人情消失圏域 亀有――失われた両津   作:ゴマ助@中村 繚

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終幕 こちら葛飾区亀有公園前派出所

 やらかした子供へのお仕置きは、痛い拳骨だと昔々のそのまた昔からそう決まっている。

 蜘蛛の巣のようにヒビ割れた床の中央に、アリジゴクのようにめり込んだ善の両津……ほぼいつもの両津の拳から煙が立ちそうなほどの渾身の力でぶん殴られれば、流石の両津でもそう簡単に復活はできなかった。

 鉄拳制裁完了。檸檬を怖がらせた両津の咎は、両津によって払われたのである。

 

『敵性、及び聖杯の反応が沈黙……善の両津が完全に失神しているぞ!』

「や……やった! 善の両津が倒れたーーー!」

「両さん!」

「おう、こっちは終わったぜ」

 

 中川の歓喜の叫びが、事件の収束を意味していた。

 善の両津は、ほぼいつもの両津によって倒された。それと同時に、両者の間には目を開けていられないほどの眩い光が迸った……これは、中庸と悪の両津が統合された際にも発生した光だ。三つに分かれた両津が、元の両津に戻るのである。

 これで、めでたしめでたしで完結する……訳がなかった!

 ブラックツリーの外、巨大大原VSコロンブスの卵の戦いが佳境を迎えている外の状況!

 

「これで……トドメだァーーー!!」

「ハァーーー!?」

 

 大原は、二刀流を捨ててステゴロでコロンブスの卵と殴り合っていた。殴り合いと取っ組み合いの果てに、コロンブスの卵が背負う光輪を鷲掴みにした大原はコロンブスの卵を持ち上げ、バックドロップでトドメを刺したのである。

 が、着地点が悪かった。

 コロンブスの卵の天辺が、ブラックツリー先端に突き刺さったのである。そりゃもう、ウズラのゆで卵に爪楊枝を突き刺さるかの如く。

 ブラックツリーは地震を始めとした地上からの衝撃を吸収する設計はしっかりしているが、上からの衝撃には残念ながら弱かった。コロンブスの卵が突き刺さった衝撃によって、ブラックツリー全体に次々とヒビが走り、善の両津が埋め込まれた床のヒビも深度を増し、遂には崩れ落ちた。

 

「おお……見える、見えるぜェ……あれが、夢の黄金郷……!」

 

 コロンブスの卵、もといコロンブスはトドメを刺されて退去した。またいつか、カルデアの敵として立ち塞がる日が来るかもしれない。

 コロンブスを仕留めた大原も、アンデルセンの宝具の効果が切れて元の大原に戻った。そして見上げると……ブラックツリーが、最上階から崩壊し始めたのだ。

 

「に、逃げろーーー! ブラックツリーが崩れるぞーーー!」

 

 ブラックツリーの最上階が大変なことになっていた。

 両津の統合によって発生した光で視界がきちんと働かず、それなのに上から下から崩壊が始まって逃げ場がない。

 

「ランスロット! アンデルセン! 中川さんをお願い!」

「マスター!」

「マスターには私が付いています!」

 

 マシュは立香の手を取って、盾を顕現させる。

 それを持ち上げて、降って来るブラックツリーの残骸から立香を護る傘とし、このままゆっくりと勢いを殺しながら地上へと生還しようとしたが……ぐいっと、光の中でマシュと立香の身体が引き寄せられる。

 2人の少女の身体は太い腕に抱えられ、強風を肌で感じ、ブラックツリーが崩壊する音を聞きながら光の中から脱出した次の瞬間には、ドン!という力強い衝撃で身体が若干ビリビリと痺れた。

 やっと両目を開くことのできた立香が見たもの……自分とマシュを両肩に乗せ、地面にガッシリと足を着けた両津がそこにいたのである。

 だが、その姿は立香が知る両津ではない。彼は警察官の制服を着ていたのだ。しかし、善の両津のようにしっかりと上までボタンを締めず着崩して腕まくりもしているし、足元はサンダル履き……そうか、彼は、元に戻ったのだ。

 

「立香、マシュ、怪我はないか?」

「っ! 両さん!」

「両津さん! そのお姿は」

「ん? あ! いつもの制服に戻ってる!」

「やっぱり! 善・中庸・悪、全部の両さんが統合された!」

 

 東京23区が、葛飾区が、亀有が特異点となってしまった原因であった善の両津が倒され、悪と中庸の両津と統合された。

 金にがめつく不真面目ではあるが、義理人情に厚く完全には憎めない駄目警察官……両津勘吉巡査長が戻ってきたのである。

 

「先輩!」

「両津ーーー!」

「両ちゃん!」

「両様ーーー!!」

 

 ランスロットに抱えられ(アンデルセンは肩にしがみ付いていた)、中川も無事にブラックツリーから脱出できていた。彼を始め、大原に麗子と、両津の元へと駆け出し、マリアはロケットの如く飛び出して両津に抱き着いた。

 

「両様! ああ、本物の! マリアの両様ですわ~!」

「待て、離れろマリア!」

「両ちゃん……本当に、元に戻ったのね」

「っ! 今、リョーツGPX型ワクチンMrk.2の解析を任せていた、中川グループの研究所から連絡が。マユゾンとなった人々を元に戻す、特効薬が完成しました! ぼくたちレジスタンスの戦いが、終わったんです!」

「やっと……やっとだ……このバカもんが……!」

 

 善の両津がいなくなったことで、彼が強いた『安全統制治安法』は廃止され、マユゾンにされた人々は元に戻るだろう。そう、全部に戻るのだ。

 警察官がどれだけ頑張っても、悪い奴らがたくさんいて、女性や子供が危険な目に遭うかもしれない。一見すると平和だけども、コンビニの裏に行けば犯罪が蔓延っている世界かもしれない。

 でも、近所の人たちと挨拶をして、隣の家に夕食のおすそ分けをしに行く人情が残る場所もある……そんな毎日が、きっと戻って来る。

 

「両津! も、元に戻ったのか……?」

「署長! この通り、善でも悪でも中庸でもある元の両津です! 急ぎ『安全統制治安法』の撤廃を!」

「そうか、元の両津に戻ったか……では、ブラックツリーとその周辺の修繕費、全額(目玉が飛び出る数字)円を支払ってもらおうか」

「ハァ?!!」

 

 粛々とそう宣言した屯田と、驚愕する両津の隣でブラックツリーが完全に崩れた。転がる瓦礫の撤去、元の葛飾署に戻すための工事費、ご迷惑をかけた周囲の皆様への賠償金……etc,etc

『安全統制治安法』の施行下ならば、全てネオ警視庁の予算で支払われるが、それが撤廃されネオ警視庁が解体されるのならば、元長官である両津の自腹になってしまうのだ。

 

「そんな金、払える訳ないでしょ! そもそも、ブラックツリーが倒れたのは部長のせいであって……」

「そ、そうだ両津! 善の両津はネオ警視庁長官としてかなりの報酬をもらっていたぞ! あいつは散財せずに貯金していたから、それで支払えるはずだ!」

「善の両津の貯金額でも足りませんよ……」

 

 ここで、両津の頭は瞬時に記憶を整理した。全ての両津が統合されたことにより、善の両津が独自で得た記憶もオリジナルの両津は保持していたのだ。

 善の両津が契約したサーヴァント――コロンブスは退去したが、カルナとはまだ契約中だ。彼は確か、黄金の鎧を身に纏った戦士。鎧をちょっとだけ削らせてもらえれば、何とかなるかもしれない。

 

「カルナくーーん! マスターのわしの頼みを聞いて……」

「マスターか。此度は、有意義な戦いだった。まさか、アルジュナと戦えるとは。オレは幸運に恵まれている。貴様の身の程知らずで愚かな夢想は潰えたか……それもまた、人の業というもの。これからも、雑草の如く這い蹲りながら生きるが良い」

 

 カルナがアルジュナとの戦いから戻って来ていた。この上なく満足した表情で、全身黒焦げで、何か爆発に巻き込まれたのか髪がアフロのように爆発している。

 両津が当てにしていた黄金の鎧は欠けることなくカルナの身体にあったが、既に退去が始まっていた……感謝しているのか挑発しているのか分からない台詞を残し、カルナが退去した。

 

「マスター。事件解決、おめでとうございます。このアルジュナ、カルナの足止めを成功させました。またいつか、お会いできましたら、その時は再び貴女というマスターの戦場を切り拓くため、弓を引きましょう。貴女たちの旅路に、幸多からんことを」

「ありがとう、アルジュナ。まだどこかで!」

 

 一方、カルナと供に人工島と中川グループの研究施設と核シェルター設備を消滅させたアルジュナも、役目を終えて退去した。カルナと同じく全身黒焦げであり、髪も暴れるようにぴょこぴょこ跳ねている。

 インド規模の大乱闘をして、満足して還って行ったのだった。

 

「そんなーーー! そ、そうだ! 以蔵!」

 

 扱いは悪かったが、まだ両津は以蔵のマスターである。確か彼は、10億円で中川に買収されたのだ。

 サーヴァントの金はマスターのもの。そんな方程式を頭に浮かばせ、両津は急ぎ以蔵を探した。

 

「こちら、報酬の10億円です。お疲れ様でした」

「金じゃーーー! わしの金や! 早速酒に……ん、もう還るが!? まだ金だけぜよ!」

「待て! 還るな以蔵!」

 

 以蔵は、中川から10億円の小切手を受け取った次の瞬間に退去した。ある意味、勝ち逃げである。

 両津は困った。全身から冷や汗が滴り落ちている。

 やはりここは、中川と麗子に土下座して借金するか、逃げるか……と、「逃げる」のコマンドに天秤が大きく傾きかけたその時、頭上から何かが降って来る音が聞こえた。

 ひゅるるる~っと音がして、スポっと両津の頭に何かが降って来たのだ。

 

「……あ、聖杯」

 

 善の両津が取り込んでいた聖杯。諸悪の根源にして、万能の願望器。

 両津が統合された衝撃で弾き出された聖杯が、両津の頭にスポっと着地したのである。

 

「っ!」

「両津さんが逃げました!」

「聖杯を持ち逃げしたぞ!」

「追えーーー!!」

「いざという時は攻撃する!」

戦車(チャリオット)出すー?」

 

 聖杯を抱えた両津が逃亡を図ったのである。

 願えば叶う奇跡の器。これがあれば、署長から提示された金額以上の巨万の富を手に入れることもできる……両津は、地の果てまでも逃げる決意を固めた。

 

「パース!」

「パス! ……あっ!」

「主殿! 聖杯を回収しました!」

 

 本田の声が聞こえたと思ったので、両津は反射的に聖杯をパスしてしまった。それこそ、ラグビーボールのように。しかし、本田の声だと思ったのは声真似をした小太郎であり、折角の聖杯は小太郎がパスを受けて立香の元へ。

 時代を乱して世界観を破壊する不相応な奇跡は、カルデアに回収されたのである。

 

「そんなーーー! お願い立香ちゃん! ほんの少しだけでいいから、助けたお礼に両さんを億万長者にしてちょうだい!!」

「……ありがとう、両さん!」

 

 聖杯を手にした立香は、急ぎそれをマシュの盾に収納し、倍返しの可愛らしい笑顔で両津にそう告げたのだった。

 

 

 

 

 

『人情消失圏域 亀有』

愚話幕引

 

 

 

END




【あとがき】
 元は、各小説家による小説『こち亀』を読んだ時に思いついたちょっとしたネタでしたが、そのネタが形となって各節のタイトルを閃いてしまったら後戻りができんかった。『TRIGUN』を読みながら『TRIKAN』と思いついて、1人でゲラゲラ笑っていました。
 ということで、アホすぎるFGO×こち亀のクロスオーバーを完走させてもらいました!
 本当にね!頭を空っぽにして、古き良き平成アニメの夏休みスペシャル的なノリでただ笑うだけのために読んでね!深く考えないでください!!
 多分、自分的に一番書きたかった場面は、巨大化武装おしおき部長VSコロンブスの卵ですから!
 結構な駆け足+残業やら休日出勤やらで、完結まで結構な時間がかかってしまいましたが、何とか終幕できました。
 やはり、長時間労働は悪。残業も休日出勤も悪……午後からなら、午前中は休めるでしょ、じゃねーんだわ。その理論で20連勤を受け入れられんわ!
 と、また二次創作が書きたくなったら舞い戻って来る可能性が多いにありますので、チラっとどこかにいるかもしれません。その前にサムレムをプレイしよう!
 お付き合いいただきありがとうございました。
 是非とも、アニメ『こち亀』のBGMを流しながらお楽しみください!

ゴマ助@中村 繚



【オマケ】
~七騎士クラスの全てに適性がある(かもしれない)両津の話~

・剣
最優のクラスの名に恥じぬTHE平均的な通常両津。当然、騎乗スキル(チャリンコ)も持っている。
皆さまご存知の滅茶苦茶な生命力と頑丈さを持っており、剣道・柔道を始めとした戦闘スキルは完備……しているが、一番のメインウェポンは拳骨である。
ほら、拳士ってセイバーって読むこともあるしね(ないです)

・弓
何か気に障ることがあればすぐに拳銃を乱射してくるトンデモ警察官な両津。つまりは、原作連載初期の方向性が落ち着く前の両津。
短気で過激、サブカル方面にも疎く特権階級意識が高い。後に自分自身を振り返った両津がドン引きするほどの凶暴性である。
なお、アーチャーであるが拳銃の命中率は良い訳ではなく、無茶苦茶に撃ちまくるだけである(バーサーカーではない)

・槍
夏春都に追いかけ回された際に彼女の主力武器である薙刀をぶん取ってきた両津。つまりは、擬宝珠家をメインとした心温まる人情物ストーリーの両津。
通常時の両津に比べれば過激度は若干薄まり、変わりに下町育ちの江戸っ子としての情に篤い面が顕れており、時にも寿司も握る。
恐らく一番制御はしやすい両津。え、クラスがこじつけ臭い?その通りです。

・騎
チャリンコのみならず、パトカーにバイクにレーシングカーに、果ては絨毯も乗りこなす両津。よくある賞金目当てに車輪を転がすレース回。
基本的には両津だが、目的のためには手段を選ばないところがチラホラ見え隠れしているので若干の注意が必要。火事場の馬鹿力は両津の中でもトップ。
ちなみに、騎乗相手との交渉次第で幻獣種への騎乗も可能だとか。

・術
ゲームにプラモにと、サブカルに特化した趣味人の両津。つまりは、「全部同じじゃないですか!?」「これだからしろうとはダメだ!」の流れ。
更には数々の資格を所持しているため、大抵の工事現場にはフリーパスで働くことのできる指先の魔術師。勿論、プログラミングもできる。
ちなみに、有名月刊誌に連載中の漫画家を自称するが、画風と人気は察するべし。

・殺
一見すると通常両津。が、その正体は自身のビジネスの邪魔をした市井の悪業者を仕置きするアサシンである。
両津の逆鱗に触れた者は、闇紛れ、証拠も残さず徹底的に、肉体的にも社会的には酷い目に合わされ、翌朝の派出所のテレビで流れるニュースで報道されるのである。
また、隠蔽工作や夜逃げ、理論が崩壊した言い訳等も得意である。「地面にビールを撒く会」の会長をしているので、お酢の精製工場からアルコールの反応が出ました。

・狂
「狂化(ギャグ)EX」のスキルを持つギャグ漫画の両津。何もないところからロケットランチャーを取り出し、派出所が全壊しても翌週には元に戻っているし、死んでも天国も地獄も受け入れを拒否して生き返るし、フ●ーザ様の攻撃を受けても無傷。狂ってやがる……!
また、金への執着も他のクラスの両津と比べて狂暴レベルのため、持ち前の商才で金儲けに走るが欲を出したらいつもの結末を迎える。なお、ヤヤウキカンパニーと競合した場合は、共倒れする可能性が大いに高い。

で、ここまで考えて両津をサーヴァントとして召喚するんかい?
A.そもそも座も抑止力も拒絶すると思われる。
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