「要望通ってなかったね、でんせつ様?」
ヘリに向かう階段で、オレは絶望していた。
隣であのタコ女がへらへらと笑っている。
「クソが……ふざけんな」
「クマサンの采配だし、しょうがないよね?」
「オレはちゃんと言ったし『わかった』とも言ってたんだぞ」
「それでも組ませたかったんでしょ」
さかのぼること、数分前のクマサンとの会話。
『ちょっとまってくださいよ! なんであのクソ女がいるんですか!?』
『あぁ……それはね、メリットがあるからだよ』
「メリットぉ?」
『キミがバイトをする理由は『金が欲しい』だろう? 実はあのコにも同じように、バイトをする理由があるんだ』
「だからって、なんであんなヤツと……」
「仕事の成功率を上げるためには、キミたちふたりに一緒に行ってもらいたいんだ。長年バイトをしているキミならわかるだろう? 彼女の強さを」
会話終了。
いつものように言いくるめられて終わりだった。
「いつかは辞めてやる、このバイト……」
「がんばろうね、でんせつ様」
「そのでんせつってのやめろ、クソタコ」
「そのクソタコってのもやめてよね。名前で呼ぼうよ」
「テメェに名乗る名前もねぇよ」
「だったらあんたもでんせつ様だけど?」
地獄(危険度MAX)のような究極の選択だ。
「あたしはチヒロ」
「聞いてねぇよ」
「あんたの名前は?」
「……カミナだ」
「へぇ、可愛い名前」
「うっせ……」
カンカンと鉄の階段を登っていく。
チヒロは昨日に比べて、よく喋る。
本来はおしゃべりなのだろう。知ったことではないが。
「ま、クマサンの采配だし。これからよろしくね」
手を差し出してくるチヒロ。
オレはその手を見つめ、軽く払った。
「いいか? オレはクマサンに言われて仕方なくお前と組むんだ。仲良くする気はさらさらねぇし、足引っ張ったら許さねぇからな」
「いいよ〜。テッパンだけはあたしが処理してあげるね?」
こんのクソタコが……!
「こんのクソタコが……」
ヘリに到着すると、すでに他ふたりの姿があった。
それは見知った顔だった。
「よぉ、戦友!! また会えて嬉しいぞ!!」
暑苦しい大男のヒトデボーイと。
「またカミナさんとバイトできて嬉しいなぁ」
のほほんとしたメガネの金魚ボーイ。
「ひさしぶり。よろしくな」
メンバーが揃い、ヘリは離陸した。
§
「この半年間、実に寂しかったぞ!!」
ガハハと大声で笑うヒトデボーイ。
眉が太く剛毛なので、「ゲジマユ」とオレは呼んでいる。
「他のヤツと組んでも根性がなくてなぁ。やっぱりお前じゃないとダメだ!」
「そうそう。ぼくも、カミナさん以外とはウマが合わないですよ」
ゲジマユに同調する金魚ボーイ。
こちらもオレはあだ名で「インテリ」と呼んでいる。ちなみに命名はこのゲジマユ。理由は「インテリっぽい」から。
「ふたりはずっと一緒に組んでたのか?」
「あぁ。なんだかんだインテリとは合うからな!」
「突っ込んだ誰かさんを復活させる人が必要ですからね」
「それはワガハイのことは? ガハハ!」
相変わらずのやりとりに、オレは安心する。
こいつらとなら、ノルマクリアは余裕だろう。
「ところでカミナさん……あのタコの女性は?」
インテリがそう訊いてくる。
チヒロは先ほどのおしゃべりはなくなり、また窓の外を眺めていた。猫かぶりモードといったところか。
「今回からオレと一緒に組むことになった」
「固定ですか? うわ〜カミナさんも隅に置けないなぁ」
「ワガハイから隠れて女とイチャコラとは、許せんよなぁ!!」
「うわ〜声が大きいですって」
「ガハハ!!」
そんな会話も意に介さず、チヒロは動じない。
こいつのクソさをふたりにも説明したいところだが、言ったところでこちらが不利益になるだけだ。まぁ、いずれは化けの皮も剥がれるだろう。
「しかし君! めちゃくちゃ可愛いな! 顔が小さくて、おっぱいが大きい!」
「うわぁ、前時代的なセクハラ〜」
「今日のバイトが終わったら、一緒にバンカラシティに繰り出さないか!?」
「押し方も前時代的〜」
ゲジマユがグイグイ行く。
まぁチヒロは無視をするだろうな。
そう思っていた。
「じゃあ、いいところ見せてね。ヒトデ男さん?」
まさかの妖艶な笑みを浮かべた。
こいつマジか。ゲジマユを誘惑しやがった。
「うおお!! ワガハイ燃えてきたぞ!!」
ゲジマユは数々のガールに拒否られてばかりの悲しきボーイ。
この手の誘惑には、がぜん免疫がない。
「でも、めっちゃ可愛い子ですね。こんなコと固定組めるなんて幸せじゃないですか?」
「そう思えたらよかったんだけどな」
「え?」
「うおおお! オオモノはワガハイひとりで倒す!! 手を付けるなよ!!」
『まもなくヘリが到着します』
「……ふふっ」
§
「やっぱりカミナさんは強いなぁ」
「インテリもちゃんと動けてるな。さすがだよ」
「今回のブキは実に最高だったな!!」
「ダイナモローラー持って沿岸部行くの、そろそろやめませんか?」
「やめん!! ダイナモを持つと身体が勝手に動くのだ!!」
「病気ですね〜」
余裕でバイトをクリアした。
やり慣れたメンバーは息が合うし、安定する。
固定を組む最大のメリットだ。
「あの女の人も、なかなか強いですね」
ちらりとそちらを向くインテリ。
チヒロはアラマキ砦の高台で座っていた。
海を眺めているのだろう。
「ぼく、何度もフォローしてもらいました。的確な射撃でした」
「まぁ、腕だけは確かだな」
「ぼくの『ナイス』に微笑んでくれたんですよ。素敵な笑みだったなぁ」
「それはよかったなァ」
「なんで棒読みなんですか」
どうやらインテリにはちゃんとコミュニケーションを取っているらしい。
オレとは大違いすぎるだろ。なぁおい?
「そうだ!! ワガハイはこれからお嬢さんとバンカラするのだ!!」
「でた。怪しい隠語〜」
「うははー!! 今日はバンカラだー!!」
「……先にヘリ行っとくか」
「ですね」
砦の上でゲジマユとチヒロが話している。
まぁ多分、からかっているだけで、行く気もないだろう。
そんなどうでもいいことを思いながら、ヘリに乗り込んだ。
§
「久々の共闘、楽しかったぞ!!」
「おつかれさまでした〜」
「うっす。またよろしくな」
ロッカーでふたりと別れ、オレはロビーに向かった。
「おつかれさまぁ。はい、報酬だよ」
黒い窓の向こうから、カプセルが渡される。
まるでギャンブルの三店方式だ、といつも思う。
「ありがとうございます」
カプセルを開けると、様々な景品が入っていた。
ギア、ギアのかけら、ドリンクチケット、よくわからないオキモノ……そして金。
「うわ、こんだけか。偏ったな」
金は手に入ることには入る……のだが、少ないときもある。
たまにギアばかりのときもあり、「クマサン商会も経営が苦しいのか」と思ったりもした。まぁでも、金が多いときもあるし、悪くはない。
「おー、いっぱいじゃん」
「うわっ! ……って、お前かよ」
「おつかれ、カミナ」
オレの報酬を見て、ニタニタと笑うチヒロ。
「てか、いっぱいってお前もだろ。一緒にバイトしてんだから」
「んー、そうだね。でも、ギアばかりだったよ」
「オレもだ」
「クマサン商会も羽振りが悪くなったのかな」
ぼそっと呟く。クマサンには聞こえてない、と思う。
「半年前もこんな感じだったぞ。変わらねぇよ」
「それもそうか。はは」
やっぱりこいつ、よく喋る。
バイトのときは無口なくせに。「ナイス」ぐらいは返せるだろ。
「……じゃ、オレは帰るぞ」
「え?」
「え、ってなんだよ」
「一緒にバンカラしないの?」
そういや、ゲジマユがそんな話をしてたな。
「酒飲む金もねぇよ」
「はは、うける」
「うけねぇよ」
ちゃらちゃらとした若者が使う言葉だ。オレもまだ若者だが、こういう「ウェーイ系」とはどうもウマが合わない。大学でも馴染めなかった。この女は若いらしい。オレより年下だろう。
「で。わたし、行ってもいいの?」
「なんでオレに許可取るんだよ」
「本当にバンカラしちゃうかもよ?」
「あ?」
そこまで行って、ようやく気づく。
こいつの言う「バンカラ」とは、酒を飲むことだけじゃなくて、その先のことを言っているのだと。
ゲジマユと、チヒロが、その行為を?
想像できない。というかしたくない。
「……バイト辞めるってなったら、許さねぇからな」
「ふふ。心配してくれてんだ。だったら一緒に来てくれてもいいのに」
「本当にバンカラするんだな?」
「大丈夫だって。こう見えてもあたし、上手だから」
「ケッ……勝手にしろ」
ますます意味がわからなくなったので、オレはクマサン商会をあとにした。
外はすでに夜になっていた。
にもかかわらず、町中は蛍光看板と音楽と喧騒に包まれていた。
誰もが楽しそうな顔を浮かべている。
バンカラシティは夜になっても眠らないのだ。
「何がバンカラだよ……こっちはバイトで忙しいってのに」
オレは空き缶を蹴り飛ばした。
ここに来ていくらか歳を取ったのに、まだこの街に馴染めずにいる。
次の日、オレがバイトに行くと、クマサンにあることを知らされた。
「チヒロが休み?」
Xマッチしてたら投稿遅れました。
ダイナモ楽し〜リッター無理〜