「なんであいつ、休みなんですか?」
「体調不良だそうだ。今日は別の人とバイトしてもらうよ」
クマサンは淡々と言った。
ヘリへ向かう階段を登る中、オレは苛立っていた。
「何が大丈夫だよ……ダメじゃねぇか」
チヒロのやつ、豪語しておきながらこのザマかよ。
勝手なことして、オレの足引っ張りやがって。
「尻拭いするオレの気持ちにもなれってんだ」
「尻がどうしんたんだ戦友!!」
「うおっ!?」
後ろからケツを叩かれた。
「今日もまた一緒ですね。よろしくおねがいします」
「お、おお……よろしく」
ゲジマユとインテリ。
「おい、ゲジマユ」
オレが問い詰めるのは、この大男。
「どうした、戦友よ?」
「お前、昨日……あいつと行ったのか?」
「あいつ? ああ、チヒロ嬢か。もちろん行ったぞ!!」
「で、その……その後、どうなったんだ?」
オレが訊くと、ゲジマユは「その話か」とニヤついた。
「あの人はすごい!! ワガハイは何度もイカされた!!」
「は!?」
予想外の言葉にオレは固まった。
おいおい、こいつマジか!?
「もうすごかったのなんの! ワガハイの『ウルトラショット』はチヒロ嬢の『キューインキ』にやられてしまってなぁ、あれは爽快だった!!」
なんだよその隠語!
ウルトラショットとか絶対アレじゃん。
キューインキとか絶対アレじゃん!!
「マジか……」
「ふふ。この話は酒の肴にしたいところだが……ヘリの中でするとしよう!!」
もったいぶりやがって。気になるだろ!
「あっ、きょ、今日は、よろしくですぅ……!」
ヘリに着くと、すでに待っていたひとりのイカガール。
あの子だ。チヒロと初めてバイトしたときの、初心者ふたりの女の子のほう。
「今日はあの男の子は?」
「体調が良くなくて……きゅっ、きゅーきょっ、ひとりでェ……!」
「大丈夫だ小娘よ!! ワガハイの背中に乗りたまえ!!」
「励まし方、雑すぎ〜」
「は、はひいぃ!!」
そうしてヘリは飛び立った。
§
「でなぁ……これはなんと!! 飼っていたデメキンが逃げ出したんだ!! もうこれは進化だぞ!! デメキンが鉢から逃げるほどに進化したんだ!!」
「おいちょっと待てェ!!」
ヘリの中で、オレはたまらず叫んだ。
「なんだ、戦友よ? ここから話が面白くなるというのに!!」
「ヘリで『あの話』するんじゃなかったのかよ!?」
ヘリに乗ること30分。
このデカブツ男、チヒロとは全く関係のない身の上話ばかりを続けた。
いつ話が終わるか待っていたが、なぜか終わらない。
まるで金魚のフンのように、話が尾を引くのだ。
「そんな身内の話をしても、後輩嬢が取り残されてしまうだろ!!」
「デメキンさんの話、面白かったですぅ〜」
「ほらな? 少しは場の空気を読め、このオクタンコナス!!」
「オレはイカなんだが……?」
そうこうしているうちに、目的地が見えてきた。
「ま、その話は帰りのヘリでするとしよう!!」
またかよ!
「ほんとだな? 本当に話すんだな!?」
「ワガハイは約束を破らないヒトデ男だ!!」
すでに一回約束を破ってるだろ。なぁおい?
§
チヒロがいないバイトは、多少は大変だった。
初心者の子がいるっていうのもあるが、かゆいところに手が届かない。
デカブツは勝手に走っていくし、インテリはその介護をしている。
あれ? めっちゃ偏ったパーティーだな?
「ふぇぇ〜大変です〜」
「大丈夫だ、うまくなってるぞ!」
「がんばりまず〜」
でも、なんとかシャケたちをはねのけ、ノルマをクリアした。
初心者ガールとインテリが一息ついているなか、オレはまっさきにゲジマユのところに向かった。ヘリが来るまでまだ時間はある。
「ゲジマユ、こっちに来い」
「んお? ワガハイはバイトの余韻に浸っているんだぞ?」
「聞かせてもらうぞ。チヒロと……その、やったのか?」
デカブツはダイナモローラーを置くと、ガシッとオレの肩を掴んだ。
「行ってやれ」
「あ?」
何言ってんだこいつ?
「体調不良で休んだ相棒を見舞いに行くのも、パートナーの努めだろう?」
「てめぇのせいなんだが?」
「真実は事実ではないのだ!!」
「意味わかんねぇご託並べてねぇで、さっさと何をしたか教えろ!」
「いやだ!! 本人から聞け!!」
ニヤニヤ笑うデカブツ。こいつ絶対面白がってるだろ!!
振り回されるこっちの身にもなれよ。ほら?
ヘリが来て、その中でデカブツは「で、デメキンとの別れを惜しむべく、ワガハイは……」とまたくだらない話をするのだった。
(真実は事実ではないって、どういうことだよ)
結局、チヒロとゲジマユの『バンカラ』はわからなかった。
……なのだったが、真相を知る機会はすぐにやってきた。
『じゃあ、彼女の家にお見舞いに行ってくれるかな』
Xマッチ上がらん〜エリア1800台の弱ダイナモです……