星の子どもたち   作:パーペチュアル

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 Carbuncle/カーバンクル

 赤い宝石の総称。または、柘榴石(ガーネット)の透明度と色の濃さと両立させる為に考案された研磨技法のこと。
 転じて、球状・円盤形に磨き上げられた柘榴石のことを指す。
 さらに転じて、稀産にして貴重な宝石の意味で使われることもある。
 ラテン語で「燃える石」、「小さな炭」の意。


Carbuncle 1

 

 

 

『みじゅくものではありますが、どうかごしどうごべんたつのほど、よろしくおねがいいたします』

 

 その幼い子どもは、彼女の前に立つと手を重ね合わせ、母親に教わったばかりと思しき定型文の挨拶をした。

 自分に娘が産まれていたら、こんな感じだったのだろうかと思いながら視線を重ねる。

 小さな子どもの大きな瞳は、周りの役者は全員敵だという目をしており。自分が一番になってやる、のし上がってやるという覇気、隠そうにも隠し切れない野心がありありと見えていた。

 

 

 

 

 

 

「し、死ぬかと思った……」

 

 翌日、昼。

 有馬かなは壁に寄りかかりながら、風呂場に向かってのろのろと歩いていた。足腰が定まらず、下腹部の異物感は依然として残ったままで、一歩進むだけでもその場にへたり込んでしまいそうだ。

 

 あの後。深紅の少女は星野アクアと斉藤ミヤコの二人がかりで、男と女を一夜にして叩き込まれた。相手が一人だけでも生娘には荷が勝ちすぎる重労働だったのに、不倫カップルがタッグを組んで責め立ててくるものだから、もう恥も外聞もなく成すがままに鳴かされるだけであり、いつの間にか意識を失っていた。最後の記憶では確か、空が白んでいたような、いなかったような。とんだ初体験である。

 

 ――それにしても。一番印象に残っているのはやはり、斉藤ミヤコの凄まじいまでの色香だろう。

 頬に張り付いた髪。

 首筋から鎖骨、胸の谷間に流れ落ちていく汗。

 薄明りの下でも判るほどに、朱く上気した肌。

 赤い唇から覗く、てらてらと濡れ光る舌先は、鎌首をもたげる蛇の頭のようで。

 女性を引き立てる筈のセクシーランジェリーが、逆に彼女の為だけに(しつら)えられたかのように思わせる、極上の女体美。

 そして、生理が始まったばかりの斉藤ミヤコはアクアと()()こそしなかったものの、そのぶん少年と少女を補助し、奉仕し、責め立て、喰らいつき、蹂躙する。その際、下着を着けていなかった彼女の、局部から大腿部へと流れてくる一筋の経血。人間の、命の河。

 

「はぁ……」

 

 女性の到達点、その一つを見せられた気がした。目で、耳で、この肌で直に触れて感じ取った、圧倒的な手本。かつて共演した姫川愛梨のそれは離れた所から見ているだけだったが、同質のものをいざ眼前で対峙してみると、その迫力はまさに桁違いだ。

 

 このままでは終われない。終わって、たまるものか。

 盗んでやる。いずれ、この身に取り込んでモノにしてやる。

 その技術を、気品を、野蛮さを、美しさを、妖艶さを、――星野アクアを。

 

「……ああ、そっか」

 

 ()()()以降のインパクトが強烈過ぎて忘れていたが、自分はアクアと、とうとう――。

 

「ふふ……」

 

 やった。そう、やってしまったのだ。

 片想いしていたイケメン男子から強引に迫られ、口説かれ、俺の女になれとハートを撃ち抜かれて。それでそのままベッドインするなんて、まるでドラマや少女漫画のヒロインみたいではないか。

 

「ふふふ……」

 

 これで「お子様のくせに」、「これだから処女は」などとマウントを取られることもない。クラスメートの浮いた話を耳にする度に味わっていた、取り残されていくような焦燥感ともおさらばだ。

 自分は恋を、愛を、男を知っている大人の女の仲間入りだと、有馬かなの気分は急速に上向いていた。

 

「ふふふふふ……」

「何ですかその笑い。気持ち悪いですね」

「うひゃあっ!!」

 

 だから、気付かなかったのだ。自分がいつの間にか脱衣所に辿り着いており、お風呂で汗を流そうと無意識に服を脱ぎながら、昨夜の回想に浸っていた時。そこには既に先客――天河メノウ/姫川愛梨が居たことに。この2ヶ月あまりで何度も通い利用した浴室の位置はとうに頭の中に入っており、意識せずとも辿り着けるようになっていたからこそ起きたハプニングである。

 

「って、アンタこそ裸で何してんのよ!」

「汗を流す為に決まってるじゃないですか。貴女が事後の睡眠に浸っている間、ここの設備を借りてトレーニングに励んでいたもので」

 

 見れば、彼女の全身には珠のような汗が無数に浮かび上がっており、重力に従って、なだらかな曲線を伝い流れていく。ちょっとやそっとの運動量ではこうはならないだろう。

 

(それにしても……)

 

 斉藤ミヤコとは全く別種の美が、そこには在った。

 斉藤ミヤコを、完成された女性の美しさとするならば。天河メノウは、未完成だからこその芸術品。成長途上の今この瞬間にしかないが故の儚さ・希少さは、好事家がガラスケースに収蔵して永遠に飾っておきたいと食指を動かすに足るもの。

 細く長く伸びた、繊細な手足。

 余計な脂肪を削ぎ落とし、必要最低限の筋肉を備えた肢体。

 うっすらと浮き出た肋骨、膨らみかけの乳房、無毛の局部。

 大人でなく、さりとて子どもでもなく。成熟した果実よりも青い果実の方が好みだとする連中はいつの世にも絶えないが、彼女を見ているとそんな偏好が理解出来てしまうような気がした。

 有馬かなは、自分の身体づくりにはそれなりに自信があったが、それでも発展途上と言われれば悔しいけれども頷かざるを得ない。赤子の頃から芸能界に身を置いていた有馬かなは、同年代の女子に比べて睡眠時間が明らかに足りておらず、食事も節制を心掛けていることもあってか根本的に発育が良くはなかった。

 だが天河メノウのそれは、同じ発展途上でも全く異なる。彼女は未完成であるからこそ、完成を超え得るのだ。これ以上成長しなくてもいいと、変わって欲しくないと思わせる偶像の少女。

 

「何ですか、わたしのカラダをじっと見て。まさか、あれだけアクアさんに愛されておいて、まだ満足していないんですか?」

「ばっ、馬鹿言ってんじゃないわよ! 私はアクアと、アクアと……」

 

 言いかけて、有馬かなはつい数時間前まで繰り広げられていた情事を回想する。アクアとの初体験と、そこに斉藤ミヤコも加わっての集団戦(3P)。これまでの人生の中で最も濃密で淫靡な一夜。他人に指摘されて今一度振り返ってみれば、我ながらとんでもない経験をしたものだと深紅の少女は頭を抱えた。

 

「私、もう、アクアのところ以外にお嫁に行けない……」

「なら、アクアさんには男として責任を取ってもらわないと」

「責任……責任!?」

「そういえば、アクアさんはミヤコさんに対しては責任を取ると言ったらしいですよ」

「はぁっ!?」

「だから貴女も、アクアさんからそう言ってもらえるよう、精進しなくてはね」

「……判ってるわよ」

 

 星野アクア。

 斉藤ミヤコ。

 そして、有馬かな。

 天河メノウ/姫川愛梨にとっての、推しの三人。

 

「有馬かなさん」

「何よ」

 

 それだけではない。これで有馬かなも、姫川愛梨と同じ舞台に立った。

 だから――

 

 

 

「ようこそ、女優の世界へ。歓迎しましょう、盛大にね」

「……っ!」

 

 

 

 そう。有馬かなはもはや子役ではない。女優なのだ。

 少しばかり硬直していた深紅の少女だったが、やがて姿勢を正すと何かを決意したような目つきになり。

 

 

 

「未熟者ではありますが、どうかご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

 

 

 

 目の前の女子中学生/朝ドラ女優に対し、丁重に頭を下げた。それが恥だとは、思わなかった。

 

 

 

「それじゃ、まずは最初のお仕事。わたしの背中を流して頂戴」

「なんでよ!」

「ほら、そんな所で突っ立ってないで、早くいらっしゃいな」

「アンタね……」

 

 

 

 手を取られ、浴室へと連れ込まれる有馬かな。背中を流してもらう、というのは嘘ではないが無論、それだけではない。昨夜の情事の痕跡を確認する為である。星野アクアと斉藤ミヤコから、どこをどんな風に責められたのか、実際に見て触れて検分するつもりだった。例えばキスマークの場所や痣の形・強さから、それを付けた人間の性癖や執着する場所、付けられた人間の性感帯などが大体は把握出来るのだ。

 余談だが、星野アクアであれば斉藤ミヤコの首筋や乳房に、斉藤ミヤコであれば星野アクアの鎖骨や尻にご執心である。ここに有馬かなが加われば、三人の受け・攻めや夜の人間関係までもが(つまび)らかになると言っても過言ではない。

 

 

 

「ふふふ……」

「アンタこそ気持ち悪いわよ。一体、何なのよ」

 

 

 

 さあ、種は撒かれた。

 彼らは一体、どんな花を咲かせるのだろうか。

 推しの三人から、どんな推しの子が生まれるのだろうか。

 

 

 

「何でもないわ。ただ――愉しいだけよ」

 

 

 




 次回、重曹ちゃん魔改造パートです。

 当初は、アクアとミヤコが結ばれて終わりにしようかと思っていたのですが、書いているうちに重曹ちゃんや姫川愛梨のエピソードも欲しい、他にも色々と書きたいと思うようになったので、もう暫く続ける予定です。
 今後とも「星のこどもたち」をよろしくお願いいたします。


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