「ダメだ……絶対ろくなことが起こらねぇ」
バイトから家に帰り、布団の上でぼんやりと考える。
浮かんでくるのは、やはりチヒロのことだった。
イケメンと夜の街に行くチヒロ——どう考えても危ない。
「だからあいつはやばいんだって」
イケメンはパーティークラッシャーである。
奴が壊したパーティーは、数十個にも及ぶのだ。
オレもイケメンと一緒に組んていた時があった。
その時は間抜けにも「いいやつ」だと思っていたものだ。
だが、奴の本性は——バイト後にあった。
オレと一緒に組んでいたガールたちが次々に襲われた。
酒を飲ませ、その後ホテルまで行く。
そして次の日にクマサンから言われるのだ。「彼女はバイトを辞めるそうだ」と。
イケメンが何をしているのか、オレでもわかる。
だからこそ、チヒロが危ないのだ。
「どうすっか……」
天井をぼんやりと見つめる。
頭に浮かぶのは、ゲジマユの言葉だった。
『彼女は危うい』
『大海に出た井の中の蛙』
『彼女を守ってやれ』
「……さすがに今回は行くか」
オレは家を飛び出した。
バンカラシティはあいかわらずやかましい街だ。
若者がウェーイと叫んでいるし、スマホで写真を撮ってはしゃいでいる。ピカピカと輝くネオンに、EDMサウンドの雨。
「どいつもこいつも浮かれやがって」
オレはこの街が嫌いだ。
誰しもが人生なんとかなると思って笑ってやがる。
こっちは金を稼ぐだけで精一杯だっていうのに。
何も考えずに笑えるような人生が羨ましいし、妬ましい。
「さて、あいつが行きそうな場所は……」
オレは目星を付けてそこへ向かう。
1軒目はバー【ハーミット・クラブ】。
扉をくぐると、「いらっしゃいませ」とマスターの声。
「さっきまでイソギンチャクのボーイとタコのガールが来てなかったか?」
マスターは「あぁ、イケメンさんですね」とうなずいた。
「20分ほど前に出られましたよ」
1軒目からビンゴだ。ツイている。
「どこに行ったかわかるか?」
「さぁ……でも、女性のほうはだいぶキテましたね。フラフラと歩いてましたよ。イケメンさんが優しく介抱されていましたが……」
ほら、やっぱりろくなことになっていない。
イケメンは半年前から変わっていないのだ。
「ありがとう、マスター。酒を飲めずに悪い」
オレは1000Gをカウンターに置いて店を出た。
「さて……本番はこっからだ」
チヒロの状態がわかれば、その後の行動も想定内だ。
イケメンはなるべく人目のつかない場所を通って、ホテルに行くはずだ。
「なぁあんた。イソギンチャクの男とタコの女を見なかったか?」
路地裏に座り込んでいた老人に話しかける。
老人は「15分前ぐらいにあっちに行ったよ」と指をさした。
オレは礼を言って1000Gを老人に渡した。老人は目を輝かせて金を受け取った。
「あのバーからここを通って、最短でたどり着くホテルは——」
オレは建物を見上げた。
ラブホテル【母なる海】。
間違いない。ここにイケメンとチヒロがいる。
「……頼むからヤってんじゃねぇぞ、チヒロ!」