星の子どもたち   作:パーペチュアル

118 / 121
Eye Agate 2

 

 

 

 ジャパンアイドルフェスより時間は少し溯り――初夏。

 

 

 

「かなさん。改めて問いますが……斉藤ミヤコさんに勝ちたい、その気持ちに間違いはありませんか?」

「あたり前でしょ。今の私にとって、最大の目標よ」

「では、その為に何でもする覚悟はありますか?」

「いいわよ、何でもやってやるわ。……あ、でも枕営業とかは勘弁してよね」

「そんなことは言いませんよ。今日は『有馬かなが斉藤ミヤコを超える方法』について、わたしから提案があります」

「えっ!? 何々、教えてよ!」

「では、結論から言いましょう。――有馬かなさん。わたしとアイドルやりませんか?」

「なんでよ!!」

「それをこれから説明します。敵を知り己を知れば――ということで、先ずはミヤコさんの戦力を確認してみましょう」

「そ、そうね……」

 

 

 

 容姿――――S級妖怪。文句なしの美人。

 

 スタイル――SSSレート。実際に幾度も肌を合わせた有馬かなも思い知らされたが、肉付きが良いと抱き心地や満足感が半端ない。アクアとルビーがおっぱい星人になってしまったのも致し方ないと言える。それでいて、くびれが描く女体の曲線は芸術的なまでに素晴らしい。

 

 性格――――Tier 1。包容力の化身、公私を使い分けられる分別、高い知性と教養もある。

 

 母性――――特級。星野アクアにとっての最大の弱点を的確に突いている。有馬かな自身も、将来的にはこの人を本当の意味でお義母さんと呼びたいと思っている。

 

 想い出―――プライスレス。星野アクアが抱えてきた闇、トラウマを彼が幼い頃から知っており、少年が泣き言を言える唯一の人物であった。春の一件において、アクアの積もりに積もった負の感情を一身に受け止め、彼の心を掌握してしまった。

 

 夜の性活――特A級ハンター。攻めも受けも出来て、それでいてアクアが望めば大抵のことはしてくれる。セクシーランジェリーからレースクイーンといったコスプレもOK。何より、金紗の少年は斉藤ミヤコに対し、避妊をしていない。生で胎内に射し放題であり、避妊薬は飲んでいるが万が一デキてしまったらそれはそれで産み育てる気満々である(姫川愛梨が飲みの席で酔わせて聞き出した)。

 

 

 

「……凄いわねぇ。ミヤコさんみたいな女性、世の中を見渡してもそうそう居ないわよ。男にとって理想の女、その一つの究極と言ってもいいんじゃないかしら」

「もうやめて! まるで勝てる気がしないじゃないの!」

「見たくないものから目を背けていても、事態は解決しないわよ」

「じゃあどうするんですか。何か腹案でも?」

「かなさん。男女関係において最も恐ろしいことの一つはね、『飽きる』ことよ。どんなに美味しい食事でも、毎日食べていれば慣れてしまう、飽きてしまう。わたしにとってヒカル君は最高の犬だったけど、それでも時間を重ねるごとに物足りなさが出てきたものよ」

「そういうものですか?」

「そういうものよ。貴女とアクア君はまだその段階に達していないから、実感が湧かないようでしょうけど」

 

 ――もし。星野アクアと有馬かなが、何の障害もなく普通の高校生カップルとして交際していたら、恐らくは長続きしないと天河メノウ/姫川愛梨は睨んでいた。二人とも妙なところで意地っ張りな部分があり、些細な喧嘩から数ヶ月で破局していた可能性が高いだろうと。

 そうならなかったのは、ひとえに二人の間に挟まった存在、斉藤ミヤコによるものである。

 一人っ子であり幼少期は子役の頂点に立ち、何の不自由もなくわがまま放題に育った有馬かなにとって。売れなくなったこの数年と、星野アクアと斉藤ミヤコによる三角関係・恋の鞘当てによって、忍耐力や女子力が大きく育つ契機となっていた。

 そう、逆境の中でこそ人は磨かれる。障害があった方が、恋は燃え上がる。さしたる苦労もなく大舞台に立った人間など、あっという間に馬脚を露して引きずり降ろされるものだし、大いなる苦労や障害を乗り越えて得られたものほど、真に尊いものなのだ。

 

「それで、その話とアイドルになるってのがどう繋がるんですか?」

「アクア君にとってミヤコさんは、癒しや安らぎ、日常の象徴。必要不可欠でかけがえのないものであり、飽きるを通り越して、あって当たり前の存在。言い方は悪いけれど、空気みたいなものよ。家族として、確かな愛情が存在している証左とも言えるわね」

 

 人体は6割以上が水で構成されている。人は何も食べなくとも水と睡眠があれば数週間を生きられるが、水が無ければ数日で死ぬと言われている。

 ましてや、空気なら。数分で脳の細胞が壊死し、麻痺や全身の痙攣ののち、やがて心臓が停止して死に至るのだ。

 

 ――つまりは。今の星野アクアから、斉藤ミヤコを引き剝がすことはほぼ不可能と言っていい。

 

「かなさん。家族や母親といった分野では、どう頑張ってもミヤコさんには及ばないわ。でもね、何も相手と同じ土俵で戦う必要は無いの。こちらが上回っている分野、こちらが勝てるフィールドにアクア君を引きずり込めばいいのよ」

「というと?」

「居たでしょう? 春より以前まで、アクア君の中で圧倒的に一番だった存在が」

「……アイ?」

「そうよ。貴女が、いえわたしたちの戦場は家族や日常ではないの。

 わたしたちの戦うべき場所は――」

 

 

 

 

 

 

 歌う。

 (うた)う。

 踊る。

 跳ねる。

 (ひるがえ)る。

 

 ジャパンアイドルフェス、スターステージの壇上。四人の少女たちによる饗宴、特に中央(センター)の二人は異彩と輝きを放っている。

 漆黒の少女(アイリ)は、いつもとはまるで異なる仮面と魅力をその身に纏い。金紗の少年(星野アクア)黒髪の青年(姫川大輝)に向けて、人差し指と視線の刃を突き付けた。少年はいざ知らず、青年は手にした紫のサイリウム(アイリ推し)を更に力強く振り上げ、歓声を上げる。

 深紅の少女(有馬かな)は、いつも以上にその魅力と可愛らしさを振り撒き、唇に当てた指先をアクアに向けて突き出した。俗に言う投げキッス、二人の直線状に居た男たちが「俺だ俺だ」の自己主張。会場のボルテージは、今この時も右肩上がりだ。

 

 星野アクアは紫色以外の、赤白黄の三本のサイリウムを持っていた。この場においては箱推しとはまた違い、彼のなけなしのプライドが見て取れる。

 だがその心中は穏やかではない。会場の熱狂とは別種の、動揺と困惑を覚えていた。

 アイの再来、アイリ――だけではない。あの有馬かなが、()()()()()()()()()()()()アイドルをやっているという事実に。

 

(俺は結局、あの男(神木ヒカル)と同じことをしている)

 

 自分の女が、一つ年上の少女が。男が居るというのに、アイドル業に身を投じているという現実。またもや繰り返される過ち。

 

(それどころか、心の奥底では優越感を感じてしまっている)

 

 お前らが持て囃しているそこの有馬かなは俺の女なんだ、つい先日も俺の上に(またが)って腰を振っていたんだぞ――などという、男としての醜い優越感。

 その感情は今も拡大し続けると同時に、心の壁に少しずつ亀裂が入り四方八方へと伸びていく。際限なく膨らむ風船、或いは砂上の楼閣のように。

 

(……神木ヒカル。お前も、こんな気持ちを味わっていたのか?)

 

 星野アクアに襲い来る危機感。

 もし、またあの悲劇が繰り返されたなら。

 怒り狂ったファンの手にした凶刃が、アイドルになった彼女に向けられたとしたら――。

 

 

 

 

 

 

 

「かなさん。わたしが何度も言っていることだけど、人間が成長していく上で最も大切なことは何か判る?」

「向上心と危機感、ですよね」

「そうよ。上を目指す気持ちを失くしてしまったら、そこで成長は止まってしまう。攻めることを止めて守りに入ってしまったら、今より上を望めなくなってしまう。――それでは、ミヤコさんには勝てないわ。

 彼女は最高の女と言って差し支えないけど、見方を変えれば、男にとって最高に都合の良い女とも捉えられるわ。顔も肢体(カラダ)も性格も母性も高水準で、男が避妊しなくてもよくて、あらゆる要求に応えてくれて、ヤリたい時にヤレる女――日常ではこの上ない利点だけど、わたしたちの生きる芸能の世界では事情が異なるわ。

 ――江戸時代の売春婦、厳密に言うと違うんだけど、かつて遊女という職業があったわ。その中でも、一般庶民でも気軽に買える夜鷹から、大名や公家を相手にしていた高位の花魁まで、厳然とした階級差が存在したの。

『夜鷹そば』という言葉は歌舞伎や落語に出てくることもあるんだけど、夜鷹はその名の通り、そば一杯の値段で客引きしていたという説があるわ。彼女たちは文字通り、食事感覚で客数を稼がなくてはいけない。しかも身分の低い者たちばかりを相手にしていて、衛生面ではほぼノーガード。その結果、梅毒にかかってしまうことも多々あった。今で言う立ちんぼやトー横女子みたいなもの、令和の現代になっても続く社会問題ね」

「へぇ……」

「逆に、上級遊女の花魁は客数を絞り、値段を吊り上げ、上流階級のコネと金が無ければそうそう手が出せない女たちよ。その中でも、美貌や話術だけでなく書道や茶道といった教養、琵琶や三味線などの芸事を修めた最高級の遊女は『太夫(たゆう)』と呼ばれていたわ。上流階級を相手にするには、それ相応の知識と教養、品格が必要だということね。

 ところで、大夫の語源なんだけど、古の時代に儀式や芸能を司り、転じて神職や()()()を指す敬称なのよ。当時の人間にとって大夫とは、まさしくスター女優と呼べる存在なの。――かなさん。わたしの言いたいこと、判るかしら」

「私に、大夫になれってこと?」

「そういうことよ。貴女がアクア君に売り込む段階は終わったわ。これからは露出を絞り、貴女が安い女ではないと、アクア君が必死にならないと手が出せない女だということを彼に示さなくてはいけない。

 いいこと、恋愛の基本にして極意――『押しても駄目なら引いてみろ』。男はもともと、女を追い掛ける生き物なの。今のように、何もしなくてもミヤコさんとかなさんで両手に花という状態が異常なのよ。

 それだけじゃないわ。アクア君にとってアイ――アイドルとは特別なもの。母性と並んで、彼の最大の弱点と言っていいでしょう。アクア君がアイのことを完全に吹っ切れていないのは、先日の黒川あかねが証明してくれたものね」

「むむ……」

「話を戻しましょう。ミヤコさんはあらゆる面で優れた女性、嫁や愛人にするには最高の女だけど、優れた芸能人にはなれなかった。対して貴女は、芸能界の子役というカテゴリでかつて頂点に立ったことのある女。アクア君の弱点であるアイドルという存在で再び頂点に立てば、十分に勝ちの目はあると思うわよ」

「うーん……」

「やっぱり、気が進まない?」

「それは、まあ。男が居るのに、アイドルなんてやったら駄目なんじゃ……」

「何を言ってるの。アイドルやってる女なんてのはね、自己顕示欲と承認欲求の塊みたいなもの。わたしの知る限り、彼女たちの過半数は彼氏持ち。アイドルは処女だなんて幻想、一部の狂信者しか本気にしていないわよ」

「でも、その狂信者たちがアイドルの売り上げを支えてるんだと思いますけど……」

「凡百のアイドルたちならば、そうね。でも、このプロジェクトにはヒカル君の人生が掛かっている。神木プロダクションが総力を挙げてバックアップするから、他事の心配はしなくていいわ。わたしたちはあくまで、最高のパフォーマンスを発揮することだけに専念すればいいから」

「アクアとミヤコさんが納得するかな……」

「――そちらも大丈夫です。わたしと社長で説得(脅迫)しますから」

 

 

 




 いよいよ始まりました、重賞ちゃんがミヤコを超えるための、女の闘いです。
 本作のミヤコはアクアに癒しと包容を与えトラウマをケアしましたが、重曹ちゃんは逆に危機感を煽りアクアの心を乱す方向へと舵を切っていきます。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。