星の子どもたち   作:パーペチュアル

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Ruby 1

 

 

 

 つい1時間ほど前に、両側に2人の女を侍らせていた高校生らしき少年(美形)は、今度は美少女5人に囲まれている。その光景を見た男性のウエイター(30代独身)は、嫉妬や羨望をはるか通り越して、世はかくも不平等な格差社会なのだと悟りの境地に至った。

 例えば、右奥のベレー帽を被った赤髪の少女の視線は、彼女の正面に座った桃色の髪色をした少女の胸元に注がれており、忌々しそうに眉間に皺を寄せている。

 右側中央に座る、件の男(金髪碧眼)はたいそう居心地が悪そうにしているが、憂鬱な表情も美形がしていればとても絵になっており、自分が女であれば迷わず声を掛けてしまいそうだ。

 その真正面に座るのは、少年と同じ金紗の髪をした少女。いかにも不機嫌そうな表情であっても、その可愛らしさは微塵も損なわれていない。顔立ちも彼とよく似ており、恐らくは血縁関係なのだろう、両親はさぞや美男美女に違いない。

 右手前に座るのは長い黒髪を後ろで束ね、眼鏡を掛けた地味めの少女。だがその姿勢正しく座る様は凛としており、着飾ればきっと美人に化けるのではないかと予測がついた。

 そして、左手前に座っているのは……一瞬、目と頭を疑ったが、信じがたいことに、あの「不知火フリル」だった。10代の芸能人としては随一の知名度と実力を誇るマルチタレント。画面越しでは何度も見たが、直にそのご尊顔を拝するのは初めてのことだった。どうにかしてサインを貰えないかと意識を巡らせるものの、邪な気持ちで本業を疎かにするほど、この道10年のウエイターの男は弛んでいない。

 だから彼は、心に浮かんだ幾つもの考えを一先ず押し込めて、今日も営業スマイルを顔に貼り付けてこう言うのだ。

 

「お客様、ご注文はお決まりですか?」

 

 

 

 

 

 

「さて、お兄ちゃん。答えてほしいんだけど」

「……何だよ」

 

 自己紹介も終わり、それぞれに飲み物が行き渡った所で、とうとう星野ルビーが切り出した。

 

「誰が本命なの?」

 

 星野アクアは、無意識に唾を飲み込もうとして咽せてしまい、

 有馬かなは、びくり、とその小さな体躯を震わせ、

 寿みなみは、視線を星野兄妹の間で彷徨わせ、

 不知火フリルは、獲物を見定めたかの如く、面白そうだと眼光が鋭くなった。

 この場に居る女性は皆、10代半ばのうら若き少女たち。何れも恋愛ごとに興味津々なお年頃であった。恋バナは女同士で仲を深める薬でもあり、時には仲違いさせる毒にもなり得る。果たして今回はどうなるか――それは、神のみぞ知る。

 ただ一人、天河メノウはその言葉じたいにはさして反応を見せず、激しく咳き込む星野アクアの背中を撫でさすり、「大丈夫ですか」と声を掛けている。その様子を見た金紗と深紅の少女たちからは、白い目を向けられていた。

 咳が落ち着いたところを水で喉を洗い流し、ようやく星野アクアは一息ついた。

 

「いきなりどうしたんだよ、ルビー」

「いきなりじゃないよ。ずっと前から思ってたことだもの。お兄ちゃんの気持ちは何処にあるのかな、って」

「だからって、こんな所で聞くことじゃないだろ」

「こんな所だから聞くの。普段だったらお兄ちゃん、のらりくらりと言い逃れるから。この状況じゃ逃げられないよね」

 

 さもありなん。周囲を同年代の少女、それも特級の美少女たちに囲まれているのだ。ここで逃げれば臆病者(ヘタレ)のレッテルを張られ、女子たちのネットワークであれよあれよという間に拡散され、三年間肩身の狭い状況で高校生活を送ることになるだろう。

 特に、不知火フリルに軽蔑されてしまえば、周囲もその態度に同調する可能性は高い。星野アクアは他人から好かれたいとはあまり思っていないが、周りに影響力のある人間や複数の他人から嫌われることの恐ろしさは知悉していた。

 

 アクアが中学生時代。女子たちからモテるにも関わらず、告白されては振ってばかりで、誰とも付き合おうとしないという態度を気に食わない男子生徒は少なからず居た。大半は陰口程度だったが、中には本格的にシメようと画策する輩もいて、アクアはその対策に迫られることになった。

 そこで活躍したのがルビーである。群を抜く美少女で、闊達な陽キャで、当時既に子ぴえヨンとしての立場を確立していて、スクールカーストにおけるクイーンビーの立場を不動のものとしていた双子の妹に登場願ったわけだ。

 要するに。「アクアに手を出したら、女子生徒全員に嫌われる」という空気を醸成したのである。こうして、星野アクアは中学時代、孤高の一匹狼的な立場に収まっていたのだ。

 ――そんなわけで、星野アクアは妹には頭が上がらないのだった。

 

「先輩も聞きたいよね?」

「……まぁ、ね」

 

 ルビーから矛先を向けられた有馬かなは、やや迷いながらも同意を返した。彼女とて、アクアの本当の気持ちを知りたいとは思っている。「今日は甘口で」の打ち上げでは、私のことをどう思ってるのかと直球で聞いてみたのだが、何だかんだではぐらかされてしまった。帰宅してから会場の熱が収まり、冷えた頭で思い返せばそれが(しこ)りとなって、心の奥にわだかまっている。

 だが、聞きたいと思う反面、聞くのが怖いという気持ちもあった。何せ、この恋に終止符が打たれるかもしれないのだから。他ならぬ、想い人の本音の一言によって。

 

「私はさ、もしお兄ちゃんが本気で先輩のことを好きなんだったら、超複雑だけど応援してあげてもいいと思ってたんだよ。先輩はお兄ちゃんのことを十年以上想ってくれてる人だし、お兄ちゃんも先輩に対しては他の女子と扱いが違うし」

「ちょっとルビー! 何言ってんの!?」

「これくらいカマさないと、お兄ちゃんまた逃げちゃうよ。というか今私が話してるんだから、先輩は黙っててくれる?」

「……はい」

 

 ぴえヨンに弟子入りして、いささか以上に筋肉言語を身に着けたルビーは、いとも容易く元天才子役を沈黙させた。

 有馬かなへの視線が再びアクアに戻り、そして彼の隣に座る天河メノウに向けられる。ルビーは懐に手を入れ、アクアの左肩についていた髪の毛を取り出した。

 

「この髪、貴女のもので合ってるかな」

「多分、そうでしょうね」

「お兄ちゃんとは初対面だよね?」

「ええ、今日初めてお会いしました」

「ふーん……。初めて会ったばかりの女の人と、髪の毛が肩につくようなことをしてたんだね、お兄ちゃん。

 ……ひょっとして、高校デビューのつもり? 女なら誰でもいいの? ミヤコさんのことはどうするの?」

「何でミヤコが出てくるんだよ。ミヤコは関係な――」

「関係ないって言ったら、心の底から軽蔑するよ」

 

 場に沈黙が降りる。恋バナを超えて修羅場の様相を呈してきた現状に空気が重くなる一方だったが、不知火フリルはお構いなしにルビーの袖をそっと掴むと、ミヤコさんって誰、と小声で問いかけた。「私とお兄ちゃんの里親で、苺プロの社長。それで、お兄ちゃんとは義理の親子以上恋人未満の関係だよ」と口を手で隠しながら返し、それを聞いた不知火フリルは興奮した様子で「何それ後で詳しく教えて」とやり取りが続いた。

 なお、個室という事もあり、この一連の会話は他の全員に筒抜けになっていた。

 有馬かなは、「義理の親子以上恋人未満」の所でダメージを受け、

 寿みなみは、一体どんな人なんやろ、と空想を掻き立てられ、

 天河メノウ/姫川愛梨は、「昔のわたしと『彼』みたいね。是非会ってみたいわ」と興味をそそられた。

 

 ――一方。星野アクアは、あの日のことを思い出していた。

 アイが殺されてから2年ほどでB小町が解散した、あの日。

 斉藤ミヤコが、誰も居なくなった更衣室で一人、立ち尽くしていたあの日のことを。

 

 

 




次回、久々のミヤコ回です。


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