星の子どもたち   作:パーペチュアル

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Ruby 3

 

 

 

「貴女の恋愛観は置いておくとして、天河さん。いえ、姫川さんと言うべきかしら」

「聞いているのが身内だけなら、お好きにどうぞ。公の場では天河でお願いします。それで、何でしょうか」

「犬とかご主人様とか、この子たちの前で堂々と性癖を話すのはやめて欲しいのよ。子どもの教育に悪いわ」

「彼女たちは女子高生、既に子どもじゃありませんよ。特に、有馬さんはもう結婚できる年齢――ああ、今は18歳からでしたか。時代は変わったものです。わたしも貴女も、随分と年を取ったようですね」

「……ともかく、この子たちに不埒なことを吹き込むのは止めて頂戴」

「お断りします。外面を取り繕うのは存外にストレスが溜まるんですよ。こうして好き勝手話せるのは貴女たち身内くらいのものですから、今はとっても楽しいんです。やっぱり、持つべきものは本音で話せる人間関係ですよね」

「その言葉には同意するけど、勝手に身内にしないでもらえるかしら?」

「いいじゃないですか。どのみち、斉藤ミヤコさんがアクア君とくっついたら、貴女とウチの社長は義理の親子関係になるんですよ? ごねるだけ無駄だと思いますけど」

「まだ、血縁関係が立証されたわけじゃないでしょう」

「時間の問題ですよ。社長に目を付けられた以上、貴女たちはもう逃げられません。現実から目を背けるより、善後策を講じた方が得策だと愚考します。まあ、社長も『悪いようにはしない』と言ってましたし、案ずるより産むが易し、ですよ」

「簡単に言ってくれるわね……」

 

 額に手を当て溜息を吐く斉藤ミヤコと、人生楽しそうに顔を綻ばせて笑う天河メノウ/姫川愛梨。意見は食い違えど妙に嚙み合っている彼女たちを見ていると、『実はこの二人、割と相性自体は悪くないのでは?』と星野ルビーは思った。何というか、気の置けない悪友、といったイメージである。

 

 星野アイが亡くなって以降、斉藤ミヤコの人生は良くも悪くも大きく変わった。苺プロの維持存続と双子の養育、その間隙を縫って美容と健康に取り組んでおり、今の彼女の生活はそれらが全てと言っていい。仕事付き合いはあるが、プライベートで他の誰かと遊びに行ったり、飲みに行ったりする機会は激減していた。

 何よりも、星野アイとその双子の子どもたちという特大の爆弾を抱えた斉藤ミヤコは、その悩みを分かち合える人間が何処にも居なかった。だからこそアクアの存在が支えとなっており、共に歩んできたわけであるが、それでもミヤコとアクアの間には保護者と被保護者、上司と部下、大人と子ども、男と女という厳然とした立場の違いがある。

 同年代で、同姓で、同じ秘密を共有し合える人間が居なかったのだ。斉藤ミヤコには。

 

 ふと、ルビーは近くに立っている有馬かなの過去を思い出す。芸能一筋の人生を送ってきた彼女は、他の子どもたちが連れ立って遊んでいる間、稽古と撮影、その準備と移動時間でスケジュールが埋まっていた。彼女もまた、同年代の子らと触れ合う機会が極めて少なく、守秘義務もあって部外者においそれと悩みや不満を話すわけにはいかなかった。その受け皿となるべき両親も離れていき、今は一人ぼっちの孤独な生活を送っていたのだ。

 そこに現れたアクアとルビー。約2か月前に再会して以来、3人は次第に仲を深めていった。週末には苺プロにやってきて星野家で同じ食卓を囲み泊まっていくことも珍しくなく、星野ルビーと有馬かなは隣に並べた布団の中で仕事や学業、恋話に花を咲かせたものだ。半ば冗談、半ば本気で苺プロへの加入を誘ったことがあり、その時は断られてはいるものの、意外と満更でもなさそうな雰囲気だった。アクアが本気で加入をお願いすれば、間違いなく落ちるだろうというのがルビーの見立てだ。

 兄妹との触れ合いの中で、有馬かなは本来の明るさを取り戻しつつあったのだ。

 

 では、斉藤ミヤコと天河メノウ/姫川愛梨はどうだろうか。

 同性で、前世も含めれば年の違いはそんなに無さそうだし、会話レベル的にも噛み合っている。最も大きな障害である、星野アイと双子に関わる秘密についても、彼女はとうに知悉している。条件的には申し分ない相手なのは疑いようもない。

 

 斉藤ミヤコは星野アクアに対し、良き母・強き母であろうとする気質がある。それは勿論この上ない彼女の美点ではあるが、翻せば彼に対し、弱みを見せられないという縛りにも繋がっている。ミヤコにとってアクアは、悩みや愚痴、弱みを吐き出す相手ではないのだ。最も大切で守らなければならない存在であるが故に、寄りかかっていい存在ではない。男が惚れた女に格好悪い所を見せたがらないのと同じように、女も好いた男に醜い所を見られたくはないものだ。家族や親しい相手だからこそ言えないことがある、という事実の典型とも言えるだろう。

 解決方法としては、アクアが成長してミヤコと対等になり、彼女が悪い所も弱い所も曝け出せるようになるのが理想だが、そこまで辿り着くにはもう少し時間がかかりそうだ。是非とも兄は奮起し、本当の意味でミヤコを支えて欲しいとルビーは切望する。

 

 それまでの繋ぎとして、ひとまず天河メノウを置いておくという選択肢は――有りだろう。

 油断ならない胡散臭い相手という懸念はあるが、忖度して機嫌を取る必要が無いというのはミヤコにとって逆に話しやすい相手なのかもしれない。先ほど話題に上ったが、本音で話せる人間関係というのは何よりも貴重だ。

 ルビーは前世において、病気を苦にしない健気で良い子を装っていたが、その労苦の何たる巨大だったことか。担当医の青年と推しのアイドルの2人が心の支えになっていなければ、彼女は病で死ぬよりも先に精神的に折れていただろう。

 

 これらの事実を勘案して、とりあえずではあるが星野ルビーは天河メノウを認めることにした。

 結婚相手と同じで、理想のパートナーなんて世の中でまず見つからないものだ。これだけは譲れないという条件で選別し、後はそこから諸々の妥協を何処まで許容できるか、というだけである。理想と現実は違うのだ。

 

「メノウちゃん」

「何でしょうか、ルビーさん」

 

 先程とは逆に、今度はルビーの方から手を差し出す。その所作に斉藤ミヤコも有馬かなも、幾何かの動揺を隠せない。

 星野ルビーは考える。天河メノウが語った、想い人への揺るがぬ気持ち。年齢差など関係ないと一蹴する心の強さ。それはルビーにとっても非常に共感できる話であり、ミヤコと対等に遣り取りできる彼女からは色々と盗めるものもあるだろうと。この選択はミヤコにとってもルビーにとっても、利のあることに違いないと。

 

 斉藤ミヤコは今でこそ理想の母親のように思われがちだが、元来はもっと自由闊達で気ままな性向なのだ。子育てに加え、悲劇を乗り越えた経験から来る成長と言えばそうなのだが、ルビーとしてはもう少し肩の力を抜いて欲しかった。

 彼女が必要以上に気を遣わず、嫌味や悪態を吐ける相手、取り繕っていない彼女の素を引き出せる相手が必要だ。

 肉体的には自分より年下の、目の前の女子中学生にそれを期待するのはいささかハードルが高いだろうと、また自らに出来ないことを初対面の他人に求めるのは不甲斐ないと思いつつも。あえて彼女は、その選択肢を選び取ることに決めた。

 結局のところ、星野アクアも星野ルビーも、産みの母親と甲乙つけがたい程に育ての母親のことが大好きなのだ。だから彼女が幸せになる為なら、あらゆる努力を惜しむつもりは無い。

 

「これからよろしくね、メノウちゃん」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ルビーさん」

 

 ある意味で、苺プロで最も強い権力を持つ金紗の少女と、異邦人の漆黒の少女は。少なくとも表面上は和やかに握手を交わした。

 星野ルビーは思う。双子の兄がミヤコを娶る覚悟をさっさと決めてくれたなら、こんな深謀遠慮を巡らせずに済んだのに、と。

 天河メノウは思う。彼女たちと家族になれたなら、さぞかし弄りがいがあって毎日が愉しいだろうな、と。

 

 

 




アクアの話をやる予定が、気が付いたらルビーの話になってました。
ミヤコは恐らく本音で語れる相手が居なかったのでは? と思いこの話を書きました。原作でもバーのマスター相手に愚痴る描写はありましたが、アイの事情を暴露後の話ですし、この時点ではそうそう他人に漏らすわけにはいかなかったでしょうし……。
アクアがさっさと覚悟を決めてくれるよう、なるべく早く家族会議を終わらせたいです。

先日、10万UAを突破しました。いつも読んでいただいて有難うございます。


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