星の子どもたち   作:パーペチュアル

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Onyx 6

 

 

 

「有馬かなさん。神木プロダクション(ウチ)に来ませんか」

「……これ、マジな話?」

「はい。どうでしょう、悪い話ではないと思いますが」

 

 神木プロダクション。規模としては中堅どころだが資金が潤沢であり、今勢いのあるプロダクションということは知っている。正直、乗ってもいいと思わなくもなかったが、ついこの間に今日あまの一件で痛い目を見たばかりだ。この場で即断即決することは出来なかった。

 

「……ちょっと考える時間を貰うわよ」

「ええ、大事な話ですから持ち帰って検討して下さい。ただ、貴女のために空けてある席は、いつ他の誰かが座るとも限りません。返事はお早めにお願いしますね」

「そうね……」

 

 芸能界は椅子取りゲーム。彼女がこうやって誘ってくれているのも、姫川愛梨さんと共演した縁があったからだ。空いている席は次の人材を補充しなくてはならない。私じゃなくとも、そこに座りたがっている人間はごまんと居るのだ。

 

「あ、それともう一つ、言い忘れたことがあります」

「まだあるの? 今度は何よ」

 

 グラスに残った氷をかき混ぜ、肩の力を抜いて問い返した。

 

 

 

「有馬かなさん。わたしと友達になってくれませんか」

 

 

 

「……友達? 私と、あんたが?」

「はい。駄目でしょうか」

「別にいいけど……何で私と?」

「これでも、友達100人を目指しているんです。芸能人とその卵100人と友達になれれば、何かしら役に立つかと思いまして」

「ふーん……、まあいいわ。歓迎するわよ、後輩。ちゃんと私のことを敬いなさい」

「ええ。よろしくお願いしますね、先輩」

 

 私たちは連絡先を交換し、場の雰囲気が和やかになった。

 ――そういえば、アクアのやつ遅いな……。

 手持ち無沙汰になった私は、「Aquamarine」をポーチから取り出すと、「Iolite(アイオライト)」ともどもテーブルに並べて置いてみる。どちらも使い込まれた様子で、ただ静かにそこに佇んでいる。私とアクアを繋いでいる、証。

 ……ちょっと悪戯心が浮かぶ。「Iolite」と「Aquamarine」を一緒に撮影し、ルビー宛に位置情報付きで画像を送っておく。

 さて、後は野となれ山となれ、だ。ルビーに変に勘ぐられる? 上等ではないか。せいぜい説明責任を果たしなさい、星野アクア。

 

「そのハンカチは……」

 

 ……そうだ、この女も居るんだった。浮気男が三股男にレベルアップすることになるが、今更気付いたところでもう送信済みの写真はどうにも出来ない。あとはルビーがどういう判断をするかだ。

 

「何? ……姫川、さん」

「普段は天河の方でお願いします。天河でもメノウでも、お好きにどうぞ」

「じゃあ、メノウ。そのハンカチはアクアの大切なものだけど、それがどうしたの?」

 

 続く台詞は、私にとって全く予想外のものだった。

 

 

 

「わたしも、似たようなハンカチを持ってますよ」

 

 

 

「……え?」

 

 思考が、止まった。

 黒髪の少女が懐から取り出したのはその髪色と同じ、漆黒のハンカチ。紅色の文字で刻まれたるは――「Onyx(オニキス)」。宝石言葉は「厄除け」、「成功」、「理性的」など。

 

「その、ハンカチ……どこで手に入れたの?」

「ウチの社長に貰いました」

 

 メノウがハンカチをテーブルに置き、漆黒と藍玉、(すみれ)色の三色が並ぶ。ハンカチの大きさも、宝石名の字の位置・書体も――一緒。二つだけが共通するなら偶然だが、三つ揃ったならば、それはもう必然に他ならない。

 

「そういえば、このハンカチを貰った時に社長が言ってましたね。若い頃、大切な人に『Iolite(アイオライト)』のハンカチをプレゼントした、と」

「大切な人、って……」

 

「Iolite」の本来の持ち主は、アクアの母親。

 彼女のことを大切な人と形容する、プロダクションの社長の男。

 

 アクアを今日あまに勧誘し、苺プロの仮眠室に泊まらせてもらった時のことを思い出す。

 アクアとルビーの母親は、二人が幼い頃に亡くなったシングルマザー。

 彼女の死因に対する、ルビーとミヤコさんの過剰な反応。

 そして、仮眠室に貼られていたポスターに映る少女、苺プロの看板を務めていたB小町の絶対的センター、アイ。東京ドームのライブを目前にして、ストーカーの凶刃に倒れ、非業の死を遂げた人物。――私と、アクアとルビーがまだ小さな子どもだった時に。

 双子の兄妹は母親に対して強いこだわりを持っているけれど、父親のことについてはまるで見えてこない。

 

 

 

 もしかして、

 もしかして、

 もしかして。

 

 

 

「あんたのとこの社長って、何者なの……? アクアと一体、どういう関係……!?」

「今の貴女には、それを聞く権限は有りません。ここから先は機密とプライバシーに関わりますから」

「あんたは……!」

 

 身を乗り出し、黒髪の少女の胸倉を掴む。それでも彼女は平然とした様子を崩さない。

 

「知りたければ()()になることですね。わたしたちか、それともアクア君か」

「……っ!」

 

「女」が嗤う。

 眼前に、真っ暗な深淵が広がったような感覚。

 最愛の娘が居ながら、不倫に溺れる「女」。

 物語が後半に差し掛かる頃。避妊具を切らし、それでも劣情が収まらない不倫相手の男に対し、「女」は妖艶と微笑んで、耳元で囁いた。

 それが、崩壊に繋がることを知っていながら。

 

 

 

「「……さあ、どうします?」」

 

 

 

 天河メノウからは、あの人(姫川愛梨)と同じように、石鹸の香りがした。

 

 

 




物語はいよいよ加速していきます。
次は少し時間がかかるかもしれません。


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