星の子どもたち   作:パーペチュアル

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Ammolite

 

 

 

 女にとって、最も魅力的な男の条件は、と問われれば。

 

 財力か?

 権力か?

 容姿か?

 性格か?

 能力か?

 人望か?

 

 そのいずれも正解ではあるが、筆頭に来るものではない。

 女にとって、最も魅力的な男とは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗闇の中、クイーンサイズのベッドの上で、3つの裸体が絡み合っている。

 一見すれば、金紗の少年が妙齢の美女と深紅の少女の二人を抱き、両手に華を体現しているようであり。

 事実それは間違いではないのだが、その実情はここ最近で次第に変わりつつあった。

 

 2匹の(メス)が、若い(オス)に群がっている。肉を喰らっている。精気を奪っている。男から吸い上げたそれを美しさへと変え、己の糧としている。

 

 女にとって最も魅力的な男とは、自らを美しく輝かせてくれる男なのだ。女性の美に対する執着は根源的なものであり、時としてそれは生存本能をすら上回る。より魅力的で美しい女ほど、この傾向は顕著になる。

 

 そんな女たちが。己の自尊心を満たしてくれる舞踏会の王子と、魔法で美しく変身させてくれる魔女――その二人を兼ね備えたような男と出会ってしまったならばもう、離れることは出来ない。

 

 斉藤ミヤコと有馬かな。二人は両者ともに一人っ子であり、幼少期は何不自由なく恵まれた家庭環境で育ってきた。ある意味で甘やかされていた、と言ってもいい。兄弟姉妹が居ない環境下で、一つのものを他人と分け合うという経験に乏しかった。

 故に。根源的には自分が最優先、欲しいものは独り占めしたい、自分が一番でありたい、という気質が備わっていたのだ。

 

 そして二人はこれまでの人生で、少年以外に本気の恋愛をしたことが無かった。

 有馬かなは言わずもがな、これが彼女の十数年の人生において初恋にして、本気の恋愛であり。

 斉藤ミヤコにしても、籍を入れた相手である斉藤壱護に本気で惚れていたわけではなく。それまでの人生も、優れた容姿と豊かな肢体に下卑た視線を送ってくる男たちに内心では嫌気が差していて。これだ、という男に終ぞ巡り合うことはなかった。映画やドラマのスクリーンの中で愛を囁かれる女優たちが、心の底から羨ましかったのだ。

 

 そんな二人が、男に溺れる、という初めての経験をした。それも、ほぼ同時期に。

 だから気付いた。見せつけられた。嫌という程に、思い知らされた。

 本気の恋愛が、こんなにも女を美しくするのだということを。

 斉藤ミヤコが、元から優れていた彼女の美貌が更に磨き上げられ研ぎ澄まされ、女としてより高次元に洗練され昇華していく様を。

 有馬かなが、蕾が(ほころ)ぶように、(さなぎ)から蝶が孵るように、少女がこの短期間で大人の女へと羽化して、美しく花開いたその様を。

 

 これで年齢や立場が近ければ恐らく、二人は不倶戴天の敵になっていただろう。しかし、齢が親子ほども離れていること、事務所の社長と新米所属タレントという明確な上下関係があること、半ば義理の親子関係となっていることなどから、この奇妙な三角関係は破綻せずに今もなお続いていた。

 

 

 

 ――余談だが。黒川あかねも家庭環境的には彼女らとそれなりに似通ってはいたが、生来の性格は奥手で引っ込み思案であった為、他人に強く主張するということを基本的にはしない。二人とは違い、演技以外の事柄については和を以て貴しと為す(調和と平和)というタイプである。

 だが、もしもの話だが。彼女が金紗の少年の甘美な毒を味わい、女としての悦びを得られるようになり、女としての自信をつけ、少年への欲望と執着に囚われてしまったなら――結局は、同じ穴の(むじな)になっていたかもしれない。

 

 

 

 心地良い気怠さとオーガズムの残滓を名残惜しく感じながらも、斉藤ミヤコはベッドに沈めていた身体を少し起こしてみれば、その先には少年の上で乱れている深紅の少女。こちらの視線に気付いたのか、彼女は顔を動かさずに目線だけを数秒の間だけ向けてきた。

 つい先日まで有馬かなの瞳の中にあった、斉藤ミヤコへの遠慮が、恐れが、諦めが、相当に薄くなっている。「この人には勝てない」という怯えは影を潜め、こちらが弱みを見せるその隙を伺っているような雰囲気を感じる。

 

 多対多のバトルロワイヤルにおいては、弱った者から先に叩くのが常道であり、それはベッドの上においても変わらない。ちょっと前までは、この場において最も狙われるのは大抵が有馬かなであり、一番最初に体力が尽きて意識を手放していたものだ。

 

 だが今はもう、そうではない。

 斉藤ミヤコの豊かな肢体は男を虜にするには最高の武器ではあるが、それだけに重く、言ってしまえば燃費が悪いという厳然とした事実がある。何よりも、加齢から来る体力の低下に加え、事務所の社長業というデスクワークが日常となっていること。身体の維持には十分以上に気を遣ってはいるが、こと純粋な体力勝負となれば、運動を欠かさない育ち盛りの高校生には到底及ばない。

 有馬かなが行為に慣れ、知識と技術を身に付け、精神的にも大きく成長してきている今。戦いはもはやワンサイドゲームではなくなっていた。

 

 斉藤ミヤコは身を乗り出し、手を伸ばして深紅の少女の顔をこちらへと向けさせると、躊躇なくお互いの唇を重ね合わせる。三角関係になって最初のうちは、有馬かなもされるがままだったのが、今では戸惑うことなく受け入れており。逆にこちらの口腔に舌が滑り込んできて、歯の裏をなぞり、湿った吐息が攪拌され、二人の唾液が混ぜ合わされていく。視線が交錯し、言葉にならない戦いが息の続く限り繰り広げられる。

 

(本当に……恐ろしい()

 

 姫川愛梨が見初め、斉藤ミヤコが己の後継者とすべく囲っている少女。春先から季節を一つ跨いだだけなのにも関わらず、匂い立つような女の香りを身に纏っている少女。

 ただ男が出来ただけでは、決してこうはならない。星野アクアに女として愛されていることや、天河メノウ/姫川愛梨の教育・影響も原因ではある。だが、最も大きい要因は斉藤ミヤコ自身であった。女として最高の手本がすぐ身近にあって、そんな彼女に負けまいとする克己心こそが、有馬かなをここまで成長させたのである。斉藤ミヤコは皮肉にも、自らの手で最高にして最悪の恋敵を育て上げてしまったのだ。

 

 恐らく。かつて斉藤ミヤコが働いていた夜の街に放り込んだとしても、今の有馬かなであれば逞しく生き残るだろうという予感があった。港区女子によくある、弱男からせしめた金をホストに貢ぐような凡百の人間ではなく。幾多の男たちを手玉に取るような、一端の悪女になってのけるだろうと。

 

 ――だとしても。

 譲れない。負けられない。引くわけにはいかない。

 本当に欲しいものが、ずっと探し求めていたものが、今ここにあるのだから。

 誰にも、渡さないから。

 

「かなさん、早く代わってくれないかしら。今度は私の番よ」

「ミヤコさんこそ、大人しくもう少し待っててもらえます? ……んっ!」

 

 そうして、妙齢の美女と深紅の少女は。

 今日も、愛しい男から精を奪い、肉を喰らい、命を吸い上げていく。

 やがて――それらが結実し新しい命となる、その時まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神木ヒカルの父親にして、星野アクアの祖父である男――「旦那様」。

 彼は、愛人であった姫川愛梨に殺された。……ある意味では。

 

 腹上死である。

 

 表向きは病死となっているこの出来事により、彼女は神木家を追い出されてしまい、神木ヒカルと離ればなれになることを余儀なくされたのだった。

 

 

 




 Ammolite/アンモライト

 和名は菊石。
 カナダのアルバータ州でのみ採掘される希少な物質。
 太古の昔。アンモナイトが化石になる際に、殻表面の真珠層を構成する物質が地中の鉱物や圧力によって変質したもの。化石と宝石の両方の側面を併せ持っている。
 宝石のほとんどは無機物が由来なのに対し、アンモライトは有機物を由来とする珍しい宝石。有機物由来の宝石は他にも真珠、珊瑚、琥珀といったものがある。
 石の中で光が乱反射を起こし、虹やオーロラのように様々な色に輝く特長を持つ。中でも、3色以上の異なる色調を呈するものが最高級品の条件の一つである。その内訳は赤(オレンジと黄)、緑、青(紫)となっている。
 宝石言葉は「直感力」、「創造性」、「幸運」、「変化への対応」、「過去を断ち切る」、「魂の再生」、など。
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