少し加筆修正しました。
有馬かな。
十年ほど前までは一世を風靡した天才子役であったが、今は売れない役者に甘んじており、当時のファンのほとんどから関心は失われている。残ったファンの中でも、特に未成年の若い女性ともなれば、その数は本当に限られていた。
その数少ない一人が、黒川あかね。
劇団ララライ所属の役者であり、有馬かなの凋落と入れ替わるように評価されてきている。
有馬かなに憧れ同じ業界に飛び込んだものの、ファーストコンタクトは最悪。それ以降も、やりたかった役の尽くを彼女に持っていかれ、ファン心とライバル心の入り混じった複雑な感情を抱いていた。
彼女が物語に新たな華を添えるのは、もう少し先の話になる。
とあるプロダクションの、とある部屋。今この空間に居るのは二人の人間のみ。
一人は二十代後半の青年。やや長めの金髪をラフに結んで、PCのモニターに目を向けている。
もう一人は十代半ばの少女。青年の部下であり、次の4月に陽東高校に行く予定になっていた。
その少女にとって、有馬かなはライバルかと言えば、否。
ファンかと言えば、微妙なところ。
ただ、関心はあるかと問えば、間違いなく是ではあった。
ドラマ「今日は甘口で」。
作り手の都合が前に出過ぎの、典型的な実写ドラマ化失敗作の見本である。
有馬かなが主演を務めるということで一応観ていたものの、とても視聴に値するものではなく、すぐにスマホ片手に流し見する状態となった。
そうして惰性で見続け、いよいよ最終回。
どうせ駄目だろうな、と思っていたところ、黒衣のストーカーが登場した所で流れが変わる。棒読みの主演男優の演技が及第点にまで上がり、ストーカーの醸し出す闇が、有馬かなの涙という光をくっきりと浮かび上がらせる。
そして迎えた最後のシーン。
頬を染めた有馬かなは、演技を演技と感じさせない自然さで説得力は抜群であり、終わりよければ全てよし、とまではいかないものの、底辺を這っていた評判を少しだけ上向けることに成功していた。
少女が思うことは、二つ。
一つ。有馬かなもようやく恋を覚えたのだろうか、ということ。
もう一つ。あの、黒衣のストーカー。彼は、まるで……。
「社長、これを見てもらえますか」
少女は近くに居た青年に声を掛ける。彼の目の前のモニターに映っていたのは、ひよこの面を被った二人――片や筋骨隆々の大男、もう片方は体型からして女子中高生――がブートダンスをしている映像だった。
「何かあったかい?」
「このストーカーの彼、社長に似てません?」
「ほう、これは……」
最初は細められていた青年の瞳が、次第に大きく見開かれる。その唇は「見つけた」と小さく呟いていた。
「社長のお知り合いですか?」
「知り合いではないけれど、知っているよ」
エンドロールに流れるクレジットには「星野アクア」と表示されている。
青年にとっては懐かしい、因縁と言ってもいい苗字だ。
「こっちの女の子を見てごらん」
「名前は、星野ルビー……この二人、兄妹か何かでしょうか」
ブートダンスも終わりを迎え、クレジットには先程の少年と同じ苗字が表示されており、ひよこの面を外した少女は少年と同じ金紗の髪色に、男女の差異を除けばほぼ同じ顔のつくり。至極当然な推測だった。
「そうだね。もう一つ付け加えるなら――」
青年の瞳が妖しく輝き、少女は見惚れると同時に畏怖を覚える。
「彼らは、僕の子どもだ」
――かくして。
星の子どもたちが子どもでいられる時間は終わりを告げ。
物語の新たな幕が、上がる。
ようやくここまで来れました。
ミヤコをヒロインの一人に昇格したり、重曹ちゃんをかなり積極的にしたりと、原作から色々と変わっている本作ですが、ここからはその比ではありません。
なるべく間を空けないように努めますが、時々不定期になるかもしれません。
質は下げないように頑張りますので、どうかよろしくお付き合いください。