迎えに来てくれたボオス兄さんと共に俺達はそれぞれの家へとメンバーを迎えに行き、最終的にブルネン家の裏手へ向かって歩き出す。その間もお喋りというか、ボオス兄さんがさらに調査してくれたことが皆にも共有される。しかし、目新しい発見というものはなく、俺やタオが整理していた手記などに書かれていたり、整理中に皆で考察した通りの展開だった。
俺達が生まれるかなり前、このクーケン島はかなりの水不足に陥っていたらしい。各地の水路を塞いでため池を作ったり、渇きに強くて水を吸い上げるクーケンフルーツを植えたり、汽水湖から蒸留を試したりなど、何とかして対策しようと頑張っていたのは手記からも見て取れた。
これは両親や古老からも似たようなことを聞いたことがあるので、あれらの手記に書かれていたことは本当であると言える。
ただ、そんな努力をもってしても水不足は一向に解消されなかった。数年後には枯れ果てる定めかと思われていたクーケン島だが、とある人物が台頭してくる。それが──ブルネン家だ。
ボオス兄さんから数えて数代前。バルバトスという人間が持ち前の冒険心を胸に宿し、『禁足地なぞ、決めてんじゃねぇ!』とばかりに街道の西側にある『悪魔の野』と呼ばれている場所に侵入したのである。
そして──。
「錬金術士殿、これを」
「拝見しよう」
ブルネン家の階段に差し掛かった頃。振り返ったボオス兄さんの手から倉庫で見つけた地図がアンペルさんへと渡る。開いた地図をじっくりと見たアンペルさんは地図の精巧さに舌を巻くが、それ以上の情報は出ずに島周辺のことをよく分かっている姉ちゃんへとバトンが渡る。
「えーっと、悪魔の野をこう行って……遺跡を通って……何か狭い場所……って、これ!」
「なるほどな、ボオスのご先祖様ってのは俺の目標を難なく踏破しちまってるわけだ!」
横から見ていたレント兄ちゃんが地図に書かれていた最終目的地である『塔』を指差しながら叫ぶ。手記にも書かれていたが、この塔でバルバトスさんが件の古式秘具を見つけて村に持ち帰ったことで水不足が一気に解消したらしい。
別の所に置いておくだけでも効果が発揮するんだから、モリッツさんが隠したがるわけだよ。乱暴に言えばこれ奪っても大丈夫なんだからさ。
「それよりも、まずは現物の確認だ。もしかしたら別の古式秘具かもしれん」
アンペルさんの言う事はもっともだ。
手記などにもその古式秘具はキロさんが言ったような『渦巻く白と輝く青』とは書かれていない。固有名など分かるわけがないので当たり前だが、手記には『玉コロ』や『綺麗な玉』と色んな名前で書かれているそれがオーレン族の聖地に注がれるはずだった水を全て奪った古式秘具とは全くの別物であることも思考の隅に追いやりつつ、俺達はブルネン家へと急ぐ。
「ランバー!」
「ボオスさん、予定通りモリッツさんは古老との話し合いに向かいました。門番もしばらくは俺1人なので、ごゆっくり」
「助かる」
どうやら既にランバーさんに根回し済みなようで、俺達はなんの障害もなくブルネン家の屋敷からさらに奥まった場所にある離れにたどり着く。ボオス兄さんが言うには『水生みの離れ』というらしいが、『なんて安直な』と思った俺は悪くないと思う。
「泉じゃない、あの玉自体から水が湧き出てる!」
そんな中、いち早くその水生みの離れの異常性に気づいたタオが驚愕しながら中央を指差す。彼の指先に釣られて中央を見た俺は、『これだから錬金術ってやつは』とこの世界に来てすっかり定着してしまった定型句を発した。
水というものは地面から染み出してくるのが普通だ。そんな『湧き所』が大量に集まって泉や湖、そして川となって昔の人間は生活用水を得ていた。
だが、ここは違う。離れの中央に据えられた玉の周囲から滾々と水が湧き出ているのだ。まるで無から有を生み出すかの如く、一向に枯れる気配を感じさせない勢いで流れ出る水を前に俺は真面目に考察の構えを取る。
掲示板の民が常々俺に対して言っている『蛮族』や『人間コンバイン』の通り、『あー、なるほど。不思議水源か!』と某海賊王になりきって思考停止するのも良いが、このまま雑に壊してはい、終了! とはならないはずだ。
そもそも、壊した途端に水の供給が無くなって共倒れ──というのがあり得る以上は慎重に考察をしなければならない。そう考えていたところでリラさんとボオス兄さんがアクションを起こした。
「清水を溢れさせる渦巻く白と輝く青! これがクリント王国の……」
「やっぱりそうか。これがキロやオーレン族の聖地の水を!」
リラさんの声が上がると同時にボオス兄さんがすぐそばの壁に立て掛けていたハンマーを取り出してきた。
え、なに破壊衝動に目覚めてるのこの人! とりあえず確保するからレント兄ちゃん手伝って! ……いや、放せって言っても放したらあの玉壊すやん。あんなちんけな玉でも壊したらすぐに直るとかそういう調査がまだでしょ! ……あ、落ち着いた。
ようやく気が納まったのか、ハンマーを取り落としたボオス兄さん。念のためにハンマーを遠くに置きに行っていると、なにやらリラさんが話した後にボオス兄さんが怒っていた。
「なんであんたが止めるんだよ! キロと同じオーレン族なんだろ!」
「水を奪ったのはクリント王国で、お前達の責任じゃない。それにさっきまで話していただろう? 数代前までは水不足だったと。再び村を枯らす気か?」
「そうだよ。それにそれだけじゃないと思うよ」
やりきれない怒りと共に叫ぶボオス兄さんに、リラさんは『クーケン島にとっての最悪の未来』を語ってくれたので俺もそれに便乗する。
もし、この場で古式秘具を破壊した場合、村はたちまち大混乱が起こるだろう。それどころか数代前はため池などで何とかやっていただろうが、その習慣はこの村には既にない。農作物にしてもヴァッサ麦に転向している農家も居るので、クーケンフルーツの必要量が足りないかもしれない。
ため池もなく、水分補給を目的としたクーケンフルーツも満足に用意できない状況に陥れば少なからず被害──もっと具体的に言えば死者が出る。
そして、クーケンフルーツを外部に卸せなくなったと分かればバレンツ商会は手を引いて外貨や外からの物資も乏しくなる。
「じゃあ、お前はこのまま他人の水を使っても良いというのか!?」
「そうじゃない、落としどころを考えろと言ってるんだよ! 幸いにも錬金術に詳しい人間がここに2人、その内1人は幼馴染だ。格安で頼れば良いだろ」
「格安って……」
あれ、姉ちゃん格安じゃ嫌だった? ……え、そんな訳じゃないんだったら良いじゃん。
しかし、俺の言い分が気に入らなかったのだろう。理不尽にも腹に肘打ちを打ち込んできた姉ちゃんは、改めてボオス兄さんに向き直る。
「この問題、複雑に枝分かれしているみたいだけど全て一つのことに繋がってると思う。もちろん確信ではないけど」
錬金術を使用する上で必要不可欠な『物事の流れ』を例として姉ちゃんは話を続ける。オーレン族の聖地の水を奪取から始まり、フィルフサの侵攻、塔、そして時代は移り変わってクーケン島の水不足とブルネン家の水事情。未だピースにすらなっていないが、調査を続けていく内にそれらに『繋ぎ目』が出てくるだろうと姉ちゃんが熱弁した。
「そうだな。着実に片づけていこう」
「クリント王国のやったことは許せないけど、同じ錬金術士として放っておくわけにはいかないもんね」
姉ちゃんの発言にアンペルさんが目を丸くさせるという珍しい姿を見たが、これで当面の課題が見えてきた。ここから先は姉ちゃんやアンペルさんには道具など、塔の攻略を見据えた準備をしてもらう傍らで皆はそれの素材調達などを行っていく方針となるのだが──。
「姉ちゃん、クラウディアさんの問題をそろそろ解決した方が良いんじゃね?」
「あー、そっか」
気恥ずかしそうに押し黙っているクラウディアさんには悪いが、既に彼女の行動範囲は小妖精の森だけに留まっていない。それに後衛だが前衛のブロックが間に合っていないこともあるので攻撃を食らい、それによる負傷も増えてきた。
施しの軟膏で怪我は何とかなるが、攻撃を食らったことによる衣服の傷は錬金アイテムで修復されるわけではないので、そろそろルベルトさんに隠すのも結構無茶になってきた。
「ガイア君、そんなに私を……」
「仲間外れにしないために筋を通すんだよ」
いつもは気圧されてしまう俺だが、言う時は言うよ。二度目となるが、これはクラウディアさんが大手を振って俺達と一緒に冒険出来るためにしなくちゃいけないことだ。それを欠くってことは道義に反する。
俺の説得が利いたのか、クラウディアさんが俯きながら同意してくれる。
うーん、ちょっと言い過ぎた感が否めないけどきっぱり言わないと力負けするからなぁ。
「というわけで、姉ちゃん頼んだ」
「何言ってんの。あたしは付き添いするから交渉はガイアがするのよ」
いきなり何を言ってるんだこの愚姉は。いつもロミィさんやルベルトさん、たまーにクラウディアさんから毟り取られている俺が商人相手に交渉で勝つとかできるわけがないだろ。
え? 俺ならルベルトさんから無茶ぶりされても力押しで行けるだろって? 何言ってんだい、あたしゃ農家だよ! ……あ、元農家になりかけなんだっけか。そっちの方も父さん達に話しておかないとな。
「ボオスさん、そろそろ門番が変わります」
「そうか。そろそろ引き上げてくれ」
「了解した。ライザ達も良いな?」
「うん、とりあえず今日はこれで引き揚げよう」
こうして大量の課題と共に俺達は家路に就く。ただ、いくつか──主にクラウディアさんや農家廃業宣言というどうしても解消しづらい課題に対する助力を得るために俺は今まで隠し撮りしてきた数多の画像と共に掲示板を開く。
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わりぃ、俺農家やめるわ 【ライザのアトリエ】スレより
7:ガイア
とりあえず、水関係が最低でも古式秘具頼りになる内は農業辞めるわ
後、流石にクラウディアさんの被弾が増えてきたから思い切ってルベルトさんにもう一度許可取ろうと思う
ついてはその際のなんか助言とか頼む
【画像】
15:名無し
ロミィさんとアガーテさんだ、ひゃっほう!
とりま、農家辞めるならちゃんと家族会議せんとあかんぞ
21:名無し
ガイアから農業とったら何が残るんだよ! 続けろよ!
30:名無し
>>21
ただの筋骨隆々な不審者
39:名無し
>>7
お義父さん、娘さんを僕に下さい!
46:名無し
>>7
普通に『理由は話せないけど、農業辞めたい』はだめなん?
52:名無し
>>7
あなたの娘さんを傷物にしてしまいました
54:名無し
>>46
理由はいるだろ。そうしないと『なんで?』って返されるぞ
63:ガイア
個人的には辞めるのか、休業するのかって迷ってるんだよね
69:名無し
>>63
さぱっと辞めて後がないと昔のライザみたいになるぞ
70:名無し
農家からニートに転落は流石に笑えんわ
74:ガイア
んだよなぁ。でも、他人の水使ってまで自分達の利益にしたくないんだよなぁ
80:名無し
クラウディアの件も今更だし、黙ってればバレないんじゃね?
84:名無し
くそ真面目っていうか、融通利かないっていうか。だから田舎で毛嫌いされたんじゃね?
89:名無し
>>84
やめろよ、ガイアはああ見えて打たれ弱いんだぞ
91:ガイア
わァ……ぁ……
99:名無し
泣いちゃった!
100:名無し
>>91
でか(くて)つよ(そうなやつ)
107:名無し
正直、ガイアが泣いたところで事態が好転しないしなぁ
115:ガイア
とりあえず君ら、良い案ないのかよ
116:名無し
自分も良い案出さずに相手に出させるってやな奴ムーブしてるやん
124:名無し
ないっ! 以上!
126:名無し
当たって砕けちまえ
130:ガイア
やだよ
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駄目だ。やっぱり掲示板に希望を見出した俺が馬鹿だった。仕方ない、農業に関しては父さんから外堀を埋めていくことにして、ルベルトさんには菓子折り持って当たって砕けるかぁ。
そう結論付けた俺は明日に備えてとっとと寝ることにした。
***
早朝。いつも通りに目が覚めた俺は父さんと農作業を行う。機嫌良さそうに水やりを行っている姿につい、『この水もオーレン族の聖地の水なんだよなぁ』と思っていると俺の視線に気づいた父さんが具合が悪いのかと質問してきた。
「具合は良いけど、気分は良くないかな」
「どうした?」
「父さん。俺、農業辞めたい」
俺の発言に石になったかのように固まる父さん。しかし、その後すぐに俺の周囲で忙しなく動き回りながら『本当に大丈夫か?』とか、『休みが足りなかったか?』とか、『もしかしてお小遣いが足りなかったか? すなまい』と俺にとっては的外れな心配をしてくるけど、その一言一言が申し訳なさすぎる。
違うんです、親父殿。のんきに農作業をしながら撒いていた水が他の土地の物を使っていて、それで他の土地がヤバいことになってるだけなんです。
当然ながらそんなことは言えず──。俺はただ、『しばらく休暇欲しいだけだよ』と嘘をつく。本当は古式秘具の水を使わない目途が経つまで辞めたいが、そうなると単なる甘えになってしまう。
「そうか、小さい頃からライザに代わって色々頑張ってくれたもんな。分かった、だが無理はしないようにな? 何かあったらすぐに言うんだぞ」
ニカリと笑う笑顔に俺の罪悪感がニョキニョキと伸び出す。なんだか、姉ちゃんと俺の立場が変わった気がするな。
そんな感じでちょっとナイーブになりながらも農作業を終えた俺は、姉ちゃんと共にお土産を買いながらバレンツ邸へと向かう。
すると既にクラウディアさんが話を通してくれたらしく、ルベルトさんが出迎えてくれた。
案内された書斎で振り返るルベルトさんの目力になんとなく俺は今回の交渉は失敗しそうな予感を感じたが、当たって砕けろの精神で丹田に力を入れて臨む。
「クラウから聞いてるよ。冒険についてだね」
「はい、素材の調合関係で危険なところに行く関係で再度ルベルトさんに許可を頂きに来ました」
「ライザ君もそうだが、ガイア君も信頼できる人間だと思っていたのだがな」
「申し訳ありません。ですが、既にクラウディアさんとは少なくない時間を過ごしてきました。今更、危険だから付き合いを変えてくれとは言いたくありません。それは商人にとっても同じことだと思います」
「お父さん、これはライザ達との繋がりを強化するためなの。彼女は錬金術士だから……この縁はきっと大事になる。そう私が判断したの!」
中には金の切れ目が縁の切れ目と見限る商人も居るが、一部の商人は危険だからこそ稼げると自ら鉄火場に赴く存在も居る。そのことを主軸に説得していると、クラウディアさんも人との繋がりの強化という点で助け船を出してくれた。
しかし、流石に愛娘を危険な冒険に向かわせるというのは親としてはなるべく避けさせたいのも事実。ルベルトさんは目を伏せて何かを考えこむと、『試験をするしかないな』と決心ともとれる言葉を口にする。
「お父さん、試験なんて……今更ライザ達に!」
「お前もだ、クラウ。本当にライザ君やガイア君の足を引っ張っていないのか。見極めさせてもらう」
そう言うルベルトさんが試験の概要を説明。なんでも、『ちゃんとクラウディアさんも戦力としてカウントされているのか』と『クラウディアさんをちゃんと守れるのか』の2点を主題として見るらしく、アガーテ姉さんに頼んで若手の3人と俺や姉ちゃん、クラウディアさんでのパーティで戦闘を批評してもらうとのことだ。
この人、結構よその村の人員を使うよね。……けど護り手としては訓練になるから良いのか。
「あと、よく隊商を離れる理由もそろそろ聞きたいものだな」
「お父さん、気づいて……」
「他のことはしっかりした娘がいくら注意しても同じことをしている。何か理由があるぐらいは察してもおかしくないだろう。あまり親を軽く見ないで欲しいな」
微笑を浮かべながら『あえて言わなかったんだぞ?』とルベルトさんはクラウディアさんに念を押す。なんでぃ、子の心親知らずではなくて親の心子知らずの方だったか。だったら、悪いのはクラウディアさんだな。
「承知しました。数日後に両方共解消して見せましょう」
「ライザ!」
「いんや、クラウディアさんのそれはもう披露しても良いでしょ。あまり接点のないボオス兄さんにも聞かせてるし」
「ほう、聞くということはそれは音なのかい?」
あ、ヤベ。ルベルトさんも結構察しが良いの忘れてた。ごめんて、だから叩くの止めてって。姉ちゃんもついでとばかりに鳩尾殴るの止めて? 絨毯汚しても良いの? 痛くしなければ覚えませぬみたいな暴力系ヒロインって今日日流行らないんだよ?
俺をサンドバックにわいのわいのしていると、ルベルトさんがふっと表情を緩めて話しかけてきた。
「ところでガイア君。話は変わるけど君、バレンツ商会の支部を手伝ってみる気はないかい?」
「支部って……ここですか?」
「あぁ、そろそろクーケンフルーツの販路も確立してきているからね。後は実際に我々で運んでみて、支部に人を配置して流通の流れを確かようと思っている。その支部はここを使わせてもらおうと思っているのだが、慣れるまで君がたまに手伝ってくれないかなとね」
まぁ、たしかにいきなり今までの環境からかけ離れた支部に飛ばしてパフォーマンス100%の人材とか居るわけないしなぁ。そういえば、いきなり関西に飛ばされた鈴木君も数日で関西のノリに耐えきれずに辞めたっけなぁ。
ただ、そんなに手伝ってもその人の成長にならないしなぁ。『行けたら行く理論』で答えとこ。
「そんなに手伝えないと思いますが、たまに顔見せに行きますよ」
「それは心強い。ついては……王都にクーケンフルーツを輸送する旅にも同行して欲しいのだが?」
「お父さん、それは流石にガイア君に頼り過ぎだと思うけど」
クラウディアさんが俺の多用に難色を示すが、クーケンフルーツを良く知る農家として出荷されたクーケンフルーツの状態が王都ではどうなっているのか見解が欲しいのと、少しでも品質が良い物を王都に運び込むために輸送中にやっておくべきことを手順としてまとめたいとルベルトさんが説明してくれる。
まぁ、アスパラガスみたいに収穫して数日置くと鮮度が絶望的になる物もあるしなぁ。そういうことなら島のためになるし、同行するのもおかしくはないか。
「承知しました、同行しましょう。つきましては契約書や家への説得もお任せしても?」
「あぁ、好待遇で迎えることを約束する。私としてはそのまま私の補佐として居付いてもらっても構わないのだがね。君は理知的だし、外見も交渉事に有利そうだからね」
「お父さんっ!」
クラウディアさんからの剣幕にルベルトさんは両手を上げながら降参を述べる。そのまま話が終わると、俺達はその足でアガーテ姉さんの所へ足を運んだ。試験内容にされたことに怒るかと思いきや、どうやら護り手達の扱う武具の素材や品物をその度に格安にしてもらっているらしく、アガーテ姉さんは二つ返事で了承してくれた。
「だが、本気で戦って怪我人を出したくない。ガイアは自分からの攻撃は禁止、ライザは大怪我をさせないの立ち回りや道具、バレンツのお嬢さんも同様でお願いしたい。人選や準備もあるから2日後でどうだ?」
「はーい。じゃあ、あたしはさっそく調合に行ってくるから」
まぁ、そうなるな。そうなるのは分かるけど、それだと俺は試験を行う日まで暇になってしまった。休みを頼んだ手前、農作業に戻るのもなんだかあれなのでここぞとばかりに俺は弓の訓練に精を出すことにした。
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わりぃ、俺農家やめるわ 【ライザのアトリエ】スレより
394:ガイア
なかなか当たらんなぁ
405:名無し
矢的に船で当たり判定にしない? 絶対、余波でダメージ圏内に入るから
410:ガイア
えー、だって隣でクラウディアさんがパスパス的に当ててるし……
420:名無し
ガイア、源氏バンザイというのです。そうしたら百発百中です、源氏バンザイ
421:名無し
>>410
いや、矢の大きさ違うことに気づいて……
431:ガイア
源氏バンザイって言ったら外れたし、変な目で見られたぞ。訴えてやる
437:名無し
源氏魂が足りないんだよ、鵯越の逆落としで源氏パワー補充して出直せ
438:名無し
なんか、源氏民湧いてるな
446:ガイア
あ、平家バンザイって言ったら当たった。平家にあらずんば人にあらずってことでFA?
451:名無し
>>446
は? お前、薄緑でボコるわ
462:名無し
とりあえず無心で打ちまくれ。技量は上がってるから
465:名無し
>>451
義経もネットをする時代かぁ
476:名無し
>>451
本物の義経なら有無を言わさず首狩りに行ってご主人に届けに来るぞ
486:名無し
今はどんぐらい当たってるん?
489:ガイア
>>486
五分五分ぐらい。船を入れると6割ぐらいかな
500:名無し
立射とはいえ、そろそろ実用段階かね
────────────────────
こうして2日の訓練を経て成果はようやく5割の大台に入ったぐらい。船の尊い犠牲も含めれば6割ほどか。
アガーテ姉さんは俺の命中率に褒められるが、クラウディアさんは既に的が動いた状態でも的を完全に捉えており、自分と的が動いた場合でも7割の命中率を誇っているから、未だ5割の命中率を誇れるわけがないんだよなぁ。
俺が新たに矢を作ろうとしていると、懐中時計を見ていたアガーテ姉さんが俺の行動を手で制してくる。
「ガイア、バレンツのお嬢さんも弓の訓練はそろそろ終わろう。ルベルトさんがいらっしゃるから準備してくれ」
アガーテ姉さんの声に返事をした俺達は試験のための準備に入る。俺は決して怪我をさせないために護り手の武器が入っている倉庫から鉄で隅を補強した大きな盾を持ち出し、クラウディアさんはフルートとあらかじめ家から持ってきたらしいパチンコと木の実を用意する。
「お待たせー」
準備を終えた俺達が相手役の兄ちゃん達と話していると、姉ちゃんがやってきた。……うん、とりあえずそのフラムとレヘルンはちゃんと怪我しない範疇なんだよね? てっきり、氷びしとかうにらへん持ってくると思ってたのにガチアイテム持ってくるんじゃないよ!
「おい、ライザ。それを俺達にぶつけるんじゃないだろうな?」
「俺達はガイアじゃないんだぞ?」
物々しい雰囲気なアイテムの数々に兄ちゃん達も動揺している。しかし、姉ちゃんは『大丈夫』とフラムとレヘルンを誰も居ない空間へ投げ込んだ。
すると、フラムからはポンッというコルクを引き抜いたような軽い音と共にまともに食らっても火傷が精々だろう小さな爆炎が、レヘルンからはパリンというガラスを踏み砕いた音と共にまともに食らっても霜焼けが精々だろう冷気が顕現する。
「どう? これなら安心でしょ。あたしだってちゃんと考えてるんだからね」
「たしかにその程度なら安心だな」
どうやら低品質で揃えてきたらしいそれらを持ちながらドヤ顔を決める姉ちゃんにアガーテ姉さんは満足げに頷くと、遅れてきたルベルトさんと共に広場の隅へと移動する。
「それでは、試験を開始する。全員、何度も言っているが大怪我に繋がるような危険な攻撃は禁止。特にガイアは反撃と防御のみ行ってくれ」
簡単なルール説明の後、アガーテ姉さんの合図で戦闘が開始される。
開始早々で剣を持った兄ちゃんが最速で突っ込んでくるのだが、俺はサイドステップで射線を開けるとすかさず姉ちゃんがフラムを投擲する。すると、先の効果検証で爆発範囲を見ていた兄ちゃんが爆発から逃れようと一旦足を止める──が。
「そこ!」
クラウディアさんのパチンコによって木の実が放たれる。1発目は首を傾けることで避けた兄ちゃんだが、続けて放たれた2発目が胸の中央に着弾して服に血のような赤黒い果汁が垂れる。これが矢や鉛玉なら、恐らく兄ちゃんは胸部の傷による激痛でのたうち回っている最中だろう。
「マルカノ、戦闘不能。広場から離れるため、両者止まってくれ」
アガーテ姉さんの指示で全員足を止め、マルカノ兄ちゃんは悔しそうにすごすごと広場から出ていく。その間に広場を軽く見回すが、残り2人は槍を持って等間隔で並んでいるので同時攻撃の可能性がかなり高い。
ならば、何をするのが正解か。決まっている、盾で2人の攻撃を後ろに通さずにしのぎ切る。攻撃を縛られたのならば、それ以外に全力を注げば良い。別に考えるのが面倒だったわけじゃないよ!
「よし、では再開!」
「2人共!」
アガーテ姉さんの合図と共に俺は後ろの姉ちゃん達に簡易的なハンドサインを送る。長柄武器から後衛を守るには今の陣形では心もとないからだ。
今まで両腕が当たるか当たらないかの距離感に居てくれた2人だが、ハンドサインを確認してくれたのか俺のすぐ後ろぐらいまで近づいてくれる。
その間にも槍を持った2人が俺との間合いを見る見る内に狭めていく。やがて槍の射程範囲に入ったところで1人目は正面から刺突の構えを取り、2人目は上から叩きつけるべく大きく跳躍しながら槍を振り被った。
「ふんっ!」
「せぇいっ!」
一糸乱れぬ同時攻撃とはこのことをいうのだろう。俺は見当違いの思いを浮かべつつも、刺突に対しては盾を傾けることで衝撃や軌道をずらして対処し、肩目掛けて振り下ろされる槍の柄を左手で受け止めることで逆に相手を拘束する。
今回はお遊びということで彼も流石に槍を放して徒手空拳に移ろうとはせず、ただ『放せ』と言っている。だが俺達としてはクラウディアさんの冒険もかかっているので、攻撃力について手は抜いているが戦闘にかける思いは真剣だ。放すわけがない。
「姉ちゃん!」
「うん!」
もう1人が拘束された方を救おうと突いたり薙いだりを繰り返すが、その攻撃を盾でいなしながら俺は姉ちゃんに声をかける。すかさずカバンからレヘルンを取り出した姉ちゃんはそれを拘束された兄ちゃんに投擲、その冷気に盛大なくしゃみを繰り返した。
「そこまで! このまま戦っても勝負は見えているが……アレイはどう思う?」
「いや、無理っす。壁相手に攻撃してるかと思いましたもん」
今まで攻撃していたアレイの兄ちゃんはアガーテ姉さんの質問に両手を上げて答える。あちらがアレイの兄ちゃん1人に対してこっちはフルメンバーの3人。この状態で逆転する道は俺の頭でも無理だと分かる。
一応、マルカノ兄ちゃん達の名誉のために言っておくけどあの人達は若い護り手の中でも精鋭だよ。現にアガーテ姉さんに着いていって街道の魔物討伐や対岸の見廻り、流星の古城の竜討伐にも参加した猛者だ。
ただ、今回は多分レベルが違ったんじゃないかなと思う。掲示板の民が『ライザのアトリエはレベルの概念薄い』って言ってたけど、それでもレベルという物は強さの指標だと思うから今回はそれが作用したんじゃないかな。──知らんけど!
「ガイア君に加えてあの剣士の友達やリラ殿も居られることを考えると、許可を出すのに十分か」
「私の感覚で恐縮ですが、お嬢さんを含めたこの隊でも十分に対岸の冒険は出来るかと」
アガーテ姉さんがルベルトさんに所感を伝え、最終的にルベルトさんの許可が出た。これで塔の調査に乗り出せることに姉ちゃんとクラウディアさんが抱き合って喜んでいる。
うーむ、これが『尊い』ってことなのかね。まぁ、ここで混ざって掲示板の民にグシャグシャにされるのも嫌だからクールなガイア君はさっさと去ることにするぜ。
後ろで俺に礼を言ってくるクラウディアさんに片手を上げながら応え、姉ちゃんには『道具量産しといてよ』と注文を付けてロミィさんや村の人間の手伝いしながら家に帰る流れを2日。俺達はいよいよ、あの塔へとアタックをかけた。