「昨日はありがとね」
翌日、チヒロはちゃんとバイトに来た。
「おう。今日は大丈夫なのか?」
「このとおり、ピンピンしております〜」
指でVピースを作るチヒロ。体調は良くなったらしい。
「今日は任せてよ。テッパン何匹でも倒せそう」
「口だけは相変わらずだな。まぁ頼んだわ」
オレたちはふたりでヘリまで向かう。
「おつかれさまです。カミナさん、チヒロさん」
「よう!! カミナにチヒロ嬢!!」
ヘリの前にはゲジマユとインテリが待っていた。
今日もまたこのパーティでのバイトだ。
「おす、インテリ。そしてゲジマユ」
オレはゲジマユの腹を拳でつついた。
「いてて!! なんだ、求愛行動か!?」
「お前にはやられたよ。まさか“ナワバトラー”だったとはな」
キョトンとしたゲジマユは、「ガハハ!」と大笑いした。
「これも叙述トリックだ!!」
「適当なこと言ってんなよ」
「ゲジマユさんこんにちは」
ゲジマユとチヒロが話し始める。「さすがに飲みすぎたな!」「ゲジマユさんが負けるからだよ」「いくら酒が強くても量には注意だな!」と聞こえてきた。
「よかったですね、カミナさん」
横からそう言ってくるインテリ。
「まぁな。お前は“ナワバトラー”だとわかってたのか?」
「まぁ。ゲジさんが女の人とできると思います?」
さすが、俺がバイトにいない間もデュオを組んできただけある。
「しかしゲジさん羨ましいなぁ。チヒロさんと仲良くなれて」
「じゃあ、次はインテリくんと行こうかな?」
「わっ!」
いつの間にかオレたちの後ろに立っていたチヒロ。
その顔はあの「誘っている」目だった。挑発よくない。
インテリは慌てたように頬をかいた。
「い、いや〜ぼくには高嶺の花ですよ」
「あなたも“バンカラ”する?」
「え〜デッキ弱いですし、お酒も弱いんです」
「ちょっとだけでいいから。先っちょだけ!」
「勘弁してください〜」
そんな様子を見ていたオレは、なぜか安心していた。
初日と比べてチヒロがパーティーに溶け込んでいる。
3人と1人だったパーティーが、4人になっている。
そう思いかけて、内心苦笑する。オレは案外、チヒロのことが嫌いじゃないのかもしれない。
「ガハハ!! いいパーティだな!!」
「……ああ、そうだな」
ゲジマユの高笑いに、オレも賛同した。
良いパーティというのは、笑いあえるものだから。
§
そうして当然のように、バイトはすべてクリアした。
あれ? マジで最高のパーティじゃん。
危険度も高いはずなのに、余裕でクリア出来たぞ?
これは継続確定だな……クリアの安定イコール金である。
「今日も余裕だったな、戦友!!」
ロッカールームでゲジマユが笑う。
「おう。おかげで助かってるよ」
「なにを。ワガハイこそ、お前とパーティーが組めて最高だ!!」
まっすぐ言ってくるゲジマユ。なんだが恥ずかしくて、オレは苦笑した。
服を脱いでいると、「そういえば」とゲジマユが言った。
「カミナよ、お前はこれからもチヒロ嬢と組むのだろ?」
「あぁ、当分はそうだろうな。面倒だけど、バイトの安定はするし」
「そうか。つまりは“近くにいる”ということだな?」
「あ? どういうことだよ?」
オレが目を向けると、ゲジマユはいつになく真剣な顔をしていた。
「チヒロ嬢のこと、見てやってくれ」
「そりゃ……見たくなくても見るだろ」
「そういうことではない。彼女は“危ない”んだ」
「そりゃ、危ない奴だろ」
「そこだ。彼女は自分の身体を大切にしない」
ゲジマユの言葉に、オレは息が詰まった。
身体を大切にしない? どういうことだ?
「できることなら、彼女を守ってやれ。これは戦友としての願いだ」
「お前、チヒロの何を知ったんだ?」
ゲジマユは首を振った。
「何も知らないが……彼女にはなにか危なさを感じる。そうだな、例えるなら……井の中の蛙、だな」
「カエル? あいつはタコだぞ」
「大海に出た蛙だ。いつ何に喰われてもおかしくない」
その言葉を聞いて、オレはゾッとした。
ゲジマユの「喰われる」という表現が、あまりに生々しかったのだ。
なにかの比喩だとしても、チヒロは何者かに『喰われる』のだ。
しかし、そう言うのも理解はできる。
見知らぬ男に襲われても受け入れてしまいそうな、そんな危うさを。
「……警戒しておくわ」
「頼むぞ、カミナ」
着替え終わったゲジマユは、ロッカールームを出ていった。
「チヒロを守れ、か」
ズボンを履きながら、口にしてみる。
現状はオレがチヒロに(テッパンから)守られている状態だ。
チヒロを守るその日とやらは、果たして来るのだろうか?
「ま、その時考えればいいだろ」
オレは着替え終わってから景品を交換しに行った。
『あいよ。ありがとねぇ』
今回の報酬は、金の量が多かった。
思わずニヤリとしてしまう。金が多いと嬉しいのだ。
「金が入ってる〜って顔してる」
「うおッ! ……って、後ろから声をかけるなよ、チヒロ」
私服姿のチヒロが立っていた。
「これで生活費が手に入ったね。カミナ?」
「あぁ、嬉しいぜ。少しは酒も飲めそうだ」
「ふーん、そっか。じゃあ」
チヒロがそう言いかけた時だった。
どん、と——オレに誰かがぶつかった。
「うおっ」
「おっと、ソーリー?」
「ああ、わりぃ…………って?」
聞き覚えのある声に、オレはすぐさま振り返った。
「おや、誰かと思えば。半年前に辞めたはずのカミナくんじゃないか」
前髪を垂らしたイソギンチャクのボーイの『イケメン』だった。
オレはイケメンを睨みつけ、舌打ちをした。
「久しぶりだな……クソ野郎」
そいつはかつての、因縁の敵だった。
イケメンはやれやれと言うように両腕を広げた。
「戻ってきたっていうのに、相変わらず短気そうな顔だね。カミナくん?」
「てめぇこそ、高貴だと自称してるクセに、相変わらずバイトなんてセコいことしてんだな」
お互いににらみつける。
「ねぇ、この人だれ?」
蚊帳の外にいるチヒロが訊いてくる。
「同じ『でんせつ帯』だった奴。嫌にも目に入った奴だ」
「ふーん、別に協力すりゃいいじゃん」
「お前はこいつのクソさをわかってねぇんだよ」
そこで、イケメンはチヒロをじっと見つめた。
「おや……? なんと美しいお嬢様」
イケメンはいつの間にかチヒロの後ろに立っていた。
「え、あたし?」
「あなたの美貌は、この泥溜めに咲く、奇跡のバラ……」
何いってんだこいつ。
「そう? 嬉しいね」
「いかがですか。このあと夜の街で、わたくしめと『バンカラ』しませんか?」
出た。またバンカラかよ。どいつもこいつもバンカラ脳だな。
まあこんなキザな野郎、チヒロも拒否するだろう。
「いいよ〜」
「おい待てコラァ!?」
「んみゅっ!?」
オレはチヒロを物陰まで引っ張っていった。
「ちょっと、なに?」
「言いたいことが2つある」
「短い方からどうぞ」
「あいつはろくな奴じゃない」
「そんな気はするね。もうひとつは?」
「バンカラするのか?」
「2個目のほうが短いじゃん」
チヒロは怪しいほほえみを浮かべる。
「あたしも言いたいことが2つある」
「おう」
「1つ目。ろくでもない奴でも、あたしは仲良くしたい」
「なんだそりゃ」
よくわからない考えだ。
能天気なイカならともかく、理知的なタコが言うことではない。
チヒロは指を立てて「2つ目」と言った。
「バンカラはしないよ」
「本当だな?」
「あんた、あたしをどう思ってんの?」
「ビッチ」
「失礼な奴だ!」
にしし、と笑うチヒロ。
「大丈夫だって。明日はちゃんとバイトに来るから!」
手を振って、物陰から出ていくチヒロ。
イケメンは慣れなれしくチヒロの肩を掴み、歩いていった。
取り残されたオレは、頭を抱えるしかない。
「大丈夫かよ……まじでクソ野郎なんだぞ」
あのイソギンチャク野郎は、ゲジマユとはわけが違うのだ。
「まったく、ウチを出会いの場にしてほしくないね」
一連の様子を見ていたのか、クマサンがため息を付いた。
珍しい反応である。
「あいつも引退してましたよね。なんで今さら戻ってきたんですか?」
「なんでも、バンカラマッチに飽きたらしくてね。まぁ、わたしとしては、金イクラのノルマさえ達成してくれれば、なんだっていいんだがね」
出口から出ていこうとするチヒロとイケメンを目で追う。
外はすでに暗くなっていて、夜がはじまっている。
「気になるかい?」
「あのクソ野郎のせいで、何人のバイト仲間が辞めたと思ってるんですか」
消えていくふたりの背中に、オレは吐き捨てた。
「あいつは、生粋のパーティークラッシャーですよ」
スプラしてたら投稿遅れました。
トライストリンガー強くなってうれしい。体感1.5倍はキル取れるようになった。
いろいろなアプデが来て嬉しいですね。ラインマーカーのダメージ50にしてくれないかな〜。