何が起ころうとも、この世界は「続く」。

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思いつき砂糖です。
久々にどうぞ。



続く。

「つまりだ。この世界は小説の中の世界なんだよ!」

 

 少女は高校の屋上で、両手を広げて高らかにそう宣言した。

 まるで今朝見た夢の内容を話すかのように、実に突拍子もないことを言い出したものだ。

 

「別に突拍子も無いことなんかじゃないさ。これにはちゃんとした、論理的に説明できる証拠がある」

 

 ほう、それは興味深い。

 昼休みが終わって次の授業が始まるまでの暇つぶしくらいにはなるだろうか。

 

「君は私の話を暇つぶしくらいにしか捉えていないのか……まぁいい! これを聞けば、驚きのあまり次の授業で居眠りしないどころか、君は夜も眠れないことだろう!」

 

 何でもいいが、せめて夜は寝させてくれ。

 

「まず一つに、君は自分の名前を思い出せるかい?」

 

 少女はドヤ顔で指をひとつ立てる。

 思わず顔に一発入れてやるくらいムカつく顔面だったが、仮にも少女相手に暴力を振るうというのは、男として最低な行為だと自覚している。

 

「そうだろうそうだろう! やはり君も自分の名前が思い出せないだろう!」

 

 まだ何も言ってないだろうが。助走つけてぶん殴るぞ。

 

「かくいう私も自分の名前が思い出せない!」

 

 ボコボコにされる前から重症じゃねえか。病院行けよ。

 

「いやいや、これにはちゃんとした理由があるんだよ。君には分かるかい?」

 

 もったいぶるように身体をくねらせる少女。

 別に高校の昼休みだって長くはないのだから早くして欲しい。

 

「そこまで言うなら仕方ない! 人間は考える足だと昔の哲学者は言ったが、君は考えない足だな! 少しは自分で考えて欲しいものだが今日は特別だぞ?」

 

 足と葦を間違えてやがる。

 まぁ、態度が腹立つから教えてやらないけど。

 

「いいかい? この小説の登場人物は君と私の二人だけだ。そして私達には名前が設定されていない! 理由はおそらく面倒だからだ!」

 

 ヘー、シラナカッター。ソレハオドロキダナー。

 

「待って! 帰ろうとしないでくれ! ちゃんと他にも証拠があるからさ!」

 

 みっともなく足元にしがみつく少女を、そのまま放って置けたらどれだけ楽だろう。

 ここで大人しく立ち止まってしまうから、俺はいつもコイツにお人好しといじられるのだ。

 

「"証拠"と一口に行っても色々あるから、一つ一つ説明していこう。この世界が小説の世界である証拠を」

 

 コイツがここまで真剣な顔をしていることなんて、定期試験の時ですら無かったはずだ。一体何がこの少女をここまで本気にさせているのだろう?

 

「まずはこの高校だ」

「高等学校ということ以外、この学校には設定がない」

「設定されていないのだから、教室の種類や教員の数や、同級生の名前すら分からない」

 

 ……やっぱりふざけてるのか?

 

「頼む! 最後までここにいてくれ! 土下座でも何でもするからぁ!」

 

 友人が虫のように地面に這いつくばっている。やはりコイツにはプライドがないのか。

 なんだか忍びなくなって、俺は仕方なくその場に座り直した。

 

「流石は私の見込んだ男だ……ここで私を見捨てるような外道ではないと信じていたぞ……!」

 

 いいからさっさと続きを話せ。

 

「そう急かすなよ。ゆっくり自分の心に聞いてみるのさ」

 

 心に? 何を?

 

「君に本当に、この世界についての記憶があるのかどうかを」

 

 少女の瞳が俺の仏頂面を映す。

 その黒い瞳には、なぜか明るさが微塵も無かった。黒く暗い闇が、彼女の瞳を支配していた。

 言葉では表せない類の恐怖を覚える。

 

「君は今朝、何時に起きた?」

「朝食は何を食べた?」

「君はどうやってこの高校に来た? 電車? 自転車? それとも徒歩?」

「その通学途中で君は一体何を見た? 辺りの風景や通行人はどんな人だった?」

「ここに来てから、君はまず誰に挨拶をした?」

「友人とどんな話をした?」

「午前の授業は? 君は居眠りをしたかい? それともしっかり授業を受けたかい?」

「君と私は一体いつ知り合った? どんな風に出会って、どういう経緯でこうして昼食を共にするようになったんだい?」

「……ほら、黙った」

「結局、君は何も知らないじゃないか」

「いや……この表現は少し違うな」

 

「存在してないんだよ。この世界には、今この瞬間以外は存在していない」

 

「どう? これで納得したかい?」

 

 納得なんかできるはずがない。

 

「それはそうだろう。君は否定するさ」

 

 お前はどうなんだよ……ここが作られた世界で、今この瞬間以外存在してないなんて……お前はそれで納得できるのか……?

 

「私? さぁ? そこまで考えてないよ」

「別にどうだっていいさ。私達にはこの瞬間しかないのだとしたら、精々それを楽しむだけ」

「……そんなに深刻そうな顔するなよ。らしくない」

 

 いや……無理だろ。こんな話を聞いて、お気楽でいられるわけがない。

 

「なぜ?」

 

 なぜって……こうやって会話している俺達も、創られた台詞をなぞっているだけってことだろ?

 そんなの、虚しすぎる。

 

「その感情さえ、創られたものなのに」

 

 分かってるよ。でも俺は認めない。

 

「否定するのが君の役回りだ。そして、肯定するのが私の役」

「それが世界が決めたことさ」

 

 ……そういえば、何でこいつはこの世界が創られた世界だってことに気がついてるんだ?

 

「そういう風に創られたからに決まってるからだろう? 登場人物が二人しかいないなら正反対に対比させた方が面白い」

 

 言うほど正反対か?

 

「別に性格が真逆の人間同士が、必ず互いに嫌悪し合うジンクスなんてものも無いだろう?」

 

 ジンクスで言えば、正反対の人間は惹かれ合うと言うが……

 

「随分落ち着いたようじゃないか。やっと本題を話せる」

 

 は? 今までのが本題じゃないのか?

 

「当たり前だろ。半分以上冗談みたいなものだ」

 

 ……冗談?

 

「少し考えれば分かるだろ? 君にも私にも名前があるし、ちゃんと私達の心もある。世界は相変わらず普通に回ってる」

「創られた世界とか、そんなのただからかっただけだよ?」

 

 お前、マジ……

 

「どうしたどうした! まさか本気にしたのかい? 君はあれだな。催眠術とかに引っかかりやすい体質だな!」

 

 〇す。

 

「いやごめん調子乗りすぎた謝る本気で謝るごめん大変申し訳ない」

 

 変なからかい方しやがって……いつか絶対ボコす……

 

「ちょっと! ここから本題なんだから帰らないでくれよ!」

 

 まだからかう気かよ。そろそろ本気で──

 

「君はこの小説のジャンルは何だと思う?」

 

 …………お前さっき「冗談だ」って言っただろ。

 

「冗談の延長線、ただの雑談だと思ってくれていい」

 

 真っ直ぐ俺を見つめる。

 またこの顔だ。こいつの真剣な顔に、俺はとことん弱い。

 しかし……ジャンルか……

 仮にこの世界が一冊の小説だとしたなら、一体どういう物語なのだろう。

 ホラーとか?

 

「なんでだよ。今までホラー要素あったかい?」

 

 冗談言ってるお前の顔が、冗談じゃないくらい怖かったからだろ。

 

「ふむ……他に無いかい?」

 

 他? これってそんなに重要な話題か?

 

「いいから答えなさい」

 

 サスペンス……いや別に事件は起こってないし、ミステリーってのも少し違うか?

 

「…………」

 

 なんで不機嫌? てかそんなに言うならお前が案を出せよ。

 

「……仕方ない。質問を変えよう」

 

 逃げたな。

 

「逃げてない! 君が分からないから仕方なく質問を変えるんだ! この鈍感め……」

 

 鈍感? 何の事だ?

 

「いいから次のはちゃんと答えてくれよ!?」

 

「君の思う、この物語の最高の終わり方はなんだい?」

 

 これまた抽象的な……やっぱりお前の答えを聞かない限り答えないからな。

 

「ぐっ……そこまで言うのなら仕方ない……」

 

 少女は立ち上がる。両手を腰に当て、俺の周りをクルクルと回り始めた。

 

「まず暗い結末には絶対にしたくないな。明るい結末……それも次回に希望が続くような結びにしたい」

 

 もう少し具体的に。

 

「……近くの遊園地」

 

 …………?

 

「今週末、一緒に遊びに行きませんか……?」

 

 ……なるほど、確かに明るくて次回に続くような結びだ。




供養という形でここに埋葬します。
なむ。

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