3日目。今日が過ぎれば俺達は異界で蝕みの女王と呼ばれるこの騒動の首謀者を叩く。リラさんの発言から並のフィルフサでは相手にならないほどの戦闘能力を有するらしいので、流石の俺でも『覚悟』をする時間が必要というわけで安価的な行動は控えたが……どうやら正解だったらしい。
みんなが寝静まっている時分から久方ぶりに朝の配信と洒落込むついでに実家の畑を弄っているわけだが、始めた辺りからずっと鍬を持つ手が震えっぱなしだ。今までの相手した中だと竜や初めて遭遇したフィルフサ以外ではあまり感じなかった『死』の感覚がリラさんからもたらされた蝕みの女王の戦闘能力の一端を聞いただけでも一気に湧き上がってくる。
これは──ハイターや高圧洗浄機をかけても取れない程頑固ですね。ハハハ、ハハハハ……。乾いた笑いしか出てこないわ。こんなにふざけても頭から全然離れねぇでやんの。
「だけど、やるしかないんだよな」
独り言ゆえに返事がない。だが、俺自身にそう言い聞かせるように何度もつぶやく。掲示板では『なんか悟ってる』とか言われているが、俺本人としては『諦めのような決意』だと思っている。
俺達がやらなきゃいけない。なおかつ、原作ブレイクを防ぐためにも俺が出来得る限りの対応や対策を講じなければならないのだ。
掲示板で散々他のライザ時空ならいざ知らず、ここのライザのアトリエでは俺も登場人物の一人なんだから捨て鉢になるなと怒られたが、今回ばかりは優先順位を付けさせてもらう。独善的と言われても構うもんか、俺が一番優先順位が下の人間だ。文句あるか!
そんな決意を固めながらも意識外でヴァッサ麦を植えるための畝を作っていると、父さんがやってきた。
「農業は休みじゃなかったのかい?」
「たまにはね。何もしないと鍬すら振れなくなっちゃうから」
「たしかにそうだ」
その後は俺も父さんも黙って畝を作る。乾季はまだまだ終わる気配はないが、終わると同時に作付けをしなければならないためにこのタイミングじゃないと間に合わない。父さんもそれが分かっているからか黙々と作業を行っているのだが、俺の目にはなんだか話を待っているかのように思えた。
「父さん、話したいことがあるんだ」
「……言ってごらん」
俺の言葉に父さんはいつもと同じような優し気な口調で続きを促してくれる。ただ、どこか歪なように思えたのは俺の勘違いだろうか。
いや、きっと少なからず父さんは『察している』。元々敏い人だし、なおかつ俺の親だ。言い辛そうにする俺の気配から厄ネタを感じ取ったのだろう。
今まで様々な苦労や迷惑をかけたと自負しながらも反省しているが、今回のは今までのと比べてピカ一となるだろう。今までのことを思い返しつつ、どうしても父さんの顔を見ることが出来ない俺は俯きながらもぽつりとつぶやいた。
「俺、もしかしたらここから居なくなるかも」
「バレンツさんについて行って……王都で暮らすってことかい?」
「いや、この世界から居なくなるかもって」
「それは──なんとも不思議な話だね」
俯きながら話したためか、父さんの顔が分からない。今、どういう表情に変わってるんだろうか。
怒っているのか、それとも悲しんでいるのか。……もしかしたらいつも通り不思議がっているのかもしれない。
若干気にはなってはいたが、それでも俺は父さんの顔を見ることが出来ない。いや、見ようと思えばすぐに見れる話だが、父さんの心情を分かりたくないという自分勝手な思いでひたすらに目を逸らし続けた。
「訳を聞かせてくれるかい?」
「父さんだけで留めておいてね」
「当たり前だとも」
まぁ、そんなことも父さんにはお見通しなわけで。ほんと、人間としての格を見せられているようでちょっと嫉妬するよ。俺ってこの人よりも転生分だけ長生きのはずなのに、こんなのだし。
ちょっとだけジェラったが、父さんは安易に人に秘密を漏らす人間ではないのでさっくりとアガーテ姉さんに説明したような内容に加えて彼女にはあえて話さなかった『危険性』の話をする。
リラさんから聞いた話をあくまで『偵察した結果』という体で話し、そこから戦い方や隊列。そして、『いざという時』の話とまるで会社の会議で行うような具体的な報告会の形式で話していく。その方が今の俺を取り囲む『恐怖』という感情を表に出すことがないと思ったからだ。
「言いたいことは分かったよ。だけど、ガイア自身はどうなんだい?」
「俺の?」
「仮に……、仮にだ。"そういったこと"になったら、壁になれるのかい? ここで迷うのであれば、こんな──」
「やれる」
食い気味だが、肯定した。独善的でも良い。後で恨まれても、曇らせても、悲しまれても良い。生きてさえいれば何とか生きていけるのが人生であると俺は思う。これは前世の幼い頃の幸福とは微妙に言い辛い経験から始まり、会社から逃げ出した先を経て、毒が回って前世が終わる今際の際までで分かった俺の『体験談』だ。
既にこの世界は俺にとってロスタイム。そのぐらいに気狂いな気概が無ければきっと、おそらく、咄嗟の事態に遅れてしまうだろう。この場は俺も主人公パーティの一員なのは重々承知だが、彼らこそが物語を動かしていく主力だ。それを守るというのも立派な役割だとは俺も思うわけだ。
まぁ、格好つけたことを言ったが、生きていけるだけで感情とか善悪といったその他のことは一切抜きにしてしまっているが、それはそれである。保険適用外だ。
俺の有無を言わさぬ返答に父さんは少々驚くが、まるで返答は分かっていたかのように笑う。
「竜のことを聞いたからね、ガイアならそう言うと思ってたよ。ただ、そう軽々しく命を天秤にかけられると私達としても困るな。まるでライザ達を守る"盾"を産んで、育てたみたいじゃないか。私の言っていることは分かるだろう?」
そう言われてしまうと弱い。そうあれかしと育てられたわけじゃないが、いざやったことを箇条書きにすると『そう言った意図』になってしまうことが多々ある。
だが、俺だって安易に命を捨てようとするわけではない。考えて、やれることをやって、万策尽きても捻り出して、それでもだめならばそうするだけだ。
竜のこと? あれは時間がなかったから仕方がない。俺は悪くねぇってことで。
「大丈夫だよ。万策尽きるか、考える時間がない場合に限るから」
「後者は何とかして欲しかったけど。時間がないのは仕方がないか」
「うん、仕方がない」
納期。期限。期日。タイムリミット。寿命。エトセトラ、エトセトラ。
人間、だれしも限られた時間しか持っていない。その中で何とかしようと限られた手段に縋りつくのは当たり前のことだ。だからこそ、安易な人壁に走るのも仕方のないということで……。
そんなごり押し気味な詭弁を語っていると、ふいに父さんが立ち上がった。話が長くなるために座っていたので、必然的に俺が父さんを見上げるような形になったかと思えば──。
『ゴスン』と頭部に軽い衝撃が走る。横を見ると父さんが握り拳を擦っていたので頭を殴られたのだとようやく実感した。
殴り慣れていないだろうに。本当に申し訳ない。
「一応、命を粗末にすることを親に話したという事で、形式的には私はガイアを叱らなければならない。だから、それだけで済まそう」
「うっす」
「ただ、竜の一件もあるからな。ガイアは無鉄砲や考えなしに行動しないことは……結構あったが、こういった大事なことについては臆病なほど慎重になるのは私がよく分かっている」
「そこは"ない"って言って欲しかったなぁ」
「アガーテや母さんに色々言われたからね。私だって嫌味の一つでも言いたくなるさ」
何の変哲のない親子の会話が流れていく。だが、一言一言にまるで父さん自身が自分を納得させかのように言い聞かせているように感じた。
それがより強く俺に後ろ髪を引かせるが、振り切るように立ち上がった俺の腰を父さんが軽く叩く。
「本当にどうしようもない時。そしてガイアがそうすることで何とか出来ると思った時。この2つが合致した時は躊躇わずにやりなさい。……こうして聞かせると酷い親だね」
その逆です、お父様。ほんと聖人だよこの人。
『村でも回ってきなさい』という言葉と弓を受け取り、俺は家から放り出される。しかし、既に見て回ってきた後なので適当に魔石の森に腰を落ち着けた俺は適当な木に寄りかかりながら掲示板へと集中する。
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父さん、母さんごめん。俺は……行くよ 【ライザのアトリエ】スレより
3:ガイア
盛大なBGMで送り出してもええんやで
9:名無し
俺はいくよってどこに?
10:名無し
異界だろ
19:名無し
天国では?
21:名無し
界王様の所だと思う
25:ガイア
皆してひでぇ
ちょっとアトリエ行ってくるか
33:名無し
ここで父親から指示された島を見て回るというチャートを大胆に外していく
43:名無し
突発的なチャート変更は男の子だよな!
51:名無し
>>43
女の子もその特権に興じる権利はありますわゾ
55:名無し
しかし、どこが酷い親だよ。聖人じゃねぇか
64:名無し
流石グリリバ
70:名無し
>>55
正義の巨人にもなるしな
74:名無し
は? 怪獣こそ至高なんだけど? 殺すよ?
80:名無し
ユニユニしてきた
81:名無し
>>74
困るよねぇ。アカネくぅん
85:名無し
君を退屈だから殺しに来たんだ♪
良いから経験値と資金よこせ
90:名無し
>>74
君の天敵をよんであげるよ! (DLCポチー
94:ガイア
さて、対岸についたし。突撃、隣のアトリエでもするか
96:名無し
しゃもじは忘れるなよ?
107:名無し
>>94
アトリエでなにするん?
109:名無し
>>94
邪魔するなら帰ってーだが
112:ガイア
進捗どうですか? って聞く
122:名無し
ウ"ッ
133:名無し
コ"ッ"
136:名無し
死ぬな……このままでは!
140:名無し
人の心ないんか?
145:名無し
ガイアは人の心が分からない
153:ガイア
なんでや、1回やってみたいやろ
158:名無し
それはそう
160:名無し
まぁな。別の責任生まれるけどやってみたい
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父さんの聖人具合が掲示板内で共通認識となったところで、俺は姉ちゃんの準備のほどを確かめるべくアトリエへと赴く。俗にいう『進捗どうですか?』というやつだ。自分には言われたくはないが、結構やりたかったのは内緒である。
「姉ちゃん、どんな具合?」
「とりあえずは完了かな。今回は素材回収用の籠にもアイテムを詰めなきゃいけないから大変だったけど、なんとかなったよ」
なんだ、つまらん。てっきり『ガイ"ア"ァー!』って泣き言を言うかと思ってたが……。
ん? いやいや、おかしいだろ。アンペルさんの補助ありでも2日半でこの量を錬金するのはおかしいだろ。
人を疑うのは良くないが、錬金アイテムは俺達の生命線だからな。手当たり次第に錬金アイテムを品定めしていくことにした。あ、もちろん『ほーん?』と言いながら、さも自分は疑っていないような感じを出すのは忘れない。
時空の天空時計。俺達のステータスを上げて動きを速めるサポートアイテムだが、中々の品質。これは良し。
女神の飲みさし。名前はあれだが、結構万能な回復アイテム。これも結構素材を奮発したらしく、かなり良さげな品質を保っている。
エリキシル剤。某ゲームの『せかい●ゅの葉』的な蘇生アイテム。品質の他に量も頑張ってくれたみたいで、結構潤沢だ。
「姉ちゃん、この量を2日で仕上げたん?」
「え、そうだけど? ……ははーん、あたしの天才的な錬金センスに恐れを為したなー? ほれほれ、もっと崇めても良いのよー?」
やっぱり今から父さんに『姉ちゃん居なくなっても恨まないでね』って言ってきても良いかな。姉ちゃんからの絡みがウザい。掲示板でも『なんだぁ、こんメスガキがぁ』とか『辱めてやろうよケン!』と姉ちゃんの言動に反応した諸兄らが居るが……俺、ガイアなんだけど。変なの憑いているだけで、謎チャーハンとは出せないし、出来るならハーモニカを吹く謎黒人が良いんだけど。
「──で、結局のところはどうなんです? アンペルさん」
「ヒントはあれだ」
「あ”ー! あ"ー!」
餅は餅屋という事で絡繰りをアンペルさんに教えてもらおうと声をかける。すると、姉ちゃんの大声を右から左へ流しつつも彼はとある古式秘具を指差した。
あー、なるほどね。複製釜か。
確かにこれなら一度高品質な物を作ってしまえば量産できる。そう考えるとさっき言ってた錬金センスがどうとかってのは関係ないんじゃないのだろうか。
その疑問がどうやらアンペルさんにも伝わったらしく、小さく笑いながら『最初はそいつのことをすっかり忘れて作業をしていてな』と姉ちゃんの黒歴史を暴露。些細ではあるが彼女の怒りを買うこととなった。
「自分の持ってる道具の把握が出来てないのが天才ねぇ……」
「まったくだな。ライザ、お前さんは手あたり次第錬金しすぎる。もう少し構想を練ってはどうだ」
「酷くない? あれ使うためのジェムもあたしがコツコツ頑張って溜めたんだよ? もうちょっと"お姉さま素敵ー! "とか、"流石は私の弟子だー! "みたいな賛辞はないわけ?」
『それを言われて嬉しいの(か)?』
「……とーにーかーく! 褒めてよー!」
人のことを『農業馬鹿』とか『いつか敵に回りそうな怪しい見た目』など、散々なことを言いながら謝罪と賠償を求めそうな勢いで憤慨する姉。いつもながらめんどくさ──もとい、骨が折れる。
ていうか、姉ちゃんもアンペルさんのことを俺と似たような考えで見てたんだな。『そんなに怪しく見えるか?』って俺に尋ねて来たけど、残念ながら見えちゃうんだよな。……あ、ちょっと落ち込んだ。
そんなこんなでわーぎゃー言う姉ちゃんを何とか宥めるという超難解ミッションを遂行した俺だが、その見返りは大きかった。なんでも昨日、クラウディアさんの頼みで言いっぱなしだった『銃』に関しての試作品が出来たのだとか。
現に机の上には完成品であるラッパ銃が──ラッパ銃が──なんか俺が思ってた数倍はデカい。俺が両手で持って丁度良さげなサイズってもはやハンドキャノンじゃねぇのか。これ。
良いの? 鍵かけられた扉に向かって『鍵かけてないなんて不用心だなー』って言いながら使っちゃうよ?
「まさかガイアがこんな詳細な図面を引いてくるなんてね」
「あぁ、建築士とかも向いているんじゃないか?」
申し訳ない。それ名も知らぬ掲示板の民──それもCADみたいな設計ツールを手足のように使えるような高等技術者の奴を書き写しただけなんだ。
とまぁ、そんなことは到底言えないわけだがせっかく作ってもらったのに実験しないのはもったいない。なんか後ろで冷たいのがまるで『弓使わないんすか!』とばかりにペッチンペッチンしているが、気のせいだろう。そもそも今は弓を持ってきていないので、多分気のせいだ。──終わったら絶対念仏もセットでお焚き上げしてやる。
「えーっと、まずは銃身を割って中にフラムを……3本か。次に銃口に小石とか鉄くずをパラパラと」
「アンペルさん、あんなのでちゃんと武器になるのかな」
「机上の理論では可能だ。問題はフラムの爆発に本体が耐えきれない場合だが、そこも考えてゴルディナイトとセプトリエンで調合したゴルドテリオンを使って限界まで硬くしただろう」
横でとんでもないことを言っている。たしかその素材って竜素材も必要じゃなかったっけか?
そう考えるとかなり貴重な素材を玩具に使っているのかもしれないという罪悪感が生まれてくるが、もう発注して作られて手元に収まっている。今更後戻りはできないと俺は覚悟を決めながら両手でしっかりと構えた後に引き金を引く。
引いた途端にフラムの爆発音が鼓膜を震わせるが、やはり複数のフラムを同時に爆発させたためかに銃身が真上に向かって一気に浮き上がった。その反動を改めてしっかりと握りしめることで制御し、爆発し損ねたフラムが暴発するという誤作動が起きないか確かめるためにしばらく待機する。
「……異常なし」
「すごかったね、そのラッパ銃? ってやつ」
「私も想像以上だ。小石や金属片だけでもあれだけとはな」
2人が呆気に取られた表情で奥の方を見ていたため、俺も自然と視線がそっちに向く。
おいおいおい、木が抉れてるじゃねぇか。ひのふのみの……うわ、かなりの木々が抉れてるのを見るにかなり広がってる。これは後ろで使うと巻き込むな。
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父さん、母さんごめん。俺は……行くよ 【ライザのアトリエ】スレより
574:名無し
なぁにあれぇ
584:名無し
シャッガンしゅごい
593:ガイア
なんだあれは……答えろ苗木!
604:名無し
お前が撃ったラッパ銃だろうが!
605:名無し
フラム数本はやりすぎだったのでは?
610:名無し
>>593
(俺、苗木じゃないんで)知らないです
615:名無し
いやいや待て待て待ちなさい
樹木でこんだけ被害出ても、フィルフサはどうなるか分からんぞ
624:名無し
>>615
あーたしかに
625:名無し
>>615
フィルフサに効かないなら、無駄に広がる豆鉄砲だしな
628:名無し
じゃあどうすっぺ。弾でも作る?
636:ガイア
弾丸なんて俺や姉ちゃんが作れるわけねぇだろ
640:名無し
お前は誤射しない運用だけ考えてろ
644:名無し
そういえば、その銃身ってゴルドテリオン製だっけ? 予備とかあったりする?
648:名無し
>>644
まさか、それを弾にするんじゃ
659:名無し
>>644
随分値が張る弾だな
667:名無し
まぁ、ゴルドテリオン製のをフラムの爆発力で飛ばせば効くやろ
669:ガイア
>>644
聞いてみるわ
680:名無し
もうガイアが突っ込んでぶっぱすれば勝てそう
688:名無し
それ、どこの突撃兵
689:名無し
>>680
角待ちで無双してそう
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「ガイア、それ使うの?」
「後ろで使ってくれるなよ?」
「使わんわ!」
姉ちゃんとアンペルさんがすっごい微妙な表情でこっちを見てくるが、心配しなくてもこれを後方でぶっ放すほど俺はトリガーハッピーじゃない。それに荷物も俺が担いでいかなければならないので、そうポンポン使えるわけでもないだろう。
至近距離──それも肉弾戦に発展できそうな瞬間までこれを使う時はないだろう。
「成功ってことで良いんだよね?」
「うん。ところで、ゴルドテリオンってまだ残ってる? 小石じゃフィルフサに効かなさそうだしさ」
「まだ残ってるけど、いちいち大きな口に入れるの面倒じゃない? ちっちゃなタルに詰めようか?」
「なら球形が良いだろう。突起があったら中で削れることもあるからな」
流石は錬金術士コンビ、すかさず弾のイメージを固めてくれる。その後は割と暇になったため、アトリエに備蓄された矢じりを全部回収した俺は姉ちゃんよりも早くクーケン島の家まで戻ると自室で再び矢を作り出す。
アイヒェの丸太を割って1本ずつ手作業で仕上げていくのは骨が折れるし、金属の成形も自由自在な錬金術を頼ればもっと攻撃力が上がるだろうが、なるべく金属は攻撃部分の矢じりのみに留めたいのが俺のこだわりだ。
前世での古い言い伝えにはなるが、妖精といった神秘的な力に対抗するお守りとして鉄といった金属が弱いとある。このライザのアトリエでは金属に神秘的な力が内包されているという素材があるため、俺がやっていることは無意味に近いだろうが、あの掲示板の先──大地の精霊が流れ込んでくるところはこのアトリエの時空じゃないと思うんだよね。
精霊を兵と例えるのは非常に失礼だと思うが、一番弱い兵を基準に物事や対策を考えるのが良いってどっかで聞いたことがあるし、そうなるとオール金属で出来た矢はどうも抵抗がある。現地調達しにくいし、運び辛いしね。
「……冷たいな。なに?」
そんな感じで内職をしていると肩に冷たい物が乗ってくる。『やつ』だ。やはり弓が近くになくても干渉してくるところから見るに、既に俺についているのだろう。
念仏込みのお焚き上げの後は塩もそこら中にまき散らすことも視野に入れねばなるまい。そう心に誓った俺は面倒臭がりながらも後ろの存在に声をかける。無視すると狂ったように肩を叩かれるため、手元が狂うからだ。
「うーん……ん? うん……分からん! これに書け!」
しかし、やつはひたすらに俺の肩や背中をさすったりして何かを訴えかけようとしているのみだ。何かコミュニケーションを取ろうとするのは分かるが、サイコパワーなぞ持っていない俺としてはただ鬱陶しく感じたため、紙とペンを差し出すが何の応答もない。
え、マジで何なの? 嫌がらせ? 姉ちゃんには悪いけど、ちょっと弓燃やしたいんだけど。
はたから見て嫌がらせの時間稼ぎしているかのような反応についブチ切れたが、ふと気づく。前世の幼少期に何度か似たようなことをされた経験があった気がするのだ。
思い出せ。時期は……そう、小学校に上がりたてだ! それも授業中という気軽に話せない時間に友達同士でやってた。
そうだ、背中に文字を書いて遊んでたんだ!
「文字を書いてるのか?」
俺の問いに頷く気配。やはり、そうだった。
俺は集中することで文字を判別しようとするが、やはり書かれた文字の判別を背中で感じるのは難しい。何度もリテイクをお願いすることでなんとか『まかせろ』という一文を長時間を使って判別することが出来た。
「任せろって、お前が敵に当ててくれるのかよ。俺が弓でやろうとしてるのは長距離からの狙撃だぞ?」
長距離の狙撃ともなれば当然、俺もフルパワーだ。実験でやっていた時のような生ぬるい引きはしない。
だが、返答のように背中に衝撃が走った。それも込みで『任せろ』というのだろうか。
「へいへい、期待しないでおくよ──ってぇ! お前、絶対成仏させっからな!」
「ガイア、うるさい!」
おざなりに答えながら矢の量産を勤しむ俺の頭に痛みが走った。その後も時折揶揄うように邪魔が入るため、つい怒ったら姉ちゃんが怒鳴り込んできたために一気にやる気が削がれた俺はベッドに横になる。
まったく、とんだ最終日だぜ。だけど──。
寝転びながら俺は手を真上に上げる。朝頃は痙攣のように震えていた手はすっかり元に戻り、自身の内に秘めていた恐怖は姿すら見えない。
これで戦える。正真正銘の覚悟を備えたまま、俺は明日へ備えた。