農家の子   作:マジックテープ財布

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11話

 黒い門に飛び込んだ先は形容しがたい光景だった。黄昏時──いや、それ以上に紅くておどろおどろしい不気味な場所。これがリラさんの故郷だって言うのだろうか。

 皆も俺の考えみたいなことを思っているのか、誰一人として先に進もうとせずにいると、リラさんがさっさと前を歩いて隊列を進ませた。

 

「お前達。ここが昔、緑や水が豊富にあった幻想的なまでに美しい場所だったと言われて信じるか?」

 

「リラさん?」

 

 タオの信じられないといった口調にリラさんは続ける。元々この場所も緑も水も豊富にある場所で、このような不気味な紅い日の光ではなく、俺達の住むところのような人を安心させる光が煌々と空から降り注いでいたのだそうだ。

 

 そんなリラさんの言葉に俺は訝しみながら屈むと、指で土を軽くほじくり返す。指先で擦って土の感触を確かめてみても全くの水気がなく、ただポロポロと砂粒が落ちていくだけ。こんなところに種をまいても、まともな作物ならば即座に水不足ですぐさま枯れてしまうであろう。

 その証拠に周囲の草や木を調べても、どれもがどこか余裕がなさそうな育ち方──葉を毛羽立たせて空気中の水分を集めようとしていたり元々少ない水気で生きれるような工夫が見える。

 水気が多いところではこのような切羽詰まった育ち方は絶対しない。これは農家だからこそ言える確信だ。

 

「昔話も良いが、今はボオス氏だ。話しながら進むぞ」

 

 この場所の過去については興味があまりないのだろう。そう言ってアンペルさんが音頭を取ると、俺達は最初に決められた陣形で先を進み始めた。

 道すがら採集してみてもその素材のどれもが何かしらで汚染されており、虫でさえも俺達の所とは異なった姿形をしている。一体、どんなことをすればここまで汚染して荒れ果てるんだろうか。クリント王国のやり方はよく分からんわ。

 

 そう思いつつも採集の手は緩めない。木材や虫、中には『夢見るキノコ』とかいうグレーゾーンスレスレの物もあったが、相変わらずボオス兄さんは見つからない。

 異界の中ではホームグラウンドのフィルフサがうじゃうじゃ居り、まさに数十歩ごとに1回といったスパンで襲ってくる。

 まったく、色々準備しといてよかったよ。危うく異界の中で全滅して帰って来れなかったかもしれない。ありがとう、蒼白いおじさん! 

 

「ガイア、本当にお前は分かりやすいな。ちょうど良い、あそこでこちらの様子を見ているフィルフサが居る。合流されても厄介だから先制攻撃をして来い」

 

 戦いながら斥候と呼ばれるフィルフサと姿が酷似している個体を指差すアンペルさん。えぇー……、俺ってそんな分かりやすいかな。いや、結構指摘されるからそうなのかも。

 ただ、罰みたいにフィルフサ相手に単独で先制攻撃させるのはやめてよ。俺だってただの農民なんだぜ。怪我はともかくとして、またどこか不調になったら今度こそあれよ? 

 

 まぁ、リラさんとレント兄ちゃんが前線張ってるし、耐久力があってちょっと暇なのが俺しかいないからなんだろうなぁ。しゃあねぇ、やってみるか。

 

 姉ちゃんからハンマーを借り、俺はゆっくりとした足取りでその斥候に近づく。その最中、こちらに気づいていながらもそのフィルフサはまるで俺に興味がないように沈黙を守っている。その余裕ともとれる威圧が本当に怖い、そう思ったらこのフィルフサが本当に斥候か怪しくなってきた。

 

 しかし、ここで考えて立ち止まるのも危険が危ない。恐怖を感じながらも俺の身体と脳はきっちり動いてくれ、生物にとって死角となる真後ろで少しでもダメージを与えようとハンマーを振りかぶっていた。

 出来ればこのまま体勢を崩し、怯んだ隙に追撃を重ねることでダメージを加速させたい。そんな思いで何度かハンマーで叩いた後に盾を振り被るといった脳内シミュレーションを重ねてからハンマーを振り下ろ──すところで目をまん丸にしたリラさんの声が響く。

 

「まて、ガイア! それは将軍だ!」

 

「ふぁっ!?」

 

 変な声が出てしまったが、もうハンマーは止められない。ゴスンという鈍い音の後に前方に倒れこんだ『将軍』と呼ばれるフィルフサ。それを目の前に俺は先ほどまでの脳内シミュレーションを忘れて持っていたハンマーを放り捨てると、なりふり構わず姉ちゃんのところに走り出した。

 もはや追撃の意思は欠片も残っていない。ただ出てくるのは、『将軍かよおぉ!』というどこかでチーズ蒸しパンになりたそうなゴリラを彷彿とさせるツッコミと『アンペルこの野郎!』という鉄砲玉を命じた張本人に対する文句だった。

 結局、どうにかこうにか将軍が立ち直るまでに姉ちゃんの所へ戻ってきた俺は盾を構えて戦闘に備える。

 

「え、あれって姉ちゃんが最初に森で見かけたやつじゃない?」

 

「斥候は結構見間違えやすい。将軍は目の前で戦闘が起こっても周囲の魔物を取りまとめるためにその場に留まるんだ」

 

 へぇ~、そうなんだ~。って今はそんな魔物に対する教養を深めている場合じゃない。

 叩きつけや、立派な角を振り回しを盾で押さえているけどマジで一撃が重いし硬い。特に背中の鉱物なのかよく分からない物を盾で殴りつけてもビクともしやがらない。

 

「ガイア、動きを止めるから離れて!」

 

 そう言って横から姉ちゃんが『イバラの抱擁』というアイテムを投げ込んでくる。小さく固まった緑色の物体は将軍に当たるや否や、みるみるうちに急成長して頑丈な茨が将軍の動きを抑え込んだ。

 そこから一気に姉ちゃんの作った金色の槍やレント兄ちゃんが放つ剣での連続攻撃を叩きこむことにより、将軍はもはや虫の息となる。よし……、とどめであれをやるか。

 

「姉ちゃん、離れて」

 

 動きが緩慢ながらも未だもがく将軍に向かって俺は装備していた盾を外し、あらかじめ作って腰に差していた棍棒を手に取った。

 両手で握った棍棒を頭上まで持ち上げながら将軍を見据え、足捌きや重心移動、手の連動といったこれまでの農作業で培ってきた文字通り、命を育んできた全ての技を集約させた一振りを叩きこんだ。

 

 その一振りは確かに将軍の脳天に突き刺さるが、直撃の瞬間になにやら眩い光が周囲を走る。しかし、それは一瞬のことで光が納まった後に周囲を見渡しても将軍の姿が確認できなかった。

 

 おかしいな。今まで姉ちゃんらがド派手な『必殺技』っぽいのやってたから俺も触発されてやったけど、なんで光ったんだろ。ただ、今までの農作業で培ってきた鍬を振る動きで振り下ろしただけなんだけどなぁ。

 あ、もしかしてあのフィルフサが特別だからそうなったのかな。うん、きっとそうだ。よし、この技は『麦作殺法』と名付けよう。

 

 『知らない』、『俺じゃない』、『済んだこと』、『アイツ(フィルフサ)が勝手に光った』と理論武装を施した俺が何食わぬ顔で姉ちゃんの方に戻ろうとしていると、木の葉が揺れる音と共に人の声が背後から聞こえた。

 

「精霊が……。あなたがやったの?」

 

 思わず振り返ると、将軍が陣取っていた後ろの森からフードを被った小さな女の子がひょこりと顔を覗かせている。本来ならば『ここは危険』や『なんでこんなところに』と心配するところなのだが、リラさんのような強者の気配──と形容すべきなのか、とてつもない力を見せつけられている感覚と肌の白さから俺は即座に挨拶をする。

 

「どうも、オーレン族の方でよろしいでしょうか?」

 

「霊祈氏族……まさか生き残りがいたなんて」

 

「それは私も一緒。まさか、白牙氏族にも生き残りが居たなんて嬉しいわ。私はキロ・シャイナス」

 

 あの、俺を間に挟んで同族同士の語らいするの止めてくれます? また、掲示板で『ガッガイアッ!』って言われちゃうから。

 

 若干の居辛さを感じたのでリラさんとキロさんが話しやすいようゆっくりとアンペルさんが立っている位置らへんに退避していると、『待って』という彼女の声が。

 

 えぇ、そんなフラグ建てることしてないのになぁ。……って、姉ちゃん『ガイアを怖がらない子が』っていうの止めろ? あの人、オーレン族だから下手すると俺達より年上だからな? 

 

「なんでしょうか」

 

「あなたが将軍を倒した時に精霊の力……とてつもなく雄大な大地の精霊の力を感じた」

 

 精霊の力? ……まぁ、『ガイア』って名前だからそこら辺が大地と関係しているのか? 転生と掲示板以外、何の変哲もない普通の農家だしなぁ。

 

 いきなり精霊の力と言われてもピンと来ず、首を捻ってはブツブツと推測を呟く俺を他所にいつの間にか会話が為されていたらしい。ボオス兄さんがキロさんに保護されているらしく、最終的には彼女の野営地について行くこととなった。

 ただ、その間もキロさんの精霊講座が続いていた。曰く、俺の近くには門と同じような力のうねりが着いて来ているらしく、そこから属性すらも分からない正体不明の精霊が膨大に流れ込んでいるらしい。そして肝心の大地の精霊はというと、その膨大な精霊のどさくさに紛れ混んでいるのだとか。

 精霊初心者な俺としてはちんぷんかんぷんなのだが、その『属性すらも分からない正体不明の精霊』という言葉に、俺はあのたまにしか役に立たない便所の落書きに潜む住民共がスクラムを組みながら『ウェイウェイ』している姿が思い浮かんだ。

 

 しかしながらここは異界、それもフィルフサによって汚染された地帯である。緑で溢れかえっていた頃ならばいざ知らず、今はいくら大地に精霊を放しても定着せずにそのまま力を失って霧散してしまう死の大地。──なのだが。

 

「今もあなたの周囲に居る精霊は元気に活動してる」

 

「大地の精霊ってのがどんなのか知りませんが、まぁ有益だったなら良かったです」

 

 どういう訳か、件の将軍の周囲で大地の精霊が活性化。それも移動中の今でさえキロさんが知覚出来るぐらいに活き活きとしているのだとか。

 

 ここまで話は分かったし、どう考えても俺の『麦作殺法』が原因だと分かる。だけど、どういったロジックでそうなったのか全然分からないよ。

 そもそも、俺だけが特別なわけじゃねぇし! 姉ちゃんはテンション上がると金色の槍を滞空させて相手にけしかけるし、クラウディアさんはフルート投げつけるし、アンペルさんは魔法っぽい何かをするから断じて俺だけが特別じゃねぇし! 

 

 言い訳ばかりが頭の中で膨れ上がるが、ふと自分がライザのアトリエという原作には居ないことが過ぎった。

 もしかしたらそのせいかもしれない。ちょっと不安になった俺は、まだまだ歩きそうな気配なので掲示板で思い切って聞いてみることにした。

────────────────────

第二次ボオス捜索だ! 【ライザのアトリエ】スレより

326:ガイア

 なんか、鍬を振り下ろすように思いっきり棍棒を振ったら相手が光ったんだけど

 

330:名無し

 >>326

 は? 

 

339:名無し

 >>326

 何言ってんだお前

 

345:名無し

 >>326

 証拠や供物の画像すら出さずに相談とな!? 

 

349:名無し

 >>326

 気のせい。以上

 

358:ガイア

 いや、マジでマジで

 動けない相手の脳天に止めの一撃食らわせたらピカーって光ったんよ。画像取れなかったけど

 

362:名無し

 ライザ達の使ってるフェイタルドライブなんじゃないの? 

 

370:名無し

 >>362

 あー、多分それだな。はい、解散

 

372:名無し

 んだよ、つまんねぇ

 

381:ガイア

 いや、問題はその後なんよ。キロさんって人曰く、俺がそのフェイタルドライブ? したところに大地の精霊が活性化してるって言うんよ

 原作にそんなのあるの? 

 

383:名無し

 はぁ? 精霊ってなんだよ、情報小出しにしてんじゃねぇぞ農筋野郎

 

394:名無し

 大地って……ライザの精霊は火とかの属性だったはずだけど? どこから大地が出てきた? 

 

396:名無し

 良いから配信しろ。訳わからん

 

403:名無し

 キロってたしか精霊使いの種族だっけ? それが感知できるほどの精霊っていうんだったら結構すごいな

 

406:名無し

 そもそも、異界で精霊を大地に根差すことが出来るって割と救世主っぽくね? 

 

407:ガイア

 >>396

 分かった、後で検証枠取るわ

 

413:名無し

 今来た産業

 

425:名無し

 ガイア

 異界の大地にて

 精霊を宿らせることに成功

 

433:名無し

 >>425

 おいおいおい、まじかよ。ガイア、アースマイトかよ

 

442:名無し

 あー! あー! しこりがとれた! 

 

447:名無し

 アースマイトかぁ

 

457:名無し

 確かに農業だし、戦うし、不自然じゃないな

 

462:名無し

 つーことは、掲示板とアースマイトがガイアの能力? 

 

471:ガイア

 アースマイト is なに? 

 

472:名無し

 >>471

 あー、知らないのか。漢字表記では地導師で、農作業を介して大地を潤すことができる人間

 

476:名無し

 >>471

 こっちも事前知識なしかよw

 

483:名無し

 >>472

 ルーンファクトリーの主人公の特殊スキルみたいなもん

  

────────────────────

 えぇ、マジでか。どんなチート……いや、霊祈氏族が居るから精霊を操れることはチートではなくて特殊技能みたいなものか。少なくとも使ったら精神が蝕まれるとか、寿命をジワジワ削られる危ない技能ではなさそうでひとまずは良かった。

 

 そうなると、本格的な検証をしたいのが人の性と言えるだろう。俺はキロさんにちょっとしたお願いをしてみた。

 

「キロさん、あなたの野営地でちょっと実験させてもらえませんか?」

 

「壊さないなら別に構わない」

 

「ガイア、何をする気だ」

 

 俺のお願いを横聞きし、色々俺とやってきたことを思い出したのか怪訝そうな顔を浮かべるアンペルさん。

 いや、別に悪いことをしようとしているわけじゃない。ただ、キロさんの野営地の一画を試しに耕作させてもらうだけだ。

 

「ガイア、人の土地まで耕すのはダメだって」

 

「あんた……そこまで農業馬鹿だったの」

 

「流石に許可を取る以前に怒られるぞ」

 

「ガイア君、アトリエの畑で我慢しよ。ね?」

 

 うわーお、総スカン。君達、俺のことそこら辺を耕す変人と思っちゃいない? あっ、全員頷きやがった畜生! 

 いやいや、さっきもキロさんが精霊の力って言ってたでしょうが。それを確認するために彼女の野営地の一画を耕そうとしているだけですって。

 ほら、鍬を手作りしてさ。将軍倒した時のように振るったりしてさ。あと、精霊って言われてもピンと来ないから実験がてらやらせてもらおうかとね。

 

「まぁ、信じるけどね。だけどキロさんが嫌がったら即止めること!」

 

「ワカッタ、ガイア ウソ ツカナイ」

 

「問題ない。この地に精霊を根差すことが出来れば多少は環境が良くなるから、ぜひお願いしたい」

 

 流石、話が分かる御仁だ。どこかの姉とは大違い……っと、顔に出るんだった。

 

 顔を見られないよう素材採集に注力し、丈夫な木の枝やら固そうな水晶などを採集しながら進むこと数十分。俺達の目の前に剣の一振りでも突き刺したいほどに見事な焚火が現れた。

 その焚火の前にはボオス兄さんが座っているけど、なんだかコーヒー片手にくつろいでそうな姿が見えるほどゆったりしてるやんけ。

 ボオキャンか! ボオキャンなのか! 

 

「ボオス!」

 

「お、お前達……なぜここに!?」

 

「私が連れて来た」

 

 ボオス兄さんの発見に俺達は瞑々騒ぐが、当の本人はまだまだ俺達に対してしこりが残っている状態だった。姉ちゃん達もキロさんの紹介があったにも関わらず、どう接していいか分からないようにボオス兄さんを見据えている。

 

 うーん、この膠着状態をどうしたものか──ってクラウディアさん。良い笑顔で俺を小突くの止めてくれない? どっちも動かないからって手始めに俺をぶつけて様子を見ようとしてない? 

 声に出さずに『が い あ く ん』って口を動かすの止めろよ、そんな挑発に俺が釣られ……クマー! 

 

「ボオス兄さん、まずは俺から謝らせてほしい」

 

「は? いきなり何を言ってるんだ」

 

 突然俺が両者の間に立ち塞がり、その流れで謝罪したことにボオス兄さんは面食らったように立ち竦んでいる。

 だが、こういった謝罪は時間をかけるとやりづらくなるのは姉ちゃんの件で実証済みだ。言葉を選んだりするロスすらももったいないので、速攻で謝らせてもらう。

 

 とつとつと俺はボオス兄さんに謝罪の言葉を投げかけては頭を下げる。なぜボオス兄さんの不安をくみ取ってあげなかったのか、なぜ姉ちゃんのやっていることを事前に伝えて危険性がないことを報告しなかったのか、そもそも不漁という村の産業に係わることならばモリッツさんは一旦蚊帳の外にしてボオス兄さんに仲介を頼んで一緒にやれるように根回しが出来なかったのか。

 

 いまさら言っても遅いし、どれも事情が事情なので実現不可能なのは言った端から『そうじゃないじゃん!』と大反省会を開くほどの後悔に苛まれるが、俺から言えることは全て言った──と思う。

 

「そうか。お前も悩んでたんだな」

 

「うん、悩んでた。でも、結局姉ちゃんは身内だし、楽しそうだと思ったからそっちに行っちゃった」

 

 これは俺の本心だ。身内贔屓だが、姉ちゃんのやってることについて行くとたま~に楽しいんだよな、ほんとたま~に。それが今回だったわけ。

 それがあれよあれよと異界騒ぎだよ、ほんと笑うしかないよ。

 

「俺は……腕が動かなくなってもライザとつるんでるお前を見て裏切られたと思ったんだ」

 

「そんなのお前の勝手だろ!」

 

 あぁ、やっぱり俺のせいか。せっかく当たり障りがない着地点に降りれたと思ったけど、本当に俺の負傷が足を引っ張ってたんだな。やっぱり掲示板の真面目な意見は聞かなきゃいかんなぁ。

 

 ただ、レント兄ちゃんは黙って。

 これは俺の誤解を解くための会話だ、話をややこしくなるだけの口出しは許さない。俺が一睨みすると、レント兄ちゃんは納得してくれたのか大きくため息をつきながら焚火に座り込んでしまった。……苦労掛けるねぇ。

 

「レント兄ちゃんも言ってたけど、ボオス兄さんが勝手に勘違いしたって言うのは簡単だよ。だけど俺はあえてこう返す、"お互い様"って。なんで村会なんて開いたの?」

 

「それは……言えない」

 

「ボオス!」

 

「姉ちゃんも黙ってろ!」

 

 口を挟んだ姉ちゃんに対して反射的に叫んでしまったが、その前にボオス兄さんが姉ちゃん達の方をチラリと見たのに気付いた。多分だけど、俺はともかく姉ちゃん達に事情を言えるほど関係が修復できていないのだろう。

 こういったことは無理に聞き出すと余計にこじれたり、最悪で致命傷となって一生関係が修復しないことは前世からよく見聞きしているので分かっている。ここはボオス兄さんがいつか話してくれるということで納得するしかない。

 

「分かった、いつか話してくれる?」

 

「いつか話す。ブルネン家にかけて」

 

「あ、自分の名前にかけて? 今のブルネン家って申し訳ないけどアレだからさ」

 

「本格的に父さんを嫌いだしたな。お前」

 

 だってボオス兄さんを竜退治に行かせたり、古老を完璧に抑えたり出来てないし。後、何回か見せ財布に踊らされて褒賞に見合わない重労働させられたからさ。どれだけやったって詳しく言うのは伏せるけど、俺の字が綺麗になったのはそれだけモリッツさんから書類案件を回されて、なおかつ字の汚さでリテイク食らったせいでもあるわけよ。

 ここだけの話だけど、村会でもあの対応は穏便だったんだよ? 

 

「あ、あぁ。それはすまなかったが、竜は俺が主導で決めたんだ。父さんだけの責任じゃない」

 

「まぁ、行くと決めたのはそうだけど支援の杜撰さで試合終了だよ。とりあえず、これにて俺とボオス兄さんのいさかいは終了……ってことで手打ちにしてくれない?」

 

 モリッツさんにおける信頼関係はともかく、ボオス兄さんは俺の言葉に耳を傾け終えると左手を差し出してくれる。そして、俺の左手がたまに動かせないことを思い出したのか、右手を差し出し返そうとするが──逃がさないよ! 

 すかさず『左手』でボオス兄さんの手を握った俺は、そのまま握手を続ける。いつまで経っても麻痺する気配を見せない俺の左手をボオス兄さんの目が凝視していた。

 あれ、左手の握手ってイメージ悪いんだっけ? 別に良いや、俺は雰囲気で握手してる節があるし。

 

「お前、左手動くのか!」

 

「姉ちゃんのおかげ。だから、これでボオス兄さんが俺に遠慮する必要は本当になくなったわけ」

 

「そうか……そうか……」

 

 噛み締めるような声でボオス兄さんが自身の左手を握手に重ねた。

 こうしてひとまず俺とボオス兄さんの誤解は解けたので、すっきりした俺は集めてきた水晶や木の枝などで1本の鍬を作り出す。既にキロさんからは了承を得ているので、俺はさっそく配信をしつつ実験を開始する。

 

 そういえば正体不明の精霊云々って言ってたし、配信とかするとその分だけ大地の精霊もたくさん来るかな? 

────────────────────

第二次ボオス捜索だ! 【ライザのアトリエ】スレより

603:ガイア

 ほい、配信するわよ

【リンク】

 

608:名無し

 きたぜ、ぬるりと

 

614:名無し

 ひょー、キロさん可愛い

 

618:名無し

 デッッッッッッッッ

 

627:名無し

 さて、どんな感じになるやら

 

637:ガイア

 振るぞー

 

642:名無し

 ばっちこーい

 

648:名無し

 なんか、すっごくすごい光ってる

 

660:名無し

 すごく……すごいです

 

666:名無し

 こう……光が……光って……すごい。なんかすっごくピカーって光って……とにかくすごいです

 

676:名無し

 >>642 - >>666

 語彙力G共がよぉ! すっごく光ってるじゃねぇか! 

 

683:名無し

 まぁ、光った後にちょっと土の色変わったぐらい? 

 

691:名無し

 >>683

 分かる。ちょっと土の色が明るくなったと思うわ

 これで精霊はいってるん? 

 

695:ガイア

 知らん。キロさんが精霊云々言ってるだけだし

 聞いてみるわ

 

696:名無し

 うーん、このガイアと並べると事案になりそうな身長差

 

708:名無し

 >>696

 リラやアガーテぐらいじゃね? 事案にならないの

 

710:名無し

 両者共、ガイアが何かしようものなら即座に制圧できるから

 

712:ガイア

 なんか怖いこと言ってる……

 結論! 精霊入ってます

 

722:名無し

 18番、薬効有りぃぃ! 

 

725:名無し

 これで植物が栽培できるようになるなら、異界を全て耕せば何とかなるんじゃ

 

727:名無し

 異界耕作行脚か。鍬を片手に異界を練り歩く化け物になってそう

 

728:ガイア

 異界1人で来るの怖いからヤダ

 

737:名無し

 まーた人間の子供みたいなこと言ってる

 

738:名無し

 そろそろ人間コンバインってことを自覚しな? 

 

748:ガイア

 人間だよ! 

 

────────────────────

 異界という汚染されきった土と戯れた経験がなかったので、明らかに土の色艶が変わったことに俺は色が変わったなぁ程度しか思わなかったが逆にキロさんは驚いていた。

 

「すごい。あなたはもしかして、緑羽氏族……にしては肌が……」

 

「そこら辺の農家です」

 

 いや、そんな奇異な視線向けられても困る。俺だって好きでこんなトンチキ技能を身に着けたわけじゃないし。

 

 未だに俺をオーレン族扱いしてくるキロさんを宥めていると、奥の方でボオス兄さんが姉ちゃん達と話していた。まるで間合いを計る達人のごとく緊迫した空気が両者の間で流れていたが、ふとした瞬間に目をぎゅっと瞑ったボオス兄さんが頭を下げて声を上げた。

 

「すまなかった! お前から錬金術を奪おうとして……すまなかった!」

 

 あー、泣きそう。なんだろ、この感覚。身内が成長した姿を特等席で見物しているおっちゃんみたいな感覚だ。まぁ、こっちではまだ15ぐらいだけど。

 

 謝罪の言葉を一つ言っただけだが、それだけでもボオス兄さんの頑なな態度を軟化させるのに十分だった。レント兄ちゃんやタオもその変化には気づいており、まだちょっとだけギスっているが軽口などが多くなってきた気がする。

 そんなクーケン島の悪ガキ4人組の再誕を後方精神的な大人面で腕くみしながら見ていた俺の耳に、キロさんを含めたアンペルさん達。所謂、大人組の会話が聞こえてきた。

 

「リラ、ここは一体どういう土地なんだ? 今までの門から入った場所とはかなり異なっているぞ」

 

「ここは水源地。我らオーレン族の喉や緑を潤してくれる聖域だった。……ここに近い門があったとは」

 

 ふむ、なにかすっごい興味深い話をしている。これは俺達も聞いておいた方が良い流れやな。

 

 おらー、そこの4人組とクラウディアさんー! リラさんの授業が始まるぞー。

 

 俺の呼びかけにぞろぞろと集まってくる姉ちゃん達。昔よく見た光景だー、目から水分出そう。

 

「ガイアがなんで泣いているか知らないが、話して良いか?」

 

「どうせ、どうでも良いことで泣いてるんだろ」

 

「たまーに本当にどうでも良いことで泣くんだよね。ガイアって」

 

 姉ちゃんとボオス兄さん、関係性が修復中なのを良いことに息の合った連携攻撃してこないでくれる? 君ら、ちょっと前まで犬猿の仲だったの忘れたの? 

 

 とにもかくにも、リラさんの口からこの地域が聖域。オーレン族の水源地だと語られる。

 しかし周囲を見回しても水の気配もなく、土は乾期の畑以上にカラカラに干からびている。汚染も酷いが、こんな土壌だとヴァッサ麦も育てるのは難しいだろう。

 畑目線の俺の考えとは余所に、今度はアンペルさんが水源地をからした張本人──クリント王国の話をし始めた。ま た お ま え ら か! 

 

「異界には魔石よりも純度の高い砂粒のような結晶が点在していてな。希少ゆえにこの地に門が繋がったクリント王国の人間も苦労しただろうな。なにせ、水源地だからどこを掘っても水に邪魔されてしまう」

 

「泥の中で採掘って難易度高そうですもんね」

 

「そして門もかなりの資源を用いるので簡単に場所を移せない。管理体制がどうだったかは分からないが、この地を引き当てたやつは頭を抱えたろうさ」

 

 前世の幼少時代にザルを使った砂金集め体験したことあるからよく分かるわ。こんな広大なところでシャカシャカするのは御免被る。

 ただ、それでこの地を諦めるという選択肢はクリント王国にはなかったのだろう。逆転の発想──それも最悪な部類のそれがこの地に対して行使されたとアンペルさんの話を引き継いだキロさんが話を続ける。

 

「実際に私は見ていないけど、"渦巻く白と輝く青"がこの地にあったすべての水を吸い込んでしまったらしい」

 

「渦巻く白と輝く青って、他に特徴とかないので?」

 

 平面状態だと、なんだかどっかのモンスターズに出てくる『旅●扉』みたいな色だな。

 しかしながら、色のみの特徴だと決定打に欠ける。キロさんに追加情報を求めるが、実際に見ていないとのことなので形状や大きさと言った追加情報はもらえなかった。

 

「渦巻く白と輝く青……水……まさか、そんなことが」

 

 話が続けられていく中、俺の隣に居たボオス兄さんが独り言を呟く。なにか心当たりでもあるのだろうが、脳内の考え的にあり得ないと断じたのだろう。

 ボオス兄さん、その考えは正しいよ。俺も度々錬金術のトンチキさに頭を悩ませているけど、昔の──古式秘具なんて物は俺らの物差しでは到底計れる代物ではない。

 

「昔の錬金術はあり得ないことはあり得ないって思っておけば良いよ。今は再現不可能な技術もあるっぽい」

 

「……そのあり得ないってのを教えてくれ。気になったことがある」

 

 俺からの耳打ちに驚きながらも、ボオス兄さんは素直に俺の体験した古式秘具の能力を聞いてくれる。道具を入れておけば無限に使える結晶。錬金アイテムなどをそっくりそのままコピーできる道具。そして、世界を調合して中に入れるという頭が狂ったとしか言えない道具の数々。それらを話をしていくごとにボオス兄さんの口から『とんでもないな』といった驚愕の声が漏れるのが地味に面白かった。

 

「なので、心当たりがあったら教えて」

 

「心当たりか……」

 

 そうつぶやいたボオス兄さんがキロさんに近づく。接近に気づいた彼女が『無事に帰ってほしい』と願う最中、ボオス兄さんは一言『すまない』と謝罪した。

 当然、何についての謝罪なのか理解できなかったキロさんだが、ふと自身が話していたボオス兄さんが心配で満足に戦えないという言葉を思い出して『そんなつもりで言ったわけじゃない』と補足する。

 

「いや、俺が戦えないのは事実だからそれは良い。だけど、キロの話が本当なら……」

 

 そう言った後、ボオス兄さんは語り出した。

 なんでもキロさんが言っていた『渦巻く白と輝く青』。色だけでしか判断できないが、ブルネン家の離れで似たような物があるのだそうだ。

 

 ほんと、ブルネン家ってあれやな。1回総出で家探ししても良いと思うんだよね、絶対色々ろくでもない物見つかるよ。




ガイア
 今回で判明したラグナ(のうぎょう)的な能力だが、これは掲示板にアクセスする通信のようなものに大地の精霊が混じり、ガイアの肉体や握っている武器に滞留して攻撃時に大地に宿るといったプロセスなので掲示板の民の言うようなラグナ(のうぎょう)の正真正銘な能力ではない。あくまで疑似的なものである。

 当然、掲示板の能力が消滅すれば同時に消える。(3の関係上、本作品では明かされません。多分、最終話辺りで設定でも書こうかなと。まぁ、ヒント的には便利な存在である神代の民の残した門関係になるとだけ)
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