農家の子   作:マジックテープ財布

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5話

 流星の古城には案の定というべきか、大量の魔物が居た。珍しい白いイタチやら黒いぷにの他、中にはどうやって動いてるのか分からない鎧まで居たが今は時間が惜しい。落とす素材はもったいなかったが遠距離から秘密兵器を使った投げ槍で素材も残らなくしたり、高所の場合はタックルで突き落したりと対処をしながらつき進んでいった。

 その最中も掲示板は覗いていたが、どうやら俺が新スレッドを立てれないことを察してか誰かがスレッドを立ててくれたらしい。お、前のスレッドで出た俺へのアドバイスも載ってる。ありがてぇ。

 おっと、配信って確か前スレで言われてたな。ちょうど、タオが何かを解読してるから今のうちにやっとくか。

 えーっと、こうやってこうやって……こうじゃ! 

────────────────────

流星の古城へ一狩り行こうぜ! 【ライザのアトリエ】スレより

3:名無し

 ガイアへ

 前スレの意見をまとめた。あとはどう動くかはお前次第だ

 目を大量に配備するため、配信はしておくこと。だけど流れるコメントに意識を向けるのはNG。

 竜の火球には注意。ゲームだとRTAとか装備強化していなければ一撃でやられる部分。

 前線に行かないって話だったけど、相手の体勢を崩すためのアイテムを投げれる環境ならば投げておいて損はない。

 ゲームではできなかったが、怪我人を一か所に纏めて守るってのもライザ達の戦いやすさ的にGOOD。

 クラウディアが現PTのサポーターをしているプレイヤーが多いので、彼女が気持ちよく動けるように注視しておく。

 

9:名無し

 >>3

 彼女が気持ちよく!? 

 

11:名無し

 >>9

 こいつを竜の前に放り込め! 

 

20:ガイア

 >>3

 サンキュー。配信ってこれで見れるかな? 

【リンク】

 なんか古代文字をタオが解読中

 フィルフサって今の時間とか教えてくれたり、電気消してくれるみたいなやつ? 

 

26:名無し

 それはアレクサ

 まさかこいつ、結構余裕? 

 

34:名無し

 おー、見れた見れた。改めてこの掲示板スゲーな、配信もお手の物か

 

40:名無し

 誰が作ったのか分からんのが怖いけどな

 

49:名無し

 ヒュー、見ろよあの太もも。まるで丸太だぜ! 

 

50:名無し

 目線たっか! レントのつむじ見えそうじゃね? 

 

52:名無し

 うぉ、爆発音

 

60:名無し

 いやいや揺れる揺れる! きmちわr

 

66:名無し

 あれ、あの先に居るのってアガーテさんじゃね? 

 

73:名無し

 おい、ガイア何してんだ! お前、前衛じゃねぇんだろ! 

 

74:名無し

 うわ、盾で火球受けて弾きやがった。やっぱ掲示板のタイトルあれにして正解だったわ

 

────────────────────

 爆発音が聞こえてきた方角に走ったおかげでなんとかアガーテ姉さんに当たるはずだった火球を弾き返したが、盾を固定している方の腕が未だにじんじん痺れている。これは防御に徹するのは無理だろうな。ほんと、モリッツこの野郎! と叫びたくなるわ。

 

「ガイア!? なぜここに居る!」

 

「後ろから来る人に聞いて、今忙しいから!」

 

 背後でアガーテ姉さんが俺の予想外な登場に驚いているけど、残念ながらドンキホーテは俺だけじゃないんだよなぁ。

 そんなことを考えながら俺は一旦盾を身体で支え、先ほどから使っていた秘密兵器──くぼみが付いた棒状の器具に特別製の投げ槍をセットする。今もなお視界の端にある配信のコメントから『いけー、原住民の子ー!』とか『バ●ニア野人かな』などが流れてくるが、俺は農家だよ! 

 

「お前たちまで!」

 

「そんなことより、他の皆は?」

 

 おっと、姉ちゃんらも合流したな。最初こそ驚いていたものの、平静を取り戻したアガーテ姉さんが言うにはあの燃え盛る炎の奥にボオス兄さんや護り手の人達が居るそうだ。ほんと、嫌な予感ほどよく当たるよ。

 ただ、そんなお話をこんなところで悠長にしている暇などなかった。自分が会話の輪の中に入っていないのが退屈だったらしく、滞空しながら俺達を睨んでいた竜の口中に赤い閃光が瞬きだした。

 

「まだ皆が話してる最中でしょうがッ!」

 

 どこかで聞いたセリフを言いつつも、俺は先端にフラムがぶら下がった投げ槍が固定された機器──アトラトルを竜に向かって振った。テコの原理によって腕で投げるよりも早く、そして正確に投げ槍が竜の腹部に命中する。

 残念ながら鱗や筋肉に阻まれて浅かったが、刺さった投げ槍に吊るされたフラムが大爆発を起こして竜を怯ませた。良かった、これで対空攻撃が出来る。

 

「じゃ、後は任せたよ。タオ、向こうのボオス兄さん達を助けに行こう。アガーテ姉さんも手伝って」

 

「えぇぇっ、無理だよ!」

 

「そうだ、せめて竜との戦闘に私を……」

 

 アガーテ姉さんが言い終わる前に激昂した竜が火球を2つほど連射してくる。──狙いは姉ちゃんとクラウディアさんか! 流石は長年生きた個体、狙いが堅実だ。

 

「言い合ってるっ! 暇はないっ! でしょ!」

 

「ガイア君の言う通りです。ここは私たちに任せてください」

 

「あ、そうだ。もし勝てたら、ご褒美にお説教は無しってことで」

 

 火球をなんとか弾いた瞬間に俺は後ろから走ってくるレント兄ちゃんと前線を交代し、続けて姉ちゃんやクラウディアさんの間を走り抜けてアガーテ姉さんの元にたどり着く。

 くっそ、せっかく手作業で貼り付けた鱗がほとんど剝がれてるじゃないか。道理で熱かったわけだ。

 いや、今は盾のことを気にしている場合じゃない。早く炎の向こうへ行ってボオス兄さん達をこの戦いの影響にならないところまで連れて行かないと。

 

「タオ、一番臆病な君には2つの役割がある。俺と一緒にあの中へ行ってボオス兄さん達を見つける手伝いする? それとも……そうだな。あの辺りに怪我人を集めるから、その周辺を確保するの。どっちが良い? あ、ちなみにどっちも嫌だって言うならレント兄ちゃんの代わりに前線に行ってもらうけど」

 

「ひえぇ。ちょ、ちょっちょっと待ってよ!」

 

 待たん! あと5秒な。いーち……はいおわりー。あ? 酷い? 男は1だけ覚えとけば良いってとっつぁんが言ってたんだよ。良いからさっさと行くぞ。

 

「面倒くさいから怪我人の捜索要員ね。あ、アガーテ姉さんはあの辺の確保をお願いします」

 

 さっさと指示をして俺はタオの首根っこを掴むと、竜相手に激戦を繰り広げている姉ちゃん達から距離を取りながら燃え盛る炎の前に立つ。

 予想以上に燃えてるけど、たしかレヘルンがこの辺りに──あったあった。ぽいっとな。

 

「うし、これで入れる」

 

「ねぇ、ガイア。炎の後ろに人が居ないこと確認してなかったよね?」

 

「……よーし、手分けして怪我人回収するぞー!」

 

「もー! その辺がライザと似てるんだよー!」

 

 失敬な。姉ちゃんと違ってインテリジェンスが溢れとるわい! それよりも怪我人探してこい! 

 そう言ってやると、納得いかないといった感じでタオが怪我人を見つけては俺の近くに引き摺ってくる。引き摺って来られた護り手の人達を俺は1人か2人ほど抱え、遠回りでアガーテ姉さんのところに下ろす。そして、再び炎の壁に開けられた穴を通って怪我人を運び出すといった流れで次々と救助していく。

 こうしてアガーテ姉さん確認込みで護り手全員の救助が完了したわけだが、幸運なことに命に係わるような重体の者や死者は居なかった。全員、火傷や打撲、酷いもので骨折。いやぁ、本当に良かったよ。

 

 だが、肝心のボオス兄さんとランバーさんがまだ助かっていない。──いや、見つけて命に別条がないことは分かってるんだけどね? タオの手出しが断られるの見ちゃってるんだよ。

 

「ガイア、ボオスが自分で歩けるって聞かないんだ! 一応、ランバーは気絶してたから引っ張ってきたんだけど」

 

「あー、うん。任せて」

 

 これだ。視界の端に流れる配信のコメントでも『今まで馬鹿にしてきたやつからの助けだしなぁ』とか、『意気揚々と行って返り討ちにあったからな』とか同情的な意見も多い。が、今はボオス兄さんを悠長に待つ余裕がない。実力行使で行かせてもらう。

 

「あ、タオ。アガーテ姉さんと合流して周囲の警戒を強めておいて。もしかしたら竜の劣勢に増援が来るかも」

 

「えぇ! な、仲間意識とか魔物にあるの!?」

 

 タオが驚いてるけど、仲間意識ではなく『新たなボスになるための漁夫の利』を俺は危惧している。仮に竜を倒した際に新たな魔物が現れても、返り討ちにあったボオス兄さんやアガーテ姉さん、竜退治で疲弊した姉ちゃん達に任せるのは良くないと伝えると、タオはちょっと渋ったが警戒のために戻っていった。

 

「さて、ボオス兄さん。これで俺だけだよ、良き村の農民である俺の助けなら受け取ってくれるよね? あ、拒否権ないからね。こう見えても忙しいんだよ」

 

「はぁ……。礼は言わねぇぞ、それに親父に色々言ったそうじゃねぇか」

 

「上から指示する人が当然考えることを言ったんだけどなぁ」

 

 俺の言葉にため息をつきつつも、ボオス兄さんはしっかりと俺の肩に掴まってくれる。後は気絶中のランバーさんを米俵のように担ぐと、俺は炎の壁の隙間を抜けて多少覚束ないボオス兄さんの足取りを介助しながらゆっくり竜に見つからないルートで進んでいく。

 決して竜にみつからないよう慎重に進み、一旦物陰で竜の視線を確認するためにボオス兄さんとの2人体制で竜の動向を見張る。すると、物陰で見ていることに気づいた姉ちゃんやレント兄ちゃんがボオス兄さんの無事な姿を見て表情を明るくさせた。

 

 『こっち見んな、竜に気づかれるだろ』という気持ちを込めたジェスチャーで返し、竜が気づく前にさっさと移動しようとボオス兄さんを向いて声をかけたが……、姉ちゃん達の表情と逆にその表情を見た彼の表情は一気に暗くなっていた。

 まぁ、そうだよな。今まで村のために自分の出来ることをやってきて、なおかつ向上心を持って努力してきたのに、いきなりたまに村の仕事を手伝うだけの遊び人がメキメキと力をつけ出したら焦るよな。

 なにはともあれ、早く竜との激戦区を抜けようと足早で脱出する俺の耳にボオス兄さんが何かを呟く声が聞こえてきた。

 

「なんでだ、なんであいつらなんかに助けられなきゃ……」

 

「ボオス兄さん、今回はなにもかもが性急すぎた。今回ばかりはその代償として姉ちゃんらに大人しく助けられてよ」

 

 うーわ、相当参ってんな。だけど、姉ちゃん達も昔みたいな奴らじゃないんだよ? 

 動けないことを良いことに、俺は独り言を呟くボオス兄さんに合わせて言葉を投げかける。

 

 たしかに今まではあまり良い村人というにはお転婆過ぎた姉ちゃん達だけど、アンペルさんやリラさんのおかげで何もかもが変わり出した。──いや、ようやく成長し出したと言えるのではないか。

 姉ちゃんは様々な物が作れる錬金術で、レント兄ちゃんは今も竜相手に決して怯まない武力で、タオは古代の文も時間をかければ読めるほどの知力を現時点で持っている。いずれモリッツさんの後継になる人間なら、せめてそれらを村のためにと逆に利用する気概が必要なのではないんじゃないの? 

 

「だけど……今更あいつらと楽しく会話なんて……」

 

 俺の説得に素直に耳を傾けてくれるボオス兄さんだが、それでもまだしこりが残っているらしい。本当に面倒臭い交友関係だな。

 だが、そんな某海賊漫画みたいな『ごべ──ん! おれが悪がったァ──!!』で済むわけはないのは俺だって分かってるつもりだ。他の怪我人を寝かせている場所にたどり着き、お米様抱っこで運んできたランバーをアガーテ姉さんに受け取ってもらった俺は、ボオス兄さんを少々離れたところに下ろす。

 

「どうせ、姉ちゃん達が気になるんでしょ?」

 

「なんでも分かっちまうんだな」

 

 そりゃあ、一緒に過ごしてきた年季が年季だからね。そこ、コメントで『ガイ×ボオ来てる』とか言わない。そっちはゲーム感覚だけど、こっちはナマモノなんだぞ! 

 

 そうしている間も戦いは続いており、俺はボオス兄さんとそれを見学する。姉ちゃんが錬金アイテムや物理で体勢を崩してはレント兄ちゃんが強力な一撃を加え、クラウディアさんが後ろから回復や相手へのデバフをこなしている。

 今のところは危ない部分はないが、時折繰り出される火球や尻尾での強撃が姉ちゃん達を襲う。サブプランだった『後衛の移動式遮蔽物案』を実行に移す時かな。

 

「ボオス兄さんは休んでて。ちょっと行ってくる」

 

「ガイア、待ってくれ」

 

 急にボオス兄さんに呼び止められたけど、なんだろう。…………え、まじで無言なんだけど。嫌がらせ? 

 

「何かあるならさっさと言って欲しいんだけど! もう行くよ?」

 

「いや、違う! その……俺だってあいつらに……あいつらと!」

 

 そこまで言ってボオス兄さんは黙ってしまう。うん、ボオス兄さん的に現状はこれぐらいが精いっぱいの頑張りなんだろうな。コメントでも兄さんを褒めてる人がちらほらといるし。

 ただ、コメントの中には原作ブレイクしそうって不安視してる人も居るけど、個人的に鬱展開になるなら逆になくても良いから止めの説得と行きましょうかね。

 

「じゃあ、まずは認めることだね。姉ちゃんの力、レント兄ちゃんの力、タオの力。どれもきっかけはあったけど、今日まで色々やって手に入れた力だよ。ただ、仕事を犠牲にして培った力なのは俺も引っかかるけどさ。とりあえずは認めてあげるべきじゃない?」

 

「それが第1歩か。……そうかもな」

 

 よし、我ながらいい具合に説得できたぞ。っと、そろそろ本格的に行かないと。

 

 盾を前面に構えながら走る。目標はまさに今、火球にぶつかりそうな姉ちゃんだ。

 姉ちゃんの横を巧みにすり抜けた俺は、火球に向かって走る勢いをそのままに前に突き出した盾と共に体当たりをする。すると、火球は解けるように霧散し、目の前には出会った時とは違って少々余裕のなさそうな竜の姿が。

 

「壁役が来ましたよっと!」

 

「ガイアはそのまま遮蔽物になって! 皆は道具が無くなったり、攻撃を受けたらガイアの陰に隠れて体勢を整えて!」

 

 姉ちゃんの指示に各自は動き出す。姉ちゃん達の動きは先ほどと変わらないが、変則的に4人となったことで安定感が急激に増した。

 なにせ、俺には配信を見ている掲示板民の目がいくつもついてくれているんだ。一撃で倒れなければ、俺や配信を見ている掲示板の民が気づいてコメントをしてくれる。後は追撃でやられないように庇って回復するまでの時間を稼げばパーティは元通りだ。

 

 決して油断は出来ない状況だが、中々に良いテンポで戦闘が続けられている。このまま行くことが出来れば掲示板で振れ幅が大きいと言っていたこの難所を上々の結果で終わらせることが出来るのではないか。

 

「助かった!」

 

「はやく薬使って!」

 

 火球を剣で受け止めたレント兄ちゃんに向けて繰り出された尻尾による叩きつけを真正面から受け止めながら、俺はそう思った。

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流星の古城へ一狩り行こうぜ! 【ライザのアトリエ】スレより

347:名無し

 配信見てて思うけど、ガイアって結構強かったんだな

 

352:名無し

 農業で鍛えたあの筋肉だぞ? 強くないは嘘だろ

 

354:名無し

 このまま行けば勝てそうだな。引き続き配信でコメント入れていくわ

 

362:名無し

 しかし、視聴者の目も借りた救護対象の選定とは驚いたな。最初は混乱してまともに動けないと思ったけど、よく動いてるわ

 

366:名無し

 >>362

 最初は間に合わなかったけど、身に着けた荷物のほとんどを捨てたところから速度が上がって防御の成功率上がったよね。やっぱタンクは神だわ

 でも、俺だったらあのスピード感でやれるかって言われたら無理だわ。さすが農筋

 

373:名無し

 つまり、俺も農業すればあんなムチムチの姉やお清楚なお嬢様とお近づきになる可能性が!? 

 

378:名無し

 >>373

 ネーヨ

 

379:名無し

 >>373

(ヾノ・∀・`)ナイナイ

 

380:名無し

 >>373

 寝言は寝て言え定期

 

387:名無し

 お前ら自重しろ。そろそろ終わるぞ

 

397:名無し

 討伐隊に死傷者なしでパーティも全員無事。初見でこれは中々有望なんじゃないか? 

 

405:名無し

 ゲームオーバーとかないからな。そう考えるとガイアは結構良い働きしてるわ

 

410:名無し

 やめろぉ! レベル上げ怠って何度も突っ込んだトラウマがぁ! 

 

419:名無し

 は? 

 

429:名無し

 え、嘘。最後っ屁? 

 

437:名無し

 ちょ、ガイア 大丈夫かよ

 

445:名無し

 腕大火傷してんじゃん! 

 

451:名無し

 あ、配信切れた

 けど、ありゃやべぇぞ

 

461:名無し

 え、もしかしてガイアはここで脱落? 

 たしかに序盤にしては破格だったキャラだけどさ

 

463:名無し

 いや、これライザ一行曇るやろ。自分たちが引き連れてきたせいでって

 

471:名無し

 >>451

 年齢制限による強制停止だな。戦闘系では結構ある

 

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「ガイア!」

 

「大丈夫か!」

 

「あわわわ、ガイア。しっかりー!」

 

「待ってね、今から薬を」

 

 あー、もう煩いな。配信も切れてるし、掲示板もかなりの速度で流れてる。

 

 えーっと。あれ、そういえば何があったんだっけか。……あ、そうだ。竜が最後に火球を3つほど吐いてきたんだ。

 確か狙いは姉ちゃん、クラウディアさん、タオだっけ。ほんっとよく見てるよな、あの竜。強そうなレント兄ちゃん全然狙わねぇもん。

 

 んで、レント兄ちゃんは剣を、俺は盾を投げて姉ちゃんやクラウディアさんに向かってる火球を消滅させたけど、タオ──厳密にいえば負傷者を一纏まりにしている方向に火球がそのまま飛んでっちゃったんだよな。だから、命中する前に死に物狂いで走って、左腕で火球を思いっきりパンチしてそのまま余波で吹き飛んだんだった。

 あー、思い出した思い出した。むしろ、火球が弾けた衝撃で吹き飛んだまま下に落っこちないで良かったのは不幸中の幸いだよ。

 

「ガイア、あんたなんて無茶してるの!」

 

 姉ちゃんが怒りながら癒しの軟膏を塗ってくれる。ただ、そういったお世話系は個人的に気恥ずかしいお年頃なんだよ。それと、ちょっとは弁解させてくれ。

 

「無茶っていうけど、俺が頑張らなきゃ周辺の怪我人吹き飛んでただろ? 怒る前にその辺考慮してくれても……あれ?」

 

 弁解をしながらも、俺は姉ちゃんの手にある癒しの軟膏を左手で摘み……摘み……あれ、すぐに力が入らないな。あっ、ようやく掴めた。ちょっと力を込めるのが遅れるな。火傷が酷いからそのせいか? 

 

「ガイア。あんた……」

 

 ん? どうしたんだよ、皆。そんな暗い顔して。竜を退治したんだよ? もっと笑おうよ! 

 ハハッ、ハハハハ。……えぇ、マジか。

 結局、竜退治で一番ひどいケガを負ったのは俺。症状は時折起こる左手の一時的な麻痺だった。

 

 その後、クーケン島に戻ってきた俺達。そのまま俺を除いた怪我人の収容に従事していると、小走りで近づいて来たモリッツさんの歓待を受けた。

 相変わらずの手のひらにモーターを仕込んだようなモリッツさんの会話に辟易としていたが、彼は俺の方を見て『すまなかった』と謝罪していた。なんでもボオス兄さんが『ガイアの怪我は俺がヘマをしたから』と伝えたらしく、その症状の酷さからこれからの人生を捨ててまでボオス兄さんを救ったとモリッツさんは感動しているらしい。

 

「今回のことはカール氏達にも言っておこう。保証もしっかりする! 何か困ったことがあれば相談して欲しい!」

 

「は、はぁ」

 

 すっかり調子の良いことを言うモリッツさんだが、これなら俺が負傷したことが姉ちゃんのせいにならないだろう。一安心、一安心──とはいかなかった。

 

 ***

 

「ガイア、今日の薬。じゃ、あたし畑に行ってくるから……」

 

 そう言って姉ちゃんは部屋から出ていく。

 先ほどの姉ちゃんの通り、腕の麻痺をすっかり自分のせいだと思った姉ちゃんは大好きな冒険もそっちのけで俺のように農作業をしては、昼頃からレント兄ちゃん達と一緒に俺に効きそうな薬の素材集めや調合を行うという消極的な行動で一日を費やしていた。

 

 うーん、個人的には自分から突っ込んで行ったんだから責任の所在は俺にあるんだけどなぁ。それに、姉ちゃんの錬金術の腕も上がっていってるから、昔みたいに『農作業で生計たてろ』と俺からは言いたくないんだよなぁ。

 腕の方もほんのたまに麻痺することがあるだけで、利き腕は無事だからバトルは無理でも農作業や採集は出来るから正直なところとして姉ちゃんが気負うことは全然ないと思うんだがなぁ。これが掲示板で書いてた『原作に居ないからイレギュラーだと思うな』か。まったく、難儀なものだよ。

 

 しょうがない。困った時の掲示板だ。あそこなら何とか知恵を貸してくれるだろ。

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流星の古城へ一狩り行こうぜ! 【ライザのアトリエ】スレより

705:ガイア

 竜退治から数日後の朝よ! 

 今日も今日とて姉ちゃんが畑仕事の手伝いをしてるよ! 錬金術で薬作っては塗ったり、左手の握力が戻らない俺の介助もしてくれるよ! ちなみに冒険は既に行ったところで採集しているだけで未知の所に行くのはお休み中だよ! 

 ……原作マズくね? 

 

713:名無し

 >>705

 だから言っただろうが! お前もそこの世界においては勘定に入ってるんだって! 

 

719:名無し

 >>713

 じゃあタオや護り手、ボオスも見捨てろと? それこそガイアの望むところじゃないし、結局原作ブレイクじゃねぇか

 

727:ガイア

 まーまー、その点に関しては後悔はしていないけど身に染みたよ

 だから、落ち着きたまえ。ほら、レアな曇り姉ちゃんだぞ

【画像】

 

 いや、俺もなんとかしてぇのよ。だけど、医者のエドワードさんにも匙投げられてさ

 動くことは動くから、これ火傷の一番ひどい状態じゃないかなと。火傷で神経までやられて麻痺って前世で聞いたことあるし

 

730:名無し

 ん? 神経障害? 

 

737:名無し

 >>727

(欲しく)ないです

 それより、神経障害系なら何とかなる可能性があるぞ

 

742:名無し

 ていうかアンペル枠か? 

 

748:ガイア

 ちょいちょい、何言ってるのかよく分からん。錬金術で何とかなるん? 

 

754:名無し

 レシピ次第だな。ちょっと俺達じゃどう転ぶか分からんから助言しにくいけど、アンペルに相談で良いと思う

 

757:名無し

 んだな。あ、ライザも連れて行けよ? 

 

758:ガイア

 りょ~。ありがとねー

 

────────────────────

 なんだかよく分からんが、アンペルさんに相談すれば何とかなると思った矢先、姉ちゃんが『薬塗るの忘れてた』と照れながら包帯を持って入ってきた。あ、そういえばそうだった。

 でも、突然入ってくるの止めてくれね? 

 

「ガイア……痛くない?」

 

「それより姉ちゃん、早く皆と冒険してきなよ」

 

「そんなこと……出来ないよ」

 

 薬を塗った包帯を変えてくれている姉ちゃんの手が止まる。目には大粒の涙を流しては声をしゃくりあげて『ごめんね』と連呼してくる。

 いや、これはまじで辛い。この世に神様が居るならこの瞬間ほど殴り飛ばしたい気持ちはないぐらい辛い。

 

 だって、自分の腕1本と今まで親しい人達の命だよ? 前者を差し出すに決まってるじゃん。目の前で黒焦げになったら俺の方が身投げするわ。

 ただ、そんな気持ちは姉ちゃん達には伝わらなかったようで……。ボオス兄さんは心ここにあらずといった調子で『すまなかった』と言って帰って行っちゃうし、レント兄ちゃんやタオ、クラウディアさんも俺を見て泣きそうな顔してくるし。『俺がなにしたって言うんだよ!』って逆切れしそうだ。

 

「姉ちゃん、竜のことも含めてアンペルさんに相談しよう。みんなを集めて欲しい」

 

「分かった。でも、冒険は絶対しないからね」

 

「あー、分かった分かった。話を聞いたらすぐに帰ろう」

 

 あの一件以来、ほんと変わったな。姉ちゃん。

 それは過保護からくるものなのかは分からないが、妙な息苦しさを感じながら俺達はそのままアトリエへと赴く。道中は皆が絶えず俺に声をかけてくるが、ぶっちゃけ気遣いが苦しかった。

 

「おぉ、ライザ。バレンツさんの部下から聞いたぞ? 竜を倒したらしいな」

 

「うん……」

 

「? どうした、元気がないな」

 

 いつになく元気がなさそうな姉ちゃんにリラさんが尋ねるが、姉ちゃんは何の返答もせずにうつむいている。その何もしない時間が嫌だったので、無理やり俺が流星の古城で見た物を突入した時から順番に説明をしていった。

 

 黒いぷにや中身がない鎧。そして翼竜など、出会った魔物の情報を一通り話し終えた俺はいよいよ道中に見つけた古代文字についてをタオを指差しながら話し出した。

 

「詳しくはタオに聞いて欲しいんですけど、お二人はフィクサーって言葉を知ってます?」

 

「フィ?」

 

「クサー?」

 

「ガイア、フィクサーじゃなくて"フィルフサ"だよ!」

 

 最初こそ意味が分からなそうな表情をしていた2人の顔が真顔になった。そのままアンペルさんが名前を知った経緯を聞くと、ようやく姉ちゃんが話に割り込みだす。

 

「古城の石碑に書かれてたのをタオが解読したの。もしかして、アンペルさんに伝えたあの変な魔物がフィルフサなんじゃないの?」

 

「城の……ではあの竜は野生ではなく、やつらと戦うために召喚された類か」

 

 ん? 今、アンペルさん割と洒落になってないこと言いました? 

 そのヤツフサ? フィルクサ? ってのを感知して、セコム役の竜が再起動を果たしてうろついてると? ……やっちまったくさくね? あ、でも件の魔物と人間の区別がつかないのならばどのみち危ないのか。

 

「だから、くれぐれも他言無用で頼むぞ。……ガイア、聞いてるのか?」

 

 やべ、ほとんど聞いてなかった。えっと、クリント王国の滅亡に一枚噛んでたのがその魔物で、水を嫌う性質だから乾期のこの期間が相手にとって動きやすいんだっけか。

 しかし、渇きの悪魔が水に弱い習性の魔物だったり、その魔物のカウンターで召喚されたのが竜だったりって昔話は回りくどくないといけないのかね。

 

「伝承とはそういうものだ。話は変わるが、ガイア。お前さんはなんで左腕をあまり動かさないんだ?」

 

 アンペルさんがその話題を口にした瞬間、アンペルさんとリラさんと俺以外の顔が漆黒に沈んだ。失言したかのように辺りを見回しながら『どうした!?』と慌てるアンペルさんに俺は竜退治の経緯を話し出した。

 やがて説明が終わると、アンペルさんやリラさんは『当然だな』と割とドライな感想を言い放った。2人が今まで戦いや争い事に身を置いて来たっぽいのは話の節々から容易に読み取れる。それに比べればとどめも確認せずに刃を下ろした俺達はまだまだ経験が足らないのだろう。

 

「で、戒めにってのは流石に姉ちゃんらの精神的に耐えられないそうなのでなにかこう……錬金術で良い方法とかないですかね?」

 

 そう聞くと、今度はアンペルさんの表情が曇った。あれ、もしかして地雷踏んだ? 

 そのまま数十秒ほど沈黙タイムが続き、見かねたリラさんがアンペルさんの名前を呼んだところでようやく再起動したアンペルさんが俺の左腕を診た後に自身の片腕を握りしめて一言、『あった』と呟いた。

 

「あったとは?」

 

「言葉通りだ。腕を補助する特別な道具、先ほど言ったクリント王国時代の貴族や将軍がつけていたらしい道具を錬金するレシピがある」

 

「そんなのがあるの!?」

 

「早合点するな、ライザ。そのレシピは今、ここにない。それに少々昔のことだからな、何を使用していたのかすら忘れてしまった」

 

「じゃ、じゃあ! 施しの軟膏とかの道具で治せたりとか!」

 

「無意味だ。私と同じく神経までヤられている……っと、忘れてくれ」

 

 説明されるたびに姉ちゃんや皆のテンションがジェットコースターのように遷移していく。結局、そのレシピがないと無理か。……ま、別に戦闘しないのであれば日常生活や手伝いは出来るからね。

 掲示板での助言が空振りかと思い、すごすごとアトリエからクーケン島に帰ろうとしていた俺達。船に全員乗り、レント兄ちゃんが漕ぎ出そうとしたところでリラさんがそれを制止した。

 

「リラさん、どうしたの?」

 

「ライザ、アンペルのレシピのことだが」

 

 『これを』と言ってリラさんが紙のようなものを姉ちゃんに渡した。なにやら色々書かれており、見ただけで頭の奥らへんがズキンと痛くなりそうな複雑そうなメモ。そんなメモを解読していく姉ちゃんの表情がどんどん錬金術を初めて見た時のように明るくなりだした。

 

「これ! 補助する道具の!」

 

「しっ、アンペルに内緒で私が保管していたんだ。……だが、それを使用するのであれば私からの依頼もついでに受けてほしい」

 

 そう言ってリラさんは再び周囲を見る。そして、誰も来ないことを感じ取ったのか密かにアンペルさんの分の作成も依頼してきた。

 

「リラさん、この調合は多分だけど出来ないよ。材料が足りない」

 

「そんなこともお見通しか。腕も上がっていっているようだな」

 

「だから、一旦だけどこの辺で採集できるものを同じ原理で出来ないか試してみる。その方がアンペルさんの時には理解が深まってる状態で作れるし」

 

 うん、さらっと俺を実験台にする発言は止めようね。だけど元気になって良かった。

 その後はレシピをひたすら確認しながらそれぞれが家路に向かう。すっかり元気になった姉ちゃんは、俺の腰をバシバシ叩きながら『明日から色々取ってきて実験するから付き合ってよ』と先に走り去ってしまった。

 

 やれやれ、しおらしかった時間はもう終わりか。そう残念がりながらも俺は姉ちゃんの後を……? ボオス兄さんのような人影が見えた気がしたけど、たぶん気のせいだな。

 

* ??? *

 

 あいつら、なんでガイアが一生癒えない怪我を負ったのに冒険とかいう遊びを止めないんだ。なんで、ヘラヘラ笑ってるんだ。

 

 ガイアもガイアだ。なんで今でもあいつらと一緒に出掛けるんだ。そもそもなぜ、俺に一言も相談しない。

 ……やっぱり、俺が頼りないからか? 俺がブルネン家の権威という一族以外の力以外は何も持っていない。ライザのような錬金術、レントのような武力、タオのような知識がない半端物だから、頼りないと思っているからか。

 

 ならば……ならば……もう一度あいつらと対等になるために。──俺は。




ガイアの採集効率が落ちました ▼
ガイアの持ち運べる量が落ちました ▼
ガイアは戦闘に参加できなくなりました ▼

???からの信頼度はガタ落ちしました ▼

強すぎるからね、ナーフイベントは来るよねってことで。
なお、麻痺の度合いですがたまに左腕が動かなくなる程度というまったく動かないよりも精神的に厄介なものですが、ライザが何とかしてくれるでしょう。多分

補助義手(劣化)
本作のオリジナル。
未だ採取地調合器がないため、材料のランクを落としながらも完成させた劣化バージョン。装着した瞬間から劣化が始まり、使用期間を過ぎると全く動かなくなる。
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