農家の子   作:マジックテープ財布

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18話

 浄水装置の問題も解決したまでは良かったが、残る動力の問題は中々解決に漕ぎ付けることは出来なかった。

 正直に言ったら増長する恐れがあるために言えないとアンペルさんが言っていたのだが、姉ちゃんの錬金術の素質は天才肌のそれらしい。既にアンペルさんと肩を並べるほどの技量を持っているとのことだが、そんな姉ちゃんの腕をもってしてもクリント王国の錬金術は生易しいものではないとのことだ。

 

「遠目から見ると魔石だけど、クーケン島の森に生えてるものと全然違う。例えるなら、ギュッと凝縮したような感じかな」

 

「なら、魔石を複数圧縮するのはどうだ?」

 

「それでも足りないと思う。そもそも、島1つを何とかする動力をその辺の魔石で賄えないだろうし」

 

 浄水装置が直ってから数日、姉ちゃんは例の中枢に行っては動力炉を見て漠然としたイメージをより綿密に固める作業に入っており、その後ろで俺とタオは浄水装置を手動で稼働させるための装置を組み立てる毎日を送っていた。

 

 そんなやることが明瞭としているのに道筋が中々見出せない日々が続く中、件の門の調査に出ていたアンペルさんとリラさんが血相を変えてアトリエに入ってくる。どうやらフィルフサの方が先に行動を起こしたらしい。

 かつてない慌てように俺達も即座に準備をして門の前に行くと、最初に門を発見した時に戦ったような二足歩行でサソリのような鋏や尾をもった白い化け物が周辺を観察していた。

 

「やつは"空読み"だ! 気を付けろ!」

 

 奴の正体を叫びながらリラさんがいつものようにファーストアタックを決め、レント兄ちゃんが後に続く。攻撃によって僅かに体勢を崩したところで、盾を構えた俺が後衛で準備をし始める皆の間に割って入ることで鉄壁の布陣を築き上げた。

 途端、尾が盾に衝突するが異界や塔の素材で硬度を上げた盾は伊達じゃない。ステップを踏みながら全ての攻撃から後衛を守る傍ら、姉ちゃんやアンペルさんの錬金アイテムでの援護やフルートのデバフが空読みと呼ばれるフィルフサに向かって飛んでいく。

 

 非常に良いペースで戦闘が続けられるが、それでも相手も軽快でなかなか近接攻撃では有効打を与えられない。なので、防御を担っていた俺も前へと踏み出す。

 前は敵の強さがあまり分からなかったから威嚇をすることでこちらの脅威度を伝えてタイマンに持ち込んだが、今回は既に知っているためにそんな無駄なことはしない。いつものように殴り付けるだけだ。

 

「おらぁ!」

 

 リラさんとレント兄ちゃんの攻撃の合間に近づいた俺は、精神エネルギーが具現化したような掛け声で空読みの胴体に拳をぶつける。手応えからどうも外殻を砕いたらしい、口から液体を漏らしながらうずくまる空読みの首に向けて俺は組み付いた。

 柔道の絞め技の要領で首を圧迫──いや、へし折る勢いで腕に力を込める。脅威となる鋏や尾も組みついた時にレント兄ちゃんとリラさんが抑え込んでくれているので後は腕と足に力を込め……ゴキリという破壊音を鳴らしながら首をへし折った。

 

「アガーテ姉さんから教わったのがこんなところで役に立つとは思わなんだ」

 

「いや、アガーテ姉さんも流石にこんな化け物に使うことは想定してないと思うよ」

 

 昔、アガーテ姉さんから『護身術』と柔術染みたことを習っていて良かった。既に事切れたフィルフサについてリラさんが改めて検分するが、当初の彼女の読み通り空読み──斥候の後に這い出て現地の空の状況を読み取って共有する特殊な個体だという事が分かった。

 つまるところ、フィルフサ側にクーケン島周辺が乾季となって攻めやすい状況ということを察知されたというわけだ。さらには斥候の情報も連携されていることも考慮すれば、俺達が通ってきた水没坑道の中も天敵である水気が引いて新天地に赴けるようになったという相手側にとってのボーナスタイムも完備されている。

 

「そんな……一体どうすれば」

 

「ひとまずアトリエに戻るぞ。詳しい作戦はそこでたてよう」

 

 ただ、今は門の前という何時フィルフサの後詰が這い出てきてもおかしくはない場所に留まっている。その為、一旦アトリエまで戻ることを指示したアンペルさんに従って俺達は一目散に後退を始めた。

────────────────────

【悲報】クーケン調査団Part2 【ライザのアトリエ】スレより

781:名無し

 最近ガイア来ないなぁ

 

784:名無し

 せやね

 

788:名無し

 ついにくたばったか? 

 

797:名無し

 少し前に上水装置直してたから、今頃忙しいんじゃない? 

 

807:名無し

 >>797

 話的にもそろそろ忙しくなるしな。こっちに来る余裕もないんじゃね

 

808:ガイア

 皆、ごめん。遅くなった

 

818:名無し

 きちゃあああ! 

 

826:名無し

 よう相棒、まだ生きてるか

 

835:名無し

 待ちかねたぞ、少年! 

 

840:ガイア

 一応、これまでの記録をつらつら書いていくな

 ・浄水装置は直ったけど、動力部はまだ手がかりすらもつかめない

 ・なので、俺とタオが浄水装置を動かすための機構を作ってる横で、姉ちゃんは動力部の研究ちう

 ・門の様子を見に行っていたアンペルさんとリラさんが空読みっていう種類のフィルフサを発見したと報告してきたから、俺達も応戦しにいく

 ・(物理的に)締め上げた結果、やっぱり空読みと言われる特殊個体で大侵攻が目前である

 ・どないしよ ←いまここ

 

849:名無し

 まだ動力部は研究中か。その間に手動で動かせればいいが

 

850:名無し

 結構ラスト付近か

 

854:名無し

 >>849の言う通り、早めに手動で動かして動作確認と水道管の掃除は終わらせときたいね

 

860:名無し

 >>840

 物理的に締め上げたってどういうこと? 

 

862:名無し

 お、ガイア来てる

 

871:名無し

 >>860

 そりゃぁ、『吐けぇ!』とか『かつ丼、食うか?』したんじゃね? 

 

879:ガイア

 いんや、物理的に首を締め上げてそのまま折った

 

890:名無し

 >>879

 ひえ……

 

895:名無し

 >>879

 どこのグラップラーだよ

 

900:名無し

 >>879

 ちゃんと武器持って戦いなさい! 

 

904:ガイア

 言い訳させて? 盾で殴っても効かなさそうだったから拘束目的でやったのが上手いこと極まったから、そんままアガーテ姉さんの言った通りにやっただけだから

 ほんとは失神させるつもりが、元気良すぎてちょっと力加減間違えたけど

 

913:名無し

 テカゲン ムツカシイヨ

 

918:名無し

 アガーテに責任転嫁するんじゃねぇよ! 

 

926:名無し

 誰だよ、こんな化け物生み出したの

 

934:ガイア

 ワァ……ァ……

 

942:名無し

 >>934

 今回ばかりは擁護出来んわ。フィルフサを身体破壊とかやべぇわ

 

944:名無し

 ちくわ大明神

 

953:名無し

 とりあえず、大侵攻に対してどうすっぺ? 

 

955:名無し

 大侵攻ってあれでしょ? 波のようにフィルフサが襲ってくるんでしょ? 

 詰んでね? 

 

959:名無し

 >>955

 なーに、1人5万を目標に戦えば大丈夫っしょ

 

 ────────────────────

 誰だよ、どっかの将軍みたいなこと言ってるやつ。リラさんはやれるかもしれないけど、俺はパンピーだから無理だっつーの。

 ただ、大侵攻が目前まで迫っていることは事実だし、今回は活動範囲が大きい。ガチで対策をしないと行商人にも被害が出るし、ルベルトさん達もクーケン島から出られないのは確かだ。

 

「一旦、対策を列挙していくぞ。反論はその後だ」

 

 すると、アンペルさんが大きな紙を準備しながら全員を集める。中心に『大侵攻対策』と書き、その横に『クーケン島に引き込もる』といった案を1つ書き出した。

 

「なっ! アンペルさん、それは駄目だ!」

 

「レント兄ちゃん、ひとまず案を出し尽くしてから反論しよう。今は質よりも数を出すべき」

 

 ブレインストーミング。個人やグループ内で意見を出しながら、新しいアイデアを生み出す手法だ。チームの協調性を測る上では結構大事で、就職活動の際にもこういった手段を用いることがあるって人事部の田中さんが言ってたなぁ。

 まぁ、実際の会議だとアイデア出しもクソもないアレな職場だったけど。

 

 そして、こういった手法でご法度なのが『出された意見を否定すること』である。否定することで案が出し辛くなり、最終的に消極的な案しか出ないまま議論に入って行くことになるのだ。

 そういったことを避けるため、俺は『反論禁止』を言い渡すと共に『門の周辺に堀を作る』といった対策を書き連ねる。

 ただ、数人だけというのもアレだということで掲示板の民にも配信。メガフラムで地形破壊などの物騒な物を弾いて極力俺が考えそうなことを紙に書き殴っておいた。

 

「門の破壊は……どうだ」

 

「是非は後で話す。書いておけ」

 

 反論を言った手前、ちょっと委縮してしまったレント兄ちゃんもすっかり発案者側となり、少しすれば大きな紙に埋め尽くさん限りの対策が紙の上に書き並べられた。結構な量が書き記されたことによる達成感もそこそこに俺が司会として声を上げる。

 

「タオ、書記よろしく。じゃあ、纏めるよ」

 

「頼む」

 

 アンペルさんの同意も得たことで、俺は最初に大侵攻の概要を話す。既に耳タコだろうが話し合うのに情報の齟齬が生じるのを避けるためだ。時間がかかろうが、この認識共有だけはやっておきたい。

 フィルフサのこと。乾季のこと。習性のこと。様々な事前情報を話していき、最終的にフィルフサの親玉である『蝕みの女王』という個体の支配域の近く──オーレン族の聖地に門が開いてしまったことで認識共有を締めくくる。

 

「認識共有も終わったことで……。門関係は封印と破壊、どちらが良いんでしょうか」

 

「封印だな。以前、破壊を選んだが……散々な目に遭った」

 

「私も封印派だ」

 

 苦虫をかみつぶしたような表情のアンペルさんとリラさん。なんでも、破壊した際は門に込められた莫大な力が周囲に開放されて甚大な被害を被るらしい。以前、門を安易に取り壊した際は森林の一部が根こそぎ吹き飛ぶような爆発に見舞われ、一部が禿げ上がったらしい。

 

 うむ、『禿げ上がる』で一部の民が暴走しているが、ステイステイ。リラさんの画像上げるから。

 

「魔力を制御して解放する方向を向けることは? 汽水湖の方に向けるとか」

 

「解析する時間がない。その間に大侵攻が始まってしまうぞ」

 

 デスヨネー。まぁ、そういった破壊関係はあとで知識を蓄えてもらうとして、現状で俺達が取れることは門の封印ぐらいしかないことが分かった。

 ただ、その封印作業も繊細な作業の連続であり、アンペルさんもそれにかかりっきりとなってしまう。いつ大群が襲ってくるかも分からない緊迫した状態ではまともに作業が出来ないことを彼は零した。

 

 そうなってしまうと、『戦う』しか手立てがない。

 

「それでは門は封印。だが、大侵攻までには間に合わないということで決定。次の対フィルフサ系の案を纏めます」

 

 やはり皆も門をどうこうする方針は諦めているのか、フィルフサとの戦いを想定した案はかなりある。奴らにとって大敵な水を使ったあれこれから、純粋に数が足りないので護り手の招集。どれも有用そうに思えるが、フィルフサと長く戦ってきたリラさんの考えはそうではなかった。

 

「堀や放水は駄目だ。奴らは大勢で攻めてくる。多少の堀や放水では仲間の死骸を埋め立てに使ったり、傘に使ってくるぞ」

 

「なら、アガーテ姉さんや護り手の皆を招集すれば……」

 

「無駄に死人を増やしたいのか。斥候でも最初のお前達では太刀打ちできないことを忘れたのか?」

 

 それなんてBE●A? なんなの、頭脳級とか居るの? XM3を誰かが作るの? 

 

 ともかく、そんな物を前に多少の増員は物量的にも構成要員のレベル的にも焼け石に水なのはわかった。今更、地獄のパワーレベリングや錬金術は全てを解決する理論で水増しする暇もないし。

 あれだけたくさんあった候補がリラさんの快刀ともいうべき切れ味を前にほとんど消し飛ばされる。思わず『あれだけあった案が……ほぼ全滅!?』と白い悪魔と相対した軍属のような妄想が頭を駆け巡る。

 

「あの水を生み出すアレを今すぐ壊すのはどうだろう」

 

「お勧めはしないな。既に女王が目と鼻の先で軍勢を進ませているんだ。それを壊して水を元通りにしても勢いは少ししか弱めることは出来ないだろう」

 

「代償としてクーケン島は水源地を失う。それが何を意味するかは分かるはずだ」

 

 タオの発言にアンペルさんとリラさんが首を振りながら否定の言葉を述べる。水源地を代償に完璧ではなく僅かな足止めにしかならないのだとすると、これを採用する勇気は俺達にはなかった。

 

 そうやっていく内に案は次々と潰されていき、残った案は2つとなってしまう。

 

 一つは昔のようにクーケン島でじっと大侵攻が終わるまで留まっていること。

 仮にこれが決定した場合、クーケン島の周辺は古城や塔のように文字通りの荒れ地となってしまう。人の営みは尽く刈り取られ、終わった後の復興など数十年単位の事業となってしまうだろう。

 ロミィさんを含めた行商人の安全に対しては申し訳ないが知らぬ存ぜぬを決め込み、クーケン島だけ生き残れば良いという自分勝手な言い分を島民全員が呑めばそれも一つの考えではあるだろう。

 

 だが、これを選択した場合の問題は他にもある。

 

「アンペルさん、仮に大侵攻が再び起こった際の被害予想は?」

 

「"計算しなかった"というと嘘にはなるが、"ここら辺だけに留まる"と断言できないとだけ言っておこう」

 

 フィルフサは生物だ。当然、餌の多い場所に向かう習性も持っているだろう。何百、何千にもなるその群れが乾季の間、クーケン島周辺を荒らし尽くすだけに留まるだろうか。──否、激しく否である。

 街道を超え、集落を超え、もしかしたら国が騎士団や討伐隊を派遣する事態になる前に都まで到達するかもしれない。

 

 ただ、俺達はフィルフサの生態を熟知した専門家ではない。あくまでもそれは『最悪』のことなので、一切を無視して引きこもるのも手……だとは思う。だが、そんな非情な選択を良しとする人間はアトリエの中には居なかった。

 

 ──となれば。

 

「これはリラさんが書きましたよね」

 

「あぁ、ただこれは最終手段。命の保証はどこにもない。お前達には」

 

『荷が重い』と言葉を終わらせつつ、リラさんは自らが書いた文字に指を這わせる。そこには『女王を倒す』という文字が書かれていた。

 曰く、蝕みの女王というのはユニットの生産だけではなく統率も行っているのだとか。なので倒してしまえば支配下のフィルフサは混乱状態となってちりぢりになってしまうらしい。そうなってしまえば大侵攻も連鎖的に機能しなくなり、こちら側の平和が守られる……という寸法みたいだ。

 

 青くて腰にジャンプユニットついてるロボットが切実に欲しいな。それかひのきのぼうと僅かな軍資金で放り出す勇者(笑)の方か。

 どちらでも良いが、たしかにハイリスクハイリターンな作戦だ。慎重に協議を重ねなきゃ──。

 

「それが一番確実な方法なんだよね。なら、やろう」

 

「俺は構わねぇぜ。俺達が頑張ればスッキリ片付く、悪くない話じゃねぇか」

 

「私も。ライザや皆が行くなら、私も行く。今がもらった勇気を返す時だもの」

 

「提案した手前、行かないという選択はない。私も当然行く。……アンペル」

 

 姉ちゃんをはじめとした我が凄まじい面々が我こそはと名乗りを上げる。ここは平安時代かってーの。

 

 ただ、アンペルさん的には慎重論を唱えなければならないという事でリラさんに最後まで抵抗していたが、まさかのタオが参戦を表明。『余計な気づかいをしてしまった』としょげるアンペルさんだが、俺的にはそんな大人が一番格好良いと思うんだよね。

 常に心にはお気遣いの紳士。招待してくれた家には手土産をし、急な来客で食事の量を調整しなければならない人間に対して『食事を済ませて来たからお構いなく』と断る姿が俺の理想だ。

 

 そんな話は置いとくとして、なんだかみんなやる気のようで悪いんだけどさ。俺への同意とか無くない? 

 

「ガイアは行くと思ってたから」

 

「最悪、1人で行く気がする」

 

「しかも夜中にな」

────────────────────

【悲報】大侵攻、そろそろ始まるってよ 【ライザのアトリエ】スレより

124:ガイア

 こいつらひでぇ

 

134:名無し

 >>124

 やるかやらないかで言ったら、絶対やる

 

143:名無し

 >>124

 全品100%OFFからのブッコミかけそう

 

147:名無し

 >>124

 ガイアはなし崩し的についてきそうだから聞かれなかったと予想

 

155:名無し

 >>124

 いざとなればフラムを腹に巻いて『さよなら、姉ちゃん』しそう

 

160:名無し

 >>155

 ガイアはそんな可愛くない。むしろ、致命傷負っても這いずってボスの近くまで行って自爆特攻かましそう

 

170:ガイア

 ここに居る奴らも酷かった

 フラムは自爆するよりも大量に投げる方が良いと思うんだ

 

173:名無し

 >>160

 なんだっけそれ。似たような話を聞いたことがある

 

176:名無し

 生きている英霊って言われてる人だっけ。そこまでのガッツがガイアにあるかどうかだな

 

184:ガイア

 >>176

 たぶんない。フラムは腹に巻くより地形破壊するまで投げ込んだ方がまし

 

188:名無し

 ガイア、アトリエで爆弾魔は既にいるんよ

 

197:名無し

 あぁ、きびきびエプロンでようやく掃除する気になるあやつか

 

203:名無し

 あっちのコンセプトは『世界を救うのはもうやめた』だから、こっちとは対照的だな

 

211:ガイア

 何か分からないけど、自爆はしないからな

 

216:名無し

 何とかなるだろうし、ほどほどに頑張れや

 

220:名無し

 そこです。自爆なさい

 

────────────────────

 うーん、反論できないが怒っても良いだろうか。俺だって男の子ゆえにそんなゼロの才能だと思っていた大魔法使いの使い魔なシチュエーションは憧れるが、死ぬのは怖いパンピーだからね? フラムを腹に巻いての特攻すらもしたくないわけよ。

 そういうわけで俺の一番好きな戦法は『射程外からの一方的な攻撃』である。ただ、俺の今までの攻撃手段がその……『アレ』だったために方々から色々言われてしまった。

 

「え、殴り合いが一番とかいうんだと思ってた」

 

「棍棒が相棒だと思ってた!」

 

「じゃあなんで近接ばっかしてんだよ!」

 

 いやぁ、一人だと遠くからチクチクするのが好きなだけだし。それに数人から成るパーティだと後衛が何人も居るのは逆に危ないし。それに弓よりも右ストレートでぶっ飛ばすのが手っ取り早いと最初は思ってたし。

 とまぁ、屁理屈込み込みで色々言ったら『まぁ、ガイアだし』という共通認識で納得するのがどうしても解せなかったが、これ以上話を長引かせるのもあれなので黙っておいた。

 

「結局、この7人か」

 

「そうは言うが、これ以上の人数は無理だろう。増やすとなると我々並の力を持つ存在に門の存在を伝えなければならん」

 

「アンペルの言う通りだ。いたずらに門の存在や有用性を話して異界に興味を持たれるわけにはいかないのは分かるだろう?」

 

 まぁね。壁に耳あり障子にメアリー・スーって言うし、国が耳にしたらクリント王国の悲劇再びだろうから極力情報は隠したいもんね。

 

 そうなると数の劣勢を優勢に変えるには大軍をやり過ごす土地勘と親玉を速やかに始末できる攻撃力と戦いに耐えられる頑強な防御力が必要最低限だ。

 土地勘はずっとあの異界で戦い続けているキロさんに頼むとして、残る2つはやはり錬金術の力が必要不可欠であろう。

 

「姉ちゃん、アンペルさん。申し訳ないけど」

 

「装備の更新だな。分かっている」

 

「あんたの弓もちゃんと仕立ててあげるから安心して」

 

 笑いながら2人はさっそく装備の更新のためにコンテナを開けに行く。これで装備の準備は万全と言っても良いだろう──が、俺にはまだやることがある。

 

「クラウディアさん、もう何も言わないから何をすればいいか分かってるよね?」

 

「うん、自己責任だもんね」

 

 頷きながら彼女は1枚の紙に文字を認め、最後にナイフで自身の髪を少し切り取ってから小さな傷を作って紙に押し付けた。言わずと知れた誓約書と形見分けだ。

 

 少し前まではルベルトさんの許可なく色々やっていたという負い目が俺にはあった。だからなのか、俺は彼女を『お客様』だと認識していた。

 だが、今は違う。彼女は一緒に困難に立ち向かう仲間だ。ゆえに親との対話は既に必要ない。ただ、もしもの時に備えをおろそかにするのはこれまた違うと思し、話の途中でこんな話してもこじれるだけなのでこうやって最後に準備をしてもらったわけだ。

 

 ……ま、後衛のクラウディアさんがもしもの時になるのは、めでたく俺達は全滅状態になってると思うがね。

 

 こうして俺達の『なんてことのない毎日』を救う準備が始まる。姉ちゃんやアンペルさんが錬金術で色々作る中、俺達は各々やるべきことを胸に2班に分かれた。

 

「やはり、大侵攻は近いか」

 

 俺は現在、レント兄ちゃんやリラさんと共に門へとやってきている。前に周辺のフィルフサを空読みごと壊滅させたのにもかかわらず、空読み含めた斥候などが再びこちらに出現していることにリラさんは自身の読みが当たってしまったと歯噛みしている。

 ただ、俺達の役割はここでフィルフサと全面戦争することではない。ひとまず周囲から削り取る形で門の前に屯していたフィルフサを片付けた俺達は脇目も振らずに門を潜り、異界側の門周辺にも集まっていたフィルフサを討伐していく。

 

 己の武器で戦い続けるレント兄ちゃんやリラさんの横で俺はというと、戦闘が結構ウケが良いために配信を行いながら斥候の顔面にパイプ椅子を持ったヒールレスラーのように盾を振り回したり、こん棒によるフルスイングを空読みに叩き込んではピグレットも首を横に振らざるを得ないほど情けない距離のヒットを量産したりと結構フリーダムにやらせてもらっていた。

 配信のコメントには『農家無双』とか言われてたけど、『あれほどのレベルだったら大侵攻でこんなに悩まねぇよ』と言っておこう。

 

 そうして大量に居たフィルフサをなんとか捌くことが出来た俺達は、そのままキロさんの野営地へと向かう。そうすると、先ほどの騒動で既に俺達が来たことに気づいたのか野営地の入り口辺りでキロさんがこちらを出迎えてくれていた。

 

「また会えてうれしい」

 

「こちらもだ、キロ・シャイナス」

 

 同種族であるリラさんに交渉を任せ、俺達は彼女達の横で静観の構えを取る。話はとんとん拍子に進み、土地勘が豊富なキロさんがフィルフサの防衛網が一番薄い場所や道を俺達に教えてくれるばかりか案内役もしてくれるという約束をしてくれた。

 

 ふむ、結構すんなり許可をもらったな。もう少し説得が必要だと思ったけど、よくよく考えてみれば一族の仇でもある蝕みの女王の討伐の手伝いだもんなぁ。

 え、それだけじゃない? 土地の一部が元気を取り戻したお礼? ……うわ、農地が出来てらぁ。

 

 キロさんの案内してもらった農地。そこは少し前、実験的に俺が精霊を打ち込んだ場所だった。

 

「こんなに土地が元気なのは初めて。おかげで色々育ててるの。ありがとう」

 

「あ、はい」

 

 間の抜けた返事しか出来なかった。だって、今まで精霊とか接する機会無かったんだもの。

 俺のあずかり知らない力がすごい役に立っているという自分でもよく分からない感情が渦巻く結果となったが、これで俺達に課せられた任務は終わりだ。キロさんに門まで送ってもらった俺達はそのままアトリエへと戻ると、既にボオス兄さんに伝言を伝えに行っていたクラウディアさんとタオが戻ってきていた。

 

 ──だが。

 

「あぁ、戻ったか。キロは元気だったか」

 

「うん、新しくできた農地で植物を植えて楽しんでた」

 

「そうか」

 

 キロさんの近況を聞いたボオス兄さんがはにかみながら頷くが、周囲は何か言い辛そうな雰囲気を醸し出していた。その空気に思わず俺が対岸にあるアトリエに居るのかと問うが、彼は至極当然のように『俺も行くからだが?』と反論する。

 

 その時、配信コメントや掲示板からから阿鼻叫喚の書き込みが乱立した。

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