チックショーーー!!
【街頭インタビュー】
Q.『安全統制治安法』についてどうお考えですか?
「本当に治安が良くなりましたね。少し前まで、あっちのアパートの住人が深夜まで騒いでいたんですけど、警察の人が取り締まってくれて静かな夜がきました」
「うちの店で、いっつもツケで飲んでく常連がいたんだよ。親父の代に世話になった人だったけど、正直困ってたんだ。けど、法律ができてツケが食い逃げ扱いになって逮捕されたんだ。逮捕はやりすぎだと思ったけど、溜まったツケがきちんと返済されて続けてるから助かっています」
「正直……味気ない世の中になったと感じます。散歩をしている保育園の子供たちに挨拶したら逮捕されたって聞いて、近所の人たちと気軽に駄話もできない時代が来てしまったなぁと……」
「私の祖父は『安全統制治安法』のせいで逮捕されました。シルバー人材センターに登録し、小学校の通学路で交通安全指導員として働いていました。信号無視をした小学生を厳しく叱ったら、その日の内にネオ警視庁の捜査員が家に押し寄せてきて……あれ以来、祖父と会えていません。祖父は、子供を泣かせた悪い奴と認定されたんです」
街頭調査の結果。
賛成78%
反対7%
どちらとも言えない15%
なお、当調査において炙り出された不穏分子については『安全統制治安法』に則り処罰を執行する。
***
どうしてこうなった。
ある日、問題児どころか災害級の人類悪としか表現できない部下が、綺麗サッパリ漂白されたかのような真人間に生まれ変わったと思ったら、あっと言う間に大出世してしまった。今では、様々な特権によって階級が上となってしまった部下に顎で使われ、数々の無茶振りをされている。
両津ネオ警視庁長官から大量に投げられる事務仕事を片付けながら、
レジスタンス鎮圧のためという名目で、23区内では『安全統制治安法』が次々と施行されている。緊急事態の超法規的措置により、半日も経たずに施行されて地域の住民に効力を及ぼしているが、その超法規的措置の手続きを行っているのは、大量の必要書類を揃えて関係各所の決裁を受けるために駆け回っているのは、下っ端と中間管理職である。
「失礼します。署長、ネオ警視庁長官から追加の書類です」
「そこに置いておいてくれ。クソ、両津め……! こんなことになっているのに、大原君が病気休養だなんて! 寺井君、大原君から連絡はないのか?」
「な、ないですね。やっぱり、体調が優れないようで……」
病休と偽ってネオ警視庁に反発するレジスタンス活動をしています。とは、言えず。一時的に署内勤務となっている寺井は、決裁待ちの書類の山を署長のデスクに積み上げるしかできないのである。
いない人間に助力を求めても仕方がない。恨み節を零しても書類は減ってくれないのだ。
「あれ……? 何か、音楽が聞こえませんか?」
「音楽?」
「どこかで聴いたことがあるような?」
「こ、これは、爆竜大佐の……!」
署長室のブラインドを上げて太陽の光を入れると、音楽がはっきりと聞こえる……と言うか、こちらに近づいている。
『ワルキューレの騎行』を爆音で轟かせながら葛飾署に迫って来るのは、アメリカの戦闘機。とても覚えのあるシチュエーションで署長が特定の人物の名を思い出せば、警告を発する暇もなく葛飾署へミサイルが撃ち込まれたのである。
「しょ、署長! 何ですかこれはーーー?!」
「知らーーーん!!」
アメリカ陸軍が鬼軍曹、もとい爆竜大佐によって葛飾署が爆撃された。
葛飾署は、何度目になるか分からない爆発炎上……はしなかった。撃ち込まれたミサイルが爆発しなかったのだ。
爆発炎上はしなかったが、正面入り口に大穴が空いて二階まで崩壊した。幸いにも、戦闘機が出現した瞬間に警察官たちはみんな逃亡したため、怪我人は出ていない。
『コラーー! 両津もいないのに何故攻撃するんだ! 米軍に厳重抗議するぞ!!』
『今のは攻撃ではなーい!』
慌てて屋上に出た屯田は、拡声器を手に戦闘機へ怒鳴りかけた。戦闘機からもスピーカー越しに声が聞こえてきたが、どう聞いてもアメリカ陸軍所属の爆竜大佐である。
『両津から借りていたゲーム機を返却しただけだ。両津がここにいると聞いてな』
『両津……ネオ警視庁長官は、ここにはいないぞ! どこにいるか知らん!』
『では返しておいてくれ。帰る!』
一階に下りた寺井が、爆竜が撃ち込んだミサイルを確認すると確かに爆発はしていない。追突の衝撃でパカっと割れれば、中からは丁寧に梱包されたゲーム機とソフトが数本入っていた。
確かに返却したと言えばその通りだが、返却方法が側迷惑である。そして、屯田の言う通り葛飾署に善の両津はいない……はずだった。
戦闘機が去って行ったら、葛飾署に起きている異変が視界に飛び込んできた。葛飾署の周囲をぐるっと取り囲む黒山の人だかり。知らない顔もいるし知っている顔もいる大勢の群衆が、『打倒・ネオ警視庁』と書かれた幟や旗を掲げながら怒りのオーラを放出して葛飾署に迫って来ている。
しかも、その先頭に立って拡声器に怒鳴り始めた人物には非常に見覚えがあったのだ。
『我々レジスタンスは、『安全統制治安法』の撤廃とネオ警視庁の解体を要求する! 善の両津! 貴様を退治しに来たぞーーー!』
「おおお、大原君?! 病休じゃなかったのか?」
『両津はどこだーーー!!』
葛飾署を取り囲むレジスタンスたちは、大原の言葉に合わせて雄叫びを上げながら攻め入って来た。狙うは善の両津。ネオ警視庁長官の椅子から引き摺り下ろし、日常を取り戻すのだ。
屯田が拡声器の存在も忘れて大声で「両津はここにはいない!」と叫んでも無駄である。彼らは、善の両津がここにいることを知っている……葛飾署の地下深く、ネオ警視庁に所属する捜査員たちも知らない秘密の空間に、ネオ警視庁長官の椅子がある。そこに、善の両津がいた。
善の両津を取り囲む四方八方の映像モニターには、葛飾署に突っ込んで来るレジスタンスの軍勢と、それを率いる大原の姿がしっかりと映っている。
「ネオ警視庁への反逆は、国家への反逆……然るべき措置を取ります。ポチっとな!」
善の両津が緊急ポタンを押した。途端、葛飾署の全域で地鳴りが発生する。
署内には緊急事態アラームが鳴り響き、職員たちには避難勧告が発令された。それを聞いた寺井も屯田も慌てて外に出て振り返ると……葛飾署が変形していたのだ。
いつもの葛飾署が、爆竜に破壊された箇所を中心に四つに分割されて地下に引っ込んだ。変わりにせり上がって来たのは、大空を目指してそそり立つ大樹によく似た黒い塔。葛飾署があった場所に別の建物が出現しただけではなく、その周辺地域も地下に格納されて見晴らしのいいコンクリート整備された平地となったのだ。
「な……なんだこれはーーー?!」
「葛飾署が、黒いスカイツリーみたいに……?」
『これこそ、ネオ警視庁が誇る鉄壁要塞ブラックツリーです。大原大次郎を始めとしたレジスタンスどもは、国家反逆罪で現行犯逮捕だ』
スピーカーから響く善の両津の声に合わせ、第二のスカイツリーことブラックツリーの根本がパカっと開けば、中からはマユゾンの大群が唸りながら這い出てきた。実は、葛飾署の地下が収容所だったのである。しかも新顔として、昨日一斉検挙された元レジスタンスのメンバーもいた。マユゾンの刑を執行されたのだ。
屯田や寺井だけではなく、一般の警察官や職員たちが急ぎ安全な場所に避難するのと入れ違いに、ネオ警視庁のロゴが入った護送車が急行する。中から現れたのは完全武装したネオ警視庁の捜査員たち。彼らは出世街道を爆進中のエリート警察官であり、レジスタンスのメンバーたちにとっては悪法に則り暴虐の限りを尽くす敵である。
レジスタンスVS善の両津
関ヶ原の合戦が如き対決が、今火蓋を切られたのだ。
「レジスタンスを制圧しろーーー!」
「全員逮捕だーーー!」
「……行きなさい、勇者たち。
「「「メイヴちゃんサイコーーー!!」」」
鞭が空を切る音が響く度に、人々は声高々に女王を褒め称えながら突撃して行く。
「米軍との交渉を行なっていたボルボさんから連絡が来ました! ミサイル一発、爆竜大佐からの助太刀です」
中川がこの連絡を受けた次の瞬間から、レジスタンスとカルデアは善の両津への殴り込みの計画を練り上げ、この瞬間に実行したのだ。
さあ、反撃の時間だ。
「オラッ! オラーーー!!」
「ひ、人がゴミのように投げられている!」
「葛飾署の左近寺だ! 油断するな……うわーーー?!」
完全武装していたネオ警視庁の捜査員が、大外刈りで地面に叩き込まれた。マユゾンが何体もしがみつくが効果はなく、邪魔だと言わんばかりに投げられ、締められる。
レジスタンスの先頭に立って雑魚を蹴散らすのは、葛飾署が柔道師範、左近寺竜之介。レジスタンスたちは彼が切り拓いた道を進軍するが、ネオ警視庁の捜査員たちは防弾盾を構えてファランクスを組んで進撃を跳ね返す。
しかし、レジスタンスで警戒すべき戦力は左近寺だけではない。防弾盾に一発の銃弾(麻酔弾)が撃ち込まれたのを皮切りに、集中砲火が始まったのだ。
「撃てーーー!」
「あの全身迷彩服は、元グリーンベレーその他の経歴持ちのボルボ西郷です!」
「怯むな! 相手は実弾を使用していない!」
サブマシンガンを撃つ狙撃部隊を指揮するのは、かつては米軍に所属して数々の戦場を渡り歩いてきたボルボ西郷である。
左近寺を先頭にして突撃し、ボルボが銃器で後衛に回る。ネオ警視庁のファランクスは銃弾の雨に撃たれ、その衝撃で微かに後退して1人の捜査員の足が滑った……その時だった。コンクリートで舗装された地面が、地雷の如く爆発したのは。
「ぎゃぁぁぁぁぁ?!」
「あっちでも爆発が……マユゾンが大量に吹っ飛ばされています!」
「失礼。埋め火を仕掛けさせていただきました」
音も気配もなく現れた小太郎のスキル『破壊工作』が炸裂した。既にこの一帯は、彼によって大量の罠が仕掛けられている。ネオ警視庁が持つ最新鋭の装備とマユゾンの無尽蔵さからくる戦力差は、彼の仕掛ける罠でカバーする。そして、小太郎と同じく『気配遮断』にて捜査員たちの背後に回った暗殺者が、彼らを斬り倒したのである。
攻撃に入ると同時に気配を現した以蔵が、マユゾンも捜査員も関係なく打ち倒して行く。
殺傷を禁止されているので武器は木刀だが、その動きは非常に活き活きしていた。この戦いでレジスタンスが勝利できれば、目が飛び出るほどの報酬が懐に入るのだ……絶対に、完遂しなければならない。
「こいつらも人! マユゾンも人! 人風情が、人斬りに勝てる訳がないじゃろが! わしの金のためにやられやーーー!」
「……誰だ、あの無駄に張り切っている奴は?」
「中川が買収して寝返ったらしい」
「あなたたち」
左近寺とボルボの背後から、蠱惑的な甘い囁きが聞こえてきた。
男ならば誰もが魅了される美声と女神の如き黄金律の肉体。乙女の微笑みに滲み出る色香に誘われれば、反射的に鼻の下が伸びてしまうし、鼻血も垂れてしまう。左近寺もボルボも、自分たちへの言葉を紡ぐメイヴの唇に釘付けになった。
「雄々しく逞しい肉体に、熟練のテクニックと戦場を睨む視線……いいじゃない。さあ、熱く叫んで。閨で愛を吐き出すように、私を全身で愛しなさい」
「「メイヴちゃんサイ……っ!」」
「だ、駄目だ。俺には沙織が……!」
「俺にはジョディーが……!」
この戦いに勝利したら、『どきどきメモリアル』全シリーズ早乙女沙織コンプリートボックスを買うのだ。
この戦いに勝利したら、(今回のミサイル一発の見返りとして)ジョディーと2人きりでグレートバリアリーフへバカンスに行くのだ。
本能的に抗うことができない女王の誘惑を振り払い、心に決めたただ1人の女へ操を捧げ、左近寺とボルボは戦場へと特攻して行った。
「沙織ーーー!!」
「ジョディーーー!!」
「まあいいわ。たった唯一に捧げる恋っていうのも、最近は悪くないって思えてきたもの」
「メイヴ殿、お願いします!」
「ええ、激しく行くわよ」
左近寺とボルボが切り拓いた、ブラックツリーを貫く一本道。メイヴが、自身の
当然、ネオ警視庁も易々と突進させる訳がない。ブラックツリーの至るところに設置されている巨大な機関銃の照準が
この圧倒的な火力を前にすれば、例え防弾ガラスでも装甲車でも一瞬にして蜂の巣になってしまうだろう。しかし、神秘を纏った女王の
雨粒を弾くように突き抜け、走り抜け、
「行くぞーーー!!」
「おりゃーーー!!」
このままブラックツリーの内部に滑り込み、善の両津と対面するのだ。
「待ってろよクソ長官がーーー!」
「先輩!? 何やっているんですか!」
「両津さんが、ブラックツリーを登っています!」
「以蔵さんからもらったセキュリティカードがあるから、内部から侵入できるのに!」
どうやら、両津の勢い極まってしまったようだ。公園の木を登るかのようにブラックツリーにしがみ付き、あっと言う間に中川の声が届かないほどの高さまで登って行ってしまったのである。
流石に危ないので、自分たちは当初の予定通り内部のエレベーターで登って行こう。こちらには、以蔵が善の両津から与えられていた、内部のセキュリティを解除するカードキーがある。
『両津勘吉統合作戦』の要となる、中庸と悪の統合両津がパーティから抜けてしまったが、連れ戻す暇はない。ブラックツリーへの侵入を阻止すべく、ネオ警視庁もマユゾンもこちらに迫って来ている。
「メイヴちゃん、小太郎くん! ここは任せた!」
「任せなさい」
「御意!」
「岡田さん、お願いします!」
「おう!」
「待ってくれ! わしも行くぞ!」
「部長!」
「中川さん、立香さん。行ってください。ここは、
戦場の隙間を縫うように、大原が匍匐前進でここまで辿り着いた。『安全第一』の防災ヘルメットを被っている。
葛飾署跡地の戦場をメイヴと小太郎、以蔵に任せ、マリアもまた地上に残った。ブラックツリーに背を向け、門番が如くネオ警視庁とマユゾンの前に立ち塞がる……何人たりとも、蟻1匹すらも通しはしない。
「ここを通りたければ、私を倒してからにしなさい!! せやっ!」
マリアの蹴りで、何人もが吹っ飛んだ。
「ブラックツリーに侵入されたぞ!」
『機関銃班、地上を銃撃しなさい』
「危険です長官!」
『止むを得ません。狙撃許可を出し……』
無線を通して指示を出す善の両津が全てを言い終わる前に、機関銃が爆発した。ブラックツリーから飛び出た枝のように生えた機関銃が、次々と爆発して使い物にならなくなっていくではないか。
事故ではない。これは、外部から攻撃を受けている。馬鹿な、周囲の半径5kmには戦闘機も戦車も何も反応がないぞ。
これは、まさか……。
『カルナくん。レーダーに引っ掛からないほどの遠方から攻撃を受けています。すぐに対処を!』
「承知した。マスター」
ブラックツリーの天辺に立つカルナには見えていた。次々と爆発した機関銃の銃口を、
全ての機関銃を始末し終え、矢継ぎ早にカルナが狙われる。黄金の鎧によって弾かれて勢いを失くしたソレを手に取れば……カルナの顔には笑みが浮かんだ。
蒼炎の如き矢羽根を持つ矢。それには鋭い鏃はなく、敵を抉り取るための仕掛けがされている。何度も目にした、何度も叩き落とした、何度もこの矢に射抜かれた。
湧き上がる甘い痺れが表す感情は、歓喜だ。
「やはり、オレは幸運だな。来たか……アルジュナ」
葛飾区から遥か遠く、東京湾を埋め立てた人工島の建つビルに弓兵がいた。
『千里眼』が捉えた標的は1μの狂いもなく正確に撃ち抜かれ、今はカルナに照準が定められている。
インドの古代叙事詩『マハーバーラタ』が英雄にして、カルナを討ち取った異父弟。葛飾の地にて、癒えることのない宿痾が召喚されたのだ。
おそろしく遠距離からの狙撃。
カルナさんでなきゃ見逃しちゃうね。