農家の子   作:マジックテープ財布

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16話

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【悲報】せっかく調べた内容が既に分かってた件 【ライザのアトリエ】スレより

4:ガイア

 タオとアンペルさんと一緒に導いた鍵を使う場所が既に調べられていた

 この憎しみを誰にぶつければ良い? 

 

7:名無し

 胸にしまっておいてもろて

 

18:名無し

 俺の肉染みは消えないんだ! 

 

26:名無し

 まそっぷ! 

 

35:ガイア

 てっきりその辺走り回ってると思ってたのに……

 なーんで最適解見つけてくるかなぁ! 

 

43:名無し

 >>35

 ライザは勘全振りで錬金術やってるからな

 

44:名無し

 >>35

 交通事故みたいなもんだよ

 

45:名無し

 まぁ、鍵は最初から怪しい所だと分かってたから。むしろライザの行動が正しいと歴史を紐解いて補強したと考えるべさ

 

50:名無し

 まぁ、クリエイト系の工数的には無駄かつ余計なタスクをやったことで怒られるけどな

 

60:ガイア

 >>50

 アク禁にすっぞ

 

62:名無し

 >>50

 うぐぅ

 

72:名無し

 >>50

 心臓が早鳴る……これが……恋? 

 

77:名無し

 >>72

 トラウマです

 

84:名無し

 効いてるやつワラワラで草

 

90:名無し

 逆に効かないやつとか居ないのでは? 

 

94:ガイア

 もう良い! 寝る! 

 

105:名無し

 おやすー

 

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 次の日。

 一旦アトリエに戻ってきた俺達は、改めて姉ちゃんが調べてきたこととタオ達が調べたことで見落としがないか共有する。だが残念なことに見落としはなく、ただ姉ちゃんが調べてきたことの理由をタオ達が解読した記録や手順で補強するという無駄な徒労となってしまった。

 

「鍵は合っているはずなのに動かないというのが解せんな」

 

「見た目的には壊れているようには見えないんだけどなー」

 

 塔から持ってきた鍵をクルクルとひっくり返しながらじっくりと見る姉ちゃんの横で俺も確認するが、たしかに欠けや傷は見当たらない。それに魔力……というのだろうか、何かを動かそうとする力が強く感じられるので鍵自体の能力が喪失したわけではない。

 どうしたものかと皆で悩んでいると、レント兄ちゃんとクラウディアさんが手を挙げた。

 

「ライザ、鍵っていうわけだからさ。鍵穴が潰れてるんじゃねぇのか?」

 

「私もそう思う。鍵って鍵穴に差し込んでから捻って錠前を外すものだし、そう考えると今は鍵穴にぴったりはまっているだけなんじゃないかな?」

 

 なるほどね。錠前タイプならば錠前を外す機能……内部のピンを押し上げるんだっけか? それがなければ開くことはないのは道理だ。

 ただ、この鍵は姉ちゃんの使い方から照らし合わせると嵌め込み式。前世でいうカードキータイプと似たような物だろうか。その使い方を倣えばカードキーから発せられる信号が端末に受信出来なければ作動はしない。どっちにしても鍵のなにがしかを扉に伝える必要があるのかな。……マジで知らんけど。

 

 まぁ、クリント王国が滅んで数百年は経過している。そこまで品質が保証されていないというのは考えに入れておくべきだった。錬金術っていっても万能ではないってことだな、反省。

 

「つまり、鍵の力を石碑に伝えるよう修復する必要があるね」

 

「そうだね。だけど、修復じゃなくて現在でも使えるように改良する。……が正解かな? 私の考えとしては補助器具と同じく、仲介する機能を使おうと思ってる」

 

「なるほど、鍵の力を仲介物を通して石碑に伝える……か。それならば可能かもしれない」

 

 相変わらず錬金術師達の議論の内容についてはちょろっとしか分からないが、出来るのならば後は取り組んでもらうだけだ。その為の素材採集は出来るけど、こういう時に錬金術も使えたらサポートできるんだろうなぁ。もうちょっと錬金術が使える仲間が増えねぇかなぁ。こう……ダース単位で。

 

 しかし、無い物をねだっても仕方がない。素材採集のお呼びがかかるまで俺はバレンツ邸からリヤカーを返してもらってシンシアさんの学び舎や古老の家を回って本を返して回る。その際に事前にタオから翻訳した内容を清書した紙を見せたことで、シンシアさんから『この島の教科書に加えるのはどうかしら』という打診、古老からは『そういう認識も』あるのかという知ったかぶりそうな反応を頂戴する。

 まぁ、翻訳したのはタオなんで詳しくはそっちにお任せします。と早々に退散させてもらったが、改めて思えばタオの知識も趣味の範疇を超えて来たよな。

 

 『好きこそものの上手なれ』とは誰が言った言葉だったか、タオはまさしくそれを体現している。このまま行けばクリント王国のことを調査する博士とかになるのだろうか。気になるところだが、俺は過去に色々口酸っぱく言ってしまっているのでまたしても進路についてギャイギャイ言って関係性を崩したくない。

 

「お、ガイアじゃないか。空の荷車なんか引いてどうしたんだ、ライザと一緒じゃないのか?」

 

「子供じゃあるまいし、そんな四六時中居ないよ。さっきまでタオが解読した本を返しに行ってたところ」

 

 村の中心を歩いていると、ちょうど見回りしていたらしいボオス兄さんとランバーさんに出会った。空っぽのリヤカーに着いて尋ねられ、古老達に見せていた紙を渡しながら俺は経緯を説明する。

 最初こそあまり興味がなさそうな表情だったボオス兄さんだったが、唐突に『これをタオが解読したのか?』と尋ねてくる。

 

「あぁ、アンペルさん……あの錬金術士の人も手伝ったけどね。ほとんどタオがまとめて清書してるよ」

 

「そうか。……あいつ、こんなことも出来たんだな」

 

 なにやら考えながら呟くボオス兄さん。その頭で何を考えているのかは全然分からなかったが、突然『ありがとう、よく分かった』と紙を返してくれる。なんのこっちゃ? 

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【悲報】せっかく調べた内容が既に分かってた件 【ライザのアトリエ】スレより

206:ガイア

 なんか、タオが解読したメモを渡したらボオス兄さんが訳あり顔し出したんだけど

 

209:名無し

 あー、この段階で既にフラグ立ってたのか

 

216:名無し

 >>206

 2のフラグ。ちなみに2の舞台は王都だよ

 

223:名無し

 おや、舞台の開示でも削除されないんだ

 

234:ガイア

 ほへー、そうなんだ。ちなみに俺も王都に行くんだぜぇ? すごいだろ

 

236:名無し

 知ってる

 

242:名無し

 ルベルトさんの手伝いだろ? 知ってるよ

 

251:名無し

 バイトに行くだけなのにイキる田舎者って感じだな

 

262:ガイア

 君ら酷くね? 

 

266:名無し

 良いからライザの手伝いしとけよ。時間ねぇぞ

 

270:名無し

 素材探すなり、栽培するなりして手伝ってやれ。農家だろ

 

278:名無し

 悪いようにはならんから、目の前のことだけをやっておけ

 

282:ガイア

 ほんと酷くなぁい? まぁ良いや、アトリエ行くわ

 

292:名無し

 >>282

 ちゃんと弓の修練もするのよ

 

295:名無し

 せやな、ああいう武芸はサボったらすぐに錆びるからな

 

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 ほーん、別段悪いことにはならんのか。なら良いや。

 さてと、用事も済んだから掲示板で言ったようにアトリエの畑の整備でもしますかねっと。最近、鉱石類がよく収穫できるんだけど、あれは収穫と言えるのだろうか。それとも採掘と言い直した方が良いのだろうか。うむむ……、分からん! 

 

 後の計画を頭に思い浮かべながらも俺はアトリエの扉を開ける。すると、姉ちゃんとクラウディアさんがリラさんに詰め寄っている姿が見えた。

 

 ふむ、これは……。俺が行くと余計に面倒になるパターンだな、俺は詳しいんだ。

 

 ただ、このまま待機するのも時間がもったいない。虎児を得んとなんちゃらって言葉もあるし、ここは正面から行こう。それしか能がない。

 まぁ、こんな図体だからミスディレクションみたいなことは出来ないが、ボス級の魔物の傍を通り抜けるようにその場に居ることが自然な空気感を出していればバレないだろう。

 そんな思いでゆっくりと扉をあけながら用具入れを目指すと、思惑通り彼女達はお喋りに夢中になっているのでその隙に俺はゆっくりとした動きで歩いていく。

 

「お願いします。私達も戦う女性としていろいろ学ばせてほしいんです!」

 

「ですです」

 

 俺は今、何を聞かされているのだろうか。いや、立ち聞き中だからこちらがマナー違反なのは重々承知しているが……。

 

 その後も話は続く。姉ちゃんの言い分は冒険をする以上、ある程度は女性のたしなみというやつを捨てなければならないそうだ。

 考えてみればそうである。冒険中に所謂『女子力』といった女っ気は不要以外の何物でもない。むしろ、そんな力とは真逆の『野武士力』が重宝される。

 言うなれば休日に一人でニンニクたっぷりの餃子をビールで流し込み、こってりラーメンで〆て爪楊枝片手に颯爽と退店する潔さであろうか。その観点から見れば姉ちゃんはまだまだ甘いと……いや、なんでもない。

 

「キレイだのなんだの……どうでも良いことだろう。アンペルにも、そんな注文はされた覚えがないぞ!」

 

「それはアンペルさんがおかしいだけです!」

 

 用具入れから鍬と手袋を回収していると、クラウディアさんの反論が届いてきた。

 

 クラウディアさん、あんた仮にも護衛してもらった人に結構言うね。男の俺が口を挟むわけにはいかないけど、『もっと小綺麗にしたらどうだ』とか言ったら最後。何らかのハラスメントだからね? 

 まぁ、そんな物はこの世界にはないだろうけど女性によっては気分を害してそのまま冷戦状態になるんだから、安易におかしいとは言わないで欲しいな。

 

 ──でも、リラさんと四六時中居るのにそういった感情は芽生えないアンペルさんは枯れているとしか思えないというのは同意する。ほんとあの人、何歳なんだろ。

 

 なんだか後ろからすごいプレッシャーの余波を感じる。その後、『秘訣など知らん!』と言い捨ててリラさんが出て行き、ようやく普通に通れると用具入れを閉めて後ろを向いた時──2人が立っていた。

 

「ヒェッ」

 

「乙女の悩みを立ち聞きする悪い弟は誰かな?」

 

「悪い子……悪い子だわ」

 

 そう言うなら邪魔にならないところでやってもらいたいというのが本音だが、ここで正論を言うと余計にこじれるのは前世も込みで身に染みてる。意識している時に積極的に直していこうという精神で平謝りすると、『邪魔だったらちゃんと言ってよ』と案外怒っていないらしい。

 

 だからであろうか、俺はついつい余計なことを言ってしまった。

 

「つかぬことを聞くけど、2人は今より美しくなってどうするん?」

 

「ガイア、それは喧嘩を売ってるの?」

 

「うん、流石にそれは駄目だよ?」

 

 ぶっちゃけ今の状態でも十分綺麗なのにモデルでも目指すのかと問いたかったのだが、どうやら一言余計どころか全体的に言い方をミスったらしい。このまま行くと湖に放り込まれて魚の餌になりそうな気配をひしひしと感じるゆえ、俺は覚悟を決めた。

 

 対上司で勉強したおべっかの練度ならば、小娘2人など鎧袖一触と言わせてもらおう。

 

「まずは姉ちゃん!」

 

「なに?」

 

「姉ちゃんの健康的な肌は手入れをしなくても十分に綺麗だよ。なので、特に痩せる必要もなければ運動する必要もない! 総合すると俺目線では十分に美しい! これで醜い言った奴は目潰しの後に鼻に指突っ込んで背負い投げするレベル! 分かった?」

 

「あっ……うん、ありがと」

 

 うしっ、怒気が薄れた! こういったことは勢いに任せて褒めておけば良いって父さんも言ってたからな! 

 よし、次ぃ! 

 

「次にクラウディアさん!」

 

「は、はい!」

 

「滑らかな金髪! 活発ながらも儚げな雰囲気と合いまった美貌! なにより物腰柔らかい性格! それに手を入れるなんて、馬鹿も休み休み言って欲しいレベルです! あなたは十分に美しい! それは変わりようがない事実です!」

 

「あ、ありがとう」

 

 爆弾解除! もう少しでうやむやに出来る。後は速やかに脱出するだけだ。

 なんだ、やれば出来るじゃないか。

 

「それでも不安なら、姉ちゃんだったらそういった化粧品は作り出せるじゃん。ちゃんと用法用量守れば良いだけだと思うんだよね。じゃ、俺は畑行ってくらぁ!」

 

 自分でも驚くくらいの速度で扉から出てしばらく土弄りをしていると、どこからともなくアンペルさん達がやってきた。どうやらさっきの様子を窓から見ていたらしい。

 正直、口々に『怒られて叩きだされると思っていた』と言っていた彼らに制裁を加えたかったが……。まぁ、良いだろう。爆弾処理をした解放感で吾輩は少々寛容になっておるからな! 

 

「しかし、あんな誉め言葉。どこで覚えたんだ?」

 

「ガイアがライザのことを綺麗っていうのは初めてだよ」

 

 まぁ、姉ちゃんは奇麗だよ。掲示板の民の言葉だけど、伊達に売り上げが急上昇したタイトルの主人公してないっていうし。こことは違う世界の知識を持った俺でもあれで平凡は喧嘩売ってるとしか思えない。

 

「まぁ、普段の性格があんなのだからね! まぁ、色々サボったらその分だけ苦労するけどね! ハッハッハ……あれ?」

 

「ガイア、お前さんは本当に学習しないな。相変わらずの詰めの甘さだ」

 

 皆が頬をひきつらせて黙る中、アンペルさんがそれだけ言ってレント兄ちゃん達とどこかへ行ってしまう。最後のアンペルさんのセリフが気になったので体を傾けて彼を探すと──。

 

 おや、おやおやおや。2人共、そんなシャベルなんてお友達を作るのに最適な道具を持ち出し……や、やめろぉ! 

 

 それから間もなくして、俺は農地の近くに上半身だけ出して植えられた。下手人は言うまでもなく、女傑2名と面白そうなことをしている雰囲気に誘われた新たな女傑1名。女が3つで姦しいとはよく言ったものだ。

 また、三つ子の魂百までという諺を聞いたことがある。どうやら俺の変な性格と口や顔に出やすい癖はこの先も悩まされることになるんだろうなぁと、俺は土の感触を味わいながら涙を流した。

 

***

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【悲報】せっかく調べた内容が既に分かってた件 【ライザのアトリエ】スレより

571:ガイア

 昨日、畑に埋められた。ピエン

【画像】

 

576:名無し

 お母さん、変なのが埋まってるよ

 

578:名無し

 近くにノコギリおいてたら完璧だった

 

588:名無し

 これが新手のピク●ンかな? 

 

592:名無し

 >>588

 紫以上の怪物になるわw

 

602:名無し

 で、なんでこんなことになったんよ

 

611:ガイア

 なんか、リラさんに姉ちゃん達が美容の秘訣を聞いてたんよ

 その横をすり抜けて用具を取りに行ってたら盗み聞きされたと思われてね

 

620:名無し

 ほんと、学習しねぇな。こいつ

 

624:名無し

 前世でなにを学んできたんだ。君子、危うきに近寄らずって言葉知らんのか

 

627:ガイア

 いや、その場は何とかなったんだよ。ちゃんと綺麗だって褒めたし

 でも、家から出たら男連中に『褒めれたんだ』って言われたからちょっと気が緩んで……ね

 

632:名無し

 >>627

 んで、いつの間にか聞かれてて埋められたと

 馬鹿だな

 

636:名無し

 バーカ

 

639:名無し

 おたんこニンジン! 

 

649:名無し

 情けない奴! 

 

652:名無し

 ドン引きです

 

658:ガイア

 みんなしてひでぇや

 大人しく埋められるのと引き換えに激写した3人の太もも画像がいらないと申すか

【画像】

 

661:名無し

 >>658

 犬とお呼びください

 

671:名無し

 >>658

 流石農家の子! 話が分かるな! 

 

676:名無し

 >>658

 天才! 

 

683:名無し

 >>658

 しかし、太いな

 

686:名無し

 で、今日は何してるん? 

 

696:名無し

 あぁ、昨日って言ってたから今日は別のことしてるのか

 

697:ガイア

 >>686

 俺が埋められてる間に出来た鍵を試しに行くんだとさ

 

703:名無し

 結局、昨日ずっとピク●ンしてたのかよw

 

714:名無し

 頭に花を咲かせてそう

 

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 結局、錬金術で出来上がった鍵をトレッペの高台の碑石に嵌め込んだら階段が出てきた。

 

 今更なこと思ったんだけど、これって接触不良だったからじゃないの? どっかのゲームみたいにカセットや差込口をフーフー吹いたら動きそうな気配がするんだけど。

 

「空気が汚れているかもしれない、私が先導する。レント、撤退タイミングは任せる」

 

 過去のメモリーはさておき、石碑の下にあった階段を下り始める。どうやらこの世界にも洞窟や閉所でよくあるような空気の循環が悪くて酸欠を起こすなどといった現象はあるらしく、そのため感覚が鋭いリラさんが先頭を行ってもらう。

 すぐ後ろにはレント兄ちゃんを配置。いつでもリラさんを回収して撤退出来るという盤石な布陣なので、俺は左右の壁をタオやアンペルさんと見ながら最後尾を歩いていく。

 

「そういえば、うちの書庫って整備関係の本がほとんどだったんだよね」

 

「あー、だから儀式の手順とかあったのか」

 

「タオの家系は島の手入れをする役割を任ぜられていたのかもしれんな」

 

 たしかに俺が持ってきた古老達の本は歴史書が多かった。どこどこに遠征やら、どこどこから何をもってきたか。そして、フィルフサの侵攻に対しての避難計画。逆にタオが書庫から持ってきた物は建築理論や実際の図面が描かれている本ばかり、アンペルさんはそこからタオの先祖を考察したのだろう。

 

 ん? そうなると、タオの家がこの島の実質的な指導者なんじゃね? ほら、クーケン島の整備が出来るってことは生殺与奪的な物を握ってるものだし……。

 

「んじゃあ、この島の全てを掌握できるってことか。タオ様って呼んでいい?」

 

「良くないよ! ……どのみち、僕はそんな島を掌握なんかしたくない。ただ、先祖が何をしたのか知りたいだけなんだ。だから、本の整備できるのならばそれを分かりやすいように編纂してブルネン家に任せようと思ってる」

 

「随分と欲の無いことだな。一気に島自体の支配者になれるんだぞ」

 

「アンペル。若者を揶揄うのは止めろ、年寄り臭いぞ。それに……、タオ様の御前だぞ」

 

 先頭のリラさんも会話に混ざってくる。ふざけていることから魔物も居ないのだろう。

 タオが『リラさんまでー』と文句を言って場が笑い声に支配されるが、しばらくするとタオが急に黙ってしまう。本当に気に障ったのかと俺が謝ろうとすると、彼はポツリと『昨日、ボオスに王都の留学に誘われたんだ』と零した。

 

 うーん、ボオス兄さんそう来たかぁ。たしかにタオの知識をさらに発展させるなら、大学とか蔵書が豊富なところで研究させた方が良いよなぁ。

 でも、ボオス兄さんがタオのことを知って将来を考える機会って……昨日のあの会話とメモだけだよな。即断即決ってレベルじゃねぇぞ! そもそも学費とかどうするんだろ。

 

「学費とかどうするの?」

 

「試験の結果で特別待遇がされるみたいだから、それを受けてみろって。手続きもまだしてないけどね」

 

 ほーん、こっちの世界でもそういった特待生みたいな風習あるんだな。まぁ、考古学の研究がされているならクリント王国の文字や言い回しの説明が出来る時点で他の人間の数歩は前に進んでるだろうから大丈夫だろうな。

 

 なんかちょっと悲しそうな雰囲気を出している姉ちゃんはともかく、俺達はそのまま黙々と階段を下り続ける。長い長い石段を下っていくと、唐突に目の前が開けて見るからに神殿といった内装が姿を見せた。

 間違いなく人の手を介して作られた人工物だが、その大きさに俺を含めた全員がクリント王国の錬金術のすごさを再確認する。

 

 姉ちゃんやアンペルさんの錬金術を何度も見てきたが、そのどれもがこの建造物の前では児戯のようなものだと思えてしまう。いったい何人の錬金術師が……。いや、錬金術師も含めて何十──何百──何千の人間が動いたのだろう。

 学に疎い俺でも学術的興味がそそられるが、一旦は横に置いておこう。今は奥に進むことが──。

 

「お、宝箱だ」

 

 うむ、宝は重要だ。後ろで盗掘者を見ているような涼やかな視線を感じるけど、これが錬金術的に大事なパターンがあるでしょうがぁ! ……ってこれ。

 

「アンペルさーん、これってあの土地生みのなんとかってやつのボトルじゃないっすかね」

 

「そうだな」

 

「そんなに見つからないものって言ってましたよね?」

 

「ここがクリント王国の民の避難所だったんだ。少なくともあり得ない話ではないな」

 

 さいですか。ま、錬金素材の確保が楽になったと思えば良いか。

 

 他にも色々素材を調達しながら奥に進むと、今度は中央に紅くて丸い物体が置かれたすごそうな装置が姿を現した。それを見たタオが我先に飛び出していき、まるでクラリネットが入ったショーケースを眺める少年のような目をしながらその装置と繋がっているっぽい装置に手を添えて弄り出している。

 

「察するに、ここが島を制御する中枢なのだろうな」

 

「爆発しなけりゃ良いけど」

 

「ガイアって爆発好きだよな」

 

 レント兄ちゃん、俺が爆発好きってわけじゃないからね。姉ちゃんがよく錬金アイテムでボンガボンガしてるから、『錬金術 = 爆発』だと思ってるだけだよ。だから錬金術の産物であるこの制御装置の制御をミスったら爆発すると思ってたわけで、そんな不審者を見つけたような目で見ないでくれる? 

 

「どうでも良いが、そろそろ事情を聞きたい。ガイア、タオをこちらに引き戻してやれ」

 

「うす」

 

 姉ちゃんが大声でタオに呼び掛けてはいるのだが、一切聞こえていないっぽい当の本人はそれを無視。肩をすくませたアンペルさんが親指でタオを指すので、俺は短く返事をすると未だに捜査を続けるやつの首根っこを掴む。

 

「うわ! 何するんだよ、ガイア」

 

「何度も呼び掛けてるんだぞ。いい加減、何がどうなっているのか俺達に説明する義務があると思うんだが? あ、マジで分かりやすく頼むわ」

 

 いや、本当に分かりやすく頼む。俺達は別に学者仲間じゃないからな? そこら辺ちゃんと汲み取って欲しい。

 

 俺の懇願が分かってくれたのか、結構分かりやすい説明をタオがしてくれた。

 端的に言えば、ここがクーケン島の中枢であることがはっきりした。タオの家にあった本にこの中枢を動かす装置の手順も記されていたらしく、そのことから彼の家がクーケン島の維持や管理を任されていたというアンペルさんの推測がドンピシャで当たったことがついでに分かった。

 

 ただ、管理をしていたと言っても現状がどうなのかはこれから調べるようで、アンペルさんと一緒に装置とにらめっこしていたのだが……。

 

「まずい、これはまずいぞ」

 

「あわわ、どうしよう。どうすれば……」

 

 自分でも言いたくも無ければ、他人から聞きたくもない言葉ランキング上位に位置する言葉が聞こえてくる。さらにその嫌な言葉を補強するかのように、時間に比例して彼らの顔がだんだん青白く……アンペルさんに至っては死人のそれと同じような顔色へと変化していった。

 

「俺、聞きたくないから外に出てて良い?」

 

「ダメだ」

 

「ダメだな」

 

「ダメだよ」

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

 そんな敵の潜水艦を発見した時のお家芸みたいに言わなくても良いじゃん。

 

 俺が総スカンを食らっていると、アンペルさんとタオがようやく装置から目を離してこちらを向く。相変わらずの顔色の悪さだが、彼らの口からその顔色に見合う情報が飛び出してきた。

 

「以前、この島で起こったことは全て潮流が関わっているといったな?」

 

「えーっと、外海からの魔物の侵入。魚の減少は魔物の影響だから違うかな? それと水没坑道の潮位だっけ」

 

「それ以外もだね。地震や水没区画、あとはガイアが言ったように魚の減少も……かも」

 

「地震ってアンペルさんやクラウディアが来る前もあったじゃない」

 

「水没した区画も昔からあるだろ」

 

 俺の言葉をタオが補足してくれているが、今回のことだけではない部分に姉ちゃん達が指摘する。どちらもクーケン島に長く住んでいたら経験することで、今回の潮流には何も関係がないように思えたのだ。

 

 ただ、ここで俺はあることを閃いた。──いや、閃いてしまったのだろう。

 アンペルさんが言っていた潮流の変化。これが全ての原因ではなく『要因の一つ』であるならば、どうだろうか。地震も、クーケン島の一部が水没したのも潮流が原因と思っていた『真の原因』の仕業だとすると……。

 

「もしかして、潮流に変化が起こった真の原因とかあったり?」

 

「察しが良いな、ガイア。この島自体が動いているのが原因だ」

 

「はぁ? 島が動いているなんて……そんなことが」

 

「この島自体が動いてるって、船みたいな感じですか?」

 

「船……良い得て妙だね、この島は陸で繋がってない。湖に『浮かんでいる』んだ」

 

 うわー、想像以上に大事になってますやん。

 なら、あれか? 錨みたいなのとかで島を固定とかした方が……いや、そんな余力はこの島にないぞ。国に頼るのか? 

 

 様々な考えが俺の頭を駆け巡るが、先ほど以上の衝撃を与える事実がタオの口から発せられる。

 

「最初は固定されていたんだと思う。でも、今は動力が切れかけて動いていないどころか、沈みかけている状況なんだよ!」

 

「それって何とかできないの!?」

 

「なんとか出来るならやってるよ! 全然分からないんだよ!」

 

「はいはい、一旦ストップ。アンペルさん、アトリエ戻ろう。大きな紙を用意して情報共有……大事でしょ?」

 

「分かった。私の方も現状をお前さん達に理解できるよう頭でまとめておこう」

 

 ヒートアップする姉ちゃんとタオを引き剥がし、俺達はアトリエへと帰る。

 

 この島の燃料ってなんだろう。石油だろうか、それとも精製されたガソリンだろうか。

 レギュラーでいけるかな。いや、ハイオクの方が良いんだろうか。ちゃんぽんは……駄目だろうなぁ。

 まぁ、真面目に考えると錬金術の類なのは確かだし、姉ちゃんに任せれば何とかなるか。

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