Rhodolite Garnet/ロードライトガーネット
パイロープガーネットとアルマンディンガーネットの成分が混ざり合った固溶体。
和名は
ギリシャ語の薔薇「rhodo」と鉱物「lite」が合わさり「rhodolite」になったと言われている。
特に価値が高いとされるのは、透明度が高く紫がかった深みのある赤色を持つものである。
「アクアが……私のアクアが、若い女に盗られたぁ~」
「うんうん、それは辛いよね……よしよし」
缶ビール片手に
「さっきから、ずっとそればかりじゃないですか。――ああ、そのビール美味しそうですね。わたしも一本貰っていいですか?」
「貴女は一応、女子中学生でしょう。ノンアルのやつなら冷蔵庫の奥に入ってるわよ。……ついでに、私のお代わりも持ってきて」
「はいはい」
ぱたぱた、とスリッパを鳴らして台所を往復してくる天河メノウ/姫川愛梨。斉藤ミヤコは残り少なかった二本目の缶を一気に飲み干すと、三本目を受け取り間を置かずにプルタブを開けた。同じく漆黒の少女もノンアルコールビールを開栓すると、差し合わせたわけでもないのに二人の女はビール缶を掲げて乾杯し、同時に一口目を呷った。喉を鳴らし、ひと心地付いたとばかりに吐息を漏らし、何も言わずに視線と薄笑いを交わす女たち。これが人妻たちの酒盛りなのかと、星野ルビーはその漂ってくる色香にあてられた。
「アクア……、私のアクア……」
「そこまで愚痴るなら、さっさと彼の子どもを産んであげればいいじゃないですか。何を躊躇っているんです?
――いえ、何をそんなに恐れているの?」
「……仕方ないじゃない。今の時代、未成年の芸能人が子どもを作るなんて社会が認めないわ。隠そうとしても到底、隠し切れるものじゃない。あの子も、世間の好奇と悪意に押し潰されてしまう。アクアは、アイと神木さんの二の舞にしてはいけないの。それだけは、絶対に繰り返させない」
「でも、貴女とアクア君は星野アイとヒカル君とは違うわ。あまり過去に縛られずに自分の本心に従って、本当に自分たちのやりたいことをやった方が、あとあと後悔しないと思うわよ」
「むぅ……」
「その辺り、アクア君はどう考えているの? 家族計画はしているんでしょう」
「……この前、デキちゃったかのようにわざと勘違いさせたんだけど。そしたら、その……責任、取ってくれるって」
「嬉しそうねぇ……妬けちゃうわ。本当に、女冥利に尽きるってものね」
責任を取る、と言葉にすればそれだけだが、こと男女間においては特別な意味を持つ。結婚も視野に入れた人生の伴侶となること。相手の命を、やがて生まれ来る子どもの命を背負うという大きな使命。100年前ならいざ知らず、未婚・晩婚化が止まらない現代においては15やそこらの子どもが口にするのは憚られる台詞である。自動車の免許も取れない少年では、母子に何かあった時に彼女らを自分の力だけでは病院に連れていくことさえままならないのだから。
「でも、このままじゃいずれ、かなさんに追い抜かれちゃうんじゃない? 恋愛方面はスロースターターなかわりに、ここから先はあっという間よ、きっと」
「よしてよ。男が出来たばかりの女子中高生なんて、歯止めが効かないのなんて判り切った話でしょ」
女子高出身の斉藤ミヤコはよく知っていた。校外で男を作ったクラスメートの、自慢話と愚痴がどれだけ耳障りだったことか。その女子生徒は数ヶ月で破局し、そのまま不登校になり、いつの間にか退学していたことは未だに覚えている。風の噂では、その女子生徒が妊娠したと知った男に逃げられ、鬱になったとか。斉藤ミヤコがあまり男を信用しない理由の一端が、ここにあった。
「……ごめんなさい、ルビー」
「えっ、何のこと?」
少しばかり沈黙が流れ、代わりに伝わってくる声と振動。ミヤコのそれと比べればかなり控えめだが、その正体は深紅の少女が奏でる嬌声と、ベッドの軋む音である。
あの後、有馬かなは星野アクアの自室へと連れ込まれ、まあ――そういうことである。
いささか展開が早すぎると困惑する母子に対し、姫川愛梨は妥当な判断だと評価した。恋愛面に関して有馬かなは、3歩進んで2歩下がるような少女である。下手にインターバルをおいてしまえば、再び告白どころかムード作りからやり直しになりかねない為、今日ここで決着を着けて後戻り出来なくしてしまうのは寧ろ当然の決断であるとさえ思っていた。
「この1ヶ月間、貴女もこんな気まずい思いを味わっていたのね……」
「ホントだよ! 最初のうちは眠れなくて仕方なかったよ、もう」
いくら自分が認めた二人とはいえ、一つ屋根の下で日夜繰り広げられる情事。それに付随する嫉妬と虚無感。
それが今では、事の最中であっても平然と熟睡出来るまでに成長した。これを成長と呼んでいいのかは大いに疑問ではあるが。
「あの二人、随分と盛り上がってるわねぇ……。本当に羨ましいわ」
「アクアが……、私のアクアが……」
「ああもう、鬱陶しいわね。そんなに気になるなら、貴女も混ざってきなさいよ」
「えぇっ!? そんな……」
「若い男女は歯止めが効かないって、さっき貴女が言ったでしょう? かなさんを自分の後釜に据えるつもりなら、そうならないように直に身体へ教えてあげないと。どうせ、いくら口で言ったところで聞きやしないわよ」
「そうかしら……」
「年長者として、上司として、若人を正しく導いてあげなきゃ駄目よ。これも仕事や教育のうちなんだから」
「そうかも……」
「なら、貴女のすべきことは判ってるわよね、ミヤコさん」
「ええ、そうね……」
絶対、騙されてる……と確信する星野ルビーであったが、三角関係に首を突っ込むのは野暮だと思い、止めることはしなかった。
普段の斉藤ミヤコであればもっと慎重になっていただろうが、酒に酔っている上に有馬かなへの危機感や嫉妬心に目を曇らされ、姫川愛梨の口八丁にまんまと乗せられてしまう。缶ビールの三本目を一気に飲み干すと、酒臭い息を盛大に吐き出して、斉藤ミヤコはガタンと音を立てて椅子から腰を上げた。
「ミヤコ、さん……?」
返事は無い。ぶつぶつと口内で何やら呟いており、顔は淡く朱く染まっていて、両目は仇を見るように据わっている。自室に向かってずるずると足を引きずって、幽鬼のように覚束ない様子でリビングを出ていく義母を眺めながら、星野ルビーは心中で合掌した。
同時に。1ヶ月前の家族会議の直後、一塊に寄り添って眠る三人のことを思い出す。そう遠くない未来に、この光景がベッドの上で再現されるのではないかと危惧したものだが、とうとうその時が来たようだと金紗の少女は溜息を吐いた。
☆
「身体、大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない。思ってた程じゃないけど、それでも結構痛かった。まだ違和感が残ってるし、明日の朝はランニングに行けないかも」
「そうか……」
「……」
「あのさ――」
「言っとくけど。ここで謝ったらぶっとばすからね、アクア」
「いや、そんなつもりは無いが。何でそんなことを言うんだよ」
「……だって、私は、その……これが初めてで。その最初をアンタにあげたのに、ここで謝られたら惨めじゃない?」
「そういうものか」
「そういうものよ」
「……」
「……」
「そういえば、さっき何を言おうとしたの?」
「……ああ、そうか。それじゃ、改めて言うぞ」
「……うん?」
「好きだ」
「……っ!」
「確かに、俺にとってお前は一番ではないけれど。それでも、お前のことが好きなのは本当だ。この言葉は絶対、嘘じゃない」
「アクア……」
「だから、俺と付き合って欲しい。友人としてだけじゃなく、同じ事務所の仲間ってだけじゃなく。男と、女として」
「……」
「……どうだ?」
「……条件があるわ」
「聞かせてくれ」
「簡単よ。――名前を呼んで。私の目を見て、はっきりと言って」
「判ったよ。
――かな」
「……もう一回」
「かな」
「もう一回」
「かな」
「もう一回」
「……何回言えばいいんだよ」
「決まってるじゃない、私の気が済むまでよ」
「……仰せの通りに。お嬢様」
………………。
…………。
……。
「あ、聞きたいことがあるんだけど」
「どうした?」
「アンタって、その……こういうことに随分と手馴れてたけどさ」
「そりゃまあ、事務所の社長に色々と仕込まれたからな――痛っ!」
「なのに、ゴムを着けるときだけ妙に手間取ってたわよね。どうして?」
「普段、ミヤコとする時は着けないからな。慣れないことはどうしても時間がかかる」
「……ちょっと待って。それじゃ、避妊はどうしてるの?」
「ミヤコにピルを飲んでもらってる」
「……ああ、ルビーもそんなことを言ってたわね」
「あいつ、口軽すぎだろ……」
「……それじゃあ、さ。ゴム有りと、ゴム無しと、アクアはどっちが気持ちいい?」
「聞くなよ、そんなこと」
「いいじゃない。怒らないから答えてよ」
「……無い方が気持ちいい」
「やっぱり、そうなんだ……」
「納得したか?」
「……うん」
「……」
「……」
「……提案があるんだけど」
「いや待て、落ち着け、ゆっくりと深呼吸しろ」
「アンタの方こそ落ち着きなさいよ」
「聞きたくないんだが……」
「……私も、ピルを飲もうかなって」
「……そんなことだろうと思ったよ」
「……どう思う?」
「いや駄目だろ」
「なんでよ」
「避妊を女任せにするとか論外だ」
「ミヤコさんはいいのに、私は駄目なの?」
「若いうちからピルを飲むのは、身体に負担が大きいって話だぞ」
「それは、そうかもだけど……」
「何をそんなに焦ってるんだ?」
「私、やっぱりミヤコさんに負けたくない。私に出来る限りのことはするつもりだし、してあげたいって思う」
「その気持ちだけで十分だよ。お前に無理はさせたくない」
「でも――」
その時。
カチャリ、と。アクアの部屋の鍵を掛けたはずの扉から、金属質の音が聞こえた。
この鍵を開錠出来る人間は、ただ一人。双子の保護者であり、マスターキーを持つ唯一の人間。
「避妊を疎かにする
世にも美しい
まず目を引くのはシースルーのベビードール。薄絹の衣装が肩紐と胸元のリボンで繋がっているだけであり、鎖骨や肩回り、胸の谷間や
下半身は黒のレース調のガーターベルトとストッキング。下着は着けておらず、脚の付け根のデルタゾーンの先端に、整えられたアンダーヘアがひっそりと覗いている。脚線美を隠すどころか寧ろ強調する装いに、10代半ばの少年少女は思わず息を呑んだ。
つまりは総じて、一部の隙も無い、言い訳のしようのない程に、夜の寝間着――セクシーランジェリーであった。
「かなさん。貴女、自分の立場が判っていないようね」
「えっと、これは、その……」
「まあいいわ。これから貴女も、身をもって知るのだから。かなさんはアクアのこと、まだ何も知らないでしょう? どこを責めると感じるのか、ほくろが何処にどれだけあるのか、お尻の穴の皺の数とか、全然――知らないわよね。私が一から全部、手取り足取り教えてあげるわ」
酒に酔って火照り、若い女に嫉妬して平常心を失い、魔女に唆されて本性を
「やっぱり、物事って最初が肝心なの。動物の躾けでも、まず初めに上下関係を覚えさせるところから始まるのよ。それを怠っていると、飼い主に噛みついたり周りに迷惑を掛けたりして、全員が不幸になってしまうのよね」
不倫女から、浮気現場を抑えられるという奇妙な状況。もはやここには常識も道徳も倫理も通用せず、あとはもう、情欲と本能に支配された男と女がぶつかるのみである。
栄養を胎の中に蓄え、熟しきった果実がその重さに耐えられずに地に落ちて。零れた果汁が周りへと飛び散り、無数の蟲たちを引き寄せるように。斉藤ミヤコは、その抑えきれない色香で星野アクアのみならず、有馬かなまでもを虜にする。
(これが、不倫している人妻が醸し出す
ギシリと音を立て、ベッドへと身を乗り出してくる斉藤ミヤコ。アクアと男女の関係になってから、もともとセミダブルサイズだったこの部屋のベッドは、大人二人がゆったり横になれるクイーンサイズへと替えられていた。だが流石に三人目が加わるのは想定外であり、余裕があった筈のスペースが一気に窮屈になる。
有馬かなの頬に添えられる、斉藤ミヤコの手。ゆっくりと近付いてくる彼女の唇と、視界を覆い尽くしていく美しい
「――さあ、かなさん。覚悟はいい? 今夜は寝かせないから、そのつもりでね」
R-18にならないギリギリを責めてみました。
今後、重曹ちゃんを女優として成長させる予定なので、ミヤコから濡れ場の経験値を積ませる流れです。やっぱり、女優と子役の最大の違いは、濡れ場が出来るか否かだと思うので。
近いうちに、序盤の話を入れ替えなり整理なりしようと考えてます。本作のメインヒロインたるミヤコがなかなか登場しないのは問題かなと、前々から思っていたので……。