鉄獣戦線遠征記   作:久本誠一

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VS『薔薇の巫女』-戦場2

「いい加減あの花びらで目がちかちかしてきたわい。のうルガル、あの連携が駄目なら、ここは儂らの出番じゃないかの」

「この前も痛い目見たばっかだろ?懲りろよなあ少しは」

 

 見下ろす竜の視線を痛いほど感じながら、ケラスがルガルに小声で語りかけた。何を言いたいのかは察したルガルだが、碌な予感がしなかったので即座に切り捨てる。しかし、そこに思わぬ援軍が入った。誰であろう、最前線のシュライグである。視線は眼前の敵から外さないまま、口をほぼ開かないことで読唇術対策となる戦場独自の話法で割って入った。

 

「いや。頼めるか、ケラス……あの巫女の注意を引きつけ、視線を外して欲しい。完全に俺がマークされていて下手な動きが取れない」

 

 シュライグが注視していたのは、眼前の竜よりもむしろ戦場を見通す薔薇の巫女。司令塔たる彼女が最優先で警戒していたがゆえに、先ほども身動きが取れなかった。それさえどうにかしてくれれば、自分も前線に立てさえすれば、まだ勝機はある。

 

「へいへい、了解。いっつもこれだ、俺が気合入れねえとだもんな」

「ぐわっはっは、感謝するぞシュライグ!さあそこな薔薇の竜、今度は儂の番じゃ!」

 

 軽々と得物を振り回しながら文字通り飛び出したケラスが、空中でその銃口を竜の顔面に……ではなく、薔薇の巫女の方へと向ける。月華竜もそのことに気が付き、瞬時にその翼を下ろし自らの巫女を守るため鋼鉄のごとく硬いその鱗を壁代わりに立てる。しかしそれにも構わず着地と同時に引き金を引くと、乱射された無数の弾丸がその鱗に弾き返されていく。いかに口径の大きく弾丸の威力も高いケラスの銃剣とは言えど、竜の翼を貫通するほどの破壊力はない。

 だが、元より彼自身それを期待して弾丸をばらまいているわけではない。

 

「ぐわっはっはっは!そうじゃとも、そうするしかあるまいて」

「これは……!月華竜、危ない!」

 

 なまじ鱗が頑丈であるが故に発生する、着弾による千の銅鑼を打ち鳴らすかのような金属音はあらゆる他の音をかき消し聴覚を。跳弾が大理石の床に突き刺さり、その衝撃で立ち昇る砂煙は視覚を。さらに薬莢から立ち上る火薬の匂いは嗅覚を、その全てを一時的に奪われたことに気づいた薔薇の巫女だが、その時にはもはや手遅れで。果たして警告の言葉自体、自らを守る薔薇の竜の耳に届いていたか。

 

「うおおおおおっ!」

 

 雄叫びとも遠吠えともつかない裂帛の気合と共に、砂煙を、風を切り裂いて重金属の刃が振り下ろされる。不意を打たれた月華竜の長く伸びた首筋、その鱗の隙間を正確に縫って、確かにその一撃は深々と突き刺さった。

 

「いったい何が……はっ!月華竜!」

 

 ケラスの銃撃が止んだことで、自身を守ると同時に視界を奪っていた月華竜の翼の影から顔を出す薔薇の巫女。その目が見たものはすでに月華竜へ深々と一撃を与えると同時に、欲張っての追撃ではなくあえてその先の反撃を警戒して即座に飛び退ったルガルの影だった。

 深々とついた傷跡から血というよりもむしろ樹液や蜜に近い粘性のある体液を垂らし、声もなくその場に倒れゆく薔薇の竜。突然の奇襲にまだ意識が追い付けていないのか、それをただ見つめる薔薇の巫女の前で、白薔薇の回廊に横たわるその姿がみるみる縮みはじめた。鱗は花弁に、茨は蔦に、萎み、散り、力ないただの薔薇へと戻っていく。同時に枯れ木となってみるみるその力が抜けていく杖を投げ捨てた巫女に反撃の手が無いと踏み、リロードを終えたケラスが先ほどの硝煙がいまだうっすらとたなびく銃口を向ける。

 

「おっと、余所見は厳禁じゃぞ!」

 

 開かれた回廊に、どこまでもまっすぐに小型ミサイルが飛ぶ。眼前の薔薇の巫女自身もかなり練度の高い魔法使いである、とはケラス自身もその魔法の熟練度やこれまでの攻防の流れから痛感していたが、だからといってさすがに銃弾を生身で見切るわ返しの雷撃まで仕掛けてくるわでやりたい放題であり、単身フル装備のシュライグと互角に戦うその様から密かに鎧を着た雷ゴリラ(命名:ナーベル)とまで囁かれたドラグマの聖女にして最高戦力フルルドリスとは訳が違う。

 そもそも最前線のアタッカーと後方支援担当なのだからその両者を比べるのもおかしな話ではあるが、少なくともその物理的な防御力には天と地ほどの差があると考えた方が間違いがない。先ほど月華竜に対して乱射していた、竜の守りは抜けないまでも破壊力抜群の実弾がまともに当たりでもしたら、どんな惨劇がここに広がるかは想像に難くない。いくら本気の勝負とはいえ、これは敵対相手との戦争ではなくあくまで依頼を受けての儀式なのだ。

 なのでここでケラスが放ったのは、あくまで音と光を放つだけのこけ脅しのミサイルである。野生動物を追い払う際に彼らが使ういつものごとくキット特製の非殺傷兵器であり、なぜわざわざ弾丸ではなくミサイル状なのかと問われるとめっちゃいい笑顔と共に「浪漫」の一言で返されることに定評のある一品だ。それは彼の狙い通りに薔薇の巫女の足元に着弾し、内蔵スピーカーによる派手な爆音を……。

 

「むぅ!?」

 

 吐き出さなかった。空中でまるで透明なゼリーにでも突っ込んだかのようにその弾速が遅くなり、やがて完全に静止する。直後に起こった爆発も、まるで見えない手に握りしめられているかのように不自然に押し固められたものでしかなく。

 無論、それをやったのは薔薇の巫女である。息を切らしながらもミサイルの前に向けられた手の平は淡い薔薇色の光を放っており、不可視の力がそれを止めたのだと理解する。同時に彼の本能が、大音量で警鐘を鳴らしていた。今のミサイルのエネルギーに食らいつき、急速に成長している何かがいると。

 

「今のは危なかったです。ですが私とてこの国を守り、竜と心通わす薔薇の巫女。大いなる竜の魂よ、我が祈りに調和し、その身をほんの一時だけこの黒薔薇に顕現させよ……!」

 

 薔薇色に光る手で懐から取り出したのは、その言葉通りはっとするほどに黒い薔薇の花。墨でも垂らしたかのように一切の妥協のない純黒の花が淡い薔薇色に触れ、その花弁が赤く脈動する。その内側を走る脈に、漆黒をも透かすほどに紅い血が脈動する。

 

「さあ、お出でなさい……!」

 

 その手からふわり宙に投げられた黒薔薇が、空中で巨大化しその姿が展開されていく。繭を破り成虫が生まれるように、種から根と芽が殻を破り突き出るように。その生命としてあるべき姿へと変化していく様を、鉄獣戦線はただ息を呑むような気持ちで見上げていた。

 その姿は、形だけなら月華竜と瓜二つと言ってもいい。だが、その竜には月華竜とは決定的に異なるものがあった。あちらが静と死を司る竜だとすれば、目の前で開花しつつあるその姿は対極の動と命。爆発的なエネルギーをほんの一瞬ただ一度だけに凝縮させ、嘘のように退いていく存在。理由はどうあれ本来の群れから追われた時点で遠からず待ち受けていたはずの死に抗い、その生にしがみついて武器を取り、欠けていたものを埋めるように鋼鉄の武装を身に纏い手に入れた現在。大なり小なりそんな過去を持つ彼らの目に、生の象徴たる花から爆発的に形を成した生命の頂点は、果たしてどう映ったのか。憧憬?劣等?反骨?そのいずれもが安易に首を縦に振ることがない程度には外れていて、しかし即座に首を横に振りきれるほど外れてもいないのだろう。

 いずれにせよそれは、竜を見た側が勝手に抱いたものでしかない。当の竜はどこか冷めた、しかし得体の知れない熱を持った目で眼前の鋼鉄の獣たちを、そして自らを薔薇の身に呼び出した巫女の両方をゆっくりと見渡す。そしてその名が、高らかに叫ばれた。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴン!」

 

 それに答えるかのように、破壊の嵐が吹きすさぶ。月華竜の確実に相手だけを狙う小規模だが制御がされていたそれとは異なり、あらゆるものを一堂に巻き込む無差別で荒々しい、自然災害の本質でもある究極の破壊の形。

 

「申し訳ありません、鉄獣戦線の皆様……この力は見ての通り、この薔薇の竜自身でさえも制御しきれるものではないのです。ですので、少々手荒にやらせていただきますよ?ブラック・ローズ・ガイル!」

「はっ、手荒?手荒な真似、上等じゃねえか!」

 

 だがそんな嵐の渦中にあってなお彼らの鋼鉄の牙は鋭く砥がれ、黒鉄の爪は揺らがない。彼らは自然の驚異になすすべなく振り回される獣ではなく、叡智をもってか弱い身を守る人でもない。獣の力と人の叡智を併せ持ち、誇り高く立ち向かう。それが、鉄獣戦線だ。彼にしては珍しく獰猛な笑みを浮かべたルガルが吠え、身を低くして厚底の靴から両足の爪が飛び出るほどに力を込める。ケラスもまた全身の筋肉を張り詰めさせ、白薔薇の回廊の床石に両手足を突き刺さんばかりにその膂力を振り絞った。

 そして永劫にも思われた嵐も、やがては終わる時が来る。風が、礫が、無数の花びらが、やがて勢いを失い空と大地に分かれて散っていく。その場に残るのは今の無差別的な破壊の嵐にも耐え抜きいまだその姿をそびえ立たせる白薔薇の回廊……そして、ルガル。ケラス。大きく肩で息をしながらも、その場にまだ立っている。

 その視線の先には、黒薔薇の竜。先の一撃を放つためにかなりの体力を消耗していることは窺えるが、それを差し引いてもいまだ戦闘には十分な余力を残している事もまた見て取れる。その目が、そう語っている。

 

「まだ、やり合おうってのか?」

「みたい、じゃのう」

 

 銃剣を構え、なおも竜と対峙する2人。互いに一歩を踏み出せず、相手が動き出すギリギリまで体力を回復させようとする睨みあい。拮抗していた沈黙を崩し最初に動き出したのは、またしても薔薇の巫女だった。

 

予見(フォレッセ)!」

 

 言葉と同時に、彼女の瞳に怪しい光が宿る。そしてその言葉を待っていたかのように、ブラック・ローズ・ドラゴンもまた動く。鋭い棘に覆われた茨とも触手ともつかない無数のそれが伸び、2人を一斉に捕えようとして。

 

「散るぞ、ケラス!」

「応!」

 

 無論、彼らもそれをただ指をくわえてただ見ているような真似はしない。左右にパッと飛び出して狙いを分散させようとする獣人たちに、断言するかのように薔薇の巫女が声を飛ばす。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴン、まずはあちらの狼からです!三撃で、片が付きます」

 

 薔薇の竜もまた一切の躊躇いを持たず、言葉通り右に跳んだルガルへとその視線を向ける。三撃、という言葉はルガルの耳にも届いていたが、その真意が自分への挑発なのか、それとも何らかの確証があるのかを測る間もなく完全に狙いを定めた薔薇の竜がその茨を伸ばしていた。

 そして、一撃。跳んだ自分へと追いすがる様に左上から鞭のようにしならせ飛んできたそれに対し、左手の銃剣の刃を合わせる。正確に見切った位置で振りぬき防御こそ成功したものの切断には至らず、逆に凄まじいパワーに骨が折れるかと思うほどの衝撃を受けて腕が痺れる。その隙に、銃剣が絡めとられた。

 

「(チッ、草刈りは無理ってか?)」

 

 次撃。続けざまに放たれた次なる攻撃は、右から足を絡めとるかのように低い位置を横薙ぎに。まだ右手の銃剣は残っていたが先の切り結びから防御は厳しいと踏み、ある程度のリスクは承知で上に跳ぶ。回避できる限界すれすれの高さに抑え、足元を振りぬかれると同時にすぐさま着地して走り出そうとして。

 それよりも早くほんのかすかに、足元で岩の砕ける音がした。

 

「(!?しまっ……!)」

 

 そして、三撃。地中から回廊の床を突き破る様にして突如伸びてきたそれが、着地する寸前という地を駆ける獣にとっては最も無防備になる瞬間を正確に捉えた。さらに先程回避した茨も再び引き戻され、続けざまに胴体を、腕を、足を締めあげられる。無数の棘は分厚い服と毛皮を易々と貫き、全身を隙間なく襲う痛みに苦悶の唸りが食いしばった口の端から漏れた。同時に、薔薇の巫女の瞳の輝きが収まっていく。

 

「こうなることは、私にはわかっていました。これもまた、薔薇の巫女たる私に許された権能のひとつ。ほんの少しだけ先の未来を見ることで、戦況をより優位に運ぶ……もっとも、乱用できるような力ではありませんが」

「ぐっ……!それを聞いて、安心、したぜ……!」

 

 ギリギリと締め上げられながらも、まだ手放さなかった右の銃剣を握る手になけなしの力を込めるルガル。彼の脳内では幾度も弾ける苦痛の閃光の合間に、今薔薇の巫女が本人ですらそうとは気付かず漏らした彼らにとっては希望となり得る言葉が途切れ途切れながらも何度も反響していた。

 ほんの少し先……つまり、今自分が拘束されているこの瞬間前後までと考えるのが妥当だろう。それ以上先の時間が見えるのならば、この戦いではもっと使いどころがあったはずだ。乱用は不可で、今その効力は切れた……つまり、今はもう見えていない。再びその力が使えるまでにどれほどの時間がかかるのかはわからないが、あまり間隔が短いのならばやはりもっと前に見せていてもいいはずだ。だが、そうはしなかった。

 

「それだけ分かれば、十分だ……!」

 

 つまりもう今から起こる事は、全て薔薇の巫女にとって初見の事態のはずだ。なら、その洞察の上をいけばいい。それだけで、想定外を叩き出せる。

 苦痛を堪えてあえて笑って息を止め、腹に力を込める。当然全身に食い込む茨の棘がますます深々と肉を抉り、締め上げ方もそれだけで全身が千切れ飛びそうなほどにその力が増す。それでも、止まろうとは思わなかった。背後のシュライグが、フェリジットが、何か叫んでいるのがぼんやりと聞こえるが、何を言っているのかは頭に入ってこない。銃剣を握りしめたままの形で拘束されていた右手の向きが、ほんの少し変わる。銃口がとある茨、拘束を受けて以降ずっと目で追って探していたある一本の方を向いた。それこそが、彼の狙い。自らの体を傷つけてでも、血みどろの腕で掴んだチャンス。

 

「      !」

 

 引き金を引く。弾が飛び出る。茨を打って、撃って、討ちぬく。食いしばっているはずの自分の口からはいつの間にか叫びが漏れていたが、何を言っているのか自分でもわからない。いや、恐らくそれは言葉の意味すら成していない獣の叫びそのものだったのだろう。彼とその銃剣はまさしく一匹の獣となって、その龍の茨へと食らい付いていた。

 初めは、弾丸がまるで通らなかった。それは植物であると同時にしなやかで硬い竜の身体の一部なのだから、当然だ。しかしどれほど棘が刺さろうと、どれほど締めあげられようと、その一本の茨だけをひたすらに狙い続けた。先に弾丸が切れるか、彼の意識が消えるか、銃剣を奪われるか……いずれにせよ、チャンスと言っても不確定要素の多すぎるか細いものでしかない。

 しかしその執念は、通じた。無数の弾丸をまともに浴び続けた茨は徐々にその張りを無くし、生気を失い、その拘束先である彼の右腕への締め付けも当初に比べわずかにだが明らかに弱まる。その隙だけで、十分だった。

 

「ケラス!」

 

 弾丸を打ち尽くしたその銃剣をだらりと垂れ下げながらも、最後の力で薄れる意識を繋ぎとめ、なし崩し的に今回の相方となっていたその名を叫ぶ。言わんとすることを理解した猛牛も大きく頷き、返事代わりにもう片方の手で首根っこを掴んでぶら下げていた人影を持ち上げてみせた。

 これは先ほど、まさにそのケラス自身がやったことの焼き直しだ。大量の銃弾が資格を聴覚を妨害し相手の意識を誘導し、その隙に味方を動かす。囚われたルガルがあえてその身を傷つけてまで抵抗を試みた意味にケラスがいち早く気が付くことができたからこそ、ここで動くことができた。

 言葉はなくとも、その意思はひとつ。鉄獣戦線は群れを追われた者たちの寄せ集めではあるが、同時に種族を超越して集ったひとつの群れでもある。

 

「ぐえー……助けてくれたのはありがたいけど、もうちょっとこう手心的なサムシングを大事にしても罰は当たらないんじゃないのー……」

「嫌なら自分で飛ばんかい。ルガル、こっちはこの通りピンピンしとるわい!」

 

 人影の名は、ナーベル。最初に月華竜への攪乱のため飛び出して閃光弾を投げつけたのち、隙を見てまた何か戦場を引っ掻き回してやろうと近くにあった薔薇の生け垣に潜伏していたのはいいが今度はブラック・ローズ・ドラゴンの破壊の嵐に巻き込まれ、吹き飛ばされこそしなかったもののその余波で完全に伸びていた所を先ほどケラスに叩き起こされた鳥人である。その言葉通り文句を言える程度には意識もしゃんとしているのを確認したルガルの頭が、そこで力なく垂れ下がった。全身の力も抜け、抵抗が終わる。

 

「気を失いましたか。ブラック・ローズ・ドラゴン、その方を解放してあげてください……ふふふ、またしても、してやられてしまいましたね」

 

 薔薇の巫女の言葉に従い、その体を少し離れた場所に降ろして拘束を解く薔薇の竜。フェリジットはほぼ反射的にその血まみれの身体に目を走らせ、怪我の度合いを目に焼き付けていた。出血はひどいが、傷のひとつひとつは小さい。そのいずれも深くはあるが、致命傷や後遺症に繋がるほどの物はない。それに呼吸も、弱くはあるが安定している。怪我そのものによるダメージよりも、気力の方を使い果たしたのだろう。ナーベルをどうにか戦線復帰させる時間を稼いだ代償は、大きい。

 

 

 

 

 

 巡る戦況に思いを馳せて、ゆっくりゆっくり、それこそ薔薇の花を愛でるように見ていきましょう。100と4番目の聖女がそうしたように、ね。

 

ターンプレイヤー:鉄獣戦線

1,ドロー、スタンバイフェイズ、メインフェイズ

2,速攻魔法、異次元からの埋葬を発動、(1)効果で除外された鉄獣戦線 キット、鉄獣戦線 フラクトールを墓地に

3,鉄獣戦線 ケラスを召喚、(2)効果発動。墓地の鉄獣戦線 キットと鉄獣戦線 フラクトール2体をコストに除外し、エクストラデッキから鉄獣戦線 銀弾のルガルを特殊召喚

 

 鉄獣戦線 ケラス 攻1200

 鉄獣戦線 銀弾のルガル 攻2300

 

 途中の妨害もあって今回は割と遅かったけど、今回も戦場に出てきた銀弾。肝心の攻撃力は月華竜と並ぶ程度だけれど、自分よりもはるかに大きな竜と並ぶパワーがある時点で大概この狼も上澄みじゃない?

 時々出るのよね、私たち『聖女』みたいな力を得るだけの理由もなく、相剣のように種としてさほど強いわけでもなく、単独で飛びぬけた力を持った存在。彼も世が世なら帝王を名乗ってもおかしくないだけの実力はあったのだけれど、いかんせん生まれた時代が悪かったわね。それとも、本人にとっては今が一番なのかしら?

 

4,バトルフェイズ、鉄獣戦線 銀弾のルガルで月華竜 ブラック・ローズに攻撃

5,ダメージステップに速攻魔法、鉄獣の邂逅(トライブリゲード・ランデブー)を発動。(1)の効果で鉄獣戦線 銀弾のルガル、鉄獣戦線 ケラスを対象に攻撃力アップ

 

 鉄獣戦線 銀弾のルガル 攻2300→3000→月華竜 ブラック・ローズ 攻2400(破壊)

 薔薇の巫女 LP4000→3400

 鉄獣戦線 ケラス 攻1200→1900

 

 これでようやく初ダメージ、いよいよ押されっぱなしだった鉄獣戦線にも攻撃の手番が回ってきたわね。今発動された速攻魔法、鉄獣の邂逅はリンク状態にある特定種族を任意の数だけ選択し、その攻撃力をそのターンに限り700アップさせることができる速攻魔法。一瞬の邂逅、というか会敵に瞬間的な連携による爆発的な力で確実に敵を葬る、まあらしいと言えばらしい戦法ね。仲間を並べることに特化した彼らだからこそ最大限に効果を発揮する戦術、と言い換えることもできるわ。フルルドリスも、あの連携にはよく手を焼かされていたもの。

 

6,鉄獣戦線 ケラスで直接攻撃

7,薔薇の巫女、攻撃宣言時にセットされた王魂調和(おうごんちょうわ)を発動。(1)効果で攻撃を無効、その後に墓地のエンジェル・トランぺッターとイービル・ソーン3体を除外。ブラック・ローズ・ドラゴンをシンクロ召喚扱いでエクストラデッキから特殊召喚

 

 ブラック・ローズ・ドラゴン 攻2400

 

 直接攻撃を無効にしつつ墓地のチューナーとそれ以外のモンスターをレベル合計が8以下になるよう除外することでそのレベルと等しいシンクロモンスターをシンクロ召喚できる攻防一体の逆転のカード、王魂調和。ケラスの攻撃はこれによって無効となり、正規手段扱いで召喚されたブラック・ローズ・ドラゴンはその本領を発揮する。

 

8,ブラック・ローズ・ドラゴンの(1)効果発動。フィールドのカードをすべて破壊。白薔薇の回廊のカウンター除去

9,鉄獣戦線、墓地の鉄獣の邂逅の(2)効果適用。身代わり除外

 

 白薔薇の回廊(1)→(0)

 

 あらかじめの準備によって、白薔薇の回廊はこの破壊も耐える。そして鉄獣戦線のお二人も、墓地からモンスターの破壊に対し身代わりとして除外することができる鉄獣の邂逅で除去を回避。結果的に破壊されたのはブラック・ローズ・ドラゴン自身すら制御できないこの能力による自爆、これだけならば無駄死ににも見えるけれど。当然、すでに手は打ってあったみたい。

 

10,墓地のクロスローズ・ドラゴン、(2)効果発動。自身をコストに除外し、ブラック・ローズ・ドラゴンを墓地から特殊召喚

 

 ブラック・ローズ・ドラゴン 攻2400

 

 人知れずここでその能力を使っていたのは、先ほど月華竜の召喚に一役買っていたクロスローズ。それは自身のモンスターの効果破壊、つまりブラック・ローズ・ドラゴン自身の能力をトリガーに、墓地の自身を除外することでローズ・ドラゴンを墓地から蘇生する能力。ブルーローズとロクスローズは王魂調和で除外済み、月華竜はローズではあるけれどローズ・ドラゴンではないから、ここで選べるのはブラック・ローズ・ドラゴン一択だったわけ。

 ふふっ、それにしても今のはなかなか惜しかったわね。ケラスの攻撃が直撃していれば、ライフポイントはだいぶ大きく動いたのに。

 

11,ターンエンド、鉄獣の邂逅の(1)効果終了

 

 鉄獣戦線 銀弾のルガル 攻3000→2300

 鉄獣戦線 ケラス 攻1900→1200

 

 ターンプレイヤー:薔薇の巫女

1,ドローフェイズ、白薔薇の回廊の(2)効果発動。モンスターカードを宣言。ドローカード、速攻のかかしを確認

 

 ブラック・ローズ・ドラゴン 攻2400→3400

 

 白薔薇の回廊の展開を行う以外のもうひとつの効果、それがこの予見する引き札(フォレッセ・ドロー)。通常のドロー前にモンスター、魔法、罠からひとつを宣言してこれから引くカードを互いに確認、宣言通りの種類だった場合にそのターンのみレベル7以上のシンクロモンスターの攻撃力が1000アップされるというもの。先のターンに発動しなかったのはフラクトールなら月華竜の素の攻撃力だけでも相手できるから情報アドバンテージの損失を嫌ったのか、それとも単に種類を当てられる気がしなかったのか……それは本人のみぞ知るだけれど、いずれにせよこのデュエルでは初のお披露目。

 そして見事効果は成功、これでブラック・ローズ・ドラゴンの攻撃力はルガルのそれを大幅に上回った。均衡が崩れたわけね。

 

2,ドロー、スタンバイフェイズ、メインフェイズ

3,鉄獣戦線、メインフェイズ終了時に鉄獣戦線 銀弾のルガルの(1)効果発動。墓地の鉄獣戦線 ナーベルを対象に取り、特殊召喚

 

 鉄獣戦線 ナーベル 守2000

 

 銀弾のルガルはその効果で、相手メインフェイズ中に仲間の蘇生を行うことができる。効果は無効でエンドフェイズには手札に戻ってしまうけれど、それでも倒れた仲間に手を差し伸べ、一度後方へ下げて立て直しをさせる効果。誰よりも仲間思いで、同時に仲間を手にかけた薄汚い『銀弾』……ふふっ、この話はこれ以上掘り返さないわよ?私は別に構わないけど、私たちの中にはもし自我がはっきりすると所詮はなにかの仮面でしかない『聖女』でしかなかった自分を気に病んじゃいそうな子もいるもの。

 

3,バトルフェイズ。ブラック・ローズ・ドラゴンで鉄獣戦線 銀弾のルガルに攻撃

 

 ブラック・ローズ・ドラゴン 攻3400→鉄獣戦線 銀弾のルガル 攻2300(破壊)

 鉄獣戦線 LP2250→1150

 

 ここでやろうと思えばルガルはもう一撃、自身が場を離れた際に発動する全体弱体化を発動することもできたわ。彼がしていたことは無意味な乱射に見えていたけど、やろうと思えばブラック・ローズ・ドラゴンにダメージを通せたのよ。ただその効果はそのターン限り、例え傷を負わせてもターンの終わりには竜の自然治癒力によってまた元に戻ってしまう。だから発動せず、ひたすら気を引いて味方への注意を逸らすことに専念したわけね。カードとしてみれば意味のない話だけれど、実際にはそれでまんまとケラスの、シュライグの動きを全部自分で隠すことができた。まあ、彼はそういうところあるわよね。

 

4,メインフェイズ2、ターンエンド

5,鉄獣戦線 ナ―ベル、手札に戻る。白薔薇の回廊、(2)の効果終了

 

 ブラック・ローズ・ドラゴン 攻3400→2400

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