星の子どもたち   作:パーペチュアル

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Garnet 2

 

 

 

 あれから一年が経った。

 アイツに屈辱を倍返しするんだと、以前にも増して稽古に打ち込むようになり、その結果は視聴率や絶賛となってきちんと反映された。お母さんやマネージャーはとても喜んでくれたけど、私は満足していなかった。アイツと共演するどころか、会うことすら無かったから。多分、この頃が私の芸能人としての絶頂期だったのだと思う。

 

 

 

 もう少し時間が経った。

 相変わらず、アイツを見聞きすることは無かった。マネージャーに聞いてみても梨のつぶて。早くハンカチを返したいのに。

 あれほどのオーラを纏ったやつが、全く情報が入ってこないなんてあるのだろうかと訝しむ。苛立った精神状態のまま、今日も私はオーディションを受ける。

 その日、私は主演の座を勝ち取れなかった。

 

 

 

 さらに少し時間が経った。

 またオーディションに落ちてしまった。受かったのは私よりも明らかに下手な女の子であったが、周りを沢山の笑顔で囲まれている。私の周りに居るのは、お母さんとマネージャーの二人だけ。その二人の顔も、以前よりずっと曇っていることが増えたなと、子供心に感じていた。大事なのは演技力ではなくコミュ力なのだと、ようやく気付かされた。

 

 

 

 アクアはまだ、現れない。

 悪い流れを変えようと、歌にも手を出してみた。食べたくもないピーマンの歌を売り込むのは心底嫌だったが、久々に手ごたえのある反響を出せて、ほっと息をつく。けれど2曲目、3曲目と数えるうちに売れ行きは減る一方、ピーマン体操の一発屋と言われ、歌手活動は数年で幕を閉じることとなる。

 悔しくて、情けなくて、止まらぬ涙がアクアのハンカチをしとどに濡らした。

 

 

 

 アクアは未だ、現れない。

 

「わたし、かなちゃんのファンで……」

 

 代わりに出てきたのは、私の物真似をするいけ好かない女の子。オーディションで良い演技をした子が受かると、本気で思い込んでいる女の子。愚かで、世間知らずで、まるで少し前の私のような女の子。

 同族嫌悪とは恐らくこんな感情なのだろう。自らの過ちを突き付けられているかのようで、右肩下がりの自分を認めたくなくて、彼女の帽子を弾き飛ばし、罵声を浴びせた。

 

 

 

 小学校高学年になった。

 子役の事務所からは、期限切れなのだとお払い箱に。

 学校に行って、稽古して、いつあるか判らない仕事に備えるだけ。

 売れていた頃は居た取り巻きの女子たちも、潮が引くように離れていった。

 ちょうどこの頃、私の身体にも月のものが始まり、保健室にて養護教諭から教えられる。これは、大人になるための準備なんだと。

 その言葉を聞いて、「天才子役・有馬かな」はもう何処にも居ないんだと絶望した。

 

 

 

 中学生になった。

 熱い日差しの中、私の足元でせっせと死骸を運んでいく蟻の行列。

 自分もコイツらのように、あと数年で社会という歯車に組み込まれる。

 踏み潰してやりたい衝動に駆られたけれど、虫嫌いな私はその場にただ立ち尽くすだけ。

 汗を拭おうとハンカチを取り出すが、何度も洗濯を繰り返したそれは少しばかり色落ちし、生地も傷んできて「Aquamarine」の刺繍もほつれかかっていた。この文字が消えた時、子役どころか芸能人としての有馬かなは完全に死ぬのだろうと、漠然とした予感があった。

 

 

  

 高校生になった。

 腐っても芸歴が長く実績だけはあるため、陽東高校の芸能科には問題なく入ることが出来た。

 周りはみんな、芸能人。今日もクラスの誰かが仕事で遅刻し、他の誰かが撮影で早退していく。欠席の人間も少なくない。

 私はつつがなく授業を受け、放課後はエゴサしたり、自己啓発本を読んで将来に備える。仕事がなくとも、学年首席を堅持することが唯一のアイデンティティだった。

 日が暮れる前に寮に帰り、週末は誰も居ない家に行って、軽く掃除をする。親が田舎に引っ込んだ為に、今は私一人だけ。

 夕食はどうしようかなと考えながらTVを点けると、ちょうど舞台演劇の特集をやっていた。

 劇団ララライ。そこの看板役者、姫川大輝。帝国演劇賞最優秀男優賞を受賞との見出し。覇気のない顔で、淡々とインタビューに受け答えしていた。笑顔も愛想もなく、とても取材に応じる態度ではなかったが、実力と実績があればそれが通る。

 彼の後ろで稽古している他の団員たち。その中に、あの女が居た。

 黒川あかね。劇団ララライで次期エースと目されている女。舞台界隈では天才役者との呼び声も高い。私も前に公演を見に行ったが、その実力は認めざるを得なかった。舞台役者のため知名度こそ低いものの、TVに進出してきたらあっという間に売れるだろうと、私の芸能人としての勘がそう告げていた。

 私と彼女で、何が違うのだろうか。慢心・環境の違いと言ってしまえばそれまでだけれど、私は役者として彼女に実力で劣っているとは思わない。

 だが芸能界は、社会は、役者は、結果こそが全て。結果を出せない役者は、どれだけ演技が出来ようと素人も同然なのだ。

 引退の字が脳裏によぎる。かつて住んでいた家で売れていた頃の想い出にすがり、液晶テレビの中にかつて見下していた人物が映っている現実。夕陽とともに沈みゆく心と、明るい照明のもとで輝く黒川あかね――。

 

 それがもう少し遅かったら、本気で引退を考えていたかもしれなかった。

 メールの着信。差出人は、鏑木勝也プロデューサー。

 ドラマ「今日は甘口で」のオーディションの誘いだった。

 

 

 

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