「大丈夫かい、チヒロちゃん?」
バーから出たあたしは、ふらふらと歩いていた。
「だいじょうぶだよ〜まだまだいける〜!」
そんなことを言うけど、実際かなり酔っている。
自分でも酒は強くないとわかっているし、飲んだらこうなる。
でも酒は好きだし、やめられない。
「どこかで休もうよ」
イケメンさんがあたしの肩を持ってくれた。
身長高いし、細マッチョだし、いいイソギンチャクだ。
「そう〜? じゃあどこ行こっか〜?」
「そうだなぁ……」
イケメンさんはあたしの肩を持ちながら、するすると歩きはじめた。
なぜか表通りは通らず、路地裏を通っていく。
「こっちに何があるの〜?」
「まぁ、進めばわかるよ」
歩いていると、路肩に座る老人と目が合った。
あたしはにっこりと笑ってみせた。
老人はぎこちなくも笑ってくれた。
捨てられた空き缶が足に当たった。カランカランと転がっていく。
バチバチと街頭が点滅を繰り返し、そこに虫が集まっていた。
表通りから都会の喧騒が漏れて聞こえる。
「チヒロちゃんって、ほんとうにかわいいね」
急にそんなことを言ってくるイケメンさん。
「ねぇ〜それ、誰にでも言ってるんでしょ〜?」
「そんなことないって。ほんとうにそう思ってるんだ」
「あたしをかわいいだなんて、カミナも言わないよ?」
「はは。カミナ、か……」
そうしてイケメンさんは建物に入っていった。
なんの建物か見てなかった。
フロントで受付を済ませるイケメンさん。
エレベーターに乗ること6階。
部屋の扉を開けると、そこには大きなベッドが一台置いてあった。
「うわ〜ホテルだ! ふかふかだぁ〜」
あたしは真っ先にベッドに飛び込んだ。
酔った後のベッドは格別だ。
「お酒あるけど、飲むかい?」
「飲む!」
冷蔵庫から缶ビールを取り出すイケメンさん。
あたしはそれを受け取って、ぷしゅっとプルタブを引いて一気に飲んだ。
「あ〜おいしい!」
「チヒロちゃんって、本当にお酒大好きなんだね」
「ん〜、大好き〜」
ぐいぐいと飲んでいく。
酔いが冷めることはなく、再びふわふわと頭が揺れる。
「チヒロちゃんはさ、どうしてバイトするの?」
そんなことを聞かれても、真面目に考える冷静さはない。
「なんでって言われても〜暇だからかなぁ」
「暇だっていう理由で、あの過酷なバイトをするのかい?」
「まぁ、シャケをしばくの、あたし得意だし〜」
イケメンさんがベッドの端に座った。
ぎし、とベッドがきしむ。
「ぼくは、キミに戦ってほしくない」
「なんで?」
「だって、シャケは危険じゃないか。それに……キミのきれいな顔が傷つくのが、耐えられない」
気付けば、イケメンさんがあたしのすぐそばに来ていた。
手を伸ばせば、触れられる距離だ。
「ぼくは、キミのことが好きだ」
「誰にでも言って——」
「やめてくれ。ぼくの本気が傷つくだろう?」
イケメンさんは少し垂れた目をあたしに向けた。
「チヒロちゃん……好きだ」
そういって、あたしの身体が触られた。
「あっ……」
頬に触れた。イケメンさんの冷たい手。
手は首を通って、肩を通って、お腹を通って、脚に。
するすると全身を触られる。
「ねぇ、だめ……あたし、酔ってんだって」
「酔っててもいい。キミのことが好きなんだ」
「ひゃうんっ……」
太ももを触られて、あたしは声を上げた。
くすぐったいけれど、お腹の奥がぎゅっとする感覚。
イケメンさんの手は止まらない。
太ももから、あたしの大事なところへ——。
「ねぇっ……ひとつ、きいてもいい?」
イケメンさんの手が止まる。
「なんだい?」
あたしは彼の目をまっすぐ見つめた。
「あなたは、バイトに命かけられる?」
イケメンさんはきょとんとした。
「こんなときに、何を訊くんだい?」
「いいから、教えて」
「そりゃあ」
イケメンさんはむっとした顔をして言った。
そんなことなど、どうでもいいというように。
「たかがバイトじゃないか。命なんてかける必要がない。シャケなんてどうでもいいし、ただバイトをして、金を手に入れるだけだろ?」
たかがバイト。
その言葉を聞いて、あたしの迷いはなくなった。
「わかったよ、ありがとう……じゃあ、しよっか」
あたしたちは身体を重ねた。