「キミの瞳に乾杯」
「かんぱーい」
おしゃれなバーで、あたしたちはグラスを交わした。
「好きなのを頼んでよ」と、どうやらおごってくれるらしい。
ところどころギザな言葉が鼻につくけど、気前はいいイソギンチャクだ。
「あなたのことは、イケメンと呼んでいいの?」
「あぁ。それでいいよ」
マスターから差し出された酒“スペシャルチャージラムネ・サワー”をぐいっと飲む。しゅわしゅわとした炭酸はスペシャルが貯まるようなおいしさだ。
イケメンさんは“ヒトダッシュトマト・メアリー”を飲んだ。健康志向なのだろうか。
「お酒、おいしいかい?」
「うん。良いバーだね」
「ぼくのお気に入りのところなんだ。ね、マスター?」
ヤドカリの店長が「いつもありがとうございます」とにっこり笑った。
「チヒロちゃんと一緒に飲めて、嬉しいよ」
「そう? 誰にでも言ってるんじゃない?」
「はは。手厳しいなぁ」
バーのほのかなライトに照らされるイケメンさん。
——このイソギンチャク、名前の通りなかなかイケメンだなぁ。
振る舞いは優雅さを徹底しているし、いたるところでエスコートしてくれるし、話も話しすぎずに上手く聞き出してくる。そして顔が良い。
カンペキじゃん。カミナとは大違いだ。
「キミは、カミナと組んでいるのかい?」
思い出したように言うイケメンさん。
やっぱり気になっている様子だ。
「仕方なくだけどね」
「あんな金の亡者と一緒で大変だろう?」
“金の亡者”というワードチョイスが面白い。
あれだけ「金!金!」と言っているのだから、確かに金の亡者だ。
「まぁ、腕はそれなりだし。面白いし」
「なるほど。楽しんでるようだね」
「それなりにね。あんたはカミナと知り合いなの?」
私も気になることを訊いた。
イケメンさんは困ったようにくしゃっとした笑みを浮かべた。
「同じ“でんせつ帯”のライバルだったんだ」
ライバル、という概念がバイトにもあるんだ。
バンカラマッチならわかるけど、バイトでライバルって響きは、ちょっと変な感じがする。
「一緒にパーティー組めばいいんじゃないの?」
「組んだこともあったさ。でも、波長が合わなくてね。お互い浮き輪のまま助けないなんてことはザラだったよ」
「仲悪いね〜」
カミナの苛ついている顔は容易に想像できる。めっちゃ舌打ちしてそう。
だから、とイケメンさんがカクテルに口をつける。
「キミはすごいよ。あんな我の強いイカに合わせられるなんて」
「そうかな?」
「この街では協調できるイカタコが上に行く。強いだけではだめだ。バンカラマッチもバイトも、4人で戦うものだからね。恥ずかしながら、ぼくはようやく気付いたよ。チームの大切さを」
困ったように肩をすくめるイケメンさん。
あれ……意外といい人じゃん?
カミナが目の敵にしているのは、やっぱりライバルだからなのだろう。
ボーイの世界はよくわからない。
「話に付き合ってくれてありがとう、チヒロちゃん。次のお酒は何にする?」
「じゃあ……“スペシャルセーブ・カルーアラテ”で」
「おお、チョイスがいいね。今夜は長くなりそうだ」
心地よい気分になりながら、あたしは「マスター!」とお酒を注文した。
ロビーのジュース飲んでみたい。
けどカンジキグレープだけ異色で草。
なんでかんじき(樏、橇、檋、梮)なんだ……?
セーブブーツとかでいいじゃん……?