。今日も今日とて新たな採集地を調合してはその中へと入って行った。

 

「まったく、これだから錬金術ってやつは」

 

「ガイア君、それ今日で5回目だよ」

 

 そんな俺はというと、アトリエ横に作った農作地に植えられた農作物をクラウディアさんと収穫していた。個人的にこれは農作物といって良いのか甚だ疑問だが、種によって育っている以上は例え鉱石だろうがなんだろうがこれは農作物なんだ。……そう思わないとやってられない。

 

 なのでクラウディアさん、本日6回目の錬金術に対する愚痴は聞き逃してくれると嬉しいな。

 

「それよりクラウディアさんは姉ちゃんについて行かなくていいの?」

 

「うん。リラさんがついて行くって言ってたし、それにお父さんにもボオス君の捜索に私も加わってることがバレたみたい」

 

 舌をちろっと出しながらおどけるクラウディアさん。日に日に姉ちゃんと似たような強かさも身に着け始めているようで、『あの時は特別で、普段はアトリエや近所で大人しく遊んでる』というポーズを取りたかったのだそうだ。

 

 うーん、ルベルトさんにクラウディアさんの様子を聞かれたら怖いなぁ。けど、現在進行形でそんなお嬢さんに農作業やらせてる俺も俺か。

 ルベルトさんに対してちょっと罪悪感を抱きながらも収穫や間引きを行っていると、思い出したかのようにクラウディアさんが『そういえば』と話題を俺に提供してくる。

 

「ガイア君ってよく武器や防具を壊すよね」

 

「前衛ですからねー。それに壊せるような柔な物を調合する姉ちゃんも悪いかと」

 

「それ、ライザが聞いたら怒ると思うなぁ」

 

 クラウディアさんがジト目で俺を非難するが、一応俺が言っていることも事実だと思う。盾がボロボロでなかったら少なくとも前衛は1名確保できていた。

 お前の使い方が悪かったって? よく聞こえませんな。

 

 そうやってとぼけていると、姉ちゃんがアトリエの扉から上半身だけ出して俺達を呼ぶ。その表情はドヤ顔に近い物で、その顔色から長年の直感的に良いことがあったのだと確信した。

 

「おーい、2人共ー。良い物できたよー」

 

 もったいぶった様子で声をかけてくるので、俺達は顔を見合わせながらアトリエの中へと入って行く。すると、既に全員お揃いのようで特に姉ちゃんやレント兄ちゃん、タオが俺を見てニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。

 

「ちょっとこれ、つけてくれない?」

 

 そう言って姉ちゃんが俺に補助器具を渡してきた。どうやら今までの代替品ではなく、先ほどの探索で見つけた素材で作ったリラさんからもらったレシピ通りの補助器具らしい。

 

 ほえー、すごい。……で、後は実験するの? え、もうアンペルさんで実験したから大丈夫? 

 うん、いくつか言いたいことがあるんだけどね。さらっと師匠を実験台にしてるんじゃねぇよ! 

 

「元々、リラが頼んでいたからな。それならば私も協力するのは筋だと思うが?」

 

 そんなもんかなぁ。まぁ、せっかく作ってもらった補助器具だから受け取らないという選択肢はないか。

 

 そう無理やり納得した俺はさっそく補助器具を装着する。途端、前のように腕の何かが補助器具と繋がる感覚に陥るが、今回は違う。いつもは紐が軽く巻き付くような……形容するならばかなり頼りない繋がり方だったが今回はまるでソケット同士が結合するかのようなしっかりした繋がりを感じた。

 

「お? おぉお、なんか今回はすごそう」

 

「アンペルさんが言ってた神経ってのを理解するのは難しいかもだけど、ようは紐同士を補助器具が仲介するイメージで補助器具は作られてるの。その為にはこの"共振の玉石"ってのがカギなんだけど、今までは良い品質の物が見つからなかったからそこらへんで見つけた低品質の物を入れただけなんだよね」

 

 はーはー、なるほどねぇ。だから時間制限付きの物が出来上がったのか。そもそも、イメージだけで劣化品とはいえちゃんと機能するもの作れるだけでもすごいと思うのは俺だけだろうか。

 

 姉ちゃんの言っていることが半分ほど分からないため、俺は『そんなもん』と考えを放棄して最大の7分間の壁が乗り越えられているかを確認するためにラジオ体操を始める。こうすれば、違和感を覚えてもすぐに止められるからね。懐かしいな~、小学生の夏休みに毎日やってたわ~。

 

 昔の記憶に思いを馳せながら7分……8分……そして、10分というところでラジオ体操が一通り終わる。

 

「異常なし」

 

「やった! ……やったー!」

 

 小躍りしていた姉ちゃんが鼻水とか涙を垂らしながらいきなりこっちに抱き着……うわ、鼻かむな汚ねぇ! 

 だけど、思い返してみればこれほどまでに俺の負傷が姉ちゃん達の心を傷つけてたんだな。ひたすらに面目ない気持ちになってしまう。

 おっと、掲示板でも一応報告しておくか。掲示板の皆も結構心配してくれてたし、さっきの姉ちゃんの顔でも添付しとくか。

────────────────────

補助器具、効果ありー! 【ライザのアトリエ】スレより

6:ガイア

 現在、姉ちゃんが必死こいて準備中。こっちはクラウディアさんと農作業してるわ

 鉱物とか岩って農作物に入るのかな

 あと、腕が治った

 1枚目が農作業、2枚目が補助器具、3枚目が泣きはらして若干ぶちゃ顔の姉ちゃんな

【画像】【画像】【画像】

 

13:名無し

 >>6

 さらっと重大発表を流すな

 

17:名無し

 おい! この農筋、自分のことをサラッと流しやがったぞ! 

 

26:名無し

 俺としてはクラウディアと結構距離近くないと思うの

 処す? 処す? 

 

27:名無し

 >>6

 自分の姉をパグとかチャウチャウみたいに言うのやめーや

 

33:ガイア

 クラウディアさんについてはこの前ちょっと色々あってさ。その関係で結構仲良くなった

 あの人あれだわ、交渉事とか強かさとか諸々が身に着いた姉ちゃんだわ。友達思いなところとか特に

 

37:名無し

 なん……だと……

 

46:名無し

 >>33

 ちょっと全員でこいつボコろうぜ。キレちまったよ、久々に

 

57:名無し

 どっかの覇気じゃないけど、一瞬で俺達がひき肉になる未来しか見えないのでNG

 

63:ガイア

 いや、まぁ金髪美女だからね。良いなとは思ってるけど、隊商の人だからもうこれで終わりっしょって感じで諦めてる

 ほら、俺も農民だからさ。だから、それ以上はやめて俺のライフが辛い

 ところで、俺も何か準備することある? 

 

73:名無し

 >>63

 あ、そうか。ガイア知らないのか

 

75:管理者

【管理者の要請で削除されました】

 

86:管理者

【管理者の要請で削除されました】

 

87:管理者

【管理者の要請で削除されました】

 

89:名無し

 なんだ、この削除祭り

 

95:名無し

 おそらく未来のパーティのことでも話したんだろ

 多分、人の名前とかはOKで人間関係とかそういうのはNGなんかね

 ぶっちゃけ、どういった原理なのかも意味不明だけど

 

104:名無し

 とりあえず、ガイアは盾以外にちゃんとした武器も作ってもらいな

 補助器具ありでも無茶は厳禁だからな

 

121:管理者

【管理者の要請で削除されました】

 

────────────────────

 あ、そっか。これで両手が使えるから武器がちゃんと持てるのか。

 んー、そうなるとアンペルさんの加入でサポート系の人が増えたから、これを機に手を広げてみようかな。あの竜の件でも俺が遠距離攻撃が出来たら状況が一変しそうだったし、今のメンバー的にも前衛はレント兄ちゃんとリラさんが居るし、中衛はタオや姉ちゃんやアンペルさんと俺が入る余地はない。

 

 そうなると前衛と後衛を行ったり来たり出来るのが望ましい……が。後衛武器ってなんだろ、投げ槍は回収面倒臭いのと遠距離だと小さいのに当たり辛いんだよなぁ。

 最悪、手ごろな石を大きく振りかぶれば良いと中々にトチ狂った最低ラインを設置した俺は、後衛武器になりそうな物を模索する。投げ槍は一旦除外として武器と考えていくが、俺の頭にふとバグパイプの音と共に一つの武器が導き出された。

 

「そうか、弓だ!」

 

「うわ、なにガイア。いきなり叫んで」

 

 頭のイメージがつながった瞬間、つい叫んでしまった。ふと我に返れば周囲は何かを話していたらしく、一斉に俺の方を向いている。

 あれ……な、なんかやっちゃいましたでしょうか。あ、はい……すみません。話聞いてなくてすみません。

 

「お前さん、本当にライザと同じだな。身の上話となるが、一応私達がここに来た理由でもあるから聞いておいてくれ」

 

「アンペルさんひどいよ! あたしがあんな畑のことしか考えてない大男と一緒なわけないでしょ!」

 

「ライザも錬金術中は似たようなものでしょ」

 

 お、図星なのか姉ちゃんが『うぐぅ』ってうつむいてる。フハハ、タオ君もっと言ってやりなさい。

 

 そして、一頻りの姉ちゃん弄りが終わったところで改めてアンペルさんとリラさんの身の上話が始まった。

 なんでも、リラさんはこの世界の住民ではなくあの門の先──アンペルさんが『異界』と呼ぶ世界の住人だそうだ。そして、こちらでも見かけるようになったフィルフサは元々異界に住んでいる魔物であるが、リラさん達『オーレン族』の住処とかなり離れたところで群れを形成して不干渉を貫いていたのだとか……。

 

「あぁ、俺にオーレン族について尋ねてきたのはそう言った理由なんですね」

 

「そうだ。あの身のこなしや腕力は私のような"白牙氏族"ではないかと思っていたのだがな」

 

「デフォルトで備わってる農筋ですね」

 

「そうか、せっかく仲間に出会えたと思っていたのだが。残念だ」

 

 どうやらオーレン族という種族はリラさんのように戦闘特化の『白牙氏族』、精霊を操るのが得意な『霊祈氏族』、異界の自然を守ることを生業としている『緑羽氏族』、そして半ば伝説的でリラさんも見たことがない『奏波氏族』と色々細分化されているらしい。

 あれ、そう考えれば掲示板の民って一種の精霊みたいな感じだし……俺も霊祈氏族ってのに入るのでは? やめておこう、それを言ったら余計な混乱を招く。

 

 その後、『話が逸れたな』とリラさんが歴史の話に戻る。

 両者共に不干渉を貫いていた異界だが、突如としていくつもの門が出現する。俺達の世界との繋がりが出来てしまったのだ。

 その門から現れた軍勢こそ、おとぎ話などでたびたび登場する『クリント王国』。かの国は異界の素材という未知の輝きに目を焼かれ、次々と異界の物を自国に持って帰っては発展していった。

 しかし、クリント王国の発展とは真逆に異界は荒みきってしまい、緑も水も絶えたことで水を不得手としていた渇きの悪魔──フィルフサがオーレン族の住処に侵攻。それどころか各地から門を繋いでいたことが災いしてクリント王国にまでその牙が突き立てられた。

 

「私達も懸命にフィルフサと戦ったが破れ、命からがら私は門に飛び込んだ」

 

「そこで偶然私が通りがかってな。血みどろで飛び掛かってきた時は肝を冷やしたぞ」

 

「初めて見る門の先で少々興奮していただけだ」

 

 ふーん。

 

「その後は私が素早く門を封印してな。そこから各地の門を二度と使えないようにすべく──」

 

「最初は間違いだ。半月ぐらいはその場に留まって調査していた、念入り過ぎて気味が悪かったぞ」

 

 ほーん。

 

「まぁ、こんなひ弱な奴だからな。ゆく先々でトラブルに見舞われて、私が──」

 

「嘘を言うな。私よりもお前の方が起こした騒動は多いだろう」

 

 へー。

 

 うん、このまま行くといつものやつになって話が進まないな! 

 そんな気がしたので、俺はジェスチャーで『次!』と合図するとアンペルさんが話し出した。今度はどうやらアンペルさんの話らしい。

 

 なんでもアンペルさんはこの国──ロテスヴァッサの王宮に仕えるかなり高名な錬金術士だったらしい。ただ、王宮の意向に立てついたりと色々不興を買った末に友の裏切りにあって再起不能の傷を負ったらしい。

 

 うわぁ、やだやだ。そんなドロドロした政治のあれこれとか誰得だよ。姉ちゃんも顔が曇ってるしさー。

 

「あの時は不眠不休でやっていたこともあってか、エミル……友と呼んでいた男が犯人と分かった喪失感と合わさって茫然自失といった感じでな。そうして彷徨った時にこいつと出会った」

 

「そうだな、あの時のお前の顔は酷いものだったよ」

 

 うん、話をストロベリー方向に蒸し返さないでもろて。

 そんな感じで旅を続け、こうしてクーケン島まで来たらしい。なんというか、波乱万丈という一言で片づけて良いほどの旅ではないな。

 

「まぁ、お前さん達にしてみればつまらない話だったな。だが、門と接触した以上は聞いてもらいたかった」

 

「とりあえず、そのエミルってやつの肩を粉砕するまで殴ったりしたらどうですか? 腕が治ったついでに、"どうだ、弟子の育成は私の勝ちだ! "って自慢したら結構気が晴れると思いますが?」

 

「ふふ、そうだな。錬金術の腕でやつとは色々競ってきたが、弟子の育成については私の方が上かもな。覚えておこう」

 

 姉ちゃんを見ながらそう言って愉快げに笑うアンペルさん。その横ではリラさんがまるで幼い子供を見るかのようなほっこりした笑顔を向けている。

 ケッ! ……失敬、ジェラってしまったがこれでようやく俺の武器についての話が出来る。

 

「姉ちゃん。俺、弓もやるよ」

 

「え、ガイア。弓もやるの!?」

 

 俺の発言にタオが驚きの声を上げる。まぁ、言いたいことが分かるさ。

 見るからに前衛一辺倒の大男が弓なんて高尚な武器が扱えるはずもないだろうってことだろ。分かってる分かってる。

 でもね、タオ君。俺だって一応は今のパーティについて足りないこととか考えてるんだぜ? 

 

 俺が先ほどまで考えていたパーティについての不足部分を説明すると、戦闘に対してはこの中で特に詳しいリラさんと弓を持っているクラウディアさんが賛同と共に疑問を上げてくれる。

 

「なるほど、道理だな。だが、そこらの弓ではお前の膂力に適わないと思うが?」

 

「それに、弓って1日2日で出来ないよ? クロスボウなら何とかなるけど」

 

 そう、弓をやるにも弓本体も無ければそんな簡単に習熟できない。ただ、練習時間はここに居る間で賄えるし、弓はバレンツ商会で買えば良い。

 だが、クロスボウにすると威力は絶大だが俺の筋力を活かすならば一定の威力しか出ないクロスボウだと不足だ、……という訳でお願いします、先生。

 

「えぇ、動かない的だったら自信あるけど。ガイア君に教えられないよ」

 

「なら、私が2人合わせて見よう。弓も狩りで使っていたからな」

 

 ふむ、流石は戦闘一辺倒の氏族ともあってかリラさんが経験者のようだ。これで教師は大丈夫、後は弓さえあればなんとかなるかもしれない。

 弓に関しては最悪、バレンツ商会が空ぶりでも姉ちゃんに調合してもらえればトンチキ性能な弓が出来るかもしれない。

 

「ただ、門の向こうに行くまでには間に合わない。だから、少年救出の準備は盾だけ準備してもらえ」

 

 そりゃ、1日2日で訓練なんて出来ないからね。そんなことで駄々はこねないさ。

 

 こうして各自の武器や防具、そして回復アイテムといった念入りな準備を進める傍らで俺やクラウディアさんに対しての弓訓練が行われようとしていた。

 

***

 

 次の日、俺は弓の確保のためにクラウディアさんの案内と共にバレンツ商会を訪れる。すると、事前に話を聞いていたルベルトさんが幾分か気まずそうに現在の在庫を見せてくれた。

 

 どれも握りはしっかりしているし、ピカピカに磨かれて一級品なのは十分に分かる。分かるのだが……、どれも俺の図体に見合わない物ばかりだわ。

 

「うーん、多分というか確信できるのだが。ガイア君が引ける弓はないのでは?」

 

「そうですね」

 

 心情を読み取ったかのようにルベルトさんが言うが、まずは引いてみないことには弓がどんなものか分からない。俺は財布からお金を取り出すと、ルベルトさんに渡して陳列された弓の中から一番長い弓を手に取った。

 

「良いのかね?」

 

「多分壊すと思うので、購入してから引きます」

 

「壊す前提で購入される経験は初めてだよ」

 

 そう呟くルベルトさん、ほんとすみません。マジで壊す未来しか見えないんで。

 一頻り謝罪し、改めて弓を持って姿勢を正す。横でクラウディアさんに教えられつつもしっかりと弓を引き始め……粉砕した。

 あ、駄目だ。店や商店売りのじゃ手に負えねぇわ。

 

「やっぱり、そうなったね」

 

「すまないが、それ以上の弓はないんだ。そうなると一点物になると思うがかなり時間がかかるよ」

 

 申し訳なさそうに謝罪するルベルトさん。いや、こちらが急に押し掛けて頼んだことなのに謝罪しないで欲しい、逆に困るよ。

 ただ、これで既製品の線は消えた。ならば、『作ってもらう』しかないだろう。

 そう結論付けた俺はクラウディアさんと共にアトリエへと向かう──前にルベルトさんに『クラウは迷惑をかけていないかね?』と問われたので、『お世話になりっぱなしです』と当たり障りない受け答えではぐらかしておいた。

 その間、横でクラウディアさんが終始『分かってるよね?』みたいな笑顔を向けてきたのが怖かったです まる! 

 

***

 

「やはりこうなったか」

 

 へし折れた弓だった物を見るや否や、リラさんが分かっていたような口ぶりで話しつつ姉ちゃんに視線を向ける。俺もその視線を追うと、既に姉ちゃんが調合の最終段階に入っているらしく調合釜からは光が発せられていた。毎回思うけど、どういった原理なんだろ。あれ。

 

「出来たーっととぉ!?」

 

 あ、姉ちゃんが転んだ。その両手には姉ちゃんの身長ぐらいの大弓の姿があり、弦もルベルトさんに見せてもらった弓よりもかなり太い。……俺でも引けるのか分からんぞ、これ。

 しかし、リラさんが『やってみろ』と目で訴えかけているので俺はさっそく大弓を引いてみる。

 

 お? 結構引ける。弓を引く力加減も全身全霊でないと引けないというほど固くなく、かといって何も考えずに引けるほど緩くはないちょうど良い塩梅。握りもしっかりしているし、最大まで引いてもへし折れるような頼りなさは微塵も感じない。──こりゃ、良い弓だ。

 

「矢の長さは……お前が作っていた投げ槍ぐらいが適切か。現地で作ることも想定して作っては撃つを繰り返せ。作り方は教える」

 

「了解です」

 

 そう言って投げ槍を手にしたリラさんがゆっくりと1本の矢に加工していく。ふむ、元が元なだけあってかかなり太い矢になってしまった。まぁ、撃てれば良いか。

 こうして、俺のも含めて2本の木の矢が完成すると皆と共に俺はアトリエの外にある広場にやってくる。何時の間に設置したのか、的を指差して『狙ってみろ』とリラさんが指示。頷いた俺はさっそく矢をつがえて引き絞った。

 

「しっかり頭を固定しろ。狙いがぶれるぞ」

 

「腕の力だけじゃなくてお腹にも力を入れて……そうそう」

 

 リラさんとクラウディアさんに教えられながらも狙いを定めるが、俺の脳裏には一つの懸念点で支配されていた。それは射撃センスの有無である。

 

 はっきり言って俺の射撃センスがどの程度の物なのか、俺自身もよく分かっていない。もしかしたら『源氏万歳クラスの得手』かもしれないし、『真っ直ぐ飛ばしたはずの矢が意味不明な挙動を取って姉ちゃん当たりの足元に刺さるほどのとんでもノーコン』かもしれない。

 本当はアトリエの中まで避難して欲しかったが、まぁリラさんが居れば迎撃してくれるだろうという丸投げ精神で俺は引き絞っていた弦を解放した。

 

 その瞬間、狙っていた大木……から逸れた矢が石垣にズドンと『突き刺さった』。一応言っておくが、木を削り出して作った投げ槍を改造して作った矢だ。砕け散ることはあっても突き刺さるのはちょっと無理がある。

 

「あの、刺さったんですけど」

 

「うわ、ほんとに突き刺さってる」

 

「引き抜こうにも引き抜けねぇ! どうなってんだ!」

 

「放つ寸前に弓を握っている手がぶれたな。そのせいで外したんだ」

────────────────────

補助器具、効果ありー! 【ライザのアトリエ】スレより

415:ガイア

 ためしに弓作ってもらって撃ったらこんなになっちゃった

【画像】

 

423:名無し

 なっちゃったからには……もう……ネ……

 

429:名無し

 >>423

 キメラ化するのやめてもろて

 しかし、すげぇ威力だな

 

434:名無し

 ん? ちょっと待ってくれ、それって木の矢だよな? 

 で、刺さってるのは石壁……だよな? 

 

442:名無し

 いやいや、流石にそれはないだろ。どんだけ馬鹿力なんだよ

 

449:ガイア

 いや、>>434のであってる。投げ槍を加工した矢だけど、なんか刺さっちゃった

 

458:名無し

 >>449

 お前、絶対誤射するなよ!? 死人出るぞ! 

 

468:名無し

 うーん、ズドン巫女ならぬズドン農家か。しかもこっちにはギャグ補正の術式とかないから普通の人間相手には絶対使っちゃいけない代物じゃないか? 

 

469:名無し

 ちゃんと拍手するんだぞ

 

476:ガイア

 流石にところかまわずズドンする非常識じゃねぇぞ、俺は。ちゃんと魔物だけに使うわ

 

482:名無し

 大丈夫? 船に向かって弓撃って、1射1撃沈しない? 

 

493:名無し

 なるほど、君はもう為朝と改名なさい

 

503:名無し

 これが……鎌倉ガンダム

 

508:名無し

 >>503

 平安です

 

510:名無し

 月光大砲って名付けようぜ

 

512:ガイア

 誤射も気を付けるし、改名もしねぇよ! 

 とりあえずもう終わる! 

 

────────────────────

 掲示板の民を含む皆が石に矢が突き刺さっていることに騒ぐ中、リラさんだけは俺に感想を述べてくる。いや、教師としてこれ以上ない助言だけどさ、もっと気にするところあるでしょ。石材に突き刺さるって本当にどうなってんだ、ちょっと製作者!? 

 

「なにもおかしいことはないだろう。その弓は魔力を帯びているぞ」

 

「魔力? 俺、魔法なんて使えませんよ?」

 

「あー、アンペルさんは流石にバレちゃうか」

 

 気恥ずかしそうにネタバラシに入る姉ちゃん。曰く、今回は練習ということで俺の膂力に耐えきることを念頭にこの弓は様々な木材や鉱石という物理的補強の他、魔力を持った素材と中和剤で魔力的にも補強していたらしい。

 そして、撃つ際に発動した魔力を用いた強化の残滓が俺の身体を通って俺の身体──指先と接触している矢に伝播したのだそうだ。

 

 錬金術とは別の魔力関係とか知るわけねぇよ。えーっと、つまりあれだろ? 『この俺の体を通して出る力が~』みたいなオカルト的な……。いや、もうそういうものって考えておこう。

 

「それは練習用だから使い潰しても大丈夫だよ。本番はもっと良いの作ってあげるから」

 

「ならば、ガイアはその弓を使い潰す気概で練習しておけ。クラウディアは動く的に当てることを課題にする。自身が動いて的が止まっている状態、的が動いていて自分が止まっている状態、どちらも動いている状態。どの状態でもまずは当てることだけを考えろ」

 

『はい!』

 

 正直言えばすぐにでもボオス兄さんを探しに行きたいが、準備不足で撤退した身としてはきっちり準備を済ませて出撃したい。

 ただ、いくら素材を集めようとも現状は武器や防具を作れるのが姉ちゃんだけなんだよなぁ。どうやら姉ちゃんも自身がボトルネックになっていることに頭を悩ませているようだ。

 仕方ない、アガーテ姉さんとかも巻き込んで素直に練習してるか。

 

「うー、早くボオスを見つけたいのに準備がぁ~。みんなの武器や防具や道具の調合、材料の調達なんて時間がいくらあっても足りないよ~」

 

「道具の調合ぐらいは私が夜中にやっておこう。素材採集もリラも居るしな、メモだけ渡してくれればこれで探して来よう」

 

 『うーうー』と妙な鳴き声を上げる姉ちゃんに対してアンペルさんが採集地調合器を指差しながら提案してくる。

 あ、そうか。アンペルさんも錬金術士だったわ。たしかにここに住んでいるアンペルさんが色々してくれればその分時間短縮になるな。

 

「ガイア。今、非常に失礼なことを思わなかったか?」

 

「いいえ? 他に準備する物あるかなって思ってただけです」

 

「そうか、お前さんは特に顔に出やすいから何かを思う時は気を付けろよ」

 

 俺ってそんな分かりやすかったのか。思えばトランプみたいな札系のゲームで姉ちゃんに勝てなかったなぁ。今度から気を付けよ。

 

***

 

 数日という時間が経過するが、全員の防具や武器が新たに新調される。そして、アンペルさんの加入や俺の両腕の回復という戦力増強によって以前の倍ほどの速度で門の前にたどり着いた俺達は、アンペルさんやリラさんからあらかじめ聞いていた『異界での歩き方』を念頭に陣形を組む。

 

「良いか、フィルフサは知能がないわけではない。むしろ、あちらで待ち伏せされている可能性を考慮しろ」

 

「レントとガイアは前だ。私は後ろを守る」

 

 俺とレント兄ちゃんが注意深く門の真正面に立ち、リラさんがパーティの後方から周囲を見張る。

 そして、姉ちゃんの号令によって俺達はいよいよ異界へと足を踏み入れた。




アニメでクラウディアの弓回があったので、『これや』と思いました。後悔はしていない。
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