私――斉藤ミヤコは、義理の息子と不倫している。
赤子の頃から知っている少年と、不倫している。
苺プロの看板アイドル、アイが亡くなって間もなく、夫の斉藤壱護は失踪した。
それから暫くして、夫の項目が記入された離婚届が送られてきた。その時は怒りの余りヤケ酒して泥酔し、まだ幼かったアクアに介抱してもらい。その後、酒の勢いもあって彼の抱えている復讐を追求し、彼の闇をこの身で受け止めて。
そこから、私たちの関係はただの義理の親子とは言い難いものへと変わっていく。
母親を死に追いやった人間に復讐するという重い十字架を、小さな子どもが到底背負いきれる筈もなく。アクアのそんな事情を唯一知る私だけが彼の拠り所であり、少年が公私に渡って私を頼りにしてくるのは、寧ろ当然の成り行きだった。
彼が辛い時に、慰める。優しい言葉を掛けてあげる。鼓舞激励する。柔らかく抱き締め、包み込む。
そうして私は、基本的に表情を崩さないアクアが笑顔を見せる、ただ一人の人間になったのだ。
同時に。アイの死去と壱護の失踪という、私の中に生まれた巨大な空白に、アクアはするりと入り込んだ。
私が本当に辛い時に、彼はいつも傍に居てくれた。口数は多くないし、不器用な所もあるけれど、それでも私の欲しい言葉をくれて、私の手を握って温もりを与えてくれた。この子の為に、この人の為に頑張らなきゃいけないと奮起させてくれたから。
私は、星野アイの息子と不倫している。
彼女と共に育ててきた、昔はおむつを替えたこともある子どもと、不倫している。
私は芸能人になろうとして、なれなかった女。
港区女子になってみたはいいものの、現役女子大生という看板が外れた途端に、私の商品価値は暴落。ついこの前まではおいしい役目を紹介してもらえる立場だったのが、今では自分よりさらに価値のある女を紹介しなくてはならない立場へと追いやられる。椅子取りゲームの敗残者へと成り下がる。
挙句の果てには、周りの男たちから愛人にならないかと言い寄られる始末。
これが、本当に私のやりたかった事なのだろうか。
その後、壱護の誘いで苺プロに加入、B小町のマネージャーへと転職することになる。
不世出のアイドルにして、B小町の絶対的センター、アイ。
私より一回りは若く、眩しく、観客の大歓声を一身に受ける彼女は、私にとって憧れであると同時に嫉妬の対象でもあった。私の欲しかったものを、彼女は全て持ち合わせていたから。
マネージャーの私ですら、これだ。アイと同じ土俵に立たされているB小町の他メンバーからすれば、面白くないこと甚だしいのは容易に想像出来る。
アイドルなんて悪く言えば、クラスで一番可愛いような女の子ばかりが集まって鎬を削りあい、足を引っ張り合うような連中だ。彼女らのプライドの高さは、並みの女子たちとは比較にならない。壱護がアイを贔屓していたのは「売れるかどうか」という観点からすれば正解だが、彼女らにそんな理など認められるわけもないだろう。
アイに強く当たるニノや高峯らを上辺では宥めながらも、私は心の奥底では彼女らの気持ちが良く判った。
――羨ましい。妬ましい。なんで私ではなく、あの女ばかりなんだ。
でも仕方がない。芸能界なんて、平等とは最も縁遠い業界なのだ。金とコネと結果が全ての、残酷なまでに権力と実力が支配する世界。
そのような場所で、地下アイドルから東京ドームへとB小町を出世させたアイは、誰よりも輝いていた。私の憧れだった。
そんなアイの息子が、私に溺れている。彼女の血と光を受け継いだ少年が、私に夢中になっている。
その事実に、私の中の女が仄暗い優越感で浸食されていく。色褪せていた私の中の女が、前よりも鮮やかに色彩を取り戻していく。
アクアが高校生になって間もなく、12年越しに見つかったアクアの父親、神木ヒカル。彼を交えた家族会議が開かれ、アクアの復讐劇も幕を閉じた。
家族会議の翌日。ついに男女の関係になった私とアクアだが、その日からずっと、彼はほぼ毎日私を求めてくる。この12年間で犠牲にしてきた何かを、必死に取り戻そうとするかのように。
最初はたどたどしかった彼も、回数を重ねる度に腕を上げ、次第に私を翻弄するようになる。
最初は余裕があった私も、回数を重ねるごとに我を忘れ、次第に彼のことしか見えなくなる。
そのさなかに、白く塗り潰されていく意識の中で、私は思った。
ああ、ようやく私は――アイを超えることが出来たのだ、と。
もう何度目になるか判らない絶頂を迎えながら、私はとても満たされていた。
私は、星野アクアと不倫している。
文字通り、親と子ほど年齢が離れた若い男と、不倫している。
あの時送られてきた離婚届は、12年経った今でも鍵付きの引き出しの中に仕舞われている。壱護との婚姻関係は、今もなお解消されていない。
今日も私は、彼の精を
今日も私は、夫と倫理に背を向けて、女としての愛を謳歌し、若い燕の愛を享受する。
私は……幸せだ。
次回、逆襲のやさぐれルビー。