シャケよ、さらば   作:youhi

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09.命、そして即答

「申し訳ございませんが、他のお客様のことは……」

 

ホテルのフロントで、オレは足止めを食らった。

 

「1000Gじゃ足りないか?」

 

さらに1000Gを受付に置く。

それでもフロントマンは首を振った。

同じように「申し訳ございません」というわけだ。

 

さすがに10階もあるホテルだから、しらみつぶしでは間に合わない。

何としてでもここで聞くしかないのである。

 

「オレが探してるのは、オレの相棒なんだけどさ」

 

フロントマンは面倒そうに眉を潜めた。

オレは気にせず語り続けた。

 

「そいつがさ、酒に酔わされて、犯されるんだよ。そいつは自分を大事にしないんだ。どうなってもいいと自暴自棄なんだよ。オレは止めたいんだよ。そんで怒鳴るんだ」

「そんなこと言われても困りますよ」

 

どうやら同情させようとしても無駄らしい。

 

「じゃあ、こいつで」

 

オレは諦めて——10000Gを置いた。

フロントマンは目を見開いた。

たかが情報提供で10000Gは、フロントマンからすれば良い収入だろう。

 

「6階の603号室です」

 

ご丁寧にもキーまで渡してくれた。

フロントマンは「勘違いしないでください」と口を尖らせた。

 

「私はお金になびいたわけではなくて、あなたの熱い想いに負けただけですから」

「じゃあ10000G返してくれないか?」

「はて、なんのことやら」

 

客を大事にする、良いフロントマンだ。

 

「さ、部屋に行くか……」

 

エレベーターに乗り込み、6階まで待ちながら、ふと思う。

何と言って、チヒロを止めればいいだろうか。

イケメンを殴るか?

それとも、チヒロを説得するか?「もっと自分を大切にしろ」って。それでどうにかなるかもわからないが。

 

というか、チヒロとイケメンがヤッてる時に入るのきつくないか?

知人のセックスを見てフリーズしないなんて、無理では?

 

「……いや、何があろうと止めるぞ」

 

腹をくくる。

チン、と6階に付いた瞬間、オレは走り出した。

603号室はすぐ見つかった。

オレは静かにキーを差し込んだ。ガチリと鍵が開いた。

 

「…………」

 

なんて言おうかは、やっぱり決まらなかった。

だが、なんとしてでも、止める。

 

「チヒロ、大丈夫か!」

 

扉を開けて中に入った。

そして。

 

「な、な——」

 

目の前に広がる光景に、オレは固まってしまった。

 

「なんだこれはッ!?」

 

なぜなら、そこには。

 

 

 

 

 

床に倒れているイケメンの姿があったのだ。

 

 

 

 

 

「あー、カミナだぁ。やっほ〜」

 

床に転がったイケメンは、気を失っていた。

顔は紫色になり、整った顔面は腫れている。

 

「なんでイケメンが、ボコボコに……!?」

「いやぁ、ちょっとハッスルしちゃって」

 

ベッドの上には、でろでろに酔っているチヒロ。

 

「まさかお前……バンカラしたのか?」

「してないっての。あ、広い意味ではしたことになるかな?」

「どういうことだよ!?」

「まーまー」

 

チヒロがにへっと笑った。酒のせいか顔が赤い。

 

「あんたの言うとおり、ろくな奴じゃないことはわかったよ」

「わかってて付いて行ったんだろ……ほんとあぶねぇ奴だな」

「心配してくれてんのぉ?」

 

その問いに、オレは答えなかった。

正直に答えても、嘘を付いても、チヒロに笑われるだけだ。

 

「というか、これはお前がやったのか?」

「カミナは質問が多いねぇ」

「謎だらけだから聞いてんだよ!」

「それは後で話すよ」

 

よっと立ち上がったチヒロは、床に倒れるイケメンの肩を叩いた。

 

「次があったら、楽しみにしてるよ。イケメンさん」

 

イケメンはぴくりとも動かなかった。

 

 

§

 

 

「はー、ちょっと飲みすぎちゃったかなぁ」

 

ラブホテルから出て、バンカラシティの表通りに出た。

 

「自分の身体ぐらい、自分で気をつけろよ」

「そうだねぇ」

 

夜10時だというのに、街はまだ大勢の人がいた。

バンカラシティは眠らないのだ。

 

その時、腕にむにゅっとした感触がした。

チヒロがオレの腕を抱きしめていた。

 

「な、なんだよ急に!?」

 

振り払おうとしても、ぎゅっと力が込められていて、抜けない。

 

「今だけはさ、そうさせてくれない?」

 

チヒロは不安げな顔していた。

酔いがまだ冷めていないようで、顔が赤い。

 

「……少しだけだぞ」

「ありがと」

 

こんなチヒロを見るのは初めてで、調子が狂うばかりだ。

家に向けて表通りを歩いていると、チヒロがぎゅっと力を込めてきた。

 

「ねぇ、カミナはさ……」

 

街の喧騒に消えそうな小さな声が、オレの耳元で囁かれる。

 

「バイトに命かけられる?」

「命? なんだよ突然」

「いいから、教えて」

 

ほんとうに突然の質問だ。

バイトに命をかけられるか、だって?

 

「そりゃあ」

 

考えなくても、答えは決まっている。

 

「当然。命かけるだろ」

 

オレが即答すると、チヒロが驚いたように見てきた。

 

「命だよ? バイトしなくてもいいじゃん」

「というかそもそも、金のために命かかってるからな。死ぬ気でバイトしなきゃいけねぇんだよこっちは」

「金なんて、他の方法で稼げるじゃん」

「あいにく、その他の方法ってのがねぇからな。バイトに命かけるしかねぇってことだ」

 

チヒロはきょとんとした顔をしていた。

少しすると、にひひと笑った。

 

「金の亡者だぁ」

「あたりめぇだ。金のためなら亡者にでもなってやらぁ」

「そっか……」

 

そしてぼそっと言った。

 

「やっぱりカミナじゃないとダメだなぁ」

 

不意にそんなことを言われたので、ドキッとしてしまった。

恥ずかしくなってきた。顔が燃えるように熱く感じる。

 

「ホントにどうしたんだよ、お前」

「べーつに。あ〜酔いが冷めちゃった。ねぇ、これから飲まない?」

「あ? 酒飲む金がもったいないねぇって——」

「お願い」

 

上目遣いでこちらを見てくるチヒロ。

イケメンに何をされたのかはわからないが。

少なくとも、チヒロをこんなにしおらしくさせるほどには、怖い出来事だったのだろう。

 

そんなことを想像して、オレは人差し指を立てた。

 

「じゃあ、1杯だけな」

「うそっ!? あの守銭奴のカミナが!? 金の亡者で友だちのいないカミナが!?」

「いくらなんでも言いすぎじゃねぇか!?」

「マジで付き合ってくれるの?」

「まぁ少しは飲んでやるよ。ただ、バンカラはしねぇからな!」

 

チヒロは大きな声で笑うと、オレの背中をぱしぱしと叩いた。

 

「しないっての〜。カミナと飲むの楽しみだなぁ」

「オレ、そんなに酒強くねぇぞ」

「あたしも1杯ぐらいで十分だから、ちょうどいいでしょ」

 

歩き出したチヒロにオレは付いていった。

どこのバーに行くのだろうかと思っていると、目的地にはすぐに着いた。

バー【ハーミット・クラブ】。

 

「お前さ……さっき嫌な思いしたんじゃないのかよ?」

「それはそれ、これはこれ。お酒も料理も美味しかったから」

「……心臓の強い女だな」

 

オレはバーの扉を開けた。

カランコロン、とドアベルが鳴った。

 

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