シャケよ、さらば   作:youhi

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08.ベッド、そして身体

「大丈夫かい、チヒロちゃん?」

 

バーから出たあたしは、ふらふらと歩いていた。

 

「だいじょうぶだよ〜まだまだいける〜!」

 

そんなことを言うけど、実際かなり酔っている。

自分でも酒は強くないとわかっているし、飲んだらこうなる。

でも酒は好きだし、やめられない。

 

「どこかで休もうよ」

 

イケメンさんがあたしの肩を持ってくれた。

身長高いし、細マッチョだし、いいイソギンチャクだ。

 

「そう〜? じゃあどこ行こっか〜?」

「そうだなぁ……」

 

イケメンさんはあたしの肩を持ちながら、するすると歩きはじめた。

なぜか表通りは通らず、路地裏を通っていく。

 

「こっちに何があるの〜?」

「まぁ、進めばわかるよ」

 

歩いていると、路肩に座る老人と目が合った。

あたしはにっこりと笑ってみせた。

老人はぎこちなくも笑ってくれた。

 

捨てられた空き缶が足に当たった。カランカランと転がっていく。

バチバチと街頭が点滅を繰り返し、そこに虫が集まっていた。

表通りから都会の喧騒が漏れて聞こえる。

 

「チヒロちゃんって、ほんとうにかわいいね」

 

急にそんなことを言ってくるイケメンさん。

 

「ねぇ〜それ、誰にでも言ってるんでしょ〜?」

「そんなことないって。ほんとうにそう思ってるんだ」

「あたしをかわいいだなんて、カミナも言わないよ?」

「はは。カミナ、か……」

 

そうしてイケメンさんは建物に入っていった。

なんの建物か見てなかった。

フロントで受付を済ませるイケメンさん。

エレベーターに乗ること6階。

部屋の扉を開けると、そこには大きなベッドが一台置いてあった。

 

「うわ〜ホテルだ! ふかふかだぁ〜」

 

あたしは真っ先にベッドに飛び込んだ。

酔った後のベッドは格別だ。

 

「お酒あるけど、飲むかい?」

「飲む!」

 

冷蔵庫から缶ビールを取り出すイケメンさん。

あたしはそれを受け取って、ぷしゅっとプルタブを引いて一気に飲んだ。

 

「あ〜おいしい!」

「チヒロちゃんって、本当にお酒大好きなんだね」

「ん〜、大好き〜」

 

ぐいぐいと飲んでいく。

酔いが冷めることはなく、再びふわふわと頭が揺れる。

 

「チヒロちゃんはさ、どうしてバイトするの?」

 

そんなことを聞かれても、真面目に考える冷静さはない。

 

「なんでって言われても〜暇だからかなぁ」

「暇だっていう理由で、あの過酷なバイトをするのかい?」

「まぁ、シャケをしばくの、あたし得意だし〜」

 

イケメンさんがベッドの端に座った。

ぎし、とベッドがきしむ。

 

「ぼくは、キミに戦ってほしくない」

 

「なんで?」

「だって、シャケは危険じゃないか。それに……キミのきれいな顔が傷つくのが、耐えられない」

 

気付けば、イケメンさんがあたしのすぐそばに来ていた。

手を伸ばせば、触れられる距離だ。

 

「ぼくは、キミのことが好きだ」

「誰にでも言って——」

「やめてくれ。ぼくの本気が傷つくだろう?」

 

イケメンさんは少し垂れた目をあたしに向けた。

 

「チヒロちゃん……好きだ」

 

そういって、あたしの身体が触られた。

 

「あっ……」

 

頬に触れた。イケメンさんの冷たい手。

手は首を通って、肩を通って、お腹を通って、脚に。

するすると全身を触られる。

 

「ねぇ、だめ……あたし、酔ってんだって」

「酔っててもいい。キミのことが好きなんだ」

「ひゃうんっ……」

 

太ももを触られて、あたしは声を上げた。

くすぐったいけれど、お腹の奥がぎゅっとする感覚。

イケメンさんの手は止まらない。

太ももから、あたしの大事なところへ——。

 

「ねぇっ……ひとつ、きいてもいい?」

 

イケメンさんの手が止まる。

 

「なんだい?」

 

あたしは彼の目をまっすぐ見つめた。

 

「あなたは、バイトに命かけられる?」

 

イケメンさんはきょとんとした。

 

「こんなときに、何を訊くんだい?」

「いいから、教えて」

「そりゃあ」

 

イケメンさんはむっとした顔をして言った。

そんなことなど、どうでもいいというように。

 

「たかがバイトじゃないか。命なんてかける必要がない。シャケなんてどうでもいいし、ただバイトをして、金を手に入れるだけだろ?」

 

たかがバイト。

その言葉を聞いて、あたしの迷いはなくなった。

 

「わかったよ、ありがとう……じゃあ、しよっか」

 

あたしたちは身体を重ねた。

 

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