旅の終わり
「さあーて、なんだか随分遠回りした気がするけど。皆、ようやく着いたわよ!」
「「イエーイ!」」
5月12日、太陽が真上に上るころ。いかにも上機嫌に胸を張り拳を天に突き上げるフェリジットに、同じくハイテンション気味なナーベルとキットが合いの手を打つ。
「これにて遠征の行程は終了、ここからは各自で自由行動!いいわねーっ!?」
「うむ、よかろう!」
「……道の中心でそう急くな、ご老体。それにフェリジット、頼むから声を抑えてくれ。でなければ一緒に歩きたくない」
どこかうずうずした様子で突然の太鼓判を押すケラスまでもがどこか普段と違うノリの中、ただひとりいつもの冷静沈着さを失わずに苦言を呈するフラクトール。しかし、と『歌わず』の少女は、こっそりそんなフラクトールの背後に回る。案の定、その尾はその内心を表すようにぶんぶんと力強く振れていた。そんな様子に、思わず少女までもがにっこり笑う。
……この日の朝、出発前になって初めてこの『遠征』の目的地とその大義名分を(べったり抱き着かれながら)聞いた際にはフェリジットが何を言っているのか、正直意味が半分程度しか理解できなかったのだが。それでもここまでの道中で目的地に近づくにつれて徐々に上がりつつあった全体のテンションに、少女もすっかり中てられていた。それに実際、この『目的地』は楽しみでもある。それはそれとして出発前、一体何の物資がそんなに足りていないのかと不安になったことはまだちょっと忘れていないが。
「ったく、お前らなあ……んじゃ俺とシュライグは先に部屋やデカい荷物どうにかしてから行くからな、あんまり他に迷惑かけるなよ」
「皆、ここまでの長旅ご苦労だった。しばらくはここに滞在することになる……これまでの戦い、ご苦労だった。今は、ゆっくり羽を伸ばして骨を休めてくれ」
ぼりぼりと頭を掻くルガルの言葉と、相変わらず固いシュライグの言葉。言葉自体はこの旅が始まる前と別段変わったわけではないが、今の少女にはその奥に秘めたものが以前よりもずっと読み取れた。全体のテンションに呆れてはいるが自分も浮足立っているし、それはそれとしてそのテンションがきっかけとなり何かをやらかし、ここでの滞在に影を落とすことを本気で心配して止めようとしている気遣いのルガル。簡潔な言葉の中にずっとずっと熱い心と、本心から皆にこの日々を楽しんでもらいたいという強い想いを秘めたシュライグ。
全体への訓示が終わったのち、待ちきれないとばかりに『そこ』へと雪崩れ込んでいく皆を尻目に、残ってよっこらせいと荷物を持ちあげる鉄獣戦線のトップ2人。少し迷ったのち、少女も近くにあった荷物のひとつを手に取った。
「ん?おいおい、こっちは俺たちに任せとけって。お前も大変だったろ、ゆっくり休んでな」
目ざとくそれを見つけたルガルにやんわりと釘を刺されるも、ふるふると首を横に振る。そんな小さな動作から少女の固い意志を感じたのか小さく笑い、だったらと手招きする。
「なら、早く俺らも終わらせちまおうぜ。夜までのんびりして、そっからはパーッと大宴会だ」
「俺はルガルの一発芸がまた見たい。それはもう凄いから、一見の価値はある」
「うおシュライグ!?……ちょっと待てハードル上げんじゃねえ!」
大量の荷物を軽々と持ち上げながらそんないつも通りの会話をする2人に目を丸くして、それから少女も一緒になって笑う。
ここはドラグマから見れば極東の地に沸いた無数の温泉を中心に栄えた街、人呼んで極東秘泉郷。長きに渡った大戦に枯渇しかけ、ドラグマ周辺だと手に入らない資源……『旅行による心の潤い』を求めての長旅は、ようやくその目的地に着いたのだ。
一応、これが執筆当初から考えていたオチです。フィールド魔法縛り。
ただ当初は最終決戦もどこかのフィールドでやるつもりでしたが、それが没になったせいでラストバトルの異質感が際立った半面全体の統一感が消えたせいでヒントにならなかった疑惑も。
ともあれ、リアルタイムでは随分とかかってしまいましたが。
『鉄獣戦線遠征記』、これにて簡潔です。