星の子どもたち   作:パーペチュアル

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Garnet 6

 

 

 

「ロリ先輩、会ったその日に男の家に連れ込まれてるの、ちょっとチョロすぎない?」

「イビるぞマジで!」

「俺もそう思う。それにあの後、私の家に来る? って誘われたしな」

「ちょっと! 何でそれ言うの!?」

「うわぁ……ドン引きだわ。お兄ちゃんが誰と付き合おうと構わないけど、あんまり尻軽な子は私も嫌だな」

「あ~もう、この兄妹は……!」

 

 ひどい言い草だが、事実なので反論できない。

 というか、よくよく考えてみれば今までの私からは信じられないくらい大胆な行動である。アクアの家はまだ家族と同居だからまだしも、もし私の家に行くことになっていたら今頃はどうだっただろうか。両親は別居だし、あの家は私が子役時代、演技の稽古を想定して建てられたものだから、防音もしっかりしている。

 もし、あの家でアクアが不埒な気を起こしてしまえば。

 誰も、止めに来る者は居ない――。

 

 思考の渦に嵌っていたところ、ぱんぱん、と両手を叩く音に引き戻される。

 

「はいはい、二人ともそこまで。

 苺プロ社長、斉藤ミヤコです。アクアとルビーの里親もしているわ。有馬さん、よろしくね」

「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

「それで、有馬さんは遊びに来たってことでいいのかしら?」

「いえ、仕事のお誘いに来ました」

 

 ミヤコさんとルビーがきょとんとしている。

 いささか直截的すぎたか。もう少し踏み込んで説明することにした。

 

「アクアにはさわりの部分だけ話しましたが、詳しい内容は社長と一緒に聞く、とのことだったので、こうしてお邪魔させていただいた次第です。

 今、私が出演しているドラマがありまして。最終回に登場するキャラクターで、役者が決まってない枠が一つあるんです。アクアはまだ役者を続けていると伺ったものですから……。もし苺プロがよろしければ、出演してみませんか?」

「ロリ先輩敬語使えたんだ……。全然似合ってないけど」

「奥歯ガタガタいわすぞコラ」

「どういう作品かしら?」

「『今日は甘口で』っていう、少女漫画が原作のネットTV制作ドラマです」

「それって『今日あま』のことか?」

「知ってるの?」

「俺も原作揃えてるからな」

「そうなんだ……」

 

 アクアも同じ作品が好きだという事実に嬉しくなる。もし彼がこの話を受けてくれれば、芝居の練習にかこつけて原作談議に巻き込もう、と密かに決意した。のだが、

 

「ネットTV制作のドラマだから今観れるわよ。ちょっと観てみましょうか」

「観る観る!」

「えっ!?」

 

 アレを観るというのか。折角の良原作と手練れのスタッフの努力を、棒読みモデル役者の大根演技が全て台無しにしてくれた、あのドラマを。

 今、ここで。

 よりにもよって、私の目の前で。

 

「どうしたんだ?」

「いや、え~っと。また今度にしませんか?」

 

 視線が私に集中する。訝しむ6つの目が私を射抜き、背筋を冷や汗が伝っていく。

 

「何か問題があるのかしら?」

「問題というか、その……」

 

 言えない。あのドラマ全部が問題だなんて、誘っている手前とても言えない。

 

「ともかく観ようぜ。どんな作品か判らないのに、出演する気にはなれないからな」

「そうね。話はそれからだわ」

「う、うう……」

 

 ――終わった。画面を眺める三人を尻目に、一歩引いた立ち位置で見届けるしかなくなった。

 

 

 

『ナンダ、ワラエバカワイージャン』

『からかわないで』

『スナオニナレヨ』

『オイオマエ、オレノオンナニテヲダスナ』

『ハァッ、ナンダテメエ』

『二人ともやめて、喧嘩はやめ――』

 

 

 

 ミヤコさんはノートパソコンをそっと閉じた。数秒間、誰も何も言わなかった。

 

「ロリ先輩……」

「言いたいことはわかるわ。だからお願い、何も言わないで」

「有馬お前、昔より下手になってないか? そりゃ干されても仕方ないな」

「んなわけあるかぁっ! あの大根役者どもに合わせてるだけよ! 私一人だけバリバリやるわけにはいかないでしょ!」

「お兄ちゃん、こんなドラマ止めときなよ。キャリアどころか黒歴史になるよ」

「そうだな。悪いな有馬、力になれなくて」

「え、ちょ――」

 

「有馬かなさん」

 

 ミヤコさんの静かな言葉。その一言で空気が変わり、全員が押し黙った。

 その表情はアクアとルビーの母親としてではなく、いち組織のトップとしてのものだった。

 

「申し訳ないけれど見送らせてもらうわ。苺プロの社長として、ウチに在籍する星野アクアをこの作品に参加させるメリットを見出せません。貴女には悪いけれど、この話は無かったことにして頂戴」

「そ、それは……」

「私も社長として、所属タレントを守る義務と責任があるわ。――判ってくれるわね?」

「……はい」

 

 ――ここまでだ。誘う側がクソな作品だと判ってるのに、それでも参加させようだなんて不義理にも程がある。私が逆の立場だったとしても、やはり彼らと同じく断っていただろう。

 元はと言えば、今日あまのドラマというだけでどんな制作環境なのか碌に調べもせず、すぐに参加したいと返信した私が悪いのだ。

 今にしてみれば、あのオーディションは妙に参加する人間が少なかった。事務所が内容を精査していれば地雷案件だと見抜けていたのだろうが、フリーの私にはそんな情報網など望むべくもなく。

 ……結局のところ、貧乏クジを引かされたということなのだろう。芸能界は椅子取りゲームであり、座れなかった人間に貧乏クジを押し付け、クジすら引けない人間は仕事という餌にありつけず、飢えて淘汰され消えていくだけ。

 何ということはない。芸能界は、美しさと金とコネと事務所のパワーゲームが支配する、弱肉強食の世界。

 それだけの、話だ。

 

「ところで有馬。なんで主演女優のお前が仕事を斡旋してるんだ? それってプロデューサーやディレクターの仕事だろ?」

「本来はそうね。でも、さっき一枠空いてるって言ったけど、もともと決まってた人がゴネて降りたせいで上は揉めてるの。あんまりおいしい役じゃないしね。そこへ私が代役を連れてって貸しになれば、次に繋がると思ったのよ」

「ま、そんなところだろうな」

 

 アクアを利用しようとしたとも取れるが、苺プロの人間は特に文句を言わなかった。

 芸能界は貸し借りの世界。常に打算と損得が付きまとっている。弱小とはいえ、苺プロも芸能界に身を置く以上、そこは弁えているということか。……彼らからの心証は悪くなったかもしれないが。

 

「でも、一番の理由は違うわ。

 私はアクアとまた共演したいと、ずっと思ってた。あんな大根役者どもじゃない、アクアとまた一緒に仕事がしたかった。一緒に、良いものを作りたかった……それはもう、叶いそうにないけどね」

「有馬……」

「アクアが気に病む必要はないわよ。勧誘に成功してたら鏑木プロデューサーにアクアを紹介してたけど、失敗したからまた大根モデルが一人増えるんでしょうね……」

「――有馬、今なんて言った?」

「え? 大根モデルが一人――」

「違う。鏑木プロデューサー……もしかして、鏑木勝也のことか?」

「そう、だけど」

 

 アクアの雰囲気が、変わる。

 無表情。宇宙の虚空のように、何も見えなくなる。

 だが人形の能面みたいかと言えば、まるで違う。正体は判らないが、何かが、ある。

 例えるならば、暗闇の中で猛獣が息を殺して、獲物を待ち受けているかのような――。

 

「出てやるよ。プロデューサーに連絡してくれ」

「えっ、何で急に……」

「別にいいだろ。それとも、文句でもあるのか?」

 

 あるわけがない。首をぶんぶんと振って、懐からスマホを取り出し、電源を入れた。

 

 ――その時、私は気付いていなかった。

 ミヤコさんが、悲しそうな目でアクアを見つめていたことに。

 

 

 

 




アニメ3話の今日あまを見て、妻夫木聡・竹内結子のタイタニックを思い出しました。アレは凄まじい棒読み吹き替えで、1分で視聴を止めた記憶が……。
連休も終わって、次からは更新速度が落ちるかもしれませんが、どうかよろしくお付き合いください。


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