農家の子   作:マジックテープ財布

16 / 30
12話

────────────────────

水源を枯らす戦術兵器級古式秘具があるらしい 【ライザのアトリエ】スレより

2:名無し

 水源を枯らすとかなにそれ怖い

 

6:名無し

 あー、あれか。水源丸ごと枯らすとか城攻めし放題やん

 

16:名無し

 流石に水取るのはあかんやろ。んなの戦争やん

 

18:名無し

 >>16

 既に戦争状態でした

 

28:名無し

 現実世界でいくらでもあくどいこと出来そうやな

 

29:名無し

 お、田んぼに電車反射させたら映えるやろなぁ(放水

 

33:名無し

 >>29

 ……スゾ

 

34:名無し

 >>28

 バミューダトライアングルの水を全部抜いてみた……とか!? 

 

38:名無し

 >>29がガチ悪魔

 >>34はそのままの君で居て

 

48:ガイア

 ほんとブルネン家さぁ……。他にも余罪隠してそうで怖い

 

58:管理者

【管理者の要請で削除されました】

 

65:名無し

 ガイア、この際だからブルネン家の探索とかしない? 

 

69:名無し

 突撃 隣の倉庫

 

72:名無し

 >>69

 お宝鑑定団じゃね? そこは

 

73:ガイア

 あー、まぁ調べる必要はあるのは確かだけどね

 ただ、許可くれるんかねぇ

 

75:名無し

 まー、絶対あれはあるやろなぁ

 

82:名無し

 あー、あれな

 

90:管理者

【管理者の要請で削除されました】

 

────────────────────

 どうやら掲示板の民は知っていたようだ。掲示板の仕様も相まって、ネタバレしない姿勢に感謝しかない。

 まさか、ブルネン家が保有していたと思われていた水源の正体が古式秘具。それもオーレン族の聖地から奪われた水だった可能性が浮上するとは思わなかった。

 もし異界まで赴かずにそんな話を聞かされても『またまた御冗談をw』と草を映え散らかす自信があったが、いざこうして乾ききった大地を目の当たりにしながら説明されるとそうとしか思えない信憑性に俺達は愕然とした。ボオス兄さんの発見報告以外にも、思い返せば辻褄が合うことがあった。

 

 巨大クーケンフルーツ。一般的なものと少々種別は異なるが、水が大事で育てるのにかなりの水が必要な農作物だ。

 村の外に出たことがない俺は他の土地でも同じような物があるのかは定かではないが、少なくとも食べたことがなさそうなリラさんが『懐かしい味がする』と評してこれを食べている。『そんだけ気に入ったんだな』と思っていたが、こうして水源のことを説明された今だとそりゃ『聖域の水使ってんだからそんな反応するよな』としか思えない。──思えなくなってしまった。

 

「俺、農家辞めようかなぁ」

 

「ちょっ、なにいってんの!」

 

 怒涛の展開に頭が追い付かずにへたり込んで冷却期間を設けていた姉ちゃん達の輪の中で俺がポツリと言うと、姉ちゃんが俺の頬を左右に引っ張りながら抗議する。痛いんで止めてください。『伸びる』じゃないから放しなさい。

 

 いや、だってこんな現状を聞いたら農業は続けられないよ。いわば、他人のふんどしで相撲を取っているようなものだ。そんな状態で農家を続けるメンタルは俺にはない。

 

「君が責任を感じる必要はない。奪ったのはクリント王国の人間だから」

 

 なんだこの聖人。普通なら『子孫が罪を償わなきゃなぁ!』って襲い掛かるはず……いや、漫画の読み過ぎか? 

 

 いずれにしてもクーケン島の水が本当にオーレン族から奪った水であるならば俺は農家は継がない。そう宣言すると、ボオス兄さんは『帰ったら出所を調べるから、手伝ってくれ』と頼まれた。どうやらブルネン家にも姉ちゃんのような『冒険気質』の者が居り、その成果や当時の手記が蔵などに仕舞われているそうだ。

 

「報酬は?」

 

「お前……、そこは報酬いらないっていう場面じゃないのか」

 

「先立つものはいくらあっても良いでしょ。ほら、最近バレンツ商会にお世話になってるからロミィさんからの視線が怖いんですよ」

 

「本当にお前は身体のでかさの割に弱いよな」

 

 お金持ちのボオス兄さんには分かるまい、彼女やルベルトさんを通して出る『あ、今日は買ってくれないんだ』っていう圧が! 

 

 俺の力説に戸惑うボオス兄さんは別として、姉ちゃん達は未だに事の重大さを飲み込めずにその場にへたり込んでいる。

 まぁ、この状況で『帰ろっか』と平然と言うのならばそれはそれで怖いのだが、俺達がこの異界に踏み入れてからしばらく経っている。某7つの球を集める漫画に出ていた部屋のように異界と俺達の世界の時間の流れが別であるのならまだしも、同じならばそろそろ帰り支度をしなければ暗い水没坑道を頼りない明りで駆け抜けなければならない。

 

 そう考えていると、何の前触れもなくクラウディアさんがフルートの独奏会を行いだした。ボオス兄さんがその意図を尋ねる矢先、キロさんとリラさんも歌いだした。……急に歌うやん。なにこれ、ライザのアトリエって歌で敵を倒す系になるん? 

────────────────────

水源を枯らす戦術兵器級古式秘具があるらしい 【ライザのアトリエ】スレより

183:ガイア

 なんか急に歌いだしたんだけど、大丈夫? 顔面から血出さない? 

【リンク】

 

184:名無し

 勝手に武器になったりしないから大丈夫

 

193:名無し

 アイドルに……興味はありませんか? 

 

197:名無し

 Pは引っ込んでもろて

 

199:名無し

 君、良いトモしてるね。歌って走れるアイドルに興味はありませんか? 

 

204:名無し

 ガングニール……だとぉ!? 

 

208:名無し

 あー、もう滅茶苦茶だよ

 

210:名無し

 >>183

 俺も原作で急に歌ってて驚いたから気持ちはわかるってばよ

 

217:名無し

 現地でガイアはこれを聞いてるんだよな。キレそう

 

222:名無し

 処すか

 

224:ガイア

 別に良いんだぞ、変わっても。その場合、古式秘具のあれこれとか魔物への対応とか君達が引き継ぐことになるけど

 

229:名無し

 >>224

 サーセン

 ガイアだから何とかなってるだろうから、俺は無理だわ

 

235:名無し

 >>224

 分かる。ガイアだからついていけてる感があるわ

 そもそも、俺らって採集とか絶対出来なさそうだし

 

244:名無し

 この前の採集配信で虫を平気で掴んで、『ちょっと退いててね』って優しく別の所に置くガイア見た時は戦慄した

 

────────────────────

 掲示板の民もなんだかはしゃいでるが、時間が差し迫っている現状で悠長なと思ってしまったが皆が聞き入ってはリラックスしているので大人しく待つ。

 こういう、なんでも結論を急いで時には失敗するところが前世から抜けきってないんだよなぁ。でも、多分だけどこの性分は今世で俺が死ぬまで治らないと思う。そんな気がするんだ。

 

 フルートも歌も終わってしばらく経つと、キロさんがお礼を言いながら立ち上がる。どうやら送ってもらえるらしく、お礼のお礼というわけではないが俺も即席の鍬が壊れるまで道に沿って大地の精霊とやらを打ち込みつつ門へと戻っていく。

 

「不思議。汚染され尽くした土地に根を下ろした精霊はすぐに消えてしまうのに、ガイアの鍬に沿って下ろした精霊はその場で元気に活動している。門の外の精霊はこんなに力強いの?」

 

「すみません、俺は農家なので。精霊については門外漢です」

 

 いきなり精霊の力強さの秘訣とか聞かれても困る。現に今も俺を介した一撃には精霊の力が籠っているなんて到底信じられなく、キロさんが『現にそうなってる。ほら』と指差されても俺には分からんよ。

 いや、リラさんも『向こうでは充ち溢れすぎて気付かなかったが、精霊が希薄なここだと分かるな』って指差されても分からんからね? 

 

「ぶっちゃけ、精霊って何がどう役に立つのか分からないです」

 

「精霊は自然の力。単体だと制御が容易で小さな力だけど、集まるごとに制御は難しくなって力も強大になっていく。中でも大精霊という存在も居る」

 

 『大精霊』と言われてもあまりピンと来ていない俺達に、アンペルさんは『既に姿は知っているはずだ』と一旦立ち止まる。身近な枝で地面に椅子のような物と人のようなものを描き、『水没坑道で椅子に座っている偉そうな人型の奴を見ただろう』と言ってきた。

 

 あー、あの時アンペルさんに強く拒否されたあのエr……非常に煽情的なお姉さまね。そっかー、あれが大精霊かー。……え、何それこわ。つまり、集まりすぎるとネームドエネミーを生み出すのか。どう考えても厄ネタじゃねぇか。

 

「そう、だからあなたの精霊使いが気になって声をかけた。……それにしてもまだ消えないなんて、どこからこんなものを呼び出してきたの?」

 

「いや、ほんとよく分からないです」

 

「ガイアに変な物でもくっついてるんじゃない? こう、ガイア目掛けて何か精霊を呼び集める装置とか、機能とか」

 

 姉ちゃん、人をサイボーグ扱いしてない? いい加減にしないと怒るぞ? 

 でも、たしかに精霊がどこから来ているのかは気になるな。なんか、門と似た歪がなんとかってキロさん言ってたけど、本当に別の場所から呼び集めてたりして……。そこまで行くと収拾がつかない気がしてきた。

 そのままちょっと悩んでみたけど、全然分からない。最終的に俺のことは未来の俺や姉ちゃんに任せようと思った俺は、皆に異界からの脱出を催促する。

 皆も本来の目的を思い出したのか、俺の催促に二つ返事で応じながら撤退準備を始めているとキロさんも何やら準備を始めていた。

 

「見送る。素敵な時間を過ごさせてくれたし、そろそろこの辺のフィルフサを一掃したい」

 

 自信満々に言うキロさんと共に、準備を終えた俺達は野営地を出る。大所帯という数的有利を取った俺達は道行くフィルフサを千切っては投げと駆逐していくわけだが、事あるごとに何かに気づいたキロさんとリラさんが『ちょっと待っていてくれ』と陣形を離れる。

 最初こそ『トイレか?』と結構失礼かつハラスメントにガッチリ抵触することを考えていたが、フィルフサと思われる断末魔やリラさんの手甲の爪部分に付着した液体に『あっ』と察した。

 

「すみません、気づかなくて」

 

「気にしなくていい。オーレン族の感覚はお前達よりも鋭いからな」

 

 リラさんは耳らしいところをピコピコ上下させながらドヤ顔を決めている。

 

 ほへー、オーレン族ってほんと人間とは違うんだな。俺達が未熟だからっていうデバフもあるけど、人間が見落とした敵も看破出来るほど鋭い感覚に高い戦闘能力。なにより、人間よりも長命ってことが言葉の端々から見え隠れしているので必然的に修練に掛けることが出来る時間が人間よりも多い。

 たしか、どっかの読み物で『エルフは見た目に惑わされるな』とかいう言い回しもあったっけ。確かあれって見た目よりも歳を食っていて、その分だけ修練に明け暮れているからそこらの達人よりも達人してるって意味だったと思うけど、オーレン族にもいえることだよなぁ。

 まったく、デタラメ人間の万国びっくりショーかっての。……人間じゃないけど。

 

 そんな幾度とない戦闘やリラさん達による不意打ち対策の末、俺達は門の前へと帰ってきた。タオがやっと帰れることに安堵していたので、『まだ水没坑道あるぞ』と指摘したら声にもならない叫びをあげていた。受ける。

 

「ガイア、意地悪しない。ほら、また会うために今はお別れしよ」

 

「また来てくれると嬉しい。君たちに日の加護と月の導きがあらんことを」

 

 多分オーレン族特有の別れの言葉なのだろうが、俺の中ではバケツヘルメットの騎士が上空からフードを被った人間に暗殺される描写やハチの巣のエンブレムを貼り付けた機体が駆け巡っている。ミームとは恐ろしいものだと改めて実感した。

 

 その後、門を抜けて俺達の世界へと戻ってくる。温かな空気に眩しい日差し、ちょっとしか異界に行ってなかったが懐かしい感覚に苛まれながらも俺達は元来た道を歩いてクーケン島へと戻る。

 その道中で、やたらと姉ちゃんはボオス兄さんに話しかけていた。なんでも『思ったことはちゃんと言わないとまたこじれる』だそうで、その解決方法が逐一思ったことを口にする今の状態なんだそうだ。

 

「姉ちゃんってほんと、直球だよな。あ、これ思ったことそのまんまだから」

 

「そうよねー、ガイアって人の葛藤に茶々を入れる空気読めない男だもんね。最初に言ってたお嫁さんなんて夢のまた夢じゃないの? あ、これあたしが思っていることそのままだから」

 

「レント、俺を間に立たせてにらみ合ってるわけだがどうすれば良い?」

 

「昔みたいに放っておいた方が良いに一票だな。逆に首を突っ込むと後がこええ」

 

 姉ちゃんの一言どころか二言多い挑発にムギャーっと喧嘩をしていた俺達を他所に船は無事にクーケン島へたどり着く。ボオス兄さんの帰還に漁師が騒ぎ、その騒ぎを聞きつけた護り手の兄ちゃんやアガーテ姉さんがすぐさま彼の帰還を村や親であるモリッツさんに伝えるために奔走する。

 当然、瞬く間に大事になっていくのでその風景にボオス兄さんは気恥ずかしそうにするが、数日行方知れずだったんだ。そのぐらいの恥辱は受けてもらおう。

 

「あ、ブルネン家に行く前にクラウディアさんの家に寄って良い?」

 

「え、ガイア君。家に何か用?」

 

 道すがら俺は急遽バレンツ邸に進路を取る。周囲がそのことに首を傾げるが、俺は気にせずバレンツ邸の前でクラウディアさんにある物を取ってきてもらう。終始、何に使うのか分からないと言った面々の中でアンペルさんは『あぁ、確かに欲しかったな』と肯定気味に、リラさんは『アンペルになってきたな』とやや冷淡に言ってくる。

 

 ただ、リラさんには悪いが『これ』はアンペルさんらの旅においても有用な物を引き出すアイテムだ。彼女の反応も気にせず、俺達はようやくブルネン家へと向かった。

 

「おぉっ! おぉぉっ、ボオス! よくぞっ……よくぞ連れ戻してくれた!」

 

 村でもあれだけの騒ぎだったが、ブルネン家の屋敷でモリッツさんに出会った時はそれ以上だった。漫画の表現のように涙を滝のように流したモリッツさんがボオス兄さんを抱きしめ、相変わらずの子煩悩ぶりを発揮する。……まぁ、やられてる方は反応に困っているけど。

 

 ただねぇ。俺としても、姉ちゃんやアンペルさんにしてもこれではい終了というわけにはいかんのですよ。

 

「ボオス兄さんにモリッツさん 「モリッツ氏」」

 

 ──被った。年長者ファーストということで譲ろうとしたが、アンペルさんが『子供が優先だ』と言ってきたので俺はモリッツさん達に、村会で錬金術を邪な呪いとして糾弾した事実を撤回し、そして、その事実を謝罪文と共に村に貼り出して欲しいということを求めた。

 そのことに村会での俺が行った数々のことがフラッシュバックしたのか、息を詰める声を出すモリッツさん。しかし、その横でボオス兄さんが『父さん、頼むよ』と援護射撃してくれたのでモリッツさんは渋々と言った様子で俺の提案を飲んでくれた。

 

「俺も、村会での俺の発言が誤りだったことを認める。申し訳なかった」

 

「たしかに謝罪を受け取らせてもらいました」

 

「あたしも。ありがとね、ボオス」

 

 ボオス兄さんが発した改めての謝罪に周囲がじんわり温かくなる。しかし、相変わらず俺以上に空気が読めないというか、なんというか。話を終了させようとモリッツさんが出しゃばってきた。

 

「よし、これで問題ないな! いやー、この度はちょっとした行き違いでとんだ疑惑をかけてしまって申し訳ない」

 

「いえいえ。……ところでですが、ご令息を保護して連れ帰った報酬について話し合いたいのだが」

 

 アンペルさんの言葉と共に俺はバレンツ邸でクラウディアさんに取ってもらってきたアイテム──『そろばん』をアンペルさんに手渡した。それをすかさず回収したアンペルさんは、流れる手つきでチャッチャッと珠を弾いた末に今回の救助代をモリッツさんに提示する。俺も横から額を見させてもらうが、てっきり『救い料一億万円 ローンも可』と法外な値段かと思いきや結構良心的な値段にびっくりした。

 

「こ、これはちょっと……桁が多いのではないでしょうか?」

 

「タオ、命の値段を値切るってあっちゃいけないことだと思うけど」

 

「そうだね、助けてもらってなかったら全て失ってたはずだもん」

 

 少しでも値切ろうとしているモリッツさんだが、俺とタオがそれをけん制する。

 

 あれ、なんかこっちを睨んでくるけど俺達世間話してただけだよなー。ちょっと命の値段についてを言ってただけでモリッツさんのことなんかぜーんぜん気にしてないよなー。タオー。

 

 まぁ、あからさますぎたのだろう。さりげなくアンペルさんの左右に立っていた俺とタオにモリッツさんは何か言いたげだったが、その横でボオス兄さんが姉ちゃんに何かを伝えていた。

 結局、アンペルさんの提示した金額でモリッツさんが合意し、これにてボオス兄さんの家出事件が解決したと俺達は帰路に就く。

 

「あ、アンペルさん。一応、交渉の手助け賃くださいよ。俺とタオの分で」

 

「お前さん達が勝手にやったことだろう……が、やりやすくなったことは事実だな。仕方ない」

 

『やりぃ!』

 

 臨時収入が入ったことで俺とタオが歓声を上げる。まぁ、大抵はバレンツ商会やロミィさんに流れるだろうけど、お金は大事だ。……特に今の俺にとっては。

 

 あ、そうだ。ボオス兄さんが姉ちゃんに言ってたことが気になってたんだった。

 

「結局、ボオス兄さんに何言われたの?」

 

「しばらくしたら皆で裏手の離れに来てだって。ほら、あの頑丈なカギが掛けられて開けられなかったあそこ」

 

 あー、あそこか。まだボオス兄さんと遊んでいた時に探検したけど開けられなくってモリッツさんに怒られて逃げ出したんだっけ。あの一件であの近くにはボオス兄さんも立ち入らせてもらえなくなったって聞いた覚えがあるけど、何とかする手立てでもあるのかな。

 

「後はガイアに伝言。明日、タオも一緒に家に集合だってさ」

 

「ガイアと?」

 

「タオと?」

 

 俺とタオの声がハモる。俺だけだと思ったが、まぁボオス兄さんの考えもあるのだろうとスルーしておく。

 そのまま、旧市街の入り口で俺達は全員解散する。かなりの疲労感が身体を休めるように訴えかけていたせいか、ベッドに入った瞬間に俺の意識は闇に落ちた。

 

 あ……今日……の報告……まぁいっか……。

 

***

 

 翌日、俺はタオと一緒にブルネン家の屋敷の前までやってきた。いくら仲違い状態が多少緩和されても、今までいじめの対象となっていたこともあってかタオがちょっとビクついているが、俺は気にせずに大声を張り上げた。

 

「ボーオースーくーん、きーたーよー!」

 

「止めんか! 恥ずかしい!」

 

 お、ボオス兄さんが即座に出てきた。え、もっと静かに来ることは出来ないかって? 

 ハッハッハ。せっかく仲直りしたんだから昔を懐かしんで、ついね。他意はないよ、他意は。

 ハッハッハ。レバーは止めたまえ、レバーは。腹筋に力入れるの疲れるんだから止めたまえ。

 

 笑う俺にベチベチと肝臓打ちを決めるボオス兄さんだが、一頻り俺をサンドバックにした後は落ち着いたのか顔を覆い始める。

 

「ああ、もう良い。とりあえずお前達にはブルネン家の歴史やらなんやらを整理してもらうぞ」

 

「え? そんな大事な物、僕らが触っても良いの?」

 

「父さんには許可を取ってある。そもそもタオを呼んだのも、昔によく分からない文字が書かれた手記があったことを思い出したからな。解読できるなら頼みたい」

 

「俺は?」

 

「いや、逆に聞くが荷物運び以外あるのか?」

 

 あ、うん。いつものね。

 分かってたよ、力仕事要員だってことは。でもさ、あるだろ? 『お前にしか頼めないことがー』みたいなやつが。あ、ない? ……泣きそう。

 

 メソメソしだした俺と辞書を取り出し始めたタオを引き連れながら、ボオス兄さんは屋敷の奥の部屋まで案内してくれる。部屋の中には数々の蔵書の数々が床にまで散乱しており、その凄まじい埃にえずきつつもボオス兄さんは窓を開けた。

 

「すっごい量だね」

 

「あぁ、ここにあるだけじゃない。倉庫にもブルネン家の先祖が遺した物品とかが山積みになっていてな。正直、俺だけじゃ手が足りない。俺の記憶とはいえ、離れに何かあるのは事実なんだ。実際に見てから考えるよりも、ある程度推測してから臨んだ方が話が早い」

 

 予習の重要性を説いたボオス兄さんがさっそく1冊の手記を手に取って斜め読みをする。それを見たタオも別の手記を手に取り、筆者の名前のメモを取ってから斜め読みを始めた。

 そんな知恵物が2人もいる中で手記に関して俺は役に立てそうにないので、モリッツさんを強襲して複数の箱を強奪。それぞれにタオが書いた筆者の名前を書いて暇つぶしの配信をしながら整理を始める。

────────────────────

水源を枯らす戦術兵器級古式秘具があるらしい 【ライザのアトリエ】スレより

624:ガイア

 ほーい、整理始めるぞー

【リンク】

 

628:名無し

 ひゅー! 

 

635:名無し

 待ってた。けど、すっげぇ埃

 

642:名無し

 木刀とキッチンペーパーと輪ゴムで狭いところにカチコミかけるんや! イモひいとったらあかんで! 

 

650:名無し

 白い粉ぁ(重曹)もキーアイテムやからなぁ。用意しとくんやでぇ! 

 

656:ガイア

 ほとんど手記とかだけど、値打ち物っぽいものもあるなぁ

 

659:名無し

 俺らには読めないけどな。なんて書いてあるん? 

 

669:名無し

 >>659

 エロイムエッサイム、我は求め訴えたり

 

671:名無し

 >>659

 君臨者よ 血肉の仮面 万象 羽搏き 人の名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ

 

672:名無し

 >>659

 滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり 否定し 痺れ 瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ

 

674:ガイア

 破道の詠唱じゃねぇよ! 

 これは日記だと思う。多分水不足になった時かな? どうにかして汽水湖の水を飲もうと村会開いたことが書かれてる

 

675:名無し

 >>674

 あー、ブルネン家だからそんなことも書くか

 

686:名無し

 あれ、ガイア。その本調合書じゃね? 

 

689:ガイア

 どれよ

 

699:名無し

 配信画面の左

 

709:名無し

 あー、色が緑色の奴か

 

714:名無し

 行き過ぎ。ちょい右斜め上

 

724:ガイア

 これか? なんか色々書かれてるからレシピ本ってのは分かるけど

【画像】

 

727:名無し

 どっかで見たような気がする

 

728:名無し

 深緑な本なぁ。ちょっと分からん

 そもそも、どこから紛れ込んでるんだ

 

733:ガイア

 まぁ、もらっとくわ

 

────────────────────

「ボオス兄さん、この本もらっていい? 調合の本だ」

 

「なんでそんなもんがうちにあるんだよ」

 

 知らないよ。どうせ、珍しい物好きの先祖でも居たんでしょうよ。

 

 そんな感じで読み解いては整理してを繰り返していく俺達だが、やがて一つの異常に気付いた。

 

「この手記もバルバトスさんが書いてる。これも冒険についての感想がほとんどだね」

 

「ブルネン家の中にもライザみたいな人間が居たんだな」

 

 他の人物の名前の手記や日記のような物が見つかるが、ほとんどの筆者が『バルバトス』という者の名だった。『●●へ行った』や『■■の地へ行った』といった簡素な日記のような物には縮小化された地図があり、それはクーケン島を中心として様々な場所へ赴いたことが伺い知れる。

 そして、その場所で見つけた遺跡や石碑のスケッチも描き遺していることからこのバルバトスさんは冒険家……いや、逐一クーケン島に帰っているからこの場合は姉ちゃんと同じ『なんちゃって探検家』なのだろうと察しがついた。

 

 その後も整理や手記の検分などを進めていったが、この頃には部屋の一室に纏められていた物はすべて整理し終えていた。しかし、肝心の古式秘具の情報がなかったので俺達はドアからちらちらとこちらの様子をうかがっていたランバーさんを無理やり手伝わせる形で倉庫へ赴く。

 

 倉庫には先ほどボオス兄さんが言っていたように何に使うのか分からない物や地図、さらには手帳サイズの物が置かれていたが、これらは部屋の物とは逆にきちんと整理されていた。見たところ埃も被っていないので、誰かが丁寧に手入れをしていることが伺える。

 

「こっちはちゃんとしてるんだね」

 

「父さんやたまに俺やランバーが手入れをしているからな。だが、それっぽいものを手入れしているだけだから奥の方は手入れが行き届いてない物もある」

 

 ボオス兄さんが証拠とばかりに風化して読めなくなった手帳を俺に放ってくる。開いてみても擦り切れすぎて何が書かれていたのかよく分からないものなので、即座に俺は持ってきたゴミ袋代わりの袋の中にその手帳を叩きこむと作業を開始する。

 

 まずはランバーさんと綺麗に磨かれて置かれている宝物っぽい物を外に出して安全なところへ置いていく。ツヤツヤした黒い大きな卵みたいな見るからに遺物っぽい物やコアクリスタルのような古式秘具っぽいなにかなどが次々と倉庫から運ばれていくが、これは本当にブルネン家が購入したりしたものなのだろうか。おれにはどうも、あのバルバトスという人が盗掘してきたのではないかという疑いがぬぐえ切れなかった。

 

「タオ、この文字は読めるか?」

 

「うーん、一部は違うけど流星の小城にあったやつかな。召喚って文字とフィルフサって固有の文字、それを殺せっていう命令」

 

「フィルフサっていうと、あの異界の奴か? なんでまた、そんな物が」

 

「あぁ、それは多分──」

 

 俺達が肉体労働をしている横では知能担当の2人が次々と記録された内容を解読、整理していく。ボオス兄さんに了解を得てから彼の読んでいた手帳を見ると、どうやら部屋にあった手記よりもかなりスケッチや旅程といった内容が多く、恐らくだが倉庫の手帳が現場で書き記したもの。部屋にあったのが冒険から帰って新たに記録、製本したものだと思われる。

 

 そのまま考えていたことを話すと、『お前もそう思うか』とボオス兄さんも同意してくれる。やっぱ、こういうロジカル系の話はボオス兄さんに聞くのが最適解なんだよなぁ。ほんと、仲直りできてよかった。

 

「ボオス、あったよ! これじゃない?」

 

 そんな折、倉庫の奥から戻ってきたタオが地図や手帳を見つけてきた。どちらも少々掠れてはいるが読めないことはない筆跡だったのでタオやボオス兄さんに解読を頼むと、どうやら俺達がよく見る塔までの旅程と、そこに至るまでの冒険譚。そして塔で滾々と水が湧き出る秘宝を見つけたという感動の言葉が綴られていたらしい。

 

「そういえば、村が水不足になった時にブルネン家が水源をどうたらって父さんが言ってたような」

 

「モリッツさん方面からブルネン家の歴史を調査する必要があるね」

 

「あぁ、そこら辺は任せろ。ひとまず助かった、ランバーもありがとう」

 

「いえ、俺はこれぐらいしか出来ないんで」

 

 未だに何かを引き摺っているランバーさんの肩をバシバシ叩きながら『頼りにしてる』と活を入れるボオス兄さんの横で、俺とタオは一度取り出した物品などを綺麗に倉庫に仕舞い始めた。元の位置がかなり乱雑だった場所には棚を置いて綺麗に整頓し、地震が起きても大丈夫なように宝物を保管している場所には転がって行かないようにストッパーを嚙ませたりと結構な重労働だったがなんとか1日で全ての作業が完了する。

 そんなくたびれ気味の俺達のところにモリッツさんが今更やってきた。

 

「おー、綺麗に片付いておるではないか! ご苦労だった」

 

「お疲れ様です。ところで、今回の賃金はどちらに請求すれば?」

 

「俺だ、こっちがガイアでタオ。2人共、助かった」

 

 そう言ってボオス兄さんが巾着を2人分手渡してくれる。その姿を見たモリッツさんが『顔役として人を使えるようになったな』と感無量の様子だったことを良いことに、ボオス兄さんが俺やタオにひそりと『迎えに行くからライザにそう伝えろ』と伝えてきた。

 ただ、そこでアクションするとバレてしまうため、俺達は『何買って帰ろうか』と素知らぬ態度を取りながら倉庫の扉を閉め──。

 

 あれ、なんか光った? 

 

「なんか、奥の方で光らなかった?」

 

「俺からは何も見えなかったが?」

 

 うーん、気になったからもう一度中に入ってみたけど光りそうな物はないなぁ。あ、このツヤツヤしてる卵みたいなやつにランプの光でも反射したのかね。

 

 一応原因は推測出来たので、俺達は倉庫を閉めてからブルネン家を後にする。そして、そのまま数日が経過した頃。家の前にボオス兄さんが迎えに来た。




緑の本
 相変わらず某アトリエから出張の採取の友。
 どこから紛れてきた? はいはい神代、神代ってことで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。