起き上がったばかりで未だ本調子ではなく、状況もまだ呑み込めていない。寝ている時の配信実験で俺が完全に意識を失うと配信も途絶えることが分かっているため、俺が意識を失った後のことを掲示板の民に聞いても碌な情報が出ないだろう。
そうと決まれば自分の周囲の確認を先にやっておく。
「なぁ、居るか?」
机の上に置かれた弓。もはや燃えカスとなったそれに声をかけるが、内心薄々感じていたが返事は返ってこない。
なんだよ、お焚き上げするって言ったのに自分からお焚き上げされるんじゃねぇよ。──でも、助けてくださってありがとうございました。
どんな事情があったにせよ、アンペルさんやリラさん、そしてレント兄ちゃんと俺が戦闘不能となったあの状況を抑えきってくれなければ俺どころか全員がこうやって……こうやって?
あれ、まだ全員の生存確認出来てねぇじゃん! 一番大切なこと忘れてんじゃん!
「姉ちゃん! ねえちゃーん!」
「ライザなら出かけたよ! 起きて早々、騒々しいね!」
俺が姉ちゃんと呼んでいると、眉間にしわを寄せた母さんが扉を開けて怒鳴ってくる。正直、死地から生き残ってきた息子にかける言葉はそれなのかと物申したかったが、本当のことを言ったらヤバそうなので表面ばかりの謝罪をしておく。シュタウト家の男衆は賢いのだ。
「それよりあんたは……聞いたよ? 転んだ先に崖があって、そこから真っ逆さまに落ちたらしいじゃないか! もっとしゃんとおしよ! はぁー……、バレンツさんもこんな子のどこを気に入って同行させるのかねぇ」
「お母様? なにを仰っているのでしょう?」
転んだやら、崖から落ちたやら。実際ならばとんだピタゴ〇スイッチだ。当然、俺にもそんな記憶は一切ない。
だとすると──。
「ライザやレントやタオ。それにバレンツのお嬢さんも口を揃えて言ってたよ? ガイアがヘマをしたって」
やりやがった。
まぁ、冷静に考えれば俺の負傷の酷さ的にどうにかバックストーリーを用意して隠さなきゃいけないのは十分に分かるが、転んだ拍子に崖から転落は流石に俺を間抜けにし過ぎではないだろうか。
ただ、ここで『それは違うよ!』と超高校生級ムーブをかまそうとも数という説得力は易々と打ち砕けないため、黙って『ヘマをして魔物と戦う前に戦闘不能になった無能』になっていると姉ちゃんが皆を伴って帰ってくる。
良かった、全員無事みたいだ。……よし、姉ちゃんとレント兄ちゃんはアイアンクロー。タオとクラウディアさんは拳骨で許してやろう。
***
「──で、報連相は大事だよね」
「なにそれ」
「なにをしたのか、なにをするのかってことだよ! 俺だけ仲間外れじゃん!」
「あぁ、状況報告のことか」
「あ、もしかしてお父さんがよく言ってる報告と連絡と相談のこと? へぇー、"ほうれんそう"っていうんだ」
あ、造語はこっちで使われてないんだ。それは申し訳ないことをした。
俺は咳ばらいをしつつ、未だアイアンクローで出来た跡を痛がっている姉ちゃんを中心に聞き取りを始める。少し話をするだけでも俺が寝込んでいる間に色々進展があったようなので、一つずつ説明をしてもらうことにした。
俺が倒れた後、無事に立て直すことが出来た姉ちゃん達は死闘の末に誰も欠けることなく女王を倒すことに成功したらしい。そこら辺は俺とあの英霊の援護がなければ勝負にならなかったというアンペルさんとリラさんの言葉で多少マイルドになったが、姉ちゃんとクラウディアさんが俺の頭をコツコツ叩きながら『もう無茶はするな』と説教を受けた。
うん、大丈夫。『あまり』しないから。
次に件の女王だが、俺を運ぶ前に姉ちゃんが彼女の胸で輝く宝玉のような素材に興味を示したらしい。周囲のフィルフサが混乱している最中を撤退しなければならないためにレント兄ちゃんに取ってきてもらってその場で鑑定は出来なかったが、キロさんの野営地で改めて鑑定をすると凄まじいエネルギーを内包している物だと分かった。
なお、リラさんやキロさんといったオーレン族からは『戦士の証』。『島の動力部と同じ分類の力を感じた』という姉ちゃんの意見では、これこそがクリント王国が長年異界から持ち去っていた素材という見解らしい。
「なるほどね。異界の土壌にはそういった力の素材が大小あって、フィルフサの生物としての習性かなにかは知らないけど、そういった物を溜め込んだのかな?」
「そのような経緯だろうな。クリント王国もまさか、襲ってきた存在が長年自分達が錬金術で使ってきた物を純度を上げた状態で蓄積していたなんて毛にも思っていなかっただろう」
もし分かっていたのなら、むしろ積極的に狩りに行っていたはずである。そうしなかったということはつまり──そういうことなのだろう。なんとも皮肉的な話だ。
まぁ、そんなことはどうでも良い。その現物を姉ちゃんが一向に見せてこない。いつもは『じゃじゃーん』って積極的に見せに来るのに……。どうにも嫌な予感がする。
「それで? その素材はどこにやったん?」
「もうこの島の動力源を調合するために使ったよ? ちゃんと水も出ていることも確認したし」
『その水がそう』と水が入った桶を指差しながら当然といった様子で話す姉ちゃん。
いや、一応俺も当事者なんだから叩き起こしてでも知らせて欲しかったんだけどなぁ……。でも、寝てたのは俺の責任だからどうしようもないか。なんとも間が悪い話だ。
とにもかくにも、どうやら本当にほぼすべての問題が解決したようだ。タオの尽力で不安定だったクーケン島は制御を取り戻し、安定したらしい。
魚の不漁に関しても今まで流された履歴を辿れば元の豊かな漁場がある辺りまでゆっくりと島を進めることが出来るみたいだし、水も順調に出ているみたいだ。
「で、古式秘具を返しに行くんでしょ? 俺も……」
「うん……、そのつもりだったんだけどね。ボオスが持って行っちゃった」
「よし、行くぞ。そら、行くぞ。疾く、行くぞ」
俺の決断は早かった。即座にベッドから起き上がり、皆を追い出して準備をする。まだ全身がズキズキと鈍痛を発しているが、今はそれで動きを遅くする暇はどこにもない。
テキパキと装備を終えた俺は机の上の弓──もはや燃えカスとなったそれを丁寧に近くにあった小箱へ移してから机の引き出しの中に仕舞ってから外に出る。
「なんで1人で行かせたんだよ」
「そんなこと言ってもあたしにも分からないよ。レントとタオが──」
「あいつなりのケジメなんだ。それに、俺が鍛えたんだぜ?」
だからって重要な物を1人で危険なところに持って行かせ……。俺も似たようなこと何度もしてるから咎め難い。そして二の句も告げる暇もないので、俺達はすぐさま異界を目指す。
「ねえ、ガイア。農業の話なんだけど」
「水が出たんだ、やるよ。ただ、これはルベルトさんにも言おうと思っていたんだけど。……多分、クーケンフルーツの味は落ちる」
突飛な発言に姉ちゃんが驚くが、理論上は簡単なことだ。
オーレン族の水源の水と淡水化装置を動かして濾過した水。同じ水質がどうかなんて、錬金術士じゃなくてもある程度の知識があれば全く異なると分かる。
そして、これは俺の味覚がおかしいかもしれないのだが、僅かに元の水の方が美味かったと思う。クーケンフルーツは水と密接に繋がっており、水の良し悪しが味の決め手になるといっても過言ではない。そのために日常で使う水が大事だ。
一方は雄大な自然から古式秘具によって直に引いてきた水。一方は天然ではあるが濾過をした湖の水。どちらの水がクーケンフルーツの農業用水として優れているかは……。土壌との相性もあるためにこの場で断ずることは出来ないが、外れて欲しい俺の見立てとしてはまずくなる可能性の方が高いだろう。
「それは……大問題だね」
「そうだな」
「最悪のパターンだと取引停止も十分あり得る」
「私がっ! お父さんに黙って「それは駄目だ」」
俺が幼馴染組と話していると、クラウディアさんがとんでもないことを言いだしたために慌てて止めに入る。出会った時のように肩を震わせながら俺を見ているが、それは商人としてやってはいけないことなので甘んじて受け入れてもらう。
「農家は自分の出荷した物に責任を持たなきゃならないんだ。商人もまた同じ。最初に味わったものよりもまずい物を出荷したと分かったら大騒ぎになるよ」
「でも、まずいかなんて食べて見なきゃ……」
俺の説得に頷くアンペルさんの横で姉ちゃんがクラウディアさんを庇うように反対意見を言ってくる。
姉ちゃんのここら辺がまだまだ子供なんだよな。矜持ってものを分かってないよ。
賃金が見合わないと感じる感じないは個人の勝手だが、作る人にしても、サービスを行う人にしても、賃金をもらうってことは少なからず責任が発生する。
仮に味が分かる人が古式秘具仕込みのクーケンフルーツを食べたことがあって、その美味しさに大量購入したら少々味がまずくなっていた。しかも、それが貴族であった。
この例え話が流石に飛躍しすぎだが、王都で扱うのだったらこれぐらいの覚悟は持たねばならないと俺は思う。
「リラさんだったらどう思います? あ、貴族としてじゃなくて」
「店主に文句を言うな」
「最悪、店を破壊するかもな。あ、もちろん私は別の所の物を偽って出したのではないかと大声で抗議……。痛いぞ」
「ふんっ!」
相も変わらずストロベリっている2人は放っておくとして、割と常識人の2人でもこうなるわけだ。そうなると農家とは別にそれを卸しているバレンツ商会にも『風評被害』という多大な迷惑をかけてしまう。
「まずいって言ってもどのくらいか分からないんじゃないか?」
「そう、そこが問題」
俺はレント兄ちゃんの言葉に同意する。
そう。この場合は『どのぐらいまずいのか』がネックになる。例えばこれが某大阪城に変化したり、美味さの度合いで脱ぎ具合が変わる色物グルメ達が『ちょっと味が落ちたな』レベルなら別に良いが、王都の人達が『まっず! 味変わりすぎだろ』というレベルの変化ならば大問題に発展する。
つまるところ、状況が次かその次の収穫期……もしかしたら数年単位を跨いだ時期まで待たなければならない爆弾である。
ただ、俺の錬金アイテムの品質をある程度分かる能力や農業者としての見立てを含めれば──努力しても多少は劣化するだろう。しかし、それを今から言って不安にさせるわけにもいかないため、この予想は俺の中に仕舞っておく。
「ルベルトさんどころか、俺達もその頃のクーケンフルーツの味なんて想像できない。だからこそ予想がつかないんだ」
「何とかならないの?」
クラウディアさんを中心に皆が不安げに俺を見てくる。
ルベルトさんじゃあるまいし、商人のことは分かんないよ。──と言ってしまえばまだ楽だったんだがなぁ。
仕方ない。ちょっと姉ちゃん含めた女性陣、そのお顔を拝借っと。
────────────────────
水が微妙にまずい件 【ライザのアトリエ】スレより
35:ガイア
なんか、淡水化装置から出てきた水がまずいんだけど
クーケンフルーツがまずくなりそうなんだけど! 知恵貸せ!
【画像】
38:名無し
まずはお前が考えろ
42:名無し
なんでも俺達の言う事聞いてんじゃねぇぞ
48:ガイア
とりあえずは考えてるよ。
案①:事情を説明したうえで仮契約で数年後に本契約をする。
これは寿命を数年先にしただけ
案②:事情を説明したうえで契約を切ってもらう
農家や招集したブルネン家が死ぬ
これぐらい
51:名無し
>>48
なんだ、結構考えてるじゃねぇか
55:名無し
>>48
数年先にしてもらって、その間にライザに栄養剤作ってもらうとかかね
57:名無し
>>48
数年後までに栄養とか栽培方法変更とかやればいけるんじゃね?
62:ガイア
>>57
そんなポンポン栽培方法とか変えれっかよ。ご先祖が苦労してようやく確立したんだぞ
やった、なんかしらんけど出来た。さすガイじゃねぇんだよ
67:名無し
でも、それ以外方法ないんじゃね?
71:名無し
つまり、ガイアが頑張れば万事OKだな
78:名無し
よっしゃ、かいさーん
85:名無し
ほな、俺はギャラ貰って帰るから
87:ガイア
お前ら待てや。ちゃんと話し合え
93:名無し
>>87
ガイア、俺らって所詮人事だからな
99:名無し
しゃーねな、一つだけ言ってやるよ
2つ目の案だけはやめろ。サラリーマンやってたなら分かると思うけど、信頼とか横の繋がりってこええぞ
101:名無し
実質、1つしか案ないやん
108:名無し
>>99
んだなー、バレンツ商会が取引止めたって噂聞いたりとかあるからな
109:名無し
下手すりゃ秘境扱いになる可能性
115:名無し
モンスターが居る世界で外部からの商人とか外貨獲得の機会減るのは死ゾ
116:ガイア
だよなぁ
ていうか、皆詳しくね?
119:名無し
>>116
内政系とか大好物です
123:名無し
内政チートじゃないけど、調べれば色々出てくるからな
126:名無し
つーか、マジで案①ぐらいしか思いつかん
129:ガイア
>>115
ちなみに、外貨獲得怠ったらどうなんの?
135:名無し
え、アガーテがいつまでも健康でいると思ってるの?
141:名無し
>>129
何かあった時の村の貯え(防衛力低下した時の傭兵代)
村の神童の親が貧乏だった時の学費(タオはどうなんだろ)
流行り病が蔓延した時の薬、または材料代(ライザが採集する可能性もあるが)
やっぱりクーケン島がダメになった時の当面の資金
色々使えるぞ
146:名無し
>>141がすっげー具体的に書いてくれてて草
151:ガイア
>>141
さんきゅー
やっぱ、案①かねぇ
────────────────────
うーん、俺が頑張るっていうのは論外。それと契約を無条件で切ってもらうのは俺達が外貨獲得できなくて死ぬから駄目っと。やっぱ、現在を仮契約にした状態で済ませてもらうのが一番当たり障りがないかなぁ。
「時間稼ぎ……っていうか、現状を話して本契約を待ってもらうしかないね。その間に俺は農業で、姉ちゃんは栄養剤とか土の状態を錬金術側から良くする感じで。バレンツ商会は俺がやる予定のクーケンフルーツの保管方法についてもっと協議して劣化をなるべく防ぐやり方で対策。これらをやって数年後に味がかなり悪くなったら……切るしかないよ」
「そっか」
「話は後にしろ。異界に入るぞ」
移動しながらの長い説明を黙って聞いてくれる皆。既に場所は門の前まで来ているため、話は戻ってからということになった。
異界に移動すると既にキロさんとボオス兄さんが待機しており、彼らの案内で聖地の奥にある水源まで移動する。周囲にはフィルフサも居ると思っていたが、キロさんが言うには女王が倒されて以降は組織だった動きをせずに群れや1匹のみで暮らしたり、こちらを積極的に襲ってこない個体が増えたりとまるで野生の獣のような生態になったらしい。
「だから、聖地の精霊化を進めたい。ダメ?」
小首をかしげる仕草をするキロさん。あ、それだけで周囲の精霊化出来そうな破壊力っすわ。──いや、あの掲示板の愚民共は1スレッド消化するだろうな。
ただ……まぁ、後で違うポーズもしてもらうか。
「ここだな」
俺が了承したところでリラさんが水源に到着したことを告げた。水源というべきか、キロさんの野営地の中に組み込まれていたというべきか。ともあれ、この岩の切れ目から滾々と湧き出ていたのだろう。微かに枯れた水草の残骸が見える。
────────────────────
水が微妙にまずい件 【ライザのアトリエ】スレより
236:ガイア
さて、古式秘具の解体ショーの始まりや
【画像】
242:名無し
>>236
解体っつっても叩き潰すだけだけどな
248:名無し
>>236
えぇい、男はいい! 女を映せ!
250:名無し
言い方がゴブリンのそれなんだわ
255:名無し
>>248
とりあえず燻すか
260:ガイア
結構、豊かだったんだな。水草とかあるわ。
枯れてるけど
【画像】
267:名無し
画像から見るに、結構豊かな水源っぽいから周囲掘っておけば?
272:名無し
水の受け口とか必要じゃない?
273:ガイア
あー、村の水汲み場的な? やっとくかぁ
280:名無し
土木工事も出来るとか、なにこの人間重機
281:名無し
鉄砲水とかに気を付けろよー
282:名無し
ガイアって王都行ってもバイトでくいっぱぐれなさそうだな
286:名無し
なるほど、フリーター野郎になるのか
288:ガイア
泥が固まってるわ。ちょっと時間かかりそう
【画像】
291:名無し
動画配信サイトでよくある山開拓系の動画のそれなんだわ
295:名無し
なんか、土中の金属を手製の坩堝に入れて金属製の道具作りそう
296:名無し
日干し煉瓦でちっちゃな家作って住んでそう
303:ガイア
そんなに俺のことを未開拓民にしたいか
とりあえず、進捗
【画像】
306:名無し
>>303
まぁ、そんなことにはならんけど。ガイアが居るから変なこと起こる前提でやっといたら?
────────────────────
掲示板の民が言うように、いきなり水が押し寄せるのも怖いので念には念を入れて俺の腰ぐらいの深さで水を溜める部分を作っていく。まさか、幼少期にクーケン島に穴を掘って井戸を作ろうとした知識がここで役に立つとは思わなかったが、掲示板の民のレスもあってか俺の整備作業に呼応して野営地内に精霊の力が広がっていっている……らしい。俺、そんな探知能力無いから知らんけど。
「ガイアをここに置いて行った方が良い気がするんだけど」
「やだよ。俺は農家なんだぞ、冒険者じゃないんだぞ」
「どこの世界に女王を殴り倒す農家が居るんだよ」
「この世界」
異界でコンバイン行脚なんて誰がするか。レント兄ちゃんが女王を殴り飛ばしたことを言ってくるけど、世の中……っていっても作品の中でだが、のんびりと銘打っておきながら神様から神具もどきをもらったり、農民じゃ絶対お目にかかれない種族と交流したりするチートも居るんだぞ。俺ぐらい屁でもねぇわ。
ああいう天上に住まうキャラ達なら、絶対女王戦も参加するね。いや、1人で何とかしちまうね。俺は詳しいんだ。
うっし、このぐらい掘れば大丈夫かな。ボオス兄さん、古式秘具をそこに置いて……そうそう。ここでぶっ壊しても? ……OK?
じゃ、ボオス兄さんやっちゃって。
「うおぉぉぉ!」
ハンマーを上段から振り下ろしたことで、古式秘具はガラス製の器を砕いたかのような音と共に霧散する。その呆気なさに全員が放心するが、濃密な水の気配と水が流れる音が全員を現実へと引き戻す。
オーレン族の水源が戻ってきたのだ。
「ぃやったーっ!」
「うん、すごいよライザ! 何もかもピッタリ、上手く収まったんだね!」
うんうん、万事うまく行って良かった。レント兄ちゃんがボオス兄さんを引っ張って喜んでいる。
おい、だからナマモノ掛け算は止めろつってんだろ! アク禁するぞ、おめーら。
仏陀フェイスを次々と破壊していくナマモノを取り締まっていると、岩の切れ目から水がしみ出してくる。今は水量も大人しいが、時間をかければもっと出てくるだろう。
試しに岩の切れ目に手を這わせ、染み出た水を両手に溜め込んでから口に含む。感じたのは長年クーケン島で飲んできたあの水の清らかな味。
あー、これであの味は作れないんだな。
いや、本来はこれが正しいんだ。だけど、今後のことを考えるとどうも頭が痛いよ。
なんせ、クーケンフルーツの商用化で何件かの農家がクーケンフルーツを再度栽培するって父さん経由で知っているから、味の劣化については俺じゃなくても数年後には皆気付くだろう。
そこからだな、問題は。あー、何度も言うけど頭が痛い。
────────────────────
水が微妙にまずい件 【ライザのアトリエ】スレより
492:ガイア
うちの島の問題で頭が痛いでありんす
495:名無し
せやな
501:名無し
まぁ、現状はどうすることもできんよ
502:名無し
>>492
あぁ、クーケンフルーツの件か
509:名無し
ガイアが居るからどんな影響出るかが不安要素だな
511:名無し
ちくわ大明神
512:名無し
ライザに栄養剤作ってもらうべ
518:名無し
水なんてそんなほいほい水質改善できないしな
525:名無し
誰だ今の
531:名無し
誰だ今の
536:名無し
やっちゃったもんは仕方ねぇよ。なるようにしかならんさ
537:ガイア
やっちゃったなー、やっちゃったなー。おい
541:名無し
旦那、やっちゃったもんは仕方ないよ。呑んで忘れな
543:名無し
あかん、なんかガイアが銀髪のパーマに見えてくる
548:ガイア
だってさー、まさかあんなところにあんなのが居るとは思ってなかったしなぁ。やっちゃったなー
551:名無し
唐突に始まる銀〇臭
555:名無し
>>543
パーマはパーマでもライザは栄えあるメ〇ロだぞ
556:名無し
やっちゃったじゃねぇ!
559:名無し
>>555
そんなこというなら、クラウディアはシャイシャイするダートのアイドルだぞ
563:名無し
>>559
でも、あなたより弱い恋愛弱者はガイアの方ですよ。ファル〇ンさん
565:ガイア
>>563
ンだぁ? てめぇ
俺が本気出せば一発なんですけどぉ!?
568:名無し
しゃいしゃーい
571:名無し
>>565
じゃあ、やってみろ
574:名無し
やってみろよ、ガイア!
579:名無し
やっちゃいなよ、そんな商家のお嬢さんなんか!
582:名無し
やれー!
587:ガイア
……ムリッス。流石に3か月かそこらでそういったのはきつい
588:名無し
やれー、農家の子ー!
591:名無し
>>587
はー、つっかえ
594:名無し
そもそも、3か月で色々解決するのがおかしいと思うの
────────────────────
掲示板の民から『なるようにしかならん』と言われる。そこは激しく同意なため、とりあえずの方針として目先のことにを着実にこなしていくことに決めた俺は、門の封印を見守った帰りにルベルトさんへの会談を申し込んだ。
どうやら俺の怪我の療養を待っていた節があったらしく、次の日に場を設けてくれた。俺はその厚意に感謝しながら、姉ちゃん達がアトリエに行く姿を見送ってからさっそくバレンツ邸に赴く。
「やぁ、待っていたよ」
「失礼します」
ルベルトさんに促される形で俺は案内された応接室のソファに座る。本日はクラウディアさんがアトリエの方に行っているために『商談の練習が』とルベルトさんが愚痴を言っていたのだが、彼女も彼女でそろそろタイムリミットなのだろう。
「昨日、クラウにも話したのだが、この島を離れることになったんだ」
「販路が確立したんですか?」
俺の言葉にルベルトさんは肯定する。
やっぱりか。本当にクラディアさんが旅立つ猶予も残り少ないし、本題を言う機会は今の段階でもかなり遅いぐらいだろう。俺の脳裏に前世の社会人生活でよく経験した『なんでこんなになるまで報告しなかった!』という罵声がリフレインする。
だけどあの上司、俺が報告しても『はいはい』って流して聞かなかった風にするからなぁ。それも見越して何度も言うと、『分かってるよ、俺がそんなに馬鹿に見えるか!?』ってキレるし。
ああいう手合いはどうやったらうまく報連相出来るんかねぇ。……ととっ、脱線した。
「販路が確立してこのようなことを報告するのは誠に苦しいのですが、今後のことを考えると取り返しがつかない事態に発展するかと思い、ご報告に上がりました」
「そこまで君が言うぐらいのことが起こったのかい? クラウからはなにも聞かされていないが」
「クラウディアさんには自分が説明すると説得しました」
クラウディアさん、言ってなかったのか。まぁ、あの子もあの子で若いから商家の娘と友達で揺れ動いたんだろうな。
ただ、元社会人として。対等の立場で商売の話をしてくれたルベルトさんへの敬意として。後で独善的と攻められようが、外と関わる以上は話さなきゃいけないことだ。
意を決した俺は粗方の事情を話した。ただ、フィルフサや水源のことは『魔物が居座っていた場所が、実は錬金術によって水をクーケン島へと転移して運んでいた水源らしく、魔物の影響で若干水質が悪化してしまっていた』と全く別のカバーストーリーをでっちあげた。
後で皆に共有しなければならないが、昨日の夜から考えて水質調査をしていた姉ちゃんと粗を探したから話的にはつながるはずだ。
「ふぅむ、そんなことが。しかし、それがなにか?」
「クーケンフルーツは水が大事だというお話は前にさせてもらいましたよね?」
「あぁ、味のことですか」
ルベルトさんは即座に結論付けてくれる。今、彼の頭の中では高速に影響力を勘定に入れているだろう。
どのくらいの品質の劣化か、保存方法に変更はあるか、契約の見直し、後はこの話を誰かにしたのか。ぐらいだろうか。
俺のたいして良くない頭で試算すると、大まかに分けてこのぐらいのことだろう。どれも割と聞きたくない言葉だ。なんだか胸が苦しくなってきた。これが不整脈だろうか。
「どの程度の味が劣化するだろうか?」
「分かりません、まだ今回の水で生育がしていませんから。おそらく、1年経つごとに元の水の品質から今の水の品質へとゆっくり推移していくものと思っています」
「この話は誰かに?」
「魔物を討伐した者達だけですね。この島の農家にはまだ話していませんし、話す気はありません。もし話せば、クーケンフルーツの栽培を止めるでしょうし、そうなると収穫量が少なくなって契約以下の産出となります」
「契約の話が出たが、どうするべきだろう」
「この契約を仮契約とし、数年後にルベルトさん。もしくは代理の方を派遣してもらい、再びクーケンフルーツの試食をしてもらえたら幸いです。厚かましいかもしれませんが、私たち農家としましてもこの契約は外への窓口の一つと考えているので失いたくありません」
「品質が下がるのは確定かね?」
「水質が下がっているのは錬金術士のライザリン・シュタウトから確認を取っています。農家的な意見で恐縮ですが、多かれ少なかれ影響があることは断言できます」
契約についてはブルネン家や他の農家も関わるため、『今すぐ別の契約にして欲しい』や『そちらも時間という対価で販路を確定したわけですから、このまま行きましょう。そちらにとっても悪い話ではないでしょう?』とは言えなかった。
しかし、人気商品になる可能性があるものが突如として品質劣化する時限爆弾に代わるというこの問題はおそらくルベルトさんからしても耳が痛い話だろう。
部屋の雰囲気は俺が今まで感じたことがないほど重く、ルベルトさんの唸り声に満ちていた。
はい、急遽取り入れたライザ3のイベントの伏線ですね。
錬金アイテムや素材の品質分かって農業関係の知識があるならこのぐらいは…ね。ということで取り入れた次第です。
もう少しだけ付き合っていただく!
というわけで、年末にお読みくださった方々は良いお年をお迎えください。そしてお正月にこれをお読みくださった方々、明けましておめでとうございます。