シャケよ、さらば   作:youhi

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02.再会、そしてバンカラ

「要望通ってなかったね、でんせつ様?」

 

ヘリに向かう階段で、オレは絶望していた。

隣であのタコ女がへらへらと笑っている。

 

「クソが……ふざけんな」

「クマサンの采配だし、しょうがないよね?」

「オレはちゃんと言ったし『わかった』とも言ってたんだぞ」

「それでも組ませたかったんでしょ」

 

さかのぼること、数分前のクマサンとの会話。

 

『ちょっとまってくださいよ! なんであのクソ女がいるんですか!?』

『あぁ……それはね、メリットがあるからだよ』

「メリットぉ?」

『キミがバイトをする理由は『金が欲しい』だろう? 実はあのコにも同じように、バイトをする理由があるんだ』

「だからって、なんであんなヤツと……」

「仕事の成功率を上げるためには、キミたちふたりに一緒に行ってもらいたいんだ。長年バイトをしているキミならわかるだろう? 彼女の強さを」

 

会話終了。

いつものように言いくるめられて終わりだった。

 

「いつかは辞めてやる、このバイト……」

「がんばろうね、でんせつ様」

「そのでんせつってのやめろ、クソタコ」

「そのクソタコってのもやめてよね。名前で呼ぼうよ」

「テメェに名乗る名前もねぇよ」

「だったらあんたもでんせつ様だけど?」

 

地獄(危険度MAX)のような究極の選択だ。

 

「あたしはチヒロ」

「聞いてねぇよ」

「あんたの名前は?」

「……カミナだ」

「へぇ、可愛い名前」

「うっせ……」

 

カンカンと鉄の階段を登っていく。

チヒロは昨日に比べて、よく喋る。

本来はおしゃべりなのだろう。知ったことではないが。

 

「ま、クマサンの采配だし。これからよろしくね」

 

手を差し出してくるチヒロ。

オレはその手を見つめ、軽く払った。

 

「いいか? オレはクマサンに言われて仕方なくお前と組むんだ。仲良くする気はさらさらねぇし、足引っ張ったら許さねぇからな」

「いいよ〜。テッパンだけはあたしが処理してあげるね?」

 

こんのクソタコが……!

 

「こんのクソタコが……」

 

ヘリに到着すると、すでに他ふたりの姿があった。

それは見知った顔だった。

 

「よぉ、戦友!! また会えて嬉しいぞ!!」

 

暑苦しい大男のヒトデボーイと。

 

「またカミナさんとバイトできて嬉しいなぁ」

 

のほほんとしたメガネの金魚ボーイ。

 

「ひさしぶり。よろしくな」

 

メンバーが揃い、ヘリは離陸した。

 

 

 

§

 

 

 

「この半年間、実に寂しかったぞ!!」

 

ガハハと大声で笑うヒトデボーイ。

眉が太く剛毛なので、「ゲジマユ」とオレは呼んでいる。

 

「他のヤツと組んでも根性がなくてなぁ。やっぱりお前じゃないとダメだ!」

「そうそう。ぼくも、カミナさん以外とはウマが合わないですよ」

 

ゲジマユに同調する金魚ボーイ。

こちらもオレはあだ名で「インテリ」と呼んでいる。ちなみに命名はこのゲジマユ。理由は「インテリっぽい」から。

 

「ふたりはずっと一緒に組んでたのか?」

「あぁ。なんだかんだインテリとは合うからな!」

「突っ込んだ誰かさんを復活させる人が必要ですからね」

「それはワガハイのことは? ガハハ!」

 

相変わらずのやりとりに、オレは安心する。

こいつらとなら、ノルマクリアは余裕だろう。

 

「ところでカミナさん……あのタコの女性は?」

 

インテリがそう訊いてくる。

チヒロは先ほどのおしゃべりはなくなり、また窓の外を眺めていた。猫かぶりモードといったところか。

 

「今回からオレと一緒に組むことになった」

「固定ですか? うわ〜カミナさんも隅に置けないなぁ」

「ワガハイから隠れて女とイチャコラとは、許せんよなぁ!!」

「うわ〜声が大きいですって」

「ガハハ!!」

 

そんな会話も意に介さず、チヒロは動じない。

こいつのクソさをふたりにも説明したいところだが、言ったところでこちらが不利益になるだけだ。まぁ、いずれは化けの皮も剥がれるだろう。

 

「しかし君! めちゃくちゃ可愛いな! 顔が小さくて、おっぱいが大きい!」

「うわぁ、前時代的なセクハラ〜」

「今日のバイトが終わったら、一緒にバンカラシティに繰り出さないか!?」

「押し方も前時代的〜」

 

ゲジマユがグイグイ行く。

まぁチヒロは無視をするだろうな。

そう思っていた。

 

「じゃあ、いいところ見せてね。ヒトデ男さん?」

 

まさかの妖艶な笑みを浮かべた。

こいつマジか。ゲジマユを誘惑しやがった。

 

「うおお!! ワガハイ燃えてきたぞ!!」

 

ゲジマユは数々のガールに拒否られてばかりの悲しきボーイ。

この手の誘惑には、がぜん免疫がない。

 

「でも、めっちゃ可愛い子ですね。こんなコと固定組めるなんて幸せじゃないですか?」

「そう思えたらよかったんだけどな」

「え?」

「うおおお! オオモノはワガハイひとりで倒す!! 手を付けるなよ!!」

『まもなくヘリが到着します』

「……ふふっ」

 

 

§

 

 

「やっぱりカミナさんは強いなぁ」

「インテリもちゃんと動けてるな。さすがだよ」

「今回のブキは実に最高だったな!!」

「ダイナモローラー持って沿岸部行くの、そろそろやめませんか?」

「やめん!! ダイナモを持つと身体が勝手に動くのだ!!」

「病気ですね〜」

 

余裕でバイトをクリアした。

やり慣れたメンバーは息が合うし、安定する。

固定を組む最大のメリットだ。

 

「あの女の人も、なかなか強いですね」

 

ちらりとそちらを向くインテリ。

チヒロはアラマキ砦の高台で座っていた。

海を眺めているのだろう。

 

「ぼく、何度もフォローしてもらいました。的確な射撃でした」

「まぁ、腕だけは確かだな」

「ぼくの『ナイス』に微笑んでくれたんですよ。素敵な笑みだったなぁ」

「それはよかったなァ」

「なんで棒読みなんですか」

 

どうやらインテリにはちゃんとコミュニケーションを取っているらしい。

オレとは大違いすぎるだろ。なぁおい?

 

「そうだ!! ワガハイはこれからお嬢さんとバンカラするのだ!!」

「でた。怪しい隠語〜」

「うははー!! 今日はバンカラだー!!」

「……先にヘリ行っとくか」

「ですね」

 

砦の上でゲジマユとチヒロが話している。

まぁ多分、からかっているだけで、行く気もないだろう。

そんなどうでもいいことを思いながら、ヘリに乗り込んだ。

 

 

§

 

 

「久々の共闘、楽しかったぞ!!」

「おつかれさまでした〜」

「うっす。またよろしくな」

 

ロッカーでふたりと別れ、オレはロビーに向かった。

 

「おつかれさまぁ。はい、報酬だよ」

 

黒い窓の向こうから、カプセルが渡される。

まるでギャンブルの三店方式だ、といつも思う。

 

「ありがとうございます」

 

カプセルを開けると、様々な景品が入っていた。

ギア、ギアのかけら、ドリンクチケット、よくわからないオキモノ……そして金。

 

「うわ、こんだけか。偏ったな」

 

金は手に入ることには入る……のだが、少ないときもある。

たまにギアばかりのときもあり、「クマサン商会も経営が苦しいのか」と思ったりもした。まぁでも、金が多いときもあるし、悪くはない。

 

「おー、いっぱいじゃん」

「うわっ! ……って、お前かよ」

「おつかれ、カミナ」

 

オレの報酬を見て、ニタニタと笑うチヒロ。

 

「てか、いっぱいってお前もだろ。一緒にバイトしてんだから」

「んー、そうだね。でも、ギアばかりだったよ」

「オレもだ」

「クマサン商会も羽振りが悪くなったのかな」

 

ぼそっと呟く。クマサンには聞こえてない、と思う。

 

「半年前もこんな感じだったぞ。変わらねぇよ」

「それもそうか。はは」

 

やっぱりこいつ、よく喋る。

バイトのときは無口なくせに。「ナイス」ぐらいは返せるだろ。

 

「……じゃ、オレは帰るぞ」

「え?」

「え、ってなんだよ」

「一緒にバンカラしないの?」

 

そういや、ゲジマユがそんな話をしてたな。

 

「酒飲む金もねぇよ」

「はは、うける」

「うけねぇよ」

 

ちゃらちゃらとした若者が使う言葉だ。オレもまだ若者だが、こういう「ウェーイ系」とはどうもウマが合わない。大学でも馴染めなかった。この女は若いらしい。オレより年下だろう。

 

「で。わたし、行ってもいいの?」

「なんでオレに許可取るんだよ」

「本当にバンカラしちゃうかもよ?」

「あ?」

 

そこまで行って、ようやく気づく。

こいつの言う「バンカラ」とは、酒を飲むことだけじゃなくて、その先のことを言っているのだと。

ゲジマユと、チヒロが、その行為を?

想像できない。というかしたくない。

 

「……バイト辞めるってなったら、許さねぇからな」

「ふふ。心配してくれてんだ。だったら一緒に来てくれてもいいのに」

「本当にバンカラするんだな?」

「大丈夫だって。こう見えてもあたし、上手だから」

「ケッ……勝手にしろ」

 

ますます意味がわからなくなったので、オレはクマサン商会をあとにした。

 

外はすでに夜になっていた。

にもかかわらず、町中は蛍光看板と音楽と喧騒に包まれていた。

誰もが楽しそうな顔を浮かべている。

バンカラシティは夜になっても眠らないのだ。

 

「何がバンカラだよ……こっちはバイトで忙しいってのに」

 

オレは空き缶を蹴り飛ばした。

ここに来ていくらか歳を取ったのに、まだこの街に馴染めずにいる。

 

次の日、オレがバイトに行くと、クマサンにあることを知らされた。

 

「チヒロが休み?」




Xマッチしてたら投稿遅れました。
ダイナモ楽し〜リッター無理〜
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