鉄獣戦線遠征記   作:久本誠一

4 / 16
ヴァンパイアエンパイア。声に出して読みたくなるカード名だと思います。


常夜の『帝国』

 5月4日

 今日はいよいよ出発の日、だったのですが、色々なことが起きてしまったので疲れているのに今もまだ寝付けません。もう夜遅い、といっても今日は昼間からずっと夜なので、なんだかかえって混乱してしまいます。

 

 私たちが今日入り込んだヴァンパイア帝国という場所は、当主のヴァンプさんやレディさんをはじめ、綺麗だけど怖いお姉さんたちがずっと前から住んでいるところだそうです。とっても強いのに世界のことにはあまり興味がないらしく、だからあの戦争にも参加しなかった、そう言っていました。シュライグさんたちは以前からここの人たちとは知り合いだったらしく、これまでも何度かこういった戦いをしてきたそうです。

 なんだか、今日の記録には「そうです」の言葉をたくさん使ってしまっています。やっぱり私にはまだまだ知らないことがたくさんあるんだなあ、と感じますので、これも要反省です。

 

 軽い(ヴァンプさんはそう言っていましたが、私にはとてもそうは見えませんでした)戦いを終えたのち、ヴァンプさんは私たちを自分のお城に案内してもらい、そのまま泊まらせてもらいました。わたしたち全員が泊まれるほどに大きなそこは、昔の教会をベースにお城のように増築、改造した物らしいです。本人はこれって最高に皮肉じゃない?と楽しそうに笑っていましたが、私にはよくわかりません。フェリジットさんくらい大人の女性になればわかるのでしょうか?

 それと、お夕飯も出して貰いました。吸血鬼と聞いてちょっと怖かったですが、出てきたものは普通の食事で(野菜たっぷりのクリームシチューでした)意外そうな顔をしているのが見つかってしまった時は怖かったですが、お客様の好みに合わせるのも領主のたしなみよ、と機嫌よく許して貰えたのでほっとしました。私も、いつか大きくなったらあんな大人になりたいです。

 

 明日はヴァンパイアの魔法を解除して普通に朝が来るようにしてくれるそうなので、日の出と共に出発すると通達されています。明日もまた別の方たちの縄張りを通るそうなので、足を引っ張らないように付いていきたいと思います。

 

・たとえ成人してもあのような女になってはならんぞ(ケラス)

・いや、彼女は奔放なように見えて思慮深い君主だ。その自信も高い実力に裏打ちされた確かなもので、彼女のように強い存在として生きることを目指すのというのであればいい教師になるだろう。もし君がよければ、俺の方からも領主としての心構えと魔術の勉強に付いて口を利いておくが(シュライグ)

・リーダー、これ性格の話っすよ。あの女を参考にするのはやめとけって、な?(ナーベル)

 

 

 

 

 

「……」

 

 むくり、白いベッドの上で上半身を起こす小さい影がひとつ。結局寝付けなかった『歌わず』の小鳥が、月光を浴びて小さく伸びをする。どうやっても眠れそうにないので、思い切って夜の散歩でもしようかと思ったのだ。物心ついて以降ドラグマ周辺から外に出たことのない彼女には、その目に映る『帝国』の全てが物珍しかった。

 

「ルガル、ちゃんと全部持った?」

「ああ。悪いな婆あ、またこいつらの世話を任せちまってよ」

「……その辺にしておけ。あまり騒ぐと誰かが目を覚ます」

「あら?大丈夫よ、夜はまだ長いわ。さ、ついてきなさい?月のように静かに、影のように音もなく」

 

 すると扉の向こうから、まるで彼女が起き上がるのを待っていたかのようなタイミングで聞き馴染みのある声が聞こえてくる。フェリジット、ルガル、フラクトール……そして『帝国』の主、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア。フラクトールの口ぶりからすると、あまり見つかりたくない要件らしい。ならば自分も聞かなかったことにするか、思い切って顔を出すか。好奇心と良識の間で迷う間にも、押し殺した気配は次第に離れていく。

 

「……」

 

 結局彼女は音を立てないように起き上がると、そっと扉を開いて隙間から顔を出した。決め手になったのは、聞こえてきた声の中に自分たちのリーダー……シュライグのそれがなかったことだ。ルガルたちが彼に悪心を抱くなど、彼女も最初から思ってはいない。そんなこと、あるはずがない。だが、自分たちを血の絆よりも濃い家族と称する鉄獣戦線において、群れのリーダーたる彼にも知られたくない隠し事とは一体いかようなものなのか。小さな体に秘めた好奇心は異郷の地にいる興奮と長旅の疲れにより外れかかっていた良識の箍を振り切って、彼女自身にも抑えきれないほどに膨れ上がっていた。

 部屋を出て、一行が歩き去っていった螺旋階段の下の方へ。少し進んでは下りていくルガルの巨体と松明の明かりを目印に立ち止まり、また少し進む。幸いにも廊下にはずっと高級そうな絨毯が敷き詰められており、それが小さな彼女の足音を隠してくれた。それでも非戦闘要員で気配を殺す術を持たない彼女の拙い尾行など、本来ならば鉄獣戦線の中でもトップクラスの戦士たる彼らには秒で看破されてもおかしくないはずだ。その疑問への答えもすぐに、ルガル自身がぼやいてくれる。

 

「……なあ若作り。なんか今日、随分お前のとこの蝙蝠が飛び回ってるな。いつもはもうちょい大人しいだろ、この家」

「あ、それ私も気になってたのよね。最近壁に穴でも開けたの?」

「いつもって、前にここに来たのはもう数年前でしょう」

「……ルガル、フェリジット。その辺にしておけ」

 

 見かねたフラクトールが苦言を呈したことでその場は収まったが、隠れた小鳥がそっと上を向くとルガルの言葉通り何匹もの蝙蝠が止まったり無作為に飛んだりしていて。なんだかふと視線を感じてまた視線を戻すと、前を行くルガルたちに見えないような角度と位置で明らかに彼女の方を向いてウインクしているヴァンプとばっちり目が合った。思わず口を手で抑えて震えあがるも、しかし当の本人は無礼を咎めるでもなく、むしろ小さく手招きさえして先を促しさえしている。

 そこまで世話してもらえば、いくら彼女でも理解できる。この尾行は、歴戦の彼らに気づかれなかったのではない。羽音を立てさせつつ大量の気配による攪乱まで、あの手この手であの吸血鬼によって守られていたのだ。

 でも、なんのために?先ほどの口ぶりからするに、彼女自身も今からどこに行き何をするのかは理解しているらしい。このままついていってしまっていいのか、今からでも謝るべきか、でもそれだとせっかく自分を見つからないようにした彼女の行為が無駄になる。混乱とまた先に進み始めたルガルたちの背中がどんどん遠くなっていく焦りに慌てて立ち上がり。

 

「……!」

 

 ゴン、と鈍い音と共に、世界がひっくり返る。絨毯で滑って転んだのだと理解したときには、もう。

 

「あん?」

「あーあ」

 

 さすがに今の音は誤魔化しきれなかったらしく振り向いたルガルに、悪戯が見つかった子供のように肩をすくめるヴァンプの姿が見えた。

 

「尾行なんて十年早い。好奇心は猫でも殺しちゃうわよーっと……ほら、怪我してない?」

 

 呆れ半分諦め半分といった微妙な表情に隠し切れない心配の色を滲ませつつ、真っ先に近寄ってきたフェリジットが差し伸べた手をおずおずと掴む。そのままぐい、と引き上げて起こされると、転んで打ちつけた後頭部を軽く撫でられる。

 

「怪我はなし、ね」

「ったく、食えない婆あだな若作り。そりゃこんだけ蝙蝠が元気だったわけだ」

「あら、何のことかしらね。ねえ、小鳥さん?」

「……!」 

 

 フェリジットに軽々と抱きかかえられながら、次に来るであろう怒声に対して小さく縮こまる。怒られて当然だ、自分はいけないことをした。わかっていても、怖いものは怖い。部屋を飛び出した時の高揚は嘘のように消え、ただただ恐怖と後悔でいっぱいになる。それでも謝罪の言葉も、弁明の一言も、その喉が奏でることは絶対にない。

 目を閉じて震える彼女の頭に、ポンと手が置かれた。だがそれは彼女が予想し恐怖していたものとは違い、むしろ温かさすら感じる優しい感触で。

 

「……?」

 

 おずおずと、本当にゆっくりと目を開ける。その手の主は、いつの間にかそっと近寄ってきていたフラクトールだった。

 

「……確かに褒められたことではない。だが、元はといえば俺たちの秘密だ。非難する権利は、俺たちにはない」

 

 諭すようにその目をまっすぐ見て呟き、差し出した腕でフェリジットから受け取った彼女の体を自らの背に乗せる。そのまま無言で上半身に掴まらせて軽くバランスを確かめ、くるりとルガルへ向き直る。

 

「……お前も鉄獣戦線の一員として、これから行うことを見る権利はある。異論はないな、ルガル?」

「俺か!?なんでシュライグといいお前らといい、どいつもこいつも困ったら俺にシメの一言させようとするんだよ!?」

「そりゃー、アンタが一番怖そうだったからでしょ。顔が」

「悪かったな生まれつきで……」

 

 気が付けばまだ自分は何も言っていないのに勝手に『叱る自分VS宥めるフラクトール』の図式が出来上がりつつあることにようやく気が付きその理不尽さに叫ぶルガルに、即座にここはルガルに押し付けてフラクトール側に付こうと判断して茶々を入れるフェリジット。苦し紛れにヴァンプの方に視線を向けるも、吸血鬼は高みの見物とばかりにクスクスと上品に笑うのみ。恨めし気な視線を『歌わず』の小鳥以外その場の全員にじっとりと向け、結局損な役は俺なのかと大きく諦めのこもった息を吐き頭をがしがしと乱暴に掻く。

 

「あー……なんだ。まあ大体、フラクトールの奴が今言った通りだな。シュライグに黙ってこそこそしてる時点で、俺らも誰かにどうこう言えた身分じゃないってこった。ただ、別にこれからやるのは楽しいもんじゃないからな?それでも良けりゃ、お前もいた方がこいつらも喜ぶだろ」

 

 そう言って、背負った鞄を大事そうに揺らしてみせる。

 

「話は済んだかしら?なら、そろそろその子たちをお仲間のところで眠らせてあげましょう?いくらこの夜が長くても、ね」

「……ああ。乗り心地が悪かったら教えてくれ」

 

 フラクトールの言葉を最後に、再び一行が階段を下りていく。当の本人は乗り心地が悪ければ、と言うもののしっかり可能な限り揺らさないように歩いていることがその背中から伝わってきて、言葉で伝えることはできない感謝の意を込めてその背中を小さな腕で抱きしめる。

 そしてその乗り心地に体が慣れてくると、今度は先ほどまで吹き飛んでいた疑問がまた少女の胸にぶり返してきた。結局これは、どこに行くのだろう。当初は一階から外に出るのかとも思ったが、皆迷うそぶりもなく入口とは反対方向に向かう。

 

「ここがこの子たちの目的地よ、お嬢さん」

 

 きょろきょろと辺りを見回していた少女に、扉の前で立ち止まったヴァンプが振り返って艶然と笑いかける。開かれた扉の中は窓の外、遮光カーテンの隙間越しに差し込む月光の他、ルガルが手にするそれとは別に一定間隔で壁に掛けられた松明のおかげでそれなりの光量は確保されている。

 誘われるように身を乗り出した少女の目に飛び込んだのは元は礼拝堂か何かだったのだろう広間に等間隔に並べられたいくつもの棺と、広間の中央で血の色をした薔薇の花輪に飾られたひとつの墓。

 

「……?」

「さってと、じゃあお前ら、ここまで長くて悪かったな。でももう終わりだ、ゆっくり眠っててくれ」

 

 そしてルガルが妙に落ち着いた様子で鞄を下ろし、その中身を露にする。同じくフェリジットも少女と引き換えにフラクトールから受け取っていた同じような鞄を普段の彼女らしからぬ神妙な表情で開き、そっと中身を取り出す。ほとんど反射的にそちらに目を向けた少女が、小さく息を呑んだ。

 どうして、あれを見間違えられようか。だって、だって、あれは。

 

「……もうわかるだろう?あれは先の大戦で喪われた、仲間たちの命の最期の証。鉄獣戦線の全員に配られる証、血よりも濃い絆の象徴」

「大戦からこっちなかなか機会がなかったから、だいぶ遅れちまったけどな。昔聞いた覚えのある、遠い遠い異国の話。青ってのはなんでもどこぞの国では自由の色なんて言われてるらしい、俺たちに相応しい色だそうだ」

「私たちはね。戦いで犠牲が出ると、その戦いのうちは犠牲になった仲間の思いを背負うためにこのバンダナをその子の代わりに身につけるのは知っているわよね。じゃあ、その戦いの目的を達したら?」

 

 フラクトールが切った口火を荷物の中身……血の染みや泥で汚れたりボロボロになったりしながらもなおその気高き青色が褪せてはいない無数のバンダナをそっと墓に供えて戻ってきたルガルが引き継ぎ、その後に同じくたくさんのバンダナを供えてきたフェリジットが続く。

 そして言葉の最後を、その様子を黙って見つめていたヴァンプが口にする。

 

「燃やして持ち主の魂ごと天に返す、という考えもあるし、それを否定はしないわよ。でも私に言わせれば、死人はもう動かすべきじゃないわ。むしろ何からも解放されて、ただ安らかに眠り続けるべき。だからこうして、この永夜の地で安息を担保しているの。ここなら、私の目が届くうちは絶対に彼らの眠りは邪魔させない。私自身吸血鬼なんて身分だけど、だからこそ死者には敬意を払うわ」

「俺たちの拠点だと、どうしても騒がしいだろ?それに、いつ戦闘に巻き込まれるかだってわかったもんじゃないしな。もう戦いからは解放されたんだ、ここでゆっくり寝かせてやりたいのさ」

 

 言いながらフラクトールの後ろに回ったルガルがひょいと手を伸ばし、『歌わず』の少女を壊れ物でも触るかのように優しく持ち上げ地面に下ろす。たくさんの仲間たち、今はもういない仲間たちがそれでも確かに生きていたことを示す最後の証に、誰が言い出すともなく全員でそっと手を合わせる。

 ただ月の光だけが、赤い薔薇と青いバンダナをいつまでも照らしていた。

 

「なあ。ここで見たものは、シュライグには黙っててやってくれないか。アイツは昔の反動で、そういうの抱え込むタイプだからよ」

「これは私からもお願いするわ。うちのリーダーは傷つきやすいのに責任感ばっか強いから、これを見たらどんどんひとりで抱え込んじゃうのが目に見えてるのよね……そうでなくとも、彼らに関しては十分以上に背負い込んでるのに」

「……これは昔から、こちらで勝手に初めてこの女に頭を下げてきたことだ。奴には関係ない、そう思ってくれ」

 

 仲間たちの魂に安息を祈り、ヴァンプと別れそれぞれあてがわれた寝室に戻る途中。歩きながらに三者三様の、だがいずれも同じことを口にされる『歌わず』の少女。ほんの少し躊躇して、それでも彼女は最後には小さく頷いた。

 そもそもあのバンダナのかつての持ち主たちに対しては大戦が終わってすぐ、まだアルバスとエクレシアが旅立つ前ぐらいの時期に皆で酒を飲みかわし、努めて明るい雰囲気のまま葬儀を済ませている。きっとその方が、彼らは喜ぶだろうからだ。今回その形見の品をこのヴァンパイア帝国、死者の眠りに敬意を示しそれを守り続けてくれる絶対安息の地に持ち込んだのは、あくまでルガルたちの自己判断でしかない。彼女自身もう二度と会えない彼らが静かに眠り続けてくれるのならばその方がいいし、一度けじめのついたこの話を蒸し返すようなことになったらまた自分たちのリーダーは悲しむだろうと、そう思った。

 

「なら、この話はこれでおしまいだ。もう寝ようぜ、明日は朝……っつーかどうせまだ夜なんだろうな、夜早いぞ」

「そうね、じゃあ私この部屋だから。お休み、皆」

「……」

 

 これ見よがしに伸びをしたフェリジットがひらひらと手を振って部屋に入っていき、次いでフラクトールが無言の会釈を最後にやはり自分の部屋の扉を開けてくぐっていく。『歌わず』の小鳥もぺこりと一礼して扉を開き、中に入ってルガルの方を見てもう一礼してから扉を閉める。

 

「さってと、俺も寝るか」

 

 半人半狼の彼にとって、夜を照らす月は力の源。余ったパワーを発散するためにも明日は馬鹿力のケラスでも焚きつけて組み手でも久々にやるかと思いながら扉を開き、同室のシュライグがその片翼に埋まるように身を丸めて眠っているのを横目にしながら忍び足で自分のベッドに潜り込む。体を休めるためにともかく寝てしまおうと目を閉じたところで、静かな声が部屋の静寂に広がった。

 

「戻ってきたのか、ルガル」

「お前……!起きてたのか」

「ついさっき風の音がして、あの『歌わず』の子の部屋の扉が開いていると思った。いつまでも帰ってこなかったから代わりに閉めておこうと思ったら、お前もいないことに気が付いた」

「そういうことか……でもほら、鳥は早寝早起き。日の出と一緒に鳴くのが性分だろ?」

 

 内心しまったと舌打ちしながら、努めて平静を装い返事する。こういったことには素人の彼女の尾行に気が付いた段階で、真っ先に考えるべきことだった。先ほど帰ってきたときは全部屋の扉がちゃんと閉じてあったこともあり、完全に油断していた。だがわざと軽口の最中に突っ込みどころを用意して、この生真面目な性質のリーダーの話題を逸らそうとする布石も忘れない。

 

「俺は鶏になった覚えはないんだが」

 

 案の定食いついた、と被った布団の下でぐっと拳を握る。鉄獣戦線を名乗る前、それぞれの群れを追われた時から随分付き合いの長いこの男の傾向は、彼もよく理解している。

 だが、さすがにそれで誤魔化しきれるほど甘くはなかったようだ。寝転がって背を向けていても、背中にじっとりとした視線を感じる。

 

「……」

「……」

「…………」

「…………っ!だーっ、もう、わかった、わかったよ!俺が悪かった!」

 

 結局、先に音を上げたのはルガル。捨てられた小鳥のようにまばたきひとつせず視線を注がれていることが見ずともわかるその空気に閉口し、布団を跳ねのけて起き上がる。

 だがそうやってルガルが起き上がっても、シュライグは続けて起き上がるどころかむしろごろりと寝返りを打ち、そんな彼に背中を向けて。元々この件ではどちらかといえば自分側にやや非があるとは理解しているが、それはそれとしてなんなんだよと怒鳴りつけたくなったころ、ぽつりと呟く声が彼の耳にようやく届いた。

 

「何をしてきたかを、聞くつもりはない」

「いやないのかよ」

 

 つい反射的に出た突っ込みにも直接は答えず、だが、とすぐ後に続く。

 

「お前のことだ、ルガル。悪いようにはならないだろう?」

「っ……!」

「それが言いたかった。お休み、ルガル」

 

 群れを追われた『羽なし』の鳥として、鉄獣戦線のリーダーとして、数えきれないほどの死線を潜り抜け人の悪意と向き合ってきた男の持つ感情とは思えないほどに、どこまでも純粋な信頼の言葉。そして当の本人は返事に詰まった隙に言いたいことだけ言い切って、すぐに規則正しい寝息を立て始めた。いつでもどこでもすぐ寝られるのが優秀な戦士だ、確かに何かの折にそんな話をした覚えはあるが、なにも今実践することもないだろう。

 

「……俺も寝るかあ……敵わねえなあ、リーダー」

 

 また一つ大きなため息をつき、改めてごろりと寝転がる。窓の外に輝く月は、最後まですべてを見ていながら何も語ることはなかった。




今出せるのはここまでです。
次のフィールド魔法での話も実のところデュエルパートは書き終わっていますが、このヴァンパイア帝国編における今話、締めのストーリーパート(?)がまだ残ってますので……。
また書き上げたら一か所分まとめて更新します、はい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。