星の子どもたち   作:パーペチュアル

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Garnet 7

 

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 今私は、かつて味わったことのない苦境に立たされていた。

 眼前に広がるのは、目の保養にも毒にもなり得る、美女と美少女の裸身が二体。

 

「久しぶりだよね~」

「そうね。貴女たちの合格が決まったら、また来ましょうか」

「ミヤコさんってば気が早いよ」

 

 銭湯の湯船にくつろぐ母子二人。

 片方は一つ年下の中学三年生、星野ルビー。陽東に受かれば後輩になるのだが、この外見ならばまず落ちることはないだろう。むしろ、この女が不合格なら合格者は数えるほどしか残らない、というレベルである。

 アクアと同じ金紗の髪に、道行く人が皆振り返るであろう容貌。快活な声と雰囲気に、すらりとした手足は健康的であると同時に、将来の可能性を大いに感じさせてくれる。アイドル志望とのことだが、苺プロではなく大手に所属していれば、とっくにデビューを飾っていたであろう逸材だ。

 

 問題はもう片方。アクアとルビーの里親にして、苺プロの社長でもある斉藤ミヤコさん。

 一言でいうと、ヤバい。服の上からでもわかる膨らみが、脱ぐとさらに大きくなって、片方だけでも私のを両方足したよりボリュームがありそうだ。ウエストのくびれと、そこから臀部に至る曲線は女神もかくや、という具合で反則にも程がある。陽東にもスタイル抜群のグラビアモデルは何人も在籍しているが、彼女とくらべれば胸と尻がでかいだけの高校生だ。

 何というか……貫禄が違うのだ。艱難辛苦を乗り越え愛を手に入れた女、積み重ねた人生経験が美しさの糧となっている女――というところか。こればかりは、逆立ちしたって高校生に届きうる領域ではない。

 果実は腐る寸前が最も美味しいという慣用句があるが、斉藤ミヤコさんはそんな形容が似合う女性だった。

 

 一方。私はと言えば、可もなく不可もなく。至って普通の女子高生……時々、中学生に間違えられるけど。

 走り込みやトレーニングは欠かしていない為に引き締まってはいるが、どうにも起伏に欠けるこの身体。貧相というわけでもないが、やはり物足りなさは否めない。

 

 本当に、どうしてこうなったのか……。

 

 

 

 溯ること2時間前。アクアの件は鏑木プロデューサーに了承をもらい、12年ぶりにアクアと共演できることもあって気分を良くした私に、「今夜はもう遅いから泊っていきなさい」とミヤコさんから勧められ、一も二もなくその申し出を受けた。

 

 溯ること1時間前。私は久しぶりに、本当に久しぶりに、誰かと同じ食卓を囲んだ。

 貯金にあかせてウーバー頼みな食生活を送る私だったが、高校に入学してから初めて、家庭の味を口にした。家庭の味とは料理のみを指す言葉ではない。食卓があり、それを囲む家族が居て、それらを包む団欒が、家庭の味なのだ。

 調子に乗るルビー。

 呆れて反論するアクア。

 二人をたしなめ、見守るミヤコさん。

 私が失って久しい、私が望んでやまない家族の姿が、そこには確かにあった。

 

 ――ほろり、と。

 私の涙の雫が、テーブルの上に落ちた。沈黙する一同に対し、家庭の味は久しぶりだから、とか、ちょっと辛かったから、とか言い訳ともつかぬ誤魔化しを並び立てる。

 するとまたしても、アクアが横から手を伸ばして、今日何度目か判らぬハンカチの感触が、目尻をそっと拭っていく。

 空気を入れ替えようとしたのか、ミヤコさんが「みんなで銭湯に行って汗を流しましょう」と提案し、双子は特に異論もなく賛同し、私もこくりと頷いたのだった。

 

 

 

「有馬さん、もう大丈夫?」

「は、はい。お手数おかけしました」

 

 心配そうに顔を覗き込んでくるミヤコさんに、反射的にのけぞりながらどうにか返答する。

 お気遣いは有難いけど、胸の谷間を強調するなよ! わざとやってんのか!? とは言いたくても言えない私だった。

 

「ならいいけど……無理しないでね。人間、出来ないことはどうしたって出来ないんだから」

「そう……ですね」

 

 半分以上は貴女のせいですけどね。人間、無いものは無いのだ。持たざる者と持つ者の格差はどうしようもなく残酷であり、世の争いの原因なんですよ、とやさぐれていってしまう自分を止められない。

 つかマジで色っぽいなミヤコさん。結い上げた髪の下からのぞく(うなじ)が、そこに光る汗と胸元に滴り落ちる湯が、首筋に執着する吸血鬼の気持ちを教えてくれる。

 この人と一つ屋根の下で暮らすアクアは、変な気を起こしていないだろうか……。その疑問を見透かしたわけでもないのだろうが、答えはルビーからもたらされた。

 

「そういえばミヤコさん、お兄ちゃんといつまで一緒にお風呂に入ってたんだっけ?」

「え!?」

「確か……5年くらい前だったかしら」

「はぁっ!?」

 

 アイツは今、中学三年生。5年前というと、小学校高学年に差し掛かる頃か。男女ともに第二次性徴が始まり、私もその頃に初潮を迎えた時期でもあり、身体が大人へと少しずつ変化していく年頃だ。ある意味妥当と言えなくもないが……いや、アウトだ。アウトに違いない。

 

「ねえ聞いてよ先輩。お兄ちゃんったらさ、その時、ミヤコさんと一緒にお風呂に入ってて……大きくしちゃったんだって」

「大きくって、えーっと、その……あ、あれを?」

「そうそう。結局、お兄ちゃんもオスなんだね。まあ、ミヤコさんが相手じゃ仕方ないけどさ」

「お、おう……」

「で、その一件があってから、お風呂は別々に入ることにしたんだって。笑っちゃうよね」

 

 笑えないわよ! アクアはミヤコさんを女として意識してるってことじゃん! しかも小学生の頃から既に――。

 もう一度、ミヤコさんと自分の身体を見比べる。比較するのも馬鹿馬鹿しい彼我の戦力差。女としての勝負では到底勝ち目がないだろう。

 

「はぁ……」

 

 アイツはこの身体を見て、女として意識してくれるのだろうか。

 敵はどうしようもなく強大。相手にとって不足なし――と言いたいが、言葉遊びをした所で何の慰めにもならないのだった。

 

 ――ならば、違う土俵で勝負するしかない。

 私は私。ミヤコさんはミヤコさんだ。差しあたっては、今日あまのドラマをアクアとともに良くすること。下がりきった評判を、少しでも上向けること。

 ばしゃり、とお湯で顔を洗い、私は気合いを入れ直した。

 

 

 




アクアのあれは、安室奈美恵とその長男のエピソードが元ネタです。


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