農家の子   作:マジックテープ財布

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23話

 脱皮をしたことでさらなるパワーアップを果たした女王を前に、鼬の最後っ屁のように投げつけたイバラの抱擁は難なく躱され、俺はそのまま斬り殺されるかと思っていた。

 だが、どうやら姉ちゃんの調合によってまたしても救われたらしい。いや、正確には姉ちゃんはというより、素材の中に秘められた神秘の力の奥深さに救われたと言った方が良いだろうか。

 

 だって──。

 

「弓が……」

 

「なんで?」

 

 皆が宇宙の真理を理解した猫のような表情で驚くのも無理はない。弓が独りでに浮かび上がり、使用者を守るというおとぎ話や神話の世界でよくありそうな機能を目の当たりにすれば誰だってそうなるだろう。かく言う俺も、皆とは別に『あの廃墟に置いて来た』という記憶もあるから余計にこの場にある訳が分からなかった。

 俺の並外れた膂力に耐えられるように各所を補強する形で調合された弓。それは女王の繰り出す槍の一撃を何度も真正面から打ち据える形で受け止めてもなお、壊れる気配すらなくその場にあった。そして弓1本にしては謎の力が働いているのだろう、吹き飛ばされることもなく拮抗状態に度々なっている。

 『目の前の事象』に加え、ますます意味が分からない。

 

 原理どころかなにがトリガーになっているのかさえもわからん。そもそも、あの弓はあの廃墟があったところに置いて来たはずだ。どっかの勝手に背中に引っ付いてくる妖怪や黒い刺客のように『着いてく……着いてく……』されたのだろうか。

 どちらにしても命を救われた手前で申し訳ないが、なんていうものを作ってくれたんだ。あの姉は。

 こんな『呪物』、盛り塩どころか自らが塩漬けされる勢いで浄化作業を考えなければならないぞ。

 

 なんで呪物かって? だって──。

 

(なんか居るぅ)

 

 血を流しすぎた錯覚でなければ、俺の目の前には青白く透けた人影が弓の片側を剣のように持ちながら女王の一撃一撃を受けているからだ。具現化系の呪物だと疑うのも仕方がないってやつだ。

 サーコートというんだったか、鎧の上から着る家紋らしき紋章をワンポイントにしたコートを羽織った騎士。後姿や兜を被っていて表情は読めないが、その剣の冴えはアガーテ姉さんよりも優れているとはっきり分かる。

────────────────────

突撃 お前が元凶かPart2 【ライザのアトリエ】スレより

506:名無し

 誰? 

 

508:名無し

 え、誰だ? 

 

510:名無し

 だれぇ? 怖いよぉ! 

 

513:名無し

 騎士っぽいな

 

517:名無し

 なんだー、貴様はー! 

 

519:名無し

 透けてるから、ゴーストじゃね? 

 

522:名無し

 騎士で幽霊っていうと、ほとんど首なしのあの人? 

 

526:名無し

 すっげぇ、互角ぐらいで戦ってる

 

533:名無し

 >>522

 腐った物とか食べさせられそう

 

537:名無し

 英霊の魂っていうか、英霊っていうか

 

539:名無し

 ガチの英霊の魂だった件

 

546:名無し

 って今、ガイア死にかけじゃね? 

 

548:名無し

 ガイアー、起きろー。なんか変なの戦ってるー! 

 

549:名無し

 視界動いてるから生きてるっぽいな

 

554:名無し

 うわー、なんか地面が赤黒ぉい

 

555:名無し

 これ、モツ見えてたら配信停止じゃないの? 

 

559:名無し

 >>555

 赤黒いナニカだからセーフセーフ

 

561:名無し

 とりあえず、レス加速させとくべ

 

562:名無し

 ksk

 

564:名無し

 ksk

 

568:名無し

 まぁ、お前ら待て。なんか騎士が足をトントンしてるぞ

 

570:名無し

 靴擦れ? 

 

577:名無し

 合図じゃね? 

 

────────────────────

***

 

 宿敵であるフィルフサ。その女王と真正面から打ち合うごとに我が力がまるで手の平から砂が零れ落ちるかの如く力が抜けていく。後ろには私が意識を取り戻した際に間借りさせてもらった少年が血で地面を汚しながらも視線を上げてこちらを見ている。

 

 ガイア。私が半ば本能的に入ってしまった弓を操る青年。いや、外からの声を聴くにまだ少年だったか。

 彼は中々に難儀な『特性』を持って生まれたらしく、その特性が足かせとなって暮らしに難儀していたり絶望はしていないだろうかと心配してつい茶化しながら行動を共にしていたが、どうやらその特性も乗りこなす剛の者だったらしい。中々に気持ちの良い若者だ。

 少々ふざけるのもやりすぎて機嫌を害することもあったが、私もふざけるのは好きなので許してもらおう。……どうせ、この戦いで終わりだ。そう決めている。

 

 しかし、あれだけの威力を込めたというのに一切動きに乱れがない女王というものに私は辟易とする。

 あの少年の姉と思われる少女曰く、この存在こそが私が死した大侵攻の元凶なのだと言っていた気がするが、なるほど。あの物量の裏にこのような化け物が居たら、流石の我が祖国であるクリント王国が滅ぶわけだ。

 しかし、その原因が未だのさばっており、私や息子、そして兵や志願してくれた民の皆が命を懸けてまで守り切ったクーケン島の者達を未だに苦しめようとするのは許し難いことだ。

 

 それに、先ほど隣に立っていた我々とは異なる肌の1人……いや、特徴は薄いが『彼』もか。彼らに対しての申し訳ない気持ちもある。既に死した身なので『命』と言うのはおかしいが、魔物と共に居た時から換算すれば長く生きた。今更、惜しくはない。

 

 フィルフサと対峙した先達として、オーレン族という異界の友を欺いた咎人として、私は贖罪と餞別の念を込めて豪弓を動かすために腕を振るい続ける。

 

 少年を満足に治療させるにはこいつをこの場から引き剥がすか、少年に退いて貰う必要があるのだが……。あの傷だと無理だろう。

 さぁて、次は何を差し出せば良いだろうか。

 

 ***

 

(行けってことか)

 

 頻りにつま先で地面をトントン叩く仕草に俺はようやく逃がしてくれようとしていることを理解する。血を流しすぎて碌に動けないが、アンペルさん達の回復を終えた姉ちゃんがこちらに向かってくれている。

 男だからとか、女だからとか。そういった意味は決してないが、こんな場面で倒れ伏しながら救援を待つのは流石に女々だろう。

 心に熱い血が流れる人間ならば、こちらから迎えに行ってやろうと俺は前準備のごとく息を吸った。

 

 立て──まずはゆっくりと立ち上がるんだ。

 

「お”……ぉ"お……」

 

 立った。

 次は一歩を踏み出せ──決して転ばないように。

 

「あ"ぁ……ぎっ……」

 

 ぎこちなく右、左と足を前に出す。良い調子だ。

 そのまま──走れ! 

 

「お"おぉオ"ア”ー!」

 

 身体中から聞こえてくる悲鳴を聞こえない振りと気迫を込めた叫びで誤魔化しながら俺は絶え絶えに走り出す。その速度は十全な状態と比較すると非常に遅い遁走であったが、弓が女王の動きをけん制してくれたおかげで彼女に背中をバッサリされることなく俺は姉ちゃんと合流できた。

 後ろで知らない声が『走りおったわ』と笑い声をあげていたのはおそらく幻聴だろう。……幻聴に違いない。

 

「馬鹿! なんでまた無茶したの!」

 

「そうしないと全滅してたから。前の傷は戦士の勲章……だろ?」

 

「この場じゃなかったら色々言いたいけど、とりあえず治療しよう」

 

 泣きじゃくる姉ちゃんとクラウディアさんを余所にタオが冷静に錬金アイテムで傷の治療を行ってくれる。こういう時は流石の裏方要員なんだよな、判断が早い。

 そうしている間にもアンペルさんとリラさんが困惑しながらも騎士の幻影のような物と共闘を行っている。

 

 ……あ、皆には見えていないから弓が空中を浮きながら鋭い攻撃や防御をしているように見えるんだろうな。うーん、シュール。

 

「姉ちゃん、多分あれは英霊の魂のせいだと思う。なんか騎士っぽいの見えるもん」

 

「もー、またー!? なにがどうなってんのよ!」

 

「製作者が分からないものを使用者が分かるわけないだろ! 何もしてないのになんか起こったんですー!」

 

「あ、ガイア君の調子が戻ってきた」

 

 俺の力強い反論にクラウディアさんが嬉しそうに話してくるが、傷は塞がってはいても出血してるから未だフラフラ状態なんだけどね。

 ともかく、英霊の魂というこちらにとってもあちらにとっても予想だにしていなかった援軍のおかげで仕切り直しは出来た。後はどう戦っていけば勝てるだろうかと立ち上がって女王の方を見た時、俺は目を疑った。

 

(足が消えかけている)

 

 俺の目でしか見えていないが、剣を持った騎士の足が徐々に消え始めていた。あの時は確か、しっかりと両足が地面についていたはずだ。

 なのに今は膝どころか、そろそろ腰に手がかかるぐらいに消える速度が半端ではない。姿に対してもそうだ。こんなことが出来るのならば、コミュニケーションを取ろうとした時までも姿を現さないのは不自然だ。

 出会って数日という短い期間だが、あの人を揶揄うのが心底楽しそうな手合いは『鏡の後ろに佇んで背後霊ごっこ』や『いきなり目の前に現れる悪霊ごっこ』を平気でやらかすような性根はいたずら小僧のそれだと薄々ながら推測できる。それが今になって姿を現し、さらには女王に匹敵するほどの戦闘能力で戦いだしたのはなぜか。

 

 時間切れ。それも『命を燃やせ』といったそういった大事な物を代償として得た取り返しのつかない時間だと俺は確信する。

 今更割り込んでもアレ……いや、『彼』を止められないだろう。

 

 ──ならば。

 

「ガイア、もう良いの!?」

 

「まだガタガタだけど、全員でやらなきゃあいつには勝てないよ。姉ちゃん達はあいつをなんとか拘束して! レント兄ちゃんは俺と一緒に前衛!」

 

「おう! へへ、昔の剣に戻ったみたいだぜ」

 

 強がりか、断ち切られた剣を持って笑みを浮かべるレント兄ちゃんと共に俺は前線へ赴く。俺達の参戦にアンペルさんとリラさんが何かを言いかけるが、女王の対処で一杯一杯なためか鋭い視線で俺達を突き刺すぐらいに留まっている。

 

 これが終わったら説教かなぁ。でも、まずはこの場を切り抜けなければ説教もクソもない。だからこそ──彼を最期まで使わせてもらう。

 

 既に胴体の半ばまで消えている英霊に心の中で呼びかけながら俺は弓を手に取る。すると、一瞬の内に身体から力が抜け、俺の意識とは別に肉体が動いていた。

 乗り移られたと意識したのも束の間、なぜか剣を扱うかのように握った弓で俺の肉体は女王の槍を弾いていく。真上から、左斜めから、真下から、右下斜めからと縦横無尽に迫ってくる刃に弓をかち合わせ、その間に横合いからリラさん達が殴りかかる。

────────────────────

突撃 お前が元凶かPart2 【ライザのアトリエ】スレより

628:名無し

 おー、結構押してる

 

634:名無し

 目が慣れたんかね。的確に打ち返してら

 

641:名無し

 でも、稽古あまりしてない農民がここまで何とかなるか? 

 

646:名無し

 ガイアー……は集中してるか。流石に

 

650:ガイア

 居るでござるよ

 

652:名無し

 >>650

 うわ、出た

 

656:名無し

 >>650

 なんでここに居るんですかねぇ

 

660:名無し

 >>650

 え、今 結構ガチめに戦ってるんじゃねぇの? 

 

666:ガイア

 いやー、なんか英霊の魂に身体乗っ取られちった

 

669:名無し

 >>666

 その書き込み、レス番的に怖いんだけど

 

670:名無し

 >>666

 それって大問題じゃないの? このまま乗っ取られたらヤバくね? 

 

673:名無し

 >>666

 ほんと馬鹿だな。こいつ

 

679:名無し

 >>666

 生殺与奪の権を他人に与えるなってどっかのコミュ症が言ってただろ

 

684:ガイア

 まぁ、いざとなれば気合入れれば良いかなって

 

691:名無し

 >>679

 俺はコミュ症じゃない……

 

694:名無し

 気合でどうにかなるのって星が入ったボール探すやつだけなんだわ

 

696:名無し

 後はドリルとかもあるぞ

 

701:ガイア

 でも、オカルト板とかでよくある悪寒とかないんだけど? 良い奴じゃないの、これ

 

706:名無し

 ああいうのはアフィリ系の創造がほとんどだって

 

712:名無し

 本作品は皆さんに分かりやすいように台本を作って~

 

714:名無し

 そーそー、時間停止物みたいなもんだよ。ただ、その1割の内の上澄みがガチでヤバいってのを除けばな

 

720:名無し

 引用元貼ってないところは須らくそんなスレはないと思ってる

 

723:名無し

 >>666

 え? ってことはオー〇ーソウルってこと!? 

 

729:名無し

 >>723

 その前段階の憑〇合体だと思う

 

731:名無し

 しかも、100%にすらなってない初期の初期状態だな

 

732:名無し

 甲〇式、結構好き

 

739:名無し

 ちっちぇえなぁ

 

745:名無し

 ちっさ……

 

752:名無し

 >>745

 唐突にフェ〇ンちゃん出してくるの止めてもろて

 

756:ガイア

 あー、もう滅茶苦茶だよ

 

────────────────────

 掲示板はともかく、恐らく身体の主導権のみ奪ったのだろう。これはこれで『俺自身がお焚き上げされることだ』展開になりそうで結構怖いのだが、前世で見たオカルト板のようなうすら寒くて不安になる気配は全くないのが救いだ。

 それどころか背中を中心に温かく、それでいてまるで幼少期にアガーテ姉さんから剣の振り方を教わった時のような優しい気配を感じる。──あの時は手から滑らせた木刀が湖に沈んで殴られたけど。

 

「ガイア! お前さん、いつの間にそんなに強くなったんだ?」

 

「そうだぜ! 俺よりも強くなってるじゃないか?」

 

「いや、知らん。何もしてない」

 

 アンペルさんやレント兄ちゃんが俺の動きに冗談交じりの疑問を投げかけたが、俺自体が身体を動かしていないことを言っても最初は信じてもらえなかった。しかし、俺が『2人の方を見ながら』正面の女王の攻撃を食い止めているため、徐々に俺の言う事が本当だということが分かって徐々に目を丸くする。

 

 口々に『大丈夫なのか』や『異常はないか』と俺の体調を気遣うが、別に身体の限界以上に曲げたり伸ばしたりしていないので今のところは大丈夫だ。戦闘の方も俺──というか、彼がゴーストライターならぬゴーストソルジャーをやっているために徐々にだが押して行っているのが見て取れるし、姉ちゃん達の援護が時たま来るのでこのまま時間をかければ勝てるだろう。

 

 しかしながら、そう簡単に物事は解決しないのも事実であった。

 

(間に合わないな)

 

 先ほど俺の前に姿を現してから一層強く感じていた『彼』の気配が薄くなっていく。俺を動かすために憑りついたことでひと心地ついたと内心思っていたのだが、それでも彼本来の肉体の器ではないために少しずつ力が消えていっているのだろう。

 このまま行けば決着がつく前に彼が居なくなってしまうし、そこから再びピンチになる可能性も出てくる。

 

 その前になにか……決定的な一撃を加えられないだろうか。

 そう考えていた時、今まで散々槍を迎撃するために振り回していた弓がとうとう半分に断ち切られた。

 

「うぉ!?」

 

「ガイア! 下がっていろ!」

 

 武器が喪失したことで一気に畳みかけようと肉薄してきた女王を蹴り上げたリラさんが俺を背後に隠しながら下がるように伝える。──が、俺の肉体に宿る彼は真っ二つになった弓の残骸を左右の手に握り、リラさんの横を通り過ぎた。

 その対応に焦ったように俺を呼ぶリラさんだけど、当然ながら俺は思惑を知らずに困惑するのみ。いよいよもって無理やり気絶させる案もリラさんやアンペルさんを中心に話し合われていたが。

 

『目に思いっきり突き刺してやれ』

 

 唐突にナイスミドルな声が俺の脳裏を震わせる。

 今までうちの父さんが一番格好良い声をしているかと思っていたが、これはなんとも頼りがいのある年上の風格を匂わせる。

 出来るならば、そんな声の大人になってちやほやされたい。という願望が漏れ出るような声であったが、言われたことは結構バイオレンスである。

 

 そんな謎の声に返答も出来ず、肉体はただ前へと走り出す。左右に握った弓の破片をまるで双剣を装備しているかのように構え、向かってくる槍を的確に捌きながらも俺の肉体はとうとう女王の眼前へと到達した。

 

『やれ!』

 

「あ"ぁ”あ"ぁあ!」

 

 再び頭に響く声と同時に身体がふっと軽くなる。俺はよく分からないまま雄たけびを上げ、振り被った状態だった両手をあらん限りの力で思いっきり振り下ろした。現時点で姉ちゃんが作れる最高硬度であるゴルドテリオンで補強されていた弓の両端が虫特有の外骨格に一瞬だけ拮抗するが、バキバキという快音と共に突き破ることに成功する。

 

 硬い手応えが嘘のように無くなったことを良いことに、俺は一気に弓を突き刺した後に捻り上げてから手を放す。目の前で耳の鼓膜が破れそうなほど痛々しい絶叫を放つ女王から距離をとり、アンペルさん達の元へたどり着いた時にふと自分の中にあったはずのもう一つの気配がないことに気づく。

 目線を上げると女王に組み付く騎士の姿が瞬いたかと思ったら、再びあの青白い炎が女王ごと騎士を包み込む。

 

 あぁ……、これは。『そういうこと』か。

 

「なんだあの炎は。ガイア、何かしたのか? ……ガイア?」

 

「負傷したのか? 休んでおけ」

 

「いえ、なんでもありません。あと一押しかと」

 

 いきなり炎がふき上がったことに驚きながらも、俺が黙っていることに不審がった年長者2人が声をかけてきたので咄嗟に強がりを言って誤魔化す。

 

 そう──強がりだ。

 そんなに長い付き合いでもない。それにあいつに遊ばれた自覚も多々ある。

 だが、付き合いの長さではなく『共に戦ってくれた』、『命を救ってくれた』という得難い経験が俺の頬から数滴の雫を流させる。

 

 自身の存在さえも犠牲に俺の命を救ってくれたことに感謝の涙だろうか。それとも、もう少し自分が頑張っていたらこのような結果にならなかったという後悔や自責、それと彼に対しての謝罪の涙だろうか。それとも──都合が良い時に偶然出てきた水滴だろうか。

 残念ながら俺の頬を伝う涙の意図や渦巻くこの気持ちを今、この瞬間に言い表すことは不可能であった。

 

 しかし、やることはハッキリしている。

 とんでもなくシンプルこの上ないが──そう。ただひたすらに……。

 

「ガイア、どうするんだ?」

 

「殴る」

 

 レント兄ちゃんの疑問に拳を打ち合わせながら答える。

 

 攻める。叩く。そして倒す。それが彼に対する一番の手向けになるだろうと信じているからだ。

 

 ……呆れたようなため息を俺に聞こえるようにつくのは止めていただきたい。後ろ身体から姿は見えないけど、誰と誰と誰がやっているか分かってるんだからな! 

 

 すると、女王が槍を振るって炎を吹き飛ばしながら現れる。完全に燃え尽きることはなかったが所々を炭化させ、俺達が居る方向とは別の所を攻撃しているところからすっかり視覚を失っているようだ。

 こうなってしまえばあの反応が難しいスピードも驚異的な膂力も怖くない。

 

「ありがとう」

 

 そう呟きながら俺は再び掲示板へと語りかける。

────────────────────

突撃 お前が元凶かPart2 【ライザのアトリエ】スレより

795:ガイア

 よし、体力的に限界だからありったけで行くぞ

 

802:名無し

 っしゃぁ! 

 

807:名無し

 来たのか

 

814:名無し

 おせぇんだよ! 

 

818:名無し

 待ちかねたぞ、少年! 

 

825:ガイア

 おー、溜まってきたっぽいけど。そろそろマジで限界

 

832:名無し

 大丈夫? 移植元と同じ魔術師クラスにならないと内部崩壊みたいにならない? 

 

834:名無し

 つまり、これで終わってもいい。だから、ありったけをってこと!? 

 

838:名無し

 なるほど、相手は虫だからちょうど良いな

 

840:名無し

 唐突に流れる斬り姫

 

841:名無し

 唐突に横に腰を振り出す縦に髪の長い人

 

842:名無し

 唐突にタンバリンを叩きだす変な人

 

845:ガイア

 なるほどなぁ。よっしゃ、じゃあそれやるか

 男の(ギャグ時空の)生き様、みとけやこらぁ! 

 

851:名無し

 生死をかけたガチめの戦闘でふざける馬鹿が居るらしい

 

858:名無し

 いや、こんなところでギャグせんでええわw

 

863:名無し

 やれー! 殺せー! 

 

870:名無し

 THIS WAY

 

871:名無し

 いや、マジで命を圧縮系はやめろよ? マジで

 

872:ガイア

 あ、そういえばラッパ銃まだ壊れてなかった。これ使おっと

 

877:名無し

 FOLLOW ME

 

881:名無し

 >>872

 おい、なにじゃんけんと無関係の物持ち出してんだw

 

886:名無し

 >>872

 ラッパ銃www

 

890:名無し

 あったなぁ、何にでも勝てる反則技

 

891:名無し

 >>881

 いや、インドネシアのじゃんけんっぽい奴で『上官・銃・トラ』の三すくみはあるみたい

 

894:名無し

 ほへー。ってことはガイアもそれを知ってたりするんかね

 

900:名無し

 >>891

 サンクス。結構、ガイアも色々知ってるっぽいしな

 

907:ガイア

 >>891

 へー、そんなのあるんだ

 

910:名無し

 やっぱり知ってねぇぞ、この農筋

 

911:名無し

 >>907

 だと思ったよw

 

913:名無し

 >>907

 お前も知らねぇのかよ! 

 

────────────────────

 よし。じゃあ、『それ』でいくか。

 

 レスが加速していくのと比例してラッパ銃を握る手が無性に熱くなるが、やはりゲーム的なHPとは別の体力が回復できていないのだろう。視界が再びブレ始めた。

 だが、ここで倒れるわけにはいかない。『倒れる時は前のめり』を念頭に、荒く息を吐くことで意識をなんとか保ちつつ、俺はフラムを放り投げた。

 

 姉ちゃんが初期に作ったフラムが地面に落ちると同時に小さな爆発音が周囲に響く。そして、その爆発音を頼りに女王がこちらの方向を向くと槍を両手に構えて襲い掛かってきた。耳ざとい奴だ。

 

 やつが俺の元に到達し、槍を突き刺すのに3秒というところだろうか。時間がない。

 

────3秒

 

「FIRST……COMES……ROCK……」

 

 掲示板のイメージする最強の一撃の通り、『あのさん付けしなければならない少年』の詠唱を借りることにした俺は腰を落として叩きこむ腕に意識を集中させる。

 あの女王は生半可な一撃では決して止まらず、俺を殺しに来るだろう。逃げる? 仲間と囲んで棒に叩く? ナンセンスだ、到底俺の体力が持たないし、倒れた負傷者を庇いながら戦えるわけがない。

 

 だったら今ここで俺がすべきことは何だろうか──簡単に思いつく。

 女王の攻撃を躱し、後先考えれない程の力をぶつける。つまり、カウンターを決める。これしかない。

 それでだめだったら? 潔く後ろの仲間達に託すしかない。どうせ、この状態の俺がパーティに加わっても足手まといだ。勝率を上げるためならば致し方ないだろう。

 

「ROCK……PAPER……SCISSORS」

 

────2秒

 

 既に槍の間合いまで移動した女王が手に持った槍を動かし始める。ここで判断を誤っては即座にあの世行き。後々ドライアイが発生しようとも構わず俺は己の両目をこじ開け、女王の一挙手一投足に注視する。

 

 だが、俺は女王の狙いを凡そではあるが分かっていた。

 頭部。ここを潰されれば生物の大半は息絶える。自分でも若干引くぐらい生き汚いと感じるぐらいなので、彼女もここを狙ってくるだろう。心臓と迷ったが、現在の俺は腰を落として構えている状態なので、彼女の考えを読むならば頭部狙いだろう。

 

──1秒

 

 やはり頭部狙い。しかも、真上から頭を突き刺すつもりらしい。たしかに俺を殺すのに一番確実だが、面ではない点の攻撃の回避はちょっと打点からズレるだけで無効化できる。

 相撲のすり足練習の要領で中腰のまま少しだけ移動すると、俺の身体のすぐ横を槍が通過する。その勢いのまま、槍が地面に深く突き刺さると同時に──。

 

「GUN!」

 

 溜めに溜めた力を解放するかのようにラッパ銃の銃床で女王を殴りつけた。ベキンだの、ゴキンだのと当てたのが人体であれば即死の心配をするほどの轟音と共に女王は殴打の衝撃で出来た小さなクレーターに沈む。

 

 え、やっぱり拳じゃないのかって? だって拳だと俺の手が痛いし、ゴルドテリオン製だよ? それに銃床ってのは人を殴るためにあるって二丁拳銃の人が言ってたし、へーきへーき。……って軽口を言っていられる場合ではない。

 

「あー、もう無理。後は任せるから、その辺に転がしといて」

 

 一応の注意勧告をしながら俺は仰向けに倒れる。申し訳ないが、もはや指の1本すらまともに動かせないのでこれ以上は何を頼まれても出来そうにない。

 目を閉じたまま、運ばれる気配やら尋常じゃない殺気のような気配、そして姉ちゃん達の声を知覚していると、徐々にだが意識が曖昧になってくる。

 

 まぁ、全滅はしないだろ。後は──姉ちゃん達に……ま……か……。

 

***

 

 それからフワフワとした感覚に身を委ねた末にふと目を覚ませば、自宅のベッドの上で寝かされていた。すぐさま『知っている天井だ』とネタ全開のセリフを吐き出していると、水桶持った姉ちゃんが突撃してきた。

 

 ヤメロー、怪我人にタックルはやめろー! 俺はクォーターバックじゃないぞー! 

 

「結局どうなったん?」

 

「え、結構弱ってたからそのまま皆で倒したよ? だからガイアをリラさんとレントで運んで寝かせてたの。後は色々あったかな」

 

「色々を聞きたいんだが?」

 

 どうやら俺の知らない所で既に原作はラストに入りかけていたらしい。今まで散々頑張ってきたのに肝心な部分を置いてけぼりされた俺の気持ちをまったく汲まず、姉ちゃんは部屋から出て行った。

 

 あのさ、倒す前とか後に起こすとか普通……あるやん? なんか仲間外れになった感があって……ふふっ、悲しい。




Q:なんで英霊が出てきてんの?
A:オリジナル展開。直ちに問題はない
後、作者の中の編集者が『後々面倒だから英霊消しましょうよ』と呟いたから
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