隣の陰キャがヤバすぎる   作:三口三大

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5,6.池袋爆破事件~ニュース編+モヒカン視点~

 ニュースの時間です。本日の正午過ぎ、東京都豊島区にある雑居ビルで爆弾によると思われる爆発事件が起きました。この爆発で4人が怪我をし、1人の死亡が確認されました。

 

 警察などによりますと、本日の正午過ぎ、東京都豊島区にある雑居ビルで爆発が起きたと通行人から119番通報がありました。爆発の衝撃で砕けた窓ガラスなどで少なくとも4人が怪我をし、現場からは1人の遺体が発見されました。警察は遺体の身元の特定を急ぐとともに、現場に『死ね』と書かれた文字があり、爆発には爆弾と見られる爆発物が使用されていたことから、何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとみて、調べています。

 

 また、現場付近で実行犯と思われる男が目撃されており、この男は爆発直後に現場付近から逃走し、付近の道路でトラックに撥ねられ、病院へ搬送されたものの、間もなく死亡が確認されました。警察は実行犯と思われる男と死亡が確認された人物の関係についても捜査を進めています。

 

 次のニュースです――。 

 

 

====================

 

 202x年6月13日(土)の11:55。男は自慢のモヒカンを風になびかせ、キャリーケースを引きながら、池袋の街を歩いていた。男はサングラスの下で行き交う人々を観察し、鼻を鳴らした。

 

(呑気なもんだ。今日がてめぇらの命日だっていうのによ)

 

 男は薄い笑みを浮かべ、口笛を吹く。曲は『蛍の光』。旅立つのに丁度良い歌だ。

 

 男が信号の前で立ち止ると、後方から声がした。渋い男の声だった。

 

「振り向かずに聞け。――様からの命令だ」

 

 ボスの名前に、男は緊張する。

 

(ボスの名前を知っている!? こいつ、何者だ?)

 

 男は振り返りそうになるが、「振り向かずに聞け」と言われたことを思い出し、視線を前に向ける。そして、息が詰まるようなプレッシャーと渋い男の声で男はピンとくる。

 

(もしや、あの方か!)

 

 後ろにいる人物に心当たりがあった。幹部の人間である。だから緊張し、強張った表情で口を開く。

 

「め、命令って何ですか?」

 

「実は我々の中にスパイがいることがわかった。お前にはその調査をして欲しい」

 

「お、俺がですか? どうして?」

 

「――様が期待しているからだ。あのお方は、初めて会った時からお前のことを気に入っているそうだよ」

 

「ほ、本当ですか!」

 

「ああ。だから、その期待に応えて欲しい」

 

「も、もちろんです」

 

「詳しいことは○○ビルの5階に行けばわかる。そこにメモを残した」

 

「○○ビルって、どこですか?」

 

「××の隣にあるビルだ。5階が空きテナントになっている。今すぐ行け」

 

「今すぐ? 例の計画は? それに、イーグルには何と言えば」

 

「5分も掛からんだろうから、先にやれ。わかっていると思うが、このことは他言無用だ。余計な混乱は起こしたくない。だから、イーグルは適当に誤魔化せ」

 

「わ、わかりました」

 

 信号が青に変わる。人が動き出して、プレッシャーも消えた。振り返ると、そこには誰もいない。ほっと胸を撫でおろす男の顔は、どこか嬉しそうだった。ボスに期待されている。その事実に心が震えた。

 

(期待に応えなければ)

 

 男は、サポート役のイーグルへ『少し離れる』といった趣旨のハンドサインを送ると、人込みに紛れて○○ビルの前へ移動した。

 

(ここか)

 

 エレベーターに乗り、5階のボタンを押そうとして、5階のボタンが無いことに気づく。

 

(いや、違う)

 

 ボタンの配列を見ると、5階と思しき箇所にテープが貼ってあったので、テープの上からボタンを押した。エレベーターが動き出し、5階に到着する。エレベーターがそのまま入口になっていて、30坪くらいの何もない空間が男を迎える。

 

(ここのどこにメモが?)

 

 男は辺りを見回し、足元のスプレー缶に気づいた。手に取って確認する。スプレー缶の下に、折りたたまれたメモ用紙があった。男はメモを開き、中の文章を読んで、薄い笑みを浮かべる。

 

(なるほど。あの人が裏切り者なのか)

 

 読み終えた後、メモの内容に従い、スプレーで黒く塗りつぶすと、メモを丸めてポケットにしまった。そして、エレベーターで地上に戻る。降りようとしたら、40代くらいのパーマを掛けた男が立っていた。睨むような目つきだったので、男が睨み返すと、目をそらした。男は鼻を鳴らし、その場から離れる。

 

 歩いていると、「おい」と声を掛けられた。振り返ると、眼鏡をかけた生真面目そうな顔つきの男――イーグルがいた。イーグルは声を潜めながらも、怒りを滲ませる。

 

「何、勝手なことをやっているんだ」

 

「トイレに行っていたんですよ」

 

「ガキじゃねぇんだから、そんなの先にやっておけよ。お前は、今回の作戦がどれほど大事なのかわかっているのか?」

 

「……さーせん」

 

「これ以上、勝手なことをするんじゃねぇぞ。幹部も見ているらしいからな」

 

 イーグルはそれだけ言って、去って行った。男は、その背中に中指を立てる。

 

(うるせぇ、クソ野郎。まぁ、いい。どうせ、すぐに立場が逆転する)

 

 男はほくそ笑んだ。1年前まではただの信者に過ぎなかったが、能力が発現してからは、構成員に昇格し、今回の大事な仕事を任され、スパイを探す仕事も任された。このままいけば、幹部にもなるのも時間だろう。もしも幹部になれたら、イーグルをこき使ってやろうと思った。

 

 男は移動し、往来の真ん中で立ち止まる。何も知らない人々を見て、口角を上げた。平和な日常が、今から地獄に変わる。想像するだけで、ゾクゾクした。男はキャリーケースからマイクとスピーカーを取り出して、準備を進める。通りにいた人間が、物珍しそうに男を眺めた。

 

「お前ら、聞け!」

 

 男の声に人々が奇異の目を向ける。足を止める人もいれば、スマホを向ける人もいた。思ったより音が小さかったので、男はスピーカーの音を調節しながら話し続ける。

 

「お前らは人を幸せにする方法を知っているか?」

 

 ざわつくものの、返事はなかった。男は鼻を鳴らす。予想通りだった。自分みたいな人間に対しては、冷ややかな態度で接する。この世界にいるのは、そういう連中ばかりだ。

 

「はん。お前らは本当に――」

 

「どうやるんですか?」

 

「え?」

 

 男は驚いて目を向ける。帽子を深く被った青年が立っていた。帽子のせいで顔はよくわからない。

 

「だから、どうすれば人を幸せにできるんですか?」

 

 予想していなかった反応に一瞬戸惑うも、気を取り直す。

 

「他人を不幸にすればいいんだよ」

 

「どうして他人を不幸にすればいいんですか?」

 

「この世界は、誰かが幸せになれば、その分誰かが不幸になる。だから、誰かを幸せにしたいなら、その分誰かを不幸にすればいい」

 

「なるほど。深いですね。お兄さんは、何かバンドとかやっている人なんですか?」

 

「バンドじゃない。『感動幸せ協会』だ」

 

「何ですか、それ?」

 

「この世界に感動と幸せをもたらす素敵な団体さ」

 

「へぇ。具体的にどんな活動をされているんですか?」

 

「さっきも言っただろ、誰かを幸せにするために、誰かを不幸にしている。まぁ、百聞は一見に如かずだ。今から、そいつを見せてやるよ」

 

 ここで絶叫すれば、皆死ぬ。そして人は、男の行為を『テロ』と呼び、世間は悲しみと恐怖に包まれるだろう。しかしいずれ、勇気と希望を胸に、テロに立ち向かう。それは、この社会が一致団結するために必要なことであり、一致団結することはこの社会にとって幸福なことだった。だから男は、絶叫する。

 

 男は大きく息を吸い込み――咳き込んだ。何か変な物を吸い込んでしまった。

 

そのとき、爆発音が辺りに響いた。悲鳴が上がり、人々が逃げ惑う。男は爆発があった方角を呆然と眺めた。爆発なんて予定にない。

 

「あれはあなたがやったんじゃないですか?」

 

 すぐそばに青年がいたので、男は突き飛ばす。

 

「はぁ? 俺じゃない」

 

「さっき、人を幸せにするために不幸にする、みたいなことを言っていませんでしたか?」

 

「た、確かに言ったが」

 

「何か、あなた、すごい怪しいですね。犯人なんじゃないですか?」

 

 青年に言い寄られ、男はたじろぐ。想定外の事態に、頭が混乱している。

 

(くそっ、どうすれば)

 

男は周囲に視線を走らせる。『一時撤退』のハンドサインが見えた。

 

(ちっ、しゃーない!)

 

 後でスズキが回収することに期待し、マイクなどを投げ捨てて、男は駆け出した。

 

「あの人が爆発の犯人だ! 捕まえて!」

 

 青年が叫ぶと、そばにいた大人たちが、逃げる男を追いかけ始めた。

 

「おい、待てこら!」

 

「逃げるな!」

 

 男は奥歯を噛む。痴漢の冤罪で捕まった時のことを思い出した。あのときも、自分は悪くないのに、悪者にされた。能力を使って、気絶させることも考えたが、何だか喉の調子が悪い。

 

(はっ、だが、あのときとは状況が違う。俺は絶対に捕まらねぇよ)

 

 男は信号が赤だったにも関わらず、自信満々で道路に飛び出した。今の自分なら、車さえも避けることができる。――が、妙な浮遊感を覚えた。駆け抜けようとしているのに、足に重りがついている感じ。足元を見て、目を見開く。影から黒い手が伸びていて、自分の足先を掴んでいた。

 

(まさか、他の能りょ――)

 

 男の思考は、けたたましく鳴るクラクションの音にかき消された。

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