農家の子   作:マジックテープ財布

21 / 30
17話

 対岸のアトリエに移動した俺達はテーブルに敷いた大きめの紙を鬱屈とした気分で見ていた。

 ブルネン家が保有する水源。塔の役割。クーケン島とそこに住む住民の秘密。そして、それらすべての元凶と大元の問題。一見すると山積みそうな問題の数々だが、思いのほかシンプルに片付きそうだとアンペルさんが言う。

 特に大元の問題である動力の補充。それが解決すれば、タオの知識で元に戻して今まで通りとなるだろうというのがアンペルさんの見解であった。

 

「その動力の補充は燃料ですか? それとも動力炉自体の交換ですか?」

 

「動力炉自体だな。大きなエネルギーを内包した物質をクリント王国の錬金術で変化させた特別な物だ。私もクリント王国の錬金術を追ってきたが、そういった物は把握していない。おそらく長い時を経て失ってしまったのだろう」

 

「錬金術ならあたしやアンペルさんで頑張れば……」

 

「ライザ、錬金術には他にも必要な物があるだろう。……無いんだよ、素材が」

 

 変化する素材がなければ錬金術はただの知識だ。そんな圧倒的手詰まり感に全員が打ちひしがれていると、リラさんがため息をつく。どうやら彼女には打破する手段があるのだろう。

 

 ただ、リラさんの話は端的に言えば『クリント王国と同じやり方をしろ』であった。クリント王国がオーレン族を排除してまで異界に拘った理由である錬金術に最適な素材が未だ異界に眠っている。それでもって故郷を救えというのだ。

 

「なっ! オーレン族のことを知った以上はそんな……クリント王国のようなことが出来るかよ!」

 

「ならばどうする? 対岸に村を作るよう説得するか? それともそのまま放置を決め込むか?」

 

「そのまま放置した場合、水没区画が増えて最終的に島が沈むぞ?」

 

「それどころか流されている途中に岩礁があったらそれこそおしまいだよ」

 

 レント兄ちゃんが言いたいことを言ってくれたが、リラさん達から代替案を出すように言ってくる。

 

 対岸に村を作り直す? 生活基盤だって一から作り直さなければならないのに、魔物どころかフィルフサも居る環境を守り手だけで防ぎきれるわけがない。そもそも村の人間がこの話を信じるわけがない、無理だ。

 このまま静観する? 古老や父さん母さんは良いとしても、俺達が古老の歳になって島民で心中は御免だ。それにボオス兄さんが古式秘具の水をオーレン族に返すといった以上、静観は無理に決まっている。

 ボオス兄さんと言えば、昔にブルネン家のプライベートビーチみたいなものもあるとは聞いたことがある。そこに行くのも──無理だな、既に漂流中なのにどうやって向かうというのか。除外だ。

 

 俺が考える中で3つの案は自分自身のツッコミによって見事に潰された。残る道は──。

 

「異界を探そう」

 

「ガイア、お前あれだけクリント王国の仕出かしたことを「それしかないんだよ!」」

 

 あらん限りの声でレント兄ちゃんの声を遮った俺は自身が考えた案とそのデメリットを伝える。最初こそレント兄ちゃんが『俺か親父がやる』だの、リラさん達を雇うといった別の案も考えてくれたが、それらについての反対意見を述べると奥歯を噛み締めながら引き下がってくれる。

 

 俺だってこんなこと言いたくはないんだよ。だけど、村の現状や立地的にかなり難しいんだよ。説得も時間がかかるし、アンペルさんもリラさんも旅ガラスだから長くこの場所には留まれない。

 商人も現状だからこそロミィさんとかの行商人やルベルトさんといった商会を持っている商人が居るのに、現状を変えて1から何かをするのはリスクが高すぎるんだよ。

 

「うん、心苦しいけどそれしかないんだったらやるしかないよ」

 

「あぁ、お前達の故郷を救うためだ。むしろ上手く活用して欲しい」

 

 どうやら話が異界に再び赴くという事で纏まったようだ。ならば次は準備を──と言ったところで珍しくタオが俺達に着いて来て欲しいと言ってきた。なんでも例の地下で見せたいものがあるらしい。

 ここで掲示板の民ならどっかの映画のセリフを言うところだが、俺は色々弁えている紳士。ゆえに黙ってタオについて行った。

 

 よし、とりあえず配信しながら行ってみるか

────────────────────

クーケン調査隊【ライザのアトリエ】スレより

47:ガイア

 なんか、タオが見せたいものあるからっていうから配信

【リンク】

 

57:名無し

 >>47

 俺達に何か見せてぇんだろ

 

67:名無し

 >>47

 へへ、ストリップかな? 

 

68:名無し

 無言のロケットランチャー

 

79:名無し

 今日はコマンドーから開始か

 

87:名無し

 で、いつもの中枢部と

 

92:ガイア

 え、これ水の浄水装置なん? 

 

95:名無し

 あー、たしかに人工島ならあるか

 

103:名無し

 確か次はこれ直すんだっけか

 

104:名無し

 あ、浄水とか真水の意味知らないのか。この2人

 

106:名無し

 うわ、ガイアが浄水の意味を説明してる。めっちゃレア

 

109:名無し

 ていうか、なんやかんやってなんだよ。浄水なんだから電気分解とかあるだろ

 

116:名無し

 >>109

 蒸留かもしれん

 

126:名無し

 >>109

 ここはもっと高度な奴っぽく、水分子のみを取り出すよう濾過とかあるやん

 

136:ガイア

 がいあ りけい わからない こぶん なにそれ

 

143:名無し

 あ、忘れてた。こいつ農筋だった

 

145:名無し

 前世の知識活かせよぉ! 

 

155:ガイア

 船漕いでたから分かんない

 

159:名無し

 >>155

 馬鹿だw馬鹿がいるwww

 

170:名無し

 >>155

 なんのために学校行ったんだよw

 

174:名無し

 おい、この中で就職の幅を広めるとか『そういった考え』を持って勉強し、なにも遊びに費やさないくっそ真面目なガリ勉生活をして順風満帆な生活を送っているやつだけ石を投げよ

 

182:名無し

 ……ッスゥー

 

191:名無し

 ウッス

 

200:名無し

 ……デモナイッス

 

206:名無し

 友達なんか必要ねーし……。テストで一番だったし……。飲み会とかダリーし……。

 

212:名無し

 >>174

 ワールド・ブレイカー攻撃するモンスター召喚するの止めよ? 

 

217:ガイア

 はいはい、この話やめ

 とりあえず農業できることは分かってほっとした

 

218:名無し

 王都でやるとか言ってたもんな。安心したべ

 

────────────────────

 なにやら失礼なことを言われた気がするが、これはかなり良い報告だ。動力とこの装置が直ればクーケン島はあるべき水源を取り戻す。つまり、俺の農業生活も復活するというわけだ! 

 

「いやー、ここで農業できるなんてタオ大明神には足向けて寝れませんわ」

 

「ガイア君、本当に農業が好きなんだね」

 

 いや、ぶっちゃけ俺には農業ぐらいしかまともに食っていけるビジョンが見えないというかね。商人なんてした日には詐欺られて終わりそうだし。それならば土をこねくり回した方が良いってなもんですよ。

 

 そんなことを話していると、タオが何かを思い出したかのように手を叩く。

 

「そうだ、ボオスにも知らせておかないと。ガイアはその間にうちの書庫の本を床に置いといてくれる?」

 

「えー、俺だけかよ」

 

「だってボオスに会って話すだけだよ? それならガイアには重労働してもらった方が良いかもって」

 

 ここぞとばかりに肉体労働を押し付けてくる鬼畜眼鏡。まるで交渉事や報告ごとに合わないかのように言ってくる愚か者の両足を持って憤りのままにぶん投げたかったが、今の奴は玉体と同義だ。大人しく指示に従ってやろう。

 

 そうと決まれば早く行動すべきだと俺達は地下から出ていく。一度決まったら後は早いものだ。道すがらブルネン邸の門を叩く姉ちゃんらを横目にタオの家へ直行。彼の両親に挨拶と来た理由を話しながら書庫へ突撃し、そのまま棚の上の本などを床に下ろしていく。

 

 ぶっちゃけ本を何冊も上から下にするだけではそんなに重労働ではないんだよな。まぁ、タオのあの身長ならばさもありなんって感じか。

 さって、思いのほか早く済んだし……流し読みで挿絵から当たりつけてみるか。掲示板の民の力を借りれば見落としも少なそうだしな。

────────────────────

クーケン調査隊【ライザのアトリエ】スレより

257:名無し

 本読むわよー! 

【リンク】

 

264:名無し

 >>257

 お姉さま、全然分からないわ! 

 

267:名無し

 なんて書いてあるん? 

 

276:名無し

 すまねぇ、そっちの言葉はさっぱりなんだ! 

 

283:名無し

 わがんねぇよぅ。何書いてんのか、さっぱりわがらねぇ

 

294:ガイア

 皆、安心しろ! 俺も分からん! 

 なので、挿絵のみで浄水装置の部品についてあたりを付けたいんだ

 

301:名無し

 >>294

 いちぬけー

 

311:名無し

 >>294

 zipも貼らずにスレ立てとな!? (AA略

 

322:名無し

 >>294

『能力』には『対価』が必要だぜぇ

 

333:ガイア

 >>322

 え、本の端折るとタオに怒られるからやだ

 仕方ねぇなぁ。タオの書庫

【画像】

 

338:名無し

 >>333

 クッソいらねぇけど、前のこともあるから手伝うよ

 あ、ガイア。それ部品じゃない? 

 

343:名無し

 >>333

 いらん! 

 結構、挿絵載ってるな

 

353:名無し

 色んなページ見たけど、ほとんど歯車っぽいな

 これなら人力で装置動かせるんじゃね? 

 

355:名無し

 >>353

 浄水装置も歯車だっけ? ちょっと調べてみる

 

356:名無し

 たしか、ギア形式だったはずだから嚙合わせるところに介入すれば手回しできるんじゃね? 

 

367:ガイア

 動力が別になるわけ? 

 

375:名無し

 >>367

 ちゃうちゃう、補助用の手回しを作って実験しようって話

 仮に直っても浄水装置から流れたきれいな水が水道管通るわけやん? 

『一切手入れしていない』水道管を

 

384:名無し

 >>375

 うぼぇ! 

 

390:名無し

 >>375

 色々詰まってそうだし、掃除とか水道管の把握名目で試運転か

 

394:名無し

 >>390

 イグザクトリー。たしかだけど、原作そのまま流してたし

 

397:名無し

 まー、途中から水生みのなんちゃらで流してたところを経由してるって言っても……なぁ? 

 

402:名無し

 そこまでがヤバそうだし、動かせるなら水質とかそこら辺も見た方が良いかもね

 

────────────────────

 うーん、やっぱ読めないと全然分からんな。挿絵も何に使われたのか分からんとなぁ。

 おっと、専門家が来てくれた。後は任せるとしますか。

 

「ごめん、遅れた」

 

「あー、本見てたから気にしないで。んじゃあ、後は任せるわ」

 

 タオの合流によって解読は彼に任せ、俺は読んだ本を隅に追いやる作業に入る。次から次へと読まれていった本を纏めては上の棚へと納めていき、それでも時間が余ったので再び重要な挿絵がないかを確かめていく。

 水のような描写があった時などは特に念入りにタオに調査してもらうが、どこにも浄化装置の話は乗って無かったので書庫のどこかに落ちているのだろうと俺が腰を上げる。

 すると──。

 

「あった! これだ!」

 

 叫んだタオは俺が反応する前に本を持って出かけてしまう。だーから、分かったからって隣に居た俺に言わずに行動すんなっつってんでしょうがぁ! 行先は……あの地下か! 

 

 転がりそうな勢いで駆け下り、そのまま奥へと向かう。すると、タオが動力と思われる赤い球が浮かんでいる装置の周囲にあるタオが言うには浄水装置を前に本とにらめっこをしながら何かを指差し確認していた。

 

「タオ!」

 

「あ、ガイア。ほら、これ!」

 

 悪びれもせずにタオが本を見せてくる。その中には浄水装置の図解と思われる図画注釈付きで乗っているのだが、俺はクリント王国の言葉を学んでいないので全体の1割ぐらいしか分からなかった。

 しかし、部品の内容的に歯車が連動していることは辛うじて分かったので、タオに頼んで浄水器が完全に停止しているのを確かめてもらう。

 

「え、何するの?」

 

「登って破損状態を確かめる」

 

 動力がまだあるうちに機能停止しているのなら、どこかが壊れている可能性が高いのは当然だろ。それに俺も歯車に身体や手が巻き込まれるのを喜ぶような奇特な趣味は無いから、絶対に動いてないか確認してね。……した? よし、じゃあいっちょやりますか。

 

 効果あるのか分からないが様式美として手の平に唾を吐きかけ、俺は浄水装置を一気に登り出す。クーケン島は前世の都会に比べて自然豊かな村なので、子供の遊びには木登りが普通にある。

 しかも金属で出来ているために安定した出っ張りもあるため、それを頼りにするすると昇って行った俺は歯車を1つ1つ確認していった。

 

「一番下は傷なし。次、大丈夫。次はー……小石噛みこんでるな」

 

「ガイアー、気を付けてよー」

 

 タオの声を適当に返事しつつ、歯車と歯車の間に挟まった異物を丁寧に取り除きながら歯車自体を軽く叩くといった点検作業を続ける。

 

 でっかい歯車だと歯車自体の強度と回転する際の出力で岩とか人間ぐらいは潰せるんだけどね。あー、某怪盗が活躍する映画のトラウマが蘇った……。これ以上考えるのは止めとこ。

 しかし、結構硬いな。これはやっぱり錬金術で生み出した合金なんかねぇ。そうなると姉ちゃんやアンペルさんが苦戦しそうだけど……っと。

 あ、やべ。配信止めるの忘れてた。

────────────────────

クーケン調査隊【ライザのアトリエ】スレより

741:ガイア

 ごめん、配信止めるの忘れてた

 酔う人はブラウザバックよろしく

 

751:名無し

 大丈夫、膀胱と胃は既に空っぽだから

 

760:名無し

 酔う……。急激な視点変更系は酔う

 

769:名無し

 高いの怖いよー! 

 

780:ガイア

 死屍累々ですわぁ

 >そっとしておこう

 

783:名無し

 しかし、実際に見ると本当に歯車だな

 

793:名無し

 おいおい、叩くな叩くな。ズレたらどうするんだよ

 

795:名無し

 この構造なら手動動力を介入とか出来そうやな

 

797:名無し

 スルスルと昇ってやがる。さすゴリ

 

802:ガイア

 さて、おわったしさっさと降りるか

 

806:名無し

 >>802

 ちょいちょいちょい、そこ亀裂走ってる! 

 

809:名無し

 いや、そこのギア! 亀裂亀裂! 

 

813:名無し

 おい待てェ、失礼するンじゃねぇ

 

816:ガイア

 うわ、マジだ。結構深いなこれ

 

825:名無し

 >>816

 ほんまこの農筋は……

 

827:名無し

 >>816

 なんでよしって言ったんですか……

 

836:名無し

 >>816

 君、とりあえず始末書な

 

────────────────────

 人の目は時に偉大だ。半ルーチンで点検してたゆえに見逃していた異常を発見し、感謝の書き込みをした後に俺はタオに歯車の位置を下から数えた番号で伝える。そのまま最後まで登っていき、他に損傷がないことを確認したので下まで降りると、タオが本を開きながら駆け寄ってきた。

 

「1本目、点検完了」

 

「ガイア、君が言ってた部品ってここであってる?」

 

「あってるあってる。ここの……この辺が欠けてた。現場猫怖え」

 

「げんばねこ?」

 

 作業に携わる者達から毛嫌いされる怪異の名前をはぐらかし、配信も問題なく流れていることを確認してから続けて2本目の浄水装置に取り付いた。大量の人の目によるダブルチェックどころか数多のチェックが歯車に向けられ、少しでも異常があれば掲示板が騒ぐので俺が別の角度を向くことで異常かどうかを再び確認する。

 

「タオー、こっちもだ! 下から5番! 噛みあってないから動力繋がらんわ」

 

「分かったー」

 

 こうして2本目の点検も完了。位置は異なるが、歯車1つの破損が原因だった。

 同じ感覚で3本目──となったが、1本目や2本目と同じなので割愛。結果的に3本それぞれに1個ずつの歯車の破損で動力が伝わらないというのが俺とタオの見解である。

 

「合計3つか。ライザに作れないか聞かないとね」

 

「あの姉ちゃんのことだから寸法の考えはないと思うし、スケッチと寸法をちゃんと測らないとな」

 

「ガイアって設計とか工学関係勉強してたっけ? あの部品の力のことも結構理解があったし」

 

 言えねぇ。『歯車は前世でたまに見てた』なんて言えねぇ。

 なので、『変な部品は見ただけでなんとなく分かった。寸法は大工の真似事手伝ってた』とはぐらかしたから大丈夫だろう。

 

 ひとまず巻き尺のようなものを安定のブルネン家から借りてきた俺は再び浄水装置の前に戻り、歯車の直径やそれぞれの部分の大きさを浄水装置にしがみつきながら必死に測量しながらそれをタオに連携する。歯車ごとに大きさも違うのでかなり骨が折れたが、おかげで寸法が綿密に取れた。

 これならば姉ちゃんに頼んでも似たような歯車が作れるだろう。

 

「こんなもんか」

 

「そうだね。でも、ちょっとずれてるかも」

 

「同じ材質でヤスリ作ってもらって削れば良くね?」

 

 丁度門の警備をしていたランバーさんに巻き尺っぽい物を返した足で俺達はアトリエへと向かう。すると、既に皆アトリエでそれぞれ好き勝手に過ごしていたのでタオがこれ幸いと部品についてを話し出した。

 案の定機械全体の原理について分からないと言う姉ちゃんだが、作ってもらうのは部品なので原理について把握する必要はない……と思う。ただ、俺もタオも部品を構成する素材は『頑丈』であることを指定した。

 

「なんで?」

 

「長年使う必要がある物は頑丈に作る必要があるんだよ」

 

「擦れて削れたり、錆びて破損しやすくなったりね。その辺も考えて作ってくれると良いかな」

 

 そう考えると品質はかなり高くないといけない。そこも含めて俺もサポートを行うとしよう。……間違っても品質低い順番から提出しようとしたらすぐに止めれるぐらいには。

 

 そこまで考えていると、俺の頭が少し前の書き込みを思い出す。あの大きさ的に無謀だとは思うけど、『やってみる価値はありますぜ』と緑のヘルメットを被った謎の男が頭の中で親指を立てていたので、彼に従って提案をしてみた。

 

「なぁ、タオ。あの浄水装置って人力で動かせない?」

 

「うぇ!? 無理だって」

 

「え? え? どうしたの?」

 

 慌てるタオや何も分かっていない姉ちゃんを一旦放置し、俺は大きめの紙に適当な浄水装置のスケッチと人間の絵を描く。

 俺が分かったのは歯車で動かし、歯車を連結させて増大させた力を用いて浄水装置を動かしていることだけだ。掲示板の民が言うには『水の分子だけを透過』とか『濾過』とか小難しいこと推測を言っているが、まぁ詳しい理論は『なんやかんや』で良いだろう。なんやかんやはなんやかんやである。

 

 それよりも大事なのは動力だ。その動力が現在は止まりかけているので、必然的に歯車は回すことが出来ない。ならば、それを外部から回し続けることで疑似的に浄水装置を動かせるのではないかという考えだ。

 当然、全てが片付いた後ならば人力の部分は取り外せば良いし、仮に成功するならば水の品質を調査出来る機会にも恵まれる。良いことずくめなはずだ。

 

「たしかに良い案だ。だが……」

 

「回せるかは未知数っす。だからタオに装置を考えてもらおうかと」

 

「いやー、流石に工学は本で学んでるけど……本番はまだ……」

 

 ただ、タオの消極的な考えが問題だった。本で学んだ知識を実践できるとはいっても操作方法が分かるだけ。そこまで至るのもすごい話だが、作り出すのはまだ試していなかった。

 見るからに複雑そうな歯車の制御に介入して力を伝える機構を考えるのには力不足だというタオ──だが。

 

「そろそろ私がライザに教えることもなくなってきたからな。水がちゃんと出ることの確認もしなければならんし、手伝ってやろう」

 

「アンペル、顔が笑っているぞ」

 

 ここで最高の援軍が名乗りを上げた。錬金術も使えるクリント王国の資料を読み漁ったアンペルさんならきっと何とかしてくれる。

 こうして浄水装置を修理する部品を錬金術で作り上げる傍らで人力で何とかできないか検討する班が立ち上がるが、どちらも専門家が居る以上は俺の出番はないだろう。

 

「浄水装置はライザ達に任せるぞ」

 

 そうなれば、戦闘メインの皆や暇しているクラウディアさんがリラさんに連れられるのは仕方のないことで。訓練をするならば武器を摩耗させるのも仕方のないことで……。

 

 つまり、何が言いたいかというと──弓が折れた。結構丈夫に作ってもらった弓のはずなのだが、それはもう見事にボッキリと。

 ここまで言えばわかると思うが、弓柄という握る部分を境にへし折れてしまっているので本格的に新しく作る必要がある。正直に言えば先に壊れるならば弦の方だと思っていたので、『使い方が悪かったのか』と結構落ち込んでいたりする。

 思えば暇があったら湖の誰も居ない方角に矢を放ったり、弦のみを引いて修練していた気がする。そう考えれば練習台になってくれてありがとうとお礼を言っておくべきだろうか。

 

「折れたか。だが、これでようやく基礎は固まったな。後でライザに頼んでしっかりした物を作ってもらえ。それまでは腕の動きだけの練習をしておけ」

 

 先ほど壊れてしまった弓も結構しっかりしていた気がするので、『あれ以上に!?』とは思ったがたしかに塔だのなんだので良い素材も結構拾っている。やってやれないことはないのだろうと少々時間をおいてから姉ちゃんに『後で良いから新しい弓ちょーだい』と安易に強請ったらちょっとキレられた。

 

「あのね、あたしって今結構忙しかったりするんだよ? それを弓を作って欲しいって? しかも、この前作った以上のをホイホイ作れると思ってるの? 錬金術だって魔法じゃないんだよ。ちゃんと考えないといけないの、分かる?」

 

 うん、分かるよ。今、忙しいんだよね。だから後で良いって言ったんだよ。だから、ちょっとオブラートに包んで欲しいかな。結構ガチ目の剣幕で怒られたから、ちょっと泣き……もとい、雨が降りかけてるよ。

 え、レント兄ちゃん。雨降ってないって? いや、雨だよ。雨。

 

「ライザ、何やってんだよ」

 

「わぁ……ぁ……」

 

「あ、ごめん。言い過ぎた」

 

「こうしてみるとガイア君ってほんと弟に見えるんだよね」

 

「精神的には僕らよりも結構しっかりしてるんだけどなぁ。ちょっと色々言われ過ぎるとすぐにああなっちゃうんだよ」

 

 タオや、君もひたすらもっともな言い分を食らいながら説教されてみ? 自分の情けなさと申し訳なさですぐ泣くぞ? 

 少なくとも上司からは結構泣かされた俺からしたら、さっきの姉ちゃんの怒り方は弱点にどストライクだった。心の弱さは守れないどころか、ガチガチに固められた装甲に有効弾を決められたぐらいの衝撃だ。小さくて可愛い者のような泣き声を上げても許して欲しいな。

 

「随分偏屈な怒られ方に弱いんだな、ガイアは」

 

「根が善良で真っ直ぐだからな。反抗できずに相手が正しいと思い込んでしまえば脆いものだぞ。そんな若手が上に潰されるところをよく見たものだ」

 

 あの、そのことはこれ以上話さないでもらっても良いですか? 結構心臓にクるんで……。

 

 錬金術師の職場のブラックさ加減にちょっと気分が悪くなったのはさておき、姉ちゃんも言い過ぎたと弓を後で作ってくれるそうだ。ただ、寸法などを気にして調合しなければならないために今は静かに調合させてほしいと言われたので、俺は出来上がったばかりの『超鋼ギア』の特性の中に『大きな破壊力』というものがあるのをぐっと喉に押し止めた。

 

 まぁ、ぷに特攻や範囲ボーナスとかをつけるよりは良いけどさ。破壊力はどうなんだろう。

 しかし、品質100超えか。材質も加工が難しいスタルチウムはともかく、在庫が満載で処理に困っていたコベリナイトを使ったにしてはがなり頑強っぽいし、これなら半世紀ぐらいは持つんじゃね? 

 

「これで最後……っと。よしよし、コベリナイトを使ったにしてはかなり頑丈そうだね」

 

「島の命運に在庫処理の鉱石使うなって言っても良い? そもそも分かってるんなら取らなくても良いじゃん」

 

「大量に必要とか言われたらどうするのよ!」

 

「そうだぞ、ガイア。錬金術は素材との勝負だ。十全に準備していないと余計な手間がかかるんだ」

 

 駄目だ、この錬金術師共。素材のことしか頭にない。せめて、使わなさそうな品質低い奴とか変な特性持ってる奴とか捨てさせれば良いのだが、もったいないと止められるんだよなぁ。

 はぁ……。また折を見て選り分けしながら捨てに行くか。こういう時、品質や特性がある程度分かるのは助かるよ。

 

 コンテナを開けて大量にある品質の低い素材達を適当に隅っこに追いやる俺を他所に、姉ちゃんはレント兄ちゃんの手を借りて次々と超鋼ギアを作っていく。

 

「よし、3つ! これで良いのかな?」

 

「後、これもお願い。アンペルさんと一緒に手で動力を伝えれるようにする装置だよ」

 

「強度的にはその"超鋼ギア"と同じ材質が望ましいな」

 

 何やら何枚もの紙が広げられ、それを中心にタオとアンペルさんが話している。

 

 もう設計図出来たのか。あれだけ自信なさげに言ってたのに作れるじゃないか。

 えーっと、どれどれ……。硬そうな棒状のハンドルと色んなギアが入った箱。それに浄水装置の動力が繋がるのね。んで、その横には人状の何かがハンドルをぐるぐる回すスケッチか。これは手回し発電機の要領かな? 

 だけどさ、一つ聞いていい? 

 

「これ、どれぐらいの力で回せるの?」

 

「それが全然分からないんだよ。クリント王国の工学的にはこれで兵士が数人がかりで回せるってあったからさ」

 

「試しながらになるな」

 

「安心しろ、回せなかったら私が回す」

 

 いや、リラさん。フンスとドヤ顔決めるのは良いけど、何時までも村に居られないでしょ。

 うーん、でも水質調査ぐらいならば良い……のかな。分かんね。

 

 とりあえず設計図通りに作ってもらう傍らでリラさんやレント兄ちゃん、タオと一緒に出来立てホヤホヤの超鋼ギアと同金属で作ったヤスリを持ってクーケン島の中枢へと向かう。

 まずは一旦取り外したギアを置いていき、そのギアの寸法に合った超鋼ギアと交換する。重量物を背負ったままの作業だったので大変だったが、最初に寸法を確認したのが功を奏したのか多少のヤスリがけのみでぴったり嵌ってくれて助かった。

 後は動作チェックだが、これはタオにしか出来ないことなので声を掛けようとすると、彼は既に制御装置で作業を行っていた。素早くなったなぁ。

 

「じゃあ、動かすよ。島を浮かべている装置に影響が出ないよう最小限の力で……それで動きが確認できるように……」

 

「うーい」

 

「もし、失敗したらどうなるんだ?」

 

「ライザに伝えてもう一度作ってもらうしかないだろう。原因を理解する必要があるが」

 

 動力から発せられる甲高い音やタオの独り言を聞きながら、すっかり蚊帳の外な俺達は話を続ける。

 

 なぜなに分析とか報告とか、ほんと苦手なんだよなぁ。まぁ、最悪タオや掲示板の民に丸投げすれば良いか。……っと、音が止んだな。

 

「タオ、音が止んだけど。どうしたん?」

 

「成功したよ。さっきの音は所謂、動作不良の警報みたいなものみたい」

 

 あー、なるほどね。動作不良を音で知らせてくれてたのか。んで、直ったからその警報が鳴りやんだと。つくづくクリント王国の超技術は理解はできるけど、どうやって作ってんのか分からん物だらけだわ。

 だが、これで問題は動力だけになったかな。姉ちゃんには辛い問題だろうけど、逆に言えばこれさえクリアしてしまったら後はどうとでもなるはずだ。

 

 アトリエに戻った俺達による浄水装置の動作が確認できた報告に『ついに来ちゃったかぁ』と、現実逃避代わりなのか浄水装置を手動操作するための部品を作り続ける姉ちゃんに向かって俺は密かにエールを送った。




そろそろ風呂敷を畳む時が近づいてきた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。